マイページにそう言えばこんなの書いてたなぁと思い出したので更新してみました。
いや、すいません。
この都市にあるとある武器屋の一画で、そこに並ぶ職人達が造りし武器を眺めてため息を一つ吐く。
その武器に掲げられている名札はそれこそこの都市でーーいや他の都市ならば豪勢な豪邸を構えられ、そこで一生を遊んで過ごせるだろう。
だがこの都市ーー迷宮都市オラリオにおいて、冒険者を生業とする者ならば、そして自分もこの武器を手に取ることを選ぶだろう。まして自分が望んだ選択は
自らが憧れるべき存在へと、自らが誇れる存在へと、そうなろうと、そうであろうと突き進んだこの道。そこに悔いなどない。
そして
ーーーそう至ったはずなのに…。
「ーーーすまんな、待たせたかフィンよ?」
「いや、そんなことはないよ椿。こちらこそ急な来訪すまなかったね」
不意に後ろから掛けられた声に、眺めていた武器から体を翻し、笑みを浮かべ返答する。そこに先程まで浮かべていた
「用件は呼んできた他の者から聞いておるが…。なんだお主もベート・ローガに毒されたのか?」
「……ハハ」
金色碧眼の小人族ーーフィン・ディムナは、苦笑いを返す。
フィンがここに来たのは個人的な所要。いや、冒険者ならば当然の所要だ。ーー冒険者が武器屋に赴く、いくらLv.が上がろうとそれは変わらないだろう。
「それでまた
その問いに、フィンは顔を下げる。
元々身長差のある種族の二人、椿は遠征前にも無理をしてでも武器を打っていた、そのことの負い目があるのだろうと解釈した。
椿本人とて、戻ってきてからも武器を打つつもりではいた。深層のドロップアイテムという滅多に手に入らぬ物が手に入ったのだから。
そこに
強者に相応しい武器を打てる。それは鍛冶士にとっての誉れ。断る理由はなかった。
「しかし良いのか?今回の遠征はうぬらのファミリアには相当な痛手だったと思っとったのだが?」
「それを出されると弱るなぁ…」
痛い所を突かれたのか、またも苦笑いを浮かべるフィン。まぁ『ロキ・ファミリア』ならローンの踏み倒しなどないか、と一考した椿はフィンにどのような武器にするかの打ち合わせへと移行する。
が、前回の遠征の前にも似たような打ち合わせを行っていたので、精々が武器に特性を付けるか否か、色合いぐらいだろうと思っていた。
「まぁよい、任せておけ!今度こそお主を納得させるほどの、最高の武器を打って見せよう」
その豊満な胸を張り、そうフィンに宣言する。そして、そのまま工房へと行き武器を打つ準備を始めようとした時ーー。
「ーーー頼むよ」
それは真摯な声音で告げられた言葉だった。
振り返り見れば真剣な表情を浮かべるフィン。確かに椿は今まで何度かフィンの頼みで武器を打ったことがあった。しかし、しかしだ。そのような表情で頼まれた事は過去の一度もなかった。
「……一体どうしたと言うのだ?お主という人物が何故そこまで不安がる?」
不安か、確かにそうだねと呟くフィンの姿はその格好そのままに小さく見えた。
団員を率いる統率力も優れ。主神、団員達からの信頼も厚い。そしてまた、個人としての力量も高い。
卓越した槍捌きは身長差をものともせず、下位のモンスターなど近づくことさえできず消滅するだろう。
ーーそんな男が何を不安がる?件の『穢れた精霊』か?
