Fate/in時雨&リニス   作:鎌鼬

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モードレッドと時雨の邂逅

 

 

モードレッドが時雨と始めて出会ったのはモードレッドが円卓の騎士の末席に加えられた時だった。

 

 

アーサー王の姉であるモルガンの策略により産み出されたモードレッドはアーサー王の代わりにブリテンを治めようとするモルガンの欲のために作られた。血筋からすれば父がアーサー王、母がモルガンというサラブレットとして産まれ、モルガンの策略とは別に王としてアーサー王のことを尊敬していたモードレッドはモルガンの命令に嬉々として従い、円卓の騎士になった。

 

 

「この度円卓の騎士の末席に加わることになったモードレッドだ。よろしく頼む」

 

 

モルガンから与えられた鎧で顔を隠したモードレッドは円卓に座る騎士たちを目の前にして堂々と言い放った。円卓に座る騎士たちは誰もが一騎当千の強者(つわもの)揃い、だがモードレッドは己はその誰もに劣っていないという自覚があった。

 

 

「あぁ、よろしく頼むモードレッド。我らと共にブリテンの地を守ろうではないか」

 

 

円卓に座るアーサー王がモードレッドのことを認めたことにより、モードレッドは正式に円卓の騎士の一員となった。そして用意されていた新しい円卓の席に座った時に、一つだけ席が空いていることに気が付いた。

 

 

「なぁ、そこの席はどうしたんだ?」

 

 

モードレッドが空いている席を指差しながら尋ねると明らかに円卓の空気が悪い物に変わった。いたずらが成功した時の子供のように笑っているマーリンとやれやれと言いたそうなランスロットを除いた全員が、明らかに嫌悪の表情になっていた。

 

 

「…………マーリン、彼を呼んだのか?」

「失礼、どうやら行き違えたようですね。先程兵を遣わしたのでしばらくすれば来るでしょう」

 

 

アーサー王が疲れた顔で尋ねたがマーリンはそれを澄ました顔で受け流した。この空いている席に誰が来るのだろうかとモードレッドが考えているとき、その席に座るべき人物が現れた。

 

 

「いや~失敬失敬、兵と訓練(あそ)んでたら遅れちまったよ」

 

 

まったく悪びれた様子も見せず、その男は適当に謝るとどかっと空いている席に腰を下ろした。汗を流した為か茶色の髪の毛は水で濡れており、急いでいたのか服装は黒い上着を羽織っただけで肌が見えている。

 

 

「貴様!!遅れたというのになんだその態度は!!」

 

 

その男の態度に向かいに座っていたガウェインが怒った。アーサー王に忠義を誓うものとして、男の態度は許せるものでは無かったのだろう。

 

 

「ガウェイン、怒りすぎると寿命が縮まるぞ?ってか、俺が会議あること知ったのはさっきだし?会議あること知らされてなかったし?重要なことを教えてくれなかった上司に責任があるよねってことで『俺は悪くない。悪いのはアーサー王だ』と弁明させて貰おうじゃないか」

「き!!貴様ぁ!!王を侮辱するつもりか!!」

 

 

ガウェインが怒りのあまりに腰に下げていた聖剣を引き抜こうとするも、男の態度は変わらない。マーリンは悪巧みを考えているような笑みを浮かべ、ランスロットはまたかと言いたそうな疲れた表情。他の円卓の騎士たちはガウェインに賛成のようで誰も諌めるつもりは無さそうだ。

 

 

「ところでさ~そこにいる新顔は誰さ?もしかして彼が会議の主役?」

「えぇその通りです。彼の名はモードレッド、この度円卓の騎士の末席に加わることになりました」

「へぇ」

 

 

怒っているガウェインを無視してマーリンに尋ねた男は、席から立ち上がるとわざわざモードレッドの近くまでやって来て手を差し出した。

 

 

「始めまして、一応番外扱いで円卓の騎士にいるシグレだ。上司はあれだけど頑張っていこうぜ」

「…………この手は何のつもりだ?」

「何のつもりって、握手だよ握手だよ。もしくはシェイクハンド。知らないの?」

「いや知っているが…………まぁ、よろしく頼む」

 

 

これが、モードレッドと時雨の始めての邂逅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………てな感じだったな」

「うわ、変わってないですね。それだと相当敵を作ってたんじゃないですか?」

「後から聞いたんだがシグレはランスロット以外の円卓から嫌われてるけど兵士たちからは好かれていたみたいだぞ?なんでも面倒見が良かったらしい…………まぁ、オレも始めの頃はアーサー王尊敬していたからシグレの態度を無礼だとか思って嫌ってたけど」

