ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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感想、ありがとうございます。


狐人、そして偽ベル

「初めまして、狐人(ルナール)のサンジョウノ・春姫と申します」

 

『キュイイ!』

 

「は、初めまして…」

 

床に行儀よく正座し、頭を下げる一人の見知らぬ少女。その隣では、同じ真似をするように、一匹のアルミラージが頭を下げていた。

 

いまだ混乱している考えの中、僕はそれだけしか返せなかった。

 

「王様君!!キチンと説明してくれ、彼女は一体…」

 

「煩わしいぞヘスティア。何故、我自ら説明せねばならん」

 

王様はそう言って、ベッドへと腰掛ける。神様は王様の態度にはぁ、とため息を吐いて僕の横へと腰掛ける。

 

「……分かった、詳しい説明は君に聞くことにするよ。それで春姫君だったかい、君は何処で王様君に拾われたんだい?」

 

「あの、神様。すいません、それよりも先にアレは…」

 

春姫と名乗った少女に説明を求める神様だったが、僕はそれよりも確認したい事があった。

 

僕が指差す先にいたのは一匹のアルミラージ。そうモンスターだ。

 

何故に三人とも何でもないように入れているのか、僕にはさっぱり理解出来なかった。

 

春姫と名乗った少女になついているのだから、きっと彼女がアルミラージの調教師(テイマー)なのだろう。

 

だとしたら、それは危険極まりない。いくらテイムされていると言っても、モンスターは本来、僕達人類の敵だ。

 

突然襲い掛かってくる可能性だってある。

 

……ジャガ丸?何言ってるんだ!ジャガ丸はジャガ丸でしょ!

 

犬や猫とは違うんだ。そんな風にモンスターを飼うなんて、そんなこと…。

 

ーーー視線をチラッと王様に向ける。

 

「ん?何だベル?」

 

出来る筈がないんだ(一人を除く)。

 

今も、何故か僕にすり寄ってくるアルミラージに、僕は腰に備えられている『神様のナイフ』を握りしめている。

 

と言うか、何でこいつは僕に異様になついているんだ!

 

「ふふっ、ベル君。君仲間と勘違いされてるみたいだね」

 

「本当ですね。ふふっ、偽ベルったら」

 

「全くだ。フハハ、ベルよ良かったではないか」

 

『キュイイ…』

 

本当に今の状況がわかっているんですか!?

 

固くなる僕にすり寄るアルミラージを見て、三人は微笑みを浮かべる。

 

こいつの額から生える一角に刺されれば、神様も、春姫さんも、ひと溜まりもないんですよ!?

 

ええぃ、肩を組むんじゃない!

 

さも相棒のように肩を組んでくるアルミラージに、僕は我慢の限界がきて、座っていたソファーから立ち上がった。

 

「いい加減にしてください!何でそんな風に平然でいられるんですかっ!こいつが何時襲ってくるか分からないんですよ!!」

 

突然立ち上がって大声を張り上げる僕に、神様と春姫さんは呆然と僕を見ていた。隣で手を弾かれたアルミラージも、そのクリクリとした瞳で僕を見上げていた。

 

神様を庇うように背を向けて、アルミラージを見下ろす。既に抜刀した『神様のナイフ』の矛先を向けて。

 

僕の反応が正しい。なのに僕を見つめる二人は、一体どうしたのか、と心配しそうに僕を見ていた。

 

モンスターと人間が、共に生活出来る筈がないんだ。それがこの世においての常識。

 

「ーーーほぅ」

 

ベッドに腰掛けていた王様が、ゆっくりと立ち上がった。それと同時に、凍えるような殺気が部屋中を支配する。

 

その殺気に気付いた僕が、神様が、春姫さんが、そしてその視線の先にいたアルミラージがガタガタと震え出す。

 

「この我が目にかけ、更に最初のペットにしてやったというのに、よもや貴様がそのような腹づもりであったとはな」

 

立ち上がり、その歩を一歩悠然と進める。そして腰に備えられている剣を抜いた。

 

アルミラージは目の前の恐怖から逃れるように、ソファーから転げ落ち、転がった体制も正さぬまま後退る。

 

……アレ、僕やらかしちゃった?

 

死刑執行人とかした王様が、断罪の剣をその手に持って更に一歩、踏み出す。

 

「お、王様君!後生だ、許して上げてくれ」

 

「そ、そうです!お、王様、これでは可哀想過ぎます!」

 

神様と春姫さんが、王様の歩みを止めるために、その足にすがり付く。

 

僕もいたたまれなくなってしまい、ソファーから降りてアルミラージを抱き締める。

 

ふさふさな毛並みを持っていたが、その身は恐怖で震え上がっていた。そんなアルミラージと共に、僕の体も震えていた。

 

「……ちっ」

 

短く舌打ちをした王様は剣を鞘に戻す。王様が剣を引いたことに安堵した僕達は、ため息を一つ吐く。

 

「偽ベル!」

 

『キュ、キュイイ!!』

 

王様の怒声に、震え声のまま偽ベルは返す。脅威が過ぎたとはいえ、未だ予断は許されない。

 

「今回はこやつらに免じて見逃してやろう。しかし次にそのような下らぬ考え、思い浮かべようものなら…」

 

『キュイイイイイ!!』

 

高速で首を振って答える。王様はその答えを聞いて、腰に備えられている剣を寝台に置き、ベッドに潜った。どうやら、もう寝るようだ。

 

神様も、春姫さんも、王様がベッドに横になったのを確認して、今日はもう寝ることを決め、布団を敷き始めた。春姫さんの事情を聞くのは明日にしたのだろう。

 

王様の寝息が聞こえ、神様と春姫さんが電気を消して布団に潜る。暗闇となった部屋の中で僕は、僕達は…。

 

「……もう寝ようか相棒」

 

『キュイイ…』

 

残された僕らは、二人仲良くソファーで寝ることにした。

 

 

 






暫くは文字数少なめです。申し訳ない。


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