対魔導学園35試験小隊 -黒閃の死神-   作:明智ワクナリ

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『雑魚小隊』②

颯月による補充要員紹介を無事?終えて新生三五試験小隊へと生まれ変わったものの、その空間はあまり芳しい状況ではなかった。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

妙に静まり返った空間は何も無いはずなのに鉛のように重く、動く気力すら削ぎ落とされそうな気まずい空気が流れている。その空気を作り出しているのは言うまでもなく女子陣からだった。

 

まずうさぎから。中央に置かれたソファにドカッと腰を下ろし、雑誌を太腿の上に広げながらテーブルに乗せた山積みのマカロンをむんずと掴み取り、無造作に口の中に放り込むという乙女度ゼロの行動を繰り返していた。余程さっきの件が気に入らないのか眉間にしわを寄せたまま、八つ当たり気味にマカロンを咀嚼しているように見える。

 

次に斑鳩。中央から少し外れた場所にある自分専用のデスクに座り込み、何やらニタつきながらパソコンをいじっている。時折棒付きのキャンディーを口に入れるぐらいで基本的には画面に目を向けている。どうやら桜花の件については特に思う所も無いようだが、一体そのモニターに何が映っているのかが気になる所だった。

 

そして問題の桜花。馴れあいは不要という宣言通り、簡易式のパイプ椅子を部屋の隅っこに置いてそこに座ったまま、相変わらずの不機嫌な表情でホルスターから抜き取った拳銃のメンテナンスを行っている。彼女にとって今やるべきことはこの場に居ることであり、決して仲を深めろと言われているわけではないためああしているのだろう。

 

そして男二人組はというと――――

 

「草薙タケルだ、一応この小隊の隊長をやってる」

 

「俺は黒井ヒカゲ、改めてよろしく草薙」

 

追いやられたように部屋の隅っこで握手を交わしている最中だった。パイプ椅子と簡易式のテーブルを広げて座る二人はこの上なく肩身の狭い思いをしている。そのことを気にしてかタケルは申し訳なさそうに謝った。

 

「悪いな、ウチの隊員が空気悪くしちまったみたいで。これも隊長の俺がしっかりしてないから…………」

 

「いやいや、こっちこそ止められなくてごめんね。桜花がああなることはわかってたんだけど」

 

段々と陰鬱な空気が流れ始めてきたところでタケルが腰を上げた。

 

「とりあえずお茶でも用意するか」

 

「あ、それなら俺も手伝うよ」

 

「いや黒井は座ってていいよ。新隊員歓迎したってのにまだ何も出せてないからな」

 

茶菓子くらいしか出せないけど、と苦笑いを浮かべてタケルは食器棚へと向かった。タケルの厚意をとりあえず受け取っておくことにしたヒカゲは、未だ中央付近に陣取る少女たちの姿を見る。

 

西園寺うさぎ。魔女狩り(デュラハン)志望。狙撃の技術は非常に高く学園内でもその腕はかなり高く評価されている。しかし重度の上がり症という狙撃手にはタブーとも言える欠点があり、そのせいもあって模擬試験や任務の成績はあまり芳しくない。また狙撃以外の技術は平均以下と問題点が多く判定はCランク。

 

ヒカゲも中学時代はそれなりに仲も良く、時々試験でタッグを組んだりしているためうさぎの技術力とそれを相殺してしまう欠点はよく知っている。欠点さえなくなればうさぎは魔女狩りでも良い線を行けるとヒカゲは見ているが、現時点でその可能性は皆無だった。

 

杉波斑鳩。鍛冶師(レギン)志望。開発スキルと改造スキルの両点において、異端審問会の整備班と同等かそれ以上の水準を誇る技術を持っている。がしかし、当人は兵器の開発や改造などにしか目がなくそれ以外には残念ながら興味を示すことは基本的にない。また彼女の改造の腕は確かだが扱いが非常に難しいピーキーな武器ばかり作り出すのだ。

 

中学時代に試作品のテストに付き合わされて痛い目を見たことは数え切れない件数に上る。彼女曰く、兵器が人に合わせるのではなく人が兵器に合わせるのべきだと言う。それ故高い攻撃力を有していてもそれを扱いきれるかというと実際問題無理だった。彼女が人に合わせて兵器を作る時代はいつやってくるのだろうか。

 

鳳桜花。異端審問官特務階級魔女狩り所属。史上最年少で異端審問官の資格を手に入れた天才児。その実力は言うに及ばず状況判断能力に優れ戦闘スキルは天才の域に達している。また射撃スキルにおいても高い技術を有しており、体術と組み合わせたガン=カタなど多数の近接戦闘術も習得済み。

 

ただし犯人に過度な外傷を与えたり時には殺害してしまい、彼女の向かった先が全て赤く染まることから『紅蓮姫(カラミティ)』という二つ名をつけられている。また単独行動に秀でてしまっている分協調性があまりなく、チームを組んでの戦闘となった場合の不安要素は少なくない。

 

そして最後に草薙タケル。騎士団(スプリガン)志望。身体能力以外はオールゼロという絵に描いたような劣等生だ。特に射撃センスは絶望的なまでに皆無、その代わりにあらゆる刀剣を使いこなせるという技術を身に着けているが、銃社会に推移してしまった現社会では評価の対象にはならずFランク。

 

しかも近接戦に特化した彼の欠点は致命的で、頭に血が上るとすぐに猪突猛進状態に陥ることだった。ただえさえ中距離戦闘が主流となっている現代で近接戦闘は危険とされているのに、そこに輪をかけて単調攻撃というのはもはや自殺行為である。

 

(良くも悪くも尖った人材、か)

 

改めて考え直してみると非常に能力の偏った小隊だ。

 

猪突猛進・超近接特化のタケル、総合力は高くも協調性のない桜花、高い技術を相殺する欠点持ちのうさぎ、威力重視だけしか考えない斑鳩。攻撃力に特化しているものの防御は甘く、どこか一つでも崩されれば一瞬で瓦解するチームだ。近・中・遠のどの位置でも対応できるオールラウンダーのヒカゲを中心に回したとしても、これだけ偏り過ぎているとあまり効果はないだろう。

 

とどのつまり個人の技能を如何に連携させて繋ぐかが問題となってくるのだが、正直な話団体行動を最も苦手とする桜花がいる以上それは難しい。つまり何が言いたいかというと、人材が増えたところでこの小隊の未来が上向きになったというわけではないということだ。

 

とその時、沈黙を貫いていた女子陣の一人―――斑鳩がそれを打ち破るように立ち上がった。

 

「ハア………黙って見てればどいつもこいつもヘタレね。私たちの置かれている状況が実感できてないのかしら?人材が集まった時点で仕事を探すのが普通よ」

 

呆れたと言わんばかりに大仰な仕草で頭を振る斑鳩の視線はうさぎへと移る。

 

「うさぎぃ、あんた今の今まで点数が足りないって大騒ぎしてたわよね?」

 

斑鳩の声音が変化していくにつれてうさぎの表情も変化していく。主に青白く。

 

「この私に真面目に考えろって怒鳴っていたくせに、呑気に雑誌読みながらコーヒーブレイクなんていい度胸じゃない」

 

氷点下もかくやという視線にうさぎは蛇に睨まれた蛙よろしくその場で硬直してしまった。恐怖のあまり体が小刻みに震えているようで、その姿はまさにうさぎそのものである。

 

そんなうさぎの姿を横目に斑鳩の追及はさらに別の人物へと移った。

 

「で、小隊をまとめる筈の隊長さんはいつから給仕係になったのかしら?」

 

その人物とは勿論、この三五試験小隊の隊長を務めるタケルである。お盆の上に湯気の上がる湯呑と茶菓子を持って歩く姿は、少しやつれた雰囲気と相まってどことなくそんな風に見えてしまう。

 

スッと細められた瞳を見てタケルも一瞬たじろぎそうになるが、そこは持ち前の根性でなんとか持ちこたえてみせる。

 

「あ、あのなぁ。確かに人数が揃ったからといっても俺たちの状況は変わんねえけどさ。まだ顔を合わせたばかりだろ?お互いのことをろくに把握しないまま任務に挑むっていうのはなあ」

 

意外にも正論で返してきたタケルに斑鳩は少しばかり驚かされたが、最終的にはやっぱりヘタレねと頭を横に振った。

 

「草薙にしては随分と真面目な意見だけれど残念ながらその意見はボツね。考えてもみなさい、私たちにはあと半年しか残されていないのよ。順調にポイントを重ねてきた小隊ならまだしも、未だ取得ポイントゼロの私たちが無駄にできる時間は一秒たりともないわ」

 

斑鳩の言う通りだった。

 

確かにタケルの意見は最もなことだろうが斑鳩の意見もまた的を得ている。一年という猶予の中で稼ぐはずの二〇〇ポイントをわずか半年でクリアさせるとなると、タケルの言う正論は残念ながら論外となるだろう。そしてタケル自身もその答えに迷いがあったために声をかけれずにいたのだ。

 

「けど、今から行動を開始しようにも小さい事件じゃどうにもならないだろ?デカいヤマを探ろうにも時間が――――」

 

「かからないわ。こんなこともあろうかとちゃんと用意しておいたから」

 

その言葉にタケルはおろかうさぎも仰天した。興味のあること以外は何もしない超快楽主義者である斑鳩が、自分の興味以外で行動するとは思っていなかったからだ。そもそも小隊活動の障害の一つが斑鳩だったのだからこうなるのも当然だろう。

 

タケルは今自分が見ているものは夢なんじゃ………という顔で斑鳩を見る。そんなタケルのわかりやすい表情に斑鳩は肩を竦めながら言った。

 

「あんたたちを見るに見かねておねーさんが一仕事してあげたのよ。このままじゃ本当に危なそうだったし。それにこんな弄りがいのある人材が揃った小隊を解体させちゃうには勿体ないでしょ?だから今回は力を貸してあげたってわけ、感謝して頂戴」

 

「お、おう」

 

「……………なんだか理由が釈然としませんけど、一応は感謝しますわ」

 

動機は不純だがポイントが必要となるこの状況で仕事が既に用意されているのは願ったり叶ったりだ。それを理解しているからこそ釈然としない顔をしつつも二人は頷いた。その後斑鳩は自分のデスクからノートパソコンを持ち出すとテーブルの上に置いた。

 

「今回私が目を付けたのはこれよ」

 

立体型のスクリーンが空中に投影され、斑鳩がパソコンを操作していくといくつかの情報が次々にポップアップされる。

 

「魔女狩り戦争の初期、アンドレフ・イェーガーが書いたとされる詩集『無軌道(むきどう)詩編(しへん)』の初版本。戦争中に出てきたイレギュラータイプの魔導遺産だけどDランク相当のものらしいわ」

 

「おお!」

 

Dランク相当と聞いたタケルが子供のように身を乗り出した。

 

Dランクということは小隊活動で受注可能な事件の中でも高ランクの任務だ。学生であって正規の審問官ではない彼らにはランクの制限が設けられており、最低限がFランクで最上限がCランクと定められている。魔導遺産が絡むとなると学生の実力ではここいらが限界なのだ。

 

因みにランクによってポイントの配分が決まっており、Fは5、Eは10、Dは20、Cは30という具合になっていく。魔導遺産は歴史の中で強力であればあるほどランクが高くなり、魔術事件は規模や関わってくる者によって変化していく仕組みだ。

 

「この詩集についてなんだけど、私が説明するよりも現場の第一線で体を張ってきたエキスパートにして貰った方が良いわね」

 

そう言って斑鳩が視線を寄こしたのは湯呑を片手に座るヒカゲだった。私が説明してるときに茶を啜ってるとはいい度胸ね、とでも言いたげな表情の斑鳩にヒカゲは苦笑しながら席を立つ。

 

「ごめんごめん、いつになく熱心だったから邪魔いちゃいけないかなと思って」

 

「熱心ねえ、そんなつもりはなかったんだけど」

 

と本人には思い当たる節がなかったようで不思議そうに首を傾げた。そんな斑鳩の横に立ったヒカゲはパソコンのカーソルを動かしてフォルダを開く。そこには画像資料と細かな詳細が記載されていた。

 

「それじゃあここからは俺が説明するけど、さっき斑鳩が説明した通りこの『無軌道詩編』は戦争の初期に生み出された比較的新しい魔導遺産なんだ。二人ともアンドレフ・イェーガーについては知ってるよね?」

 

ヒカゲの問いにタケルとうさぎは頷く。

 

アンドレフ・イェーガーとは魔女狩り戦争時代に作家として活動していた魔導サイドの人間だ。戦争の半ばで命を落とした彼は様々な作品を世に残した魔術師としてその名を知られている。しかし彼の手掛けた作品は意味不明、理解不可能と言われるものが殆どで、著者であるアンドレフにしか理解できないと言われている。が、非常にミステリアスな文章がある一部の者たちの中では人気が高く、アンドレフ・イェーガーのファンは数百年の時が過ぎた現在でもいるのだ。

 

「この詩集は全部で六冊。内一冊である原本は既に封印済みだけど、魔力を生成しない初版本は印刷時に魔力を内包させたらしいんだ。内容はこれまでと同様で無意味で統一性のない支離(しり)滅裂(めつれつ)な内容だけど、全て読み終えると暗号化された術式が脳内に直接展開される仕組みになってる。精神系統の汚染魔法で一度発動したら自分の眼球を抉りだし舌を引き抜いて自殺したり、別の詩集は炸裂系の術式で頭を木端(こっぱ)微塵(みじん)に吹き飛ばすなんていうのもある」

 

身の毛もよだつようなスプラッターな話に二人は軽く震えあがった。ヒカゲもこの内の一冊を押収した現場に居合わせたことがあり、その時の現場は凄惨(せいさん)としか言いようがなかった。血の海の中心で横たわる首から上がない死体と、内側から破裂したように砕け散った頭蓋骨や内包されていた肉片。常人ならば耐え切れないような光景だったことを覚えている。

 

読まなければ死ぬことはないが、人の命を奪う力を内包している以上Dランクなのは当然だ。

 

「一週間前に魔導遺産を含む違法物資を売り捌いていた組織を取り押さえた際に、審問会の方で初版本四冊の内三冊は押収したんだけど残りの一冊を回収し損ねたんだ。どうやら組織の末端の人間が詩集を持って逃走したらしくて、今回のターゲットは押収できなかった最後の一冊だと思う、っと。こんな感じでよかったかな?」

 

「ええ、十分よ。おかげで随分と楽が出来たわ」

 

一通り説明をし終えたヒカゲと斑鳩が再度バトンタッチし、再び斑鳩が前に出る。

 

「さてと、ここからがこの事件の本題よ。つい先日、逃亡した犯人の行方が割れたの。その情報によれば犯人は例の魔導遺産を別のグループに売り捌いてとんずらしようって算段を立ててるらしいわ。そしてその受け渡しが今日の午前〇時、繁華街の裏通りにある廃ビルで行われるそうよ」

 

斑鳩の締めの言葉に桜花を除く全員が唖然としていた。完璧な調査と裏取り、犯人は勿論のこと時刻と取引場所まで調べをつけているとは驚きの一言だ。そしてそんな反応を期待していたのだろう斑鳩は鼻高々に胸を張っている。

 

「いやいやすげーよ杉波、犯人の特定どころか取引現場まで特定できるなんて!」

 

「そ、そうですわ!大手柄ですわよ大手柄!でもいつの間にそんな調査を進めていたんですの?」

 

感嘆の声を漏らしながら斑鳩を褒め称えるタケルとうさぎ。かくいうヒカゲも斑鳩の調査能力に驚いていた。しかしその感動は更なる驚愕の真相に塗り替えられることとなる。

 

「調査なんてしてないわよ。そんなこと私に出来る筈もないし、第一そんな調査に充てるような時間をこの斑鳩さんは持ち合わせてないわ」

 

「……………ちょ、ちょっと待て。じゃあその情報はどうしたんだよ?まさか全部ガセでしたなんて言うんじゃ」

 

「流石の私でもこの状況でそこまでやる勇気はないわ。心配しなくてもこの情報の信憑性は確かにあるし、黒井の説明とも一致してたでしょ?この情報は今トップを独走している一八小隊の調査記録よ」

 

そのセリフを聞いたタケルは一瞬で凍り付き、そして状況を把握したのかその顔はみるみるうちに蒼白になっていく。一方何が何だか理解できていないうさぎは?を浮かべたままタケルと斑鳩を交互に見ていた。

 

何故斑鳩が接点のない一八小隊の情報をここまで詳細に持っているのか、それはつまり一八小隊の調査結果を斑鳩が横から()(さら)ったということだ。

 

本当にえげつないことを仕出かした斑鳩にヒカゲも溜息しか出ない。

 

「この情報は一八小隊のデータ記録にアクセスして抜き取ってきたものよ。ガバガバのセキリュティー過ぎて欠伸が出るくらい簡単に抜き出せたわ」

 

「なにやらかしてくれてんだお前っ!?マズいどころの話じゃないだろ!?」

 

「安心なさい草薙、ハッキングついでに奴らの情報を少し改竄(かいざん)してやったわ。日付を今日じゃなくて明日に変更しておいたからこっちの邪魔をされる心配もない、まさに背水の陣ってやつね!」

 

「そんな事情の後に背水の陣も何もねーよ!どうすんだよこれ!?」

 

「どうもしないわよ。情報管理がなってない向こうの隠密(バンシー)が悪いのであって私は悪くないもの。私は校則に則って情報収集しただけ。それに申請もとっくに済ませちゃってるわ、今更どうこうしようたって既に遅いのよ」

 

反省するどころか清々しいくらいに開き直る斑鳩にタケルも反論する。

 

「申請ならまだ取り消せるはずだ!事情を話せば取り下げてもらえるだろうし、一八小隊に謝りに行けば何とか間に合う!うさぎもそう思うだろう!?」

 

正義心に溢れたタケルは勢いのままに隣にいるうさぎへと問いかけた。

 

「し、下の名前で呼ぶなと言っていますわ!……………でも、まあ今回の件については確かに草薙の言う通りですの。人様の苦労をこんな形で奪うのはよくないと思いますわ」

 

自分の意見に賛成してくれる姿勢を見せたうさぎにタケルはホッとする。がしかしそんな空気もつかの間。

 

「――――でも今のわたくしたちに卑怯もなにもありませんの!卑怯だろうとわたくしたちの手の中にあるこの好機を見逃すわけにはいきません!小隊延命のためなら鬼の道でも進まなくては!!」

 

溺れる者は藁をもつかむ、まさに今のうさぎはそのことわざの通りだった。

 

タケルの言うことが正しくもこの危機的状況からするとそれは綺麗事でしかない。綺麗事が役に立つのは表面上の体裁だけであって、決して状況の打開に繫がるものではないのだ。

 

「うさぎもこう言ってるんだしいいんじゃないかしら?一八小隊は噂じゃもうすぐ規定ポイントに到達するらしいし、ここは一つ分けてもらったってことで納得しておけばいいのよ」

 

諭すように斑鳩はタケルに言う。世の中生きていく上でどうしようもない必要悪というものがあるわけで、それはタケル自身もよく理解しているつもりだ。しかし、それでも草薙タケルという男は諦めが悪い。それを知っている斑鳩はもう二人の隊員へと声をかけた。

 

「こっちの二人はどうかしら?賛成か反対か決めてもらえない?」

 

斑鳩の問いに答えたのは桜花だった。

 

「別に反対する理由がない。私はここでの活動を目的としているのだから潰れられては困る。それに賛同するつもりはないが悪いのは情報管理の甘い相手の隠密の方だ。トップだからと言って慢心していた奴らの落ち度だろう」

 

「……………そんな。い、いやでもまだ黒井がいる!お前はどう思ってるんだ!?」

 

非常に辛辣な言葉を並べて賛成した桜花に愕然とするも、タケルは最後の望みだと言わんばかりにヒカゲへと問う。

 

「え、え~と。今の現状を(かんが)みたら賛成以外の答えはないよね?」

 

勿論その答えは賛成だった。

 

実際この小隊が生き延びるためには多少なりとも悪事に手を染めなくてはならない。そしてそれが必要だと感じるならその方法を取る。別に堂々と悪人を名乗るような人間になるつもりはないが、かといってタケルのように真っ直ぐな正義を全うしようともヒカゲは思わない。それは単に悪もよしとする余裕があるかないか、ただそれだけのことだろう。

 

「それじゃあ賛成多数でこの事件は私たち三五試験小隊が担当することになったわ。各自兵装をチェックして臨むこと、いいわね?」

 

結局タケルの想いは届くことなく、こうしてタケル達は『無軌道詩編』回収任務を受けることとなったのだった。




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