 

 

モードレッドは乾いた喉を温くなった珈琲で潤す。時雨はまだ帰って来そうに無かった。

 

 

「ほぅ…………じゃあ、いつ頃から時雨に興味を持つようになったんですか?」

「あぁ…………あれはオレが円卓に入った翌日だったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、モードレッドじゃん」

「…………シグレか」

 

 

城の廊下で歩いていたモードレッドの向かいから時雨が歩いてきた。モードレッドの時雨に対する評価は低かった。円卓の席にてのあのアーサー王に対する態度だけで、モードレッドは時雨を嫌う理由となった。

 

 

「そうだ、一つ聞いても良いか?」

「なんだ?」

「お前、女だろ?」

 

 

その言葉が終わるか終わらないかのところで、モードレッドは剣を抜いて時雨に斬りかかった。モードレッドは当たったと確信していたが斬ったはずの手応えはなく、時雨は後ろに飛び退いていた。

 

 

「危ないなぁ。殺る気満々だったな」

「お前…………いつ気付いた?」

「まずは声の高さ、それと足音から体重を予想、そいでちょっとした仕草とかだな。それからそう仮定して鎌かけてみた。だけど、モードレッドの反応見る限りじゃあ正解みたいだな」

「うわ…………」

 

 

自信満々で語っている時雨にモードレッドは引いていた。どこからどう見ても時雨のしたことで性別が判断できるとは思えないからだ。

 

 

「おいシグレ!!オレと決闘しろ!!」

「秘密知られたら生かしておけないってか?それと私情じゃなくて決闘なら殺してもOKと…………はぁ、ここじゃ狭いし、城の裏の草原で良いか?そこなら人もいない」

「…………良いだろう。なら夜にそこで待つ。誰にも言うなよ」

 

 

理性でなんとか抑えたモードレッドは剣を納め、足荒くその場から離れていった。そうして誰もいなくなった廊下で、時雨は溜め息をついて愚痴を漏らした。

 

 

「性別分かっただけで決闘とかブリテン怖い。これなら王様の性別バラしたらどうなるのやら」

 

 

愚痴の内容は誰もいなかったから良かったものの、分かるものが聞けば処刑されてもおかしくないようなものだった。

 

 

そして夜、モードレッドが城の裏の草原に行くとそこには大きく輝いている月を眺めている時雨の姿があった。

 

 

「待たせたな」

「いいや、女を待つのが男の甲斐性らしいからな。それに今夜は良い月だ、こんな月を見て女を待てるのなら悪くない」

「テメェ…………!!またオレのことを女扱いしやがって…………!!」

「事実だろう?怒るなよ、器量の狭さが知れるぞ」

 

 

ここにいるのは時雨とモードレッドの二人だけ、行われるのは決闘という名の殺し合い。モードレッドは腰に下げていた剣を抜いたが、時雨は無手のままだった。辺りを見ても武器らしきものはない。

 

 

「おい、剣はどうした」

「俺は武器を選ばないものでね、戦場に落ちてる物を使うときがあれば素手でやるときもある。気にするな、俺の強さは変わらないから」

「…………それが最後の言葉でいいんだな!!!」

 

 

モードレッドが時雨に斬りかかる。まるで砲弾のような加速でモードレッドは一気に時雨との距離を詰めた。対する時雨は無反応、手をだらりと下げたままの自然体だった。

 

 

「(取った!!)」

 

 

モードレッドは必殺を確信する。時雨には防ぐ手段は無く、この一撃を避けなければならない。しかしそれはモードレッドも予測済み、例えかわされたとしても追撃を放つ用意はしてある。

 

 

そしてモードレッドの剣は振るわれーーーーーーーーー

 

 

「ーーーーーーーーーな!?」

 

 

時雨に当たらなかった。防がれたのでは無い、間違いなく振り切ったはずなのに時雨に当たらなかった。

 

 

「こ、のぉ…………!!」

 

 

返す刀で二撃目を放つ。剣の速度は初撃よりも速くなっている。狙いは肩。そこに剣を入れて、一気に胴を切り裂くつもりだった。

 

 

そして、モードレッドは自分の剣が当たらなかった理由を知った。

 

 

凄まじい速度で振るわれる剣の腹に時雨は手を添えて、僅かに横から力を加えて、モードレッドの振るった力のまま、モードレッドの剣の軌道を反らした。

 

 

「嘘だろ…………!!」

 

 

この所業が信じられないモードレッドは更に剣を振るう。三撃目、四撃目と数を重ねる毎に速くなる剣を、時雨はその場から一歩も動くこと無く反らし続けていた。

 

