ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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感想、ありがとうございます。




ベルの真価

戦場を支配していた絶望は激変した。たった一人の男と、その下僕によって。

 

『オオオオオオオオオッ!!』

 

下僕であるモンスターが咆哮を上げ、黒いゴライアスに組み付く。その進撃を封じるために。

 

通常のモンスターなら、できるはずのない行為。しかし、彼の王が従えしモンスターもまた、普通ではない。

 

階層主、ゴライアス。名はジャガ丸、冒険者達の常識を越えるモンスターのテイム。

 

『オオオオオオオオオッ!!』

 

そこを通せと、目の前にいるジャガ丸に殴りかかるが、通さない。王の命令を守るジャガ丸は、その身を持ってして、防ぎきる。

 

黒いゴライアスの視線の先には、極光を上げ、大鐘楼(グランドベル)の音を鳴らす脅威(ベル)が映っていた。

 

その脅威に気付いた黒いゴライアスは、行く手を阻まれている己の代わりに、咆哮を上げ、モンスターの全軍を集結させ、進軍させる。

 

組み付いていることによって、動けないジャガ丸。数多の冒険者達が、呆然と立ち尽くしている時。

 

「雑種共ッ!」

 

王の号令が戦場に木霊する。響く声に、皆が視線をそちらに向ければ、戦場を見下ろし、腕を組むギルがいた。

 

「有象無象を間引いておけ。それくらい貴様らにも出来よう。…まぁ、出来ぬと言うのなら、ジャガ丸の餌にするだけだかな」

 

王の号令が、戦場で立ち尽くしていた冒険者達に浸透する。そしてその形相を見て、誰もが直感した。

 

……嘘ではないと。

 

「ーーーいけえええええっ、てめえらあああああ!?突っ込め、突っ込めええええええ!!」

 

モルドの咆哮とともに、全冒険者が突貫する。黒いゴライアスが呼び出した、モンスター達を近づけさせまいと、斬りかかる。胸に抱く思いは皆が一緒。

 

……あの方に逆らってはいけない。

 

ーーーーーー

 

ジャガ丸の背。丁度その位置で立っていた、アスフィとリューもまた、時同じくして再起した。

 

突っ込みを入れたい気持ちを落ち着かせ、気を持ち直す。心強い援軍が来ようとも、まだ敵は生きている。

 

「……何時までも突っ立てる訳にはいきませんね」

 

パシッと、その両頬を叩いたリューは、ジャガ丸の背に隠れ、詠唱を始める。

 

「『今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々』」

 

今まで最前線で戦っていたために、使われることがなかった魔法。しかし己が代わりに、足止めをしてくれる者がいる。

 

周りから襲ってくるモンスター達を、アスフィがその手に持つ短剣で迎撃する。そして同時に戦慄する。その膨大な魔力に。

 

「『愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を』」

 

彼女の二つ名、疾風。彼女はそれに恥じない戦闘をしていた。故にアスフィは思っていたのだ、彼女の戦闘スタイルは、前衛のそれだと。

 

だが違った。彼女の種族は魔法種族(エルフ)。故にその名の通り、彼女は膨大な魔力を集め、強大な一撃を

放とうとする。

 

そして…。

 

「『ーーー掛けまくも畏き』」

 

もう一人の少女もまた、何も出来ないのは嫌だ、と一冒険者として闘志を掻き立てられ、詠唱を始めていた。

 

「『いかなるものも打ち破る我が武神よ、尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然たる御身の神力を』」

 

命、そしてリューの詠唱が進められていく最中。

 

「ーーーすまん、探すのに手間取った。…って、ゴライアスが二匹ッ!?」

 

「クロッゾさん!?」

 

森の奥から、ヴェルフがその右手に一本の長剣を持って現れた。

 

詠唱中のリューは反応が出来ないため、アスフィが現れたヴェルフに振り返る。

 

「今は詳しい説明は出来ません!ですが一つだけ、目の前で抑えてるジャガ丸は味方ですッ!!」

 

「ジャガ丸ッ!?」

 

最早説明になってない説明に、ヴェルフは頭が混乱する。しかし、目の前の光景を見る限り、どうやらジャガ丸と呼ばれるゴライアスは味方らしい。

 

『オオオオオオオオオッ!?』

 

その時、拮抗が破られる。黒いゴライアスが放ちし咆哮(ハウル)。それがジャガ丸の顔に被弾。その巨体が後ろに仰け反る。

 

「『ーーー来たれ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何者よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て』!」

 

しかしその瞬間、リューは間髪入れず詠唱を終わらせた。咆哮の直後で硬直する相手へ飛躍する。

 

「『ルミノス・ウィンド』!!」

 

緑風を纏った無数の大光玉。リューの周囲から生まれし星屑の魔法は、ゴライアスの黒い体皮を破り、閃光が連鎖する。

 

高火力、高威力の魔法は、敵を後退させていく。その直後…。

 

『アアアアアーーーーーッッ!!』

 

光玉を今もなお被弾しながら、リューへと突進する。巻き上がる膨大な赤い粒子で、損傷と治癒を繰り返し、突き進む。

 

魔法の行使中で身動きがとれないリューは、敵の行動に目を見開く。

 

「『天より降り、地を統べよーーー神武闘征』!!」

 

巨人の伸ばされた手が、リューを弾き飛ばそうとした、その時。命が、魔法を完成させた。

 

「『フツノミタマ』!!」

 

ゴライアスの直上、一振りの光剣が出現し、直下する。同時に、地に発生する魔法円(マジックサークル)にも似た複数の同心円。

 

その剣は巨人の体をすり抜け、円中心に突き刺さり、重力の檻を発生させた。

 

『ーーーーーーーーーッッ!?』

 

巨大なドーム状の力場。リューと倒れ伏すジャガ丸の鼻先に展開された特殊空間は、黒いゴライアスを閉じ込め、その伸ばした腕を、膝を地に叩き落とす。

 

命の切り札に、リュー達の目が驚愕に染まる。

 

「ぐ、ぅぅぅぅぅぅ…ッ!?」

 

突き出した右腕を左手で掴む命の顔が苦渋に染まる。

 

一度は地面に縫い付けられたゴライアスが、ぐぐぐぐ、とゆっくりと身を持ち上げていく。

 

上からの強大な重力を押しのけ立ち上がる巨人。命も押さえつけようとするが、モンスターの怪力を止められない。

 

「おいっ、本当にこっちのは味方なんだよな!?」

 

「そうだと言ったでしょう!」

 

目の前で行われた二つの強大な魔法。その光景を見ていたヴェルフは、隣で見ていたアスフィに問い掛ける。

 

再度聞いてきた問いに、アスフィは声を張り上げ振り返る。

 

「わかった。ならすまんが、こいつに退くように言ってくれ!」

 

「何をっ!?」

 

今、ヴェルフ達の目の前にはジャガ丸がいる。よって、ヴェルフはその手に持つ剣を使えないでいた。長剣とおぼしき白布、魔剣をだ。

 

疑問の声を上げたアスフィだったが、その手に持つ、布で隠された剣を見て、そして彼の家名を思い出した。そして全てを察した。

 

「そういうことですか…。衆目の前で使いたくなかったのですが…っ!」

 

命の魔法ももう持たない。重力の檻は、至る各所でひび割れていた。仕方ない、とアスフィは腹を固め、そっと履いている(サンダル)を手で撫でた。

 

「ーーー『タラリア』」

 

靴に巻き付くように備わっていた金の翼の装飾が、解ける。瞬く間に二翼一対、計四枚の翼が広がる。

 

目の前の光景に目を見開くヴェルフ。しかし同時に理解した。こくり、と頷くヴェルフをアスフィは抱え、飛翔した。

 

「破られます…っ!?」

 

重力魔法を発動していた命の宣告違わず、黒いゴライアスは、結界の壁に両手を突き入れ、強引にこじ開ける。

 

けたたましい咆哮を上げ、目の前にいるリューを、そして起き上がろうとしていたジャガ丸に両手を振り絞る。

 

「お前等ぁ!死にたくなかったらどけぇええええ!!」

 

そのジャガ丸の背から、空を駆けるアスフィが現れる。そして抱えていたヴェルフを離す。

 

空中に躍り出たヴェルフの、手に持つ武器の白布が解れる。そしてその剣の姿があらわになる。

 

飾り気が一切ない柄と剣身だけの長剣。その剣身はまるで炎を凝縮したかのように猛々しく、そして美しかった。

 

そして黒いゴライアスより速く、振りかぶっていたヴェルフは、その一撃を放つ。たった一撃しか撃てないそれを、たった一撃のために名付けられた魔剣の真名を、ヴェルフは叫んだ。

 

「火月ぃいいいいいい!!」

 

その瞬間、誰もが目を炎の色に焼かれた。

 

放たれる真紅の轟炎。大上段から振り下ろされた剣身から、巨大な炎流が迸り、一直線に黒い巨人を呑み込む。

 

『ーーーーーーアァァァァ!?』

 

業火の谷に突き落とされたがごとく、黒いゴライアスの体が燃え盛る。

 

自己再生など、もはや追いついていない。長い戦闘の中で、初の致命傷がその体に烙印された。

 

アスフィがリューが、目の前の業火に戦慄する。『海を焼き払った』とまで言われる伝説の魔剣の威力に。

 

しかし…。

 

『ーーーーーー!』

 

炎に焼かれていた黒いゴライアスは、その腕を魔剣を振り下ろした、いや、今は砕け散った魔剣の欠片を持つヴェルフへと伸ばす。

 

燃え盛る炎に焼かれようとも、敵は生きていた。貴様は許さないと、ばかりに、炎を生み出したヴェルフを掴みかかろうとする。その時、ベルの蓄力が終わった。

 

「ーーー邪魔だ雑種共ッ!ジャガ丸、貴様もさがっていろ!」

 

王の号令が戦場に木霊する。切り出した木の枝の上から、戦場を見下ろしていたギルの命令。誰一人逆らうことなく、ベルの道を開く。

 

目の前の光景に意識を奪われていたジャガ丸は、ハッと意識を覚醒させ、近くにいたリューとアスフィ、そして宙にいたヴェルフを掴むと、後方へと跳躍する。

 

「マジかよ…」

 

自身の窮地を救ってくれた相手だが、その事実に呆然と声を落とす。

 

「いけえええええっ、ベルくんーーーーーッ!!」

 

ヘスティアの号令とともに地を蹴りつけ、皆が開いた道を疾駆する。

 

ヴェルフが、命が、リューが、アスフィが、ジャガ丸が。

 

道を開ける全ての者が、ベルの横顔を見つめる。

 

乞うように、信じるように、背中を押すようにーーー行け、と。

 

王がその背を見据える。

 

その力を見定めるために、そしてベルの真価を見るために。

 

多くの者の視線を一身に負い、ベルは速度を上げ、突貫する。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!?』

 

燃え盛る黒いゴライアスの双眼が、接近するベルを射抜く。絶叫と怒号を渾然とさせる雄叫びを上げ、炎に包まれた右の豪腕を引く。

 

巨人渾身の薙ぎ払い。あらゆるものを粉砕するその一撃に、しかし疾走の速度を緩めない。

 

埋まる距離。

 

押し潰すように迫る敵の巨躯。

 

そして自身の両手に満ちる力の奔流。

 

眩い光を放つ剣に、己の全てを賭し、ベルは、その一撃を放った。

 

「あああああああああああああああああああああッッ!!」

 

ーーー炸裂する。

 

「ーーーーーーーーーー」

 

黄金の極光が全ての者達の視界を埋めつくし、誰もが目を腕で覆った。

 

そして聴覚は、ベルの咆哮と、凄まじい轟音によって、暫しの機能不全に陥った。

 

数瞬が経ってから、聴覚が回復した者達が聞いたのは、決着の静けさだった。

 

そして視界が回復した者からおそるおそる目を開けると、そこには大量の灰と、唯一残ったであろうドロップアイテムーーー『ゴライアスの硬皮』だけだった。

 

黒い巨人の体は、何一つ残っていなかった。

 

『ーーーうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

次の瞬間、大歓声が巻き起こった。

 

周囲の冒険者達が諸手を突き上げ、隣の者と肩を組み、喉が張り裂けんばかりに声を上げる。その言葉にならない音の津波は、大草原を震わせた。

 

「ベル君!」

 

「ベル!」

 

涙ぐむヘスティアが最初に駆け出し、ヴェルフ、リリ、リュー、命と続々と力尽き腰を下ろすベルの元へ走り出す。

 

周囲から途切れることのない喜びの声と、ジャガ丸の拍手が、ベル達を、18階層全体を包み込んだ。

 

 




ベル・クラネル

Lv.2
力:F 365
耐久:G 271
器用:F 349
敏捷:E 469
魔力:G 270
担い手:G

《魔法》
『ファイアボルト』

・速攻魔法。

《スキル》
憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

懸想(おもい)が続く限り効果持続。

・懸想の丈により効果向上

英雄願望(アルゴノゥト)

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権

・????《現在未発現。今は限界解除時のみ力の行使を可能》

武器
《ヘスティア・ナイフ》
《牛若丸》
《????》
NEW《原罪》


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