そんなはずは無いはずだ。あの日あの時この男にはそんな素振りは一切なかった。
「本当にどうしたと言うのだフィンよ?そのように不安がるなどまるでヴェーー」
「ーーちょっと椿!」
答のでない疑問に、椿は再度フィンへ声をかけようとした時、突如来店してきた者に遮られた。
かけられた声に、今は話し中だから空気を読んでくれと内心で悪態をつくが、その人物の、いやその神物の顔を見て考えを改めた。
「これは主神様、そのように血相を変えて手前に何か用か?」
「何をすっとぼけてるのよ。またあなたヴェルフに変な事をしたでしょ!」
その断定的な物言いに、心外だと首を横に振る。フィンもまた、突然現れた神物の表情に何かあったのかと疑問を浮かべる。
「それは手前のせいではないぞ主神様。あやつはあの日帰ってきてからずっと工房に籠りぱっなしだ」
「だからその原因があなたなんでしょうが!」
「手前とてその原因などは知らん!」
てっきり椿がまた要らぬことを吹き込んで煽ったものと思っていた椿の主神ーーヘファイストスは、思わず目をぱちくりさせる。
そしてその会話の中で、椿とヘファイストスは一つの疑問を抱いた。
「ちょっとまて主神様、あやつまだ
「ちょっと待って椿、あの子帰ってきてからずっとあんなことをしてるの?」
お互いに問いを問いで返す。だがそれで二人は答えが分かってしまった。
「椿、あの子を引っ張り出すのに協力して。あの子、下手したら今日やる祝賀会のこともほっぽり出すかもしれないから」
「あい分かった主神様よ。…すまぬフィンよ、お主の用件は承けたまった、武器が完成したらまた呼ぼう」
「構わないとも、それで一体その子はどうしたんだい?何だったら僕も手を貸そうかい?」
フィンには手を貸す理由はなかった。その必要性すらも。『ヘファイストス・ファミリア』の人員はフィンも把握している、ファミリア内でLv.5は椿だけだ。その椿が出ばるのだ、その団員を引っ張り出すのには事足りる。
……ただフィンは思っただけだった。境遇が似ていると。あの日ーー18階層から戻ってきてからおかしくなっていることに、それに今日が祝われる日というのも。
「何、あやつめ何をとち狂ったのか分からんが自分が打った武器を
「それはまた…。君以上だね」
思わず出てしまった言葉に椿は心外だと首を振る。手前はそこまで狂っていないと。
フィンからすれば工房に何日も籠る事事態が考え付かないのだが。
だがそれにしてもだ。鍛冶士が工房で武器を打つのは分かる。だが、造った武器をその場で叩き折るのは異常だ。フィンはますます疑問を抱いて本当に付いていこうか悩んだが、二人に先じんて断れては断念するしかない。
……そう異常。異常には異常な行動なのだが、二人は誤解していた。二人が見たのはヴェルフが武器に向けて武器を振るう姿のみ。そして砕け散る一方の武器。
ーー武器を叩き折っているのではなく叩き折られていたのだ。自らが心身を注いだ武器を。
二人が店から出ようとした時、またも来店者が現れた。
しかし、その人物は買い物に来たわけではなくただ探し人を探していたのだ。
「団長探しましたよ!」
「ティ、ティオネ!?」
お目当ての自分目掛けて飛び付くアマゾネスの豊満な体をした女性ーーティオネに巻き込まれるフィン。そのままフィンの胸板に頬擦りするティオネに、椿とヘファイストスの足は止まった。
「ティオネ、どうしてここが分かったんだい?」
「団長の匂いを追ってきました!」
「……フィンよ、お主の所の団員も中々にとち狂っているな」
抱き付くティオネを離し、椿とヘファイストスに店に迷惑をかけた事を謝罪する。
「それで団長どうしてここに?もしかして『ヘファイストス・ファミリア』も誘うおつもりでしたか?…確かに今日は団長のおめでたい日ですもんね!」
「ほう、めでたい日とな?それならば先の武器の話し、もう少しまけてもよいぞ。それでそのめでたい事とな?」
「ちょっと待って、それって本当?」
合点がいったヘファイストスと、いかなかった椿。何故ならつい最近、いやこれから向かう眷属にも同じもの言いで伝えたのだから。
ーー冒険者にとっておめでたい日、それは一つしかない。
「ーー団長は到達したんですよ!この都市の頂点にーーLv.7に!」
意気揚々と告げるティオネ、そしてその成し遂げた偉業に椿とヘファイストスは目を見開いた。
ただその当人の表情は喜びで晴れることはなく。
ーー先程と一緒の曇ったままだった。
それは頂点に至った者の表情にしては暗かった。それもそうだろう、フィンはあの日見て、そして手に触れてしまったのだ。
ーーー遥かな高みに立つ男の姿を、至高の武器を。
ーーーーーー
あの後、シルとの会話を切り上げたベルとギルは、別々に行動していた。
ベルはこの後行われるパーティーメンバーの祝賀会のために、軽い買い物をした後ホームに一度戻るために。
片やもう一人は、その祝賀会に参加しないために夜中まで時間を潰すために街中を歩いていた。
「全く、王を一人ほうっておいて、雑種にかまけるとはたわけたやつだ」
分かれ道で去っていったベルの背に言葉を落とし、背を翻し街を歩く。
ベルは祝賀会。新しく連れてきた少女ーー春姫も同郷の者の所へ偽ベルを連れて泊まる予定。
……モンスターである偽ベルをつれ歩くのにキャンキャン騒ぐヘスティアの為に、一応ギルは認識阻害の首輪を授けていた。
それで他の者達からはただの兎にしか見えなくなったのだが…。
『豊穣の女主人』には一度行った旨を春姫から伝えられたヘスティアは「弁明しないと不味い!?」と囀ずっており、今宵その件で向かう予定ではあるが。
「そも、あんなやつらがモンスターと呼べるのかどうかさえ疑わしいものだがな」
モンスター、人類の敵。そうあるはずの存在なのだが…。
ーーかの王からすれば興味のない雑種と一緒。向かってくるような愚者は、その身を持って愚かさを味わうだけの存在。自らが動いて断じる価値さえないモノ。
逆に彼を見て逃げるモンスターの方がまだ可愛げある方。…そしてその可愛げのある一匹は捕まってしまったが。それを不幸と呼ぶことはできない。
ーーそう、今まで見てきたモンスター達は。
まぁ今回の興味の対象はベルのみ。春姫も興味があるにはあったが、タネが分かった今ではもうたいした興味もない。でも珍しいことは珍しいので側には置いてやろう。
詰まるところ何が言いたいかと言えば…。
「ーー暇だな」
やることがないのだ。夜中になれば『豊穣の女主人』に向かう予定ではあるが、生憎今は昼間、まだ夜の営業をしていない。
こういった場合、何時もならリリを見つけて物珍しい場所へ赴くのだが、リリも今宵の祝賀会、引いては何か
そうなるとやることと言えば帰ってヘスティアをいじめ抜くかなと思った所で、ふと思い起こした事があった。
「
よくもまぁ、そのような酔狂な遊びを思い付いたものだと冷笑をこぼした。
前回の『ソーマ・ファミリア』のホームに出向いた際に、エイナがそのような事を言っていたのを思い出したのだ。
『ーーファミリア間で問題を起こすと、下手したら戦争にさえ発展しちゃうんだから、絶対に問題を起こしちゃ駄目よ』
そして行きつく先がファミリア間による戦争遊戯。文字どおりファミリアのメンバー全員で行われるそれは、最早戦争そのもの。
「……本来なら雑種共に合わせる道理などないが、暇つぶし程度にはなるか」
フラフラと歩いていたギルは行き着いたのは、
それは一介の冒険者の目から見たら、そこそこな大きさを誇るファミリアのホームに見てとれた。
そして王の目には暇つぶし程度にはちょうどいいファミリアのホームに見えていた。
ーーそうなると後はもう挨拶するのみ。
「さてどうするものかな…」
このような小さな犬小屋、吹き飛ばすのは造作もない。宝物庫から呼び出して砲撃するもよし、腰に携えている聖剣で壊滅するもよし。
選択があるということはそれを選ぶ為に悩むということになる。
腕を組みどちらにしようか悩む背後から、それは強襲してきた。
「ーー天誅!!」
スッと、体を横にずらす。それだけで後ろから襲ってきた不届き者の攻撃は空を切る。
空を切った杖の一撃はかわされ、そのまま不届き者は屋敷の鉄柵に顔から突っ込んだ。
ーー元より自らを狙う
唯、付かず離れずの距離を維持するその輩に追う愚行はしなかっただけ。向かってくるならば暇つぶしに遊んでやる。その程度に思っていただけだ。
ガンっと鈍い音を響かせた、見目麗しい少女はそのまま意識を手放した。
「……」
自分を狙う輩がどの程度かは、気にかけていた。しかし、こうまで憐れで愚かだと手にかけることさえ憚れる。
さて、どうしたものか…。悩む王はとりあえず自らを狙った不届き者の顔を伺う事にした。
黄土色の髪は長く、腰まで長く伸びている。顔立ちも中々に整っているが、それはまさに幼き少女のそれでしかなかった。
「……なんだまだ幼童か」
顔立ちと体つきからその年を看破した王は、背後から歪みを一つ浮かばせ、その中から金色の容器を一つ引き抜く。
そしてその中身をその少女へとぶっかけた。
「ーーぶはぁ!?」
突如自らの身に降りかかった水に意識を覚醒させた少女は勢いよく飛び起きる。
そしてそのままキョロキョロと辺りを見回した少女は自らを見下ろす一人の男性と目があった。
「ーーあ、ありがとうございます」
「礼はよい、貴様名は?」
自分が気を失った所を起こして貰った事が、その手に持つ容器から判別した少女は取り敢えず礼をする。
「名前ですか…。レフィーヤと言います」
「そうか…。して何用だレフィーヤとやら」
未だ覚醒してない頭の中でレフィーヤは、「用…、そう言えば用が…」とぶつぶつと唱えた後ーー
「ーーあああああ!!用、用ならありますよ、貴方アイズさんの何なんですか!?」
「アイズ?知らん名だな、どこぞの雑種のことだ」
突如大声を上げ、目の前の男性へと食って掛かるレフィーヤだが、その男性は覚えのない名前に首を傾げる。
ーーえっ、知らない?知らないですか!?『剣姫』ですよ、『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン!
ーー知らんな。
ーーう、嘘!?だって前に広場で…。
ーー広場?ああ、ヘンテコな雑種には絡まれたな。
ーー雑種?アイズさんは雑種じゃないし…。そしたら人違い!?す、すいません私人違いで貴方に何て事を…。
ーーよい、幼童の戯れとして見逃してやる。
ひょい、と座り込むレフィーヤの手を引っ張り、地面から立たす。エルフとして手を余り異性に触れさせたくはないレフィーヤだったが、此方に非がある現状。何より善意でしてくれている行為に異を唱えることはしなかった。
「あの、本当にすいません!私勘違いしていて…」
「何度も同じことを言わすな、たわけ。貴様のような幼童を断じては我の器が下がると言うもの」
どこか尊大な物言いだったが、レフィーヤはそこに突っ込む事なく、この場を後にしようとしたが、ブルリと体を震わせた。
麗らかな陽気が差す日中と言えど、頭から水浸しになったレフィーヤには寒すぎた。
「くしゅん!」
「……全く、何時までもそのような格好をしていると風邪を引くぞ」
「は、はい…。でも今手元には服もないですし、そのお金も…」
体を縮こませるレフィーヤは、着替えなど無論持っていなくて、買い物などする気もなくてお金も必要最低限しか所持していなかった。
ファミリアのホームは遠く、このままの格好で向かわなければいけない現状に、レフィーヤは顔を俯かせた。
「はぁ…、全くたわけた幼童だ。まぁよい服を駄目にしたのは我だしな、暇つぶしがてら買ってやろう」
「えっ!?で、でも貴方にそこまでしてもらうのも…」
「たわけ、王の恩情に異議を申し立てるでない。それ、付いてこいレフィーヤ」
異論など元より認めない王は、その歩を悠然と進める。それにレフィーヤも慌てて追随する。
そしてその背から、おずおずと声をかける。
「あの、貴方のお名前は…。私はレフィーヤ・ウィリディスです!」
「そうか…。我はこの地にして唯一人の王。故に王と呼ぶがよい。む?いや、
「そ、そうですか…。なら私は王さんって呼びます」
「たわけぇ!さんではなく様にせんかっ!」
すいません、と謝ったレフィーヤは、名前一つでこの人変だなぁと、思った。そしてレフィーヤは王様と呼ぶことにした。