ある夏の日。
私、香風智乃は、普通に家で夏休みを過ごしていました。
最近は、どこかへ行く用事が出来ないので、部屋の中でクロスワードやパズルでもしています。
でも、私は正直それでいいのです。
すると、
ガチャン
と、玄関を開ける音が聴こえました。
バイトはお休みだから、お客さんじゃないはずだし、ココアさんでも帰ってきたのかな?
「誰かいないのかー?」
いや、これはココアさんじゃない。どう考えても男性の声だ。
お父さんは元々家ににいるから違うし…………お休みの日を勘違いして、お客さんが来てしまったのか?
でも、どこかで聴いたことのある声。
そのような声の人がいたか、私は冷静になって考えてみた。
「んー……………………はっ! もしかして…!」
誰が来たか大体を検討して、慌てて玄関へ向かうと、
「なんだチノ。いたんじゃないか」
「………お、おおおおおお兄さん⁉」
そう、玄関の音の正体は、私の実の兄である香風孝史だった。
「あれ? お前が動揺するなんて珍しいな………もっとクールなやつだと思ってたのに」
「さすがに、いきなりお兄さんが来たらビックリしますよ!」
「だよな? にしても、ここに来るのは何年ぶりだっけ?」
「お兄さん。私が小4の時に出ていったので、ちょうど四年ぶりですよ?」
「ああ、そうだったな? 久しぶりすぎて、親父とじいさん、どっちから挨拶しよう?」
……お兄さん。早速その事を言わせるのですか。
「……チノ?」
「あ、すみません。その、お父さんはいますが、おじいちゃんは……」
「じゃあ、親父から先に挨拶を……」
「そうじゃなくて…! お父さんとおじいちゃんは今、両方家にはいないと言いますか、おじいちゃんはもう、亡くなってしまったので………」
「……嘘だろ?」
「私も、最初の時はそう思いました。ですが……」
「…………」
どうしよう。
いくらなんでも、この話は唐突すぎましたでしょうか…?
お兄さんが黙ってしまいました。
「……そうか。俺が、もっと早くに帰ってこれば……」
「……お兄さん……」
なんだか、今度はお兄さんが可哀想になってきました。
……でも…!
「お兄さんは、決して悪くなんかないですよ」
「……チノ」
「お兄さんは、向こうの方でも頑張ってきたんでしょう? おじいちゃんはきっと、そんなお兄さんを、天国で見ていたはずです」
私は、自分を責めるお兄さんの手を優しく握りながら、そう伝えた。
「……チノ……」
お兄さんも、温かい表情になってきました。
すると、
「誰この人⁉」
ヤ、ヤバいっ…!
このタイミングで、ココアさんが帰ってきました。
よりによって、ココアさんにこんなところを見られてしまうなんて……
「コ、ココアさん。これは……」
なんて対応をすれば……
「ココア? この人、チノの友達なのか?」
「い、いえ。友達といいますか……」
「チノちゃん! この人とどういう関係なの⁉」
「ええ⁇」
ああもう、混乱してしまいました……
こうなったら、唐突でも言うしかないです…!
「ココアさん! この人は、私の実の兄の、香風孝史です!」
「そうなの⁉」
「お兄さん! この人は、ここのバイトのココアさんです!」
「マジで⁉」
「だから、これでわかりましたか?」
「………………」
あれ? 沈黙が続く……
さすがに驚いているのかな…?
『……ああ、これはどうも』
いや、意外と普通だったみたいです。
お互い、挨拶しながら握手までし合っていますし。
「いつも、チノがお世話になっています」
「いえいえ。それはこっちの方ですよ」
というか、意外と気が合うのでしょうか?
でも、確かに、私とココアさんって性格が反対だし、お兄さんともそんなに……
「って、バイトの子がいるってことは、もしかしてチノも?」
「気づくのが遅いですよ」
「もう一人の子も合わせて、バイトさんは全部で三人いるよ♪」
「……なんか、俺がここにいない間、随分と変わったな」
「……お兄さん……」
お兄さんは、ここの雰囲気や環境が変わって嬉しいのでしょうか?
それとも、寂しいのでしょうか…?
「……そういえば、お兄さんはなぜここへ?」
「チノ。お前も気づくのが遅いよ。まあ、簡単に言えば、向こうの仕事で上手くやれなくてさ?」
「やめちゃったの?」
「まあね? だから、自分の家というか、このラビットハウスに戻ってきたんだよ」
「連絡くらい、くれればよかったじゃないですか」
「いや~しにくくてさ?」
「いきなりやって来る方が気まずいと思いますが」
「じゃあ、これから香風家で暮らすことになるのですか?」
「多分、そうなるはず。………多分な?」
「多分?」
「いや、実は親父にすら言ってないからさ? 向こうでの仕事を辞めたことと、ここに来ること」
……えっ…?
「だから、本当に許してくれるか心配で……」
「……お兄さん。さすがに、お父さんには前もって言った方がいいですよ?」
「だよな?」
「なら、私達も一緒に言おっか?」
「いや、それは俺だけで言うよ。確かに緊張はするけど、自分で言わなくちゃいけない気がするからさ?」
そう言うと、お兄さんは「親父の部屋へ行かせてもらう」と言いながら、ここを去っていった。
すると、
「チノちゃんのお兄さんって、カッコいい人なんだね?」
「そ、そうでしょうか?」
て、私ったら、何照れているんだろう…?
いくら、自分の兄が「カッコいい」って言われたからって……
「ここが、親父の部屋だっけか?」
そう呟きながらもノックをすると、
「チノか? それとも、ココア君か?」
親父からはそう返事が返ってきた。
まあ、俺が来たことは知らないしな。
……よし!
「親父、俺だ」
「……この声は、タカシか?」
「ああ。帰ってきた理由が話したいから、部屋へ入ってもいいか?」
「……いいよ。入りなさい」
許可が出されると、俺は、緊張でわずかに震えている手で部屋のドアを開けた。
すると、
「いらっしゃい。久々のお客様」
……つまり、「お帰り」という意味だな?
「ああ。ただいま」
「ここに座りなさい」
俺は、親父が指を差した椅子に座った。
「それで、孝史はなぜ帰ってきたんだ?」
……よし、恐れずに言うぞ!
「……実は、向こうでの仕事が上手くいかなくて、チノや親父も心配してるんじゃないかと思ったから…………逸そのこと、このバーで働こうと思って」
「………………」
さあ、どんなに辛いことを言われてもいいから、親父、答えてくれ……!
「タカシ、お前はもう大人だ」
……大人だから、そんなに甘いことはさせないって?
「タカシは、もう私と同じ大人だから、自分のことは自分で決めなさい」
「親父……」
「バーで働きたかったら構わないし、またここで住むことになれば、チノも喜ぶだろうしな?」
……親父は、俺が思っていたよりも優しい人だった。
というか、俺が勘違いしていただけなのかもしれないな?
すまない、親父。そして、
「ありがとう、親父」
翌日
いつものように起床すると、今日からは、私、ココアさん、お父さん、そして、お兄さんの四人での朝食になります。
「そういえば、チノちゃんのお兄さん」
「ああ、タカシでいいよ」
「じゃあ、タカシさん。昨日、お父さんにわかってもらえて良かったね♪」
「ああ。俺、もう22歳だから、親父には、『大人なら自分で決めなさい』って言われて。だから、今日から親父とバーで働くつもりだよ」
「そっか~♪ それなら、毎日タカシさんの様子を見に行かなきゃね?」
「その時間帯は、もう寝る時間ですよ?」
「でも、夏休みだよ?」
「夏休みだからといって、睡眠時間は変わったりしません」
「……相変わらずだな、チノは」
「そうなの。チノちゃんったら真面目すぎるから……」
「そうじゃなくて……」
『?』
「相変わらず、野菜は苦手なんだな? 特にセロリは」
「……///」
お兄さん、わざわざそんなことを覚えているなんて……
「そ、そんなことないですよ……!」
「でも残してるぞ?」
「……あ、後のお楽しみで、取っておいてあるだけです!」
「おいおい。嘘が下手すぎるぞ?」
「う、嘘なんかじゃ……」
「……でも、二人はすごい仲良しさんなんだね?」
わ、私とお兄さんが⁇
「まあね?」
「お、お兄さん…!」
「違うのか?」
「……違うと言いますか、その……」
でも、私がすごく幼い頃は……
チノ(6歳)
「なあチノ」
「なんですか?」
「お兄ちゃんが、今からチノにクイズを出そう!」
「……クイズ?」
「チノ。1+1は?」
「……2ですか?」
「正解! じゃあ、2+2は?」
「……4ですか?」
「……正解。だけど、せっかく間違わずに答えれるんだから、『ですか?』なんて聞かないで、もっと自信持って答えてみなよ」
「…………」
「だって、チノはこの俺の妹なんだからさ?」
「……はい…!」
ああ、思い出すと、なんだか恥ずかしいです……
……でも、やっぱり、昔は仲良かったのかもしれませんね。
……じゃあ、今はどうなんでしょうか?
お兄さん自信は、「今でも仲良し」って言っているけど……
私は、今のお兄さんと、上手くやれるのでしょうか…?
正直、そこが心配なのです。
2話へ続きます。お楽しみに!