 

「テメェ…………!!ふざけてるのか!!何故やられたままになってやがる!!」

「あ、反撃して良かったの?じゃあそうするわ」

 

 

何時までも反らしているばかりで反撃してこない時雨に業を煮やしたモードレッドは怒鳴った。そして時雨は攻撃されているとは思えないような軽い調子で返すと遂に動いた。

 

 

モードレッドの剣を下に反らす。モードレッド自身の力で振るわれ続けていた剣は地面に沈み、一瞬だけモードレッドの動きを停止させる。その隙がこの場においては致命的なものになる。

 

 

時雨はモードレッドの手を蹴りあげて柄から放させ、硬直しているモードレッドの首を掴んで持ち上げた。モードレッドと鎧を含めた重量をその細腕一本で持ち上げたのだ。

 

 

「動きは良いな、将来有望だ。だけど経験が足りない」

「ぐが…………!!はな、せ…………!!」

「そいじゃファーストレッスンだ、敗けを経験してこい!!」

 

 

そして時雨は持ち上げたモードレッドをそのまま地面にへと叩きつけた。

 

 

「ガハッ!?」

 

 

地面に叩きつけられたモードレッドは背中に今まで感じたことの無いような衝撃を受けて、2m程の高さまで跳ね上がる。そして地面に落ちて、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり決闘で敗けてから興味を持ったって事ですか?」

「そうなるな…………あそこまで圧倒的に敗けたのは初めての事だったし、思いっきり手加減されてたって分かったからな、今度こそは勝ってやるって思ってたよ」

「で、そこから恋に発展と…………ありがちな展開ですね。だけどそれが良い」

「悪い、待たせたな」

 

 

モードレッドの話が終わってすぐのところで時雨が戻ってきた。時計を見れば二人が話し始めてから二十分は経っている。

 

 

「遅かったですね」

「タバコ吸ってたら知り合いの外道神父と会ってな、少し話してた」

「外道神父…………心当たりがあります」

「というか神父が外道で良いのか?」

「人それぞれだから良いんだよ。それよりもそろそろビルの上に登るぞ。夕暮れ時で良い時間帯だからな」

「待ってました!!」

 

 

伝票を持った時雨の後にようやくかと言いたげな表情のモードレッドとしょうがないといった顔をしたリニスが続く。

 

 

「(まぁ…………リニスには話してないことがあるけどな)」

 

 

あの話の中で、モードレッドはリニスに話していない事があった。

 

 

それは、モードレッドが時雨に敗けてから意識を取り戻すところから始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…………」

「よぉ、目ぇ覚ましたな」

 

 

時雨に地面に叩きつけられて意識を失ったモードレッドが目覚めて見たものは、自分の隣で胡座をかいて座っている時雨の姿だった。痛みに堪えながら体を起こすとかけられていた時雨の黒い上着がずれて、モードレッドの肌が露出する。

 

 

そこで、モードレッドは動きを止めた。さっきまで自分は姿を隠すために鎧を着ていたはず、肌が見えるということはあり得ない。それはつまり…………鎧を脱がされたということに他ならない。

 

 

「鎧だったら邪魔そうだったから脱がせたぞ」

「テメェ…………!!オレの顔を見やがったな!!」

「おう見たとも。とんでもない醜女で顔隠してると思ってたのに可愛い顔してるじゃん」

「…………他に言う事があるだろうが」

 

 

モードレッドの顔を見たと言うのに時雨からは可愛いという言葉が出てきて毒牙を抜かれる。モードレッドの顔の醜美はこの際問題ではない。問題なのは、モードレッドの顔がある人物に似ているということなのだ。

 

 

「他に?…………あぁ、王様に似てるってこと?どうでも良いじゃん、そんなこと」

「どうでも良いって…………お前正気か?」

「正気だとも?まぁ狂ってるかと聞かれたら狂ってるけど」

「どっちだよ…………」

 

 

時雨の反応にモードレッドは思わず頭を抱えてしまい、ポツリポツリと自分の出自について話し始めた。

 

 

自分はアーサー王とアーサー王の姉のモルガンの間で作られた存在であり、モルガンの策略により円卓に加えられたということを。

 

 

長い長いモードレッドの話を聞いた時雨は…………

 

 

「で、それが何か?」

 

 

大して興味を示していなかった。

 

 

「それが何かって…………オレがどんな存在なのか分かっただろ?」

「いやだってねぇ…………そういう王位争奪のドロドロとした話しとか俺には関係無いしぃ?そもそも俺はこの国の生まれじゃないしぃ?ぶっちゃけたら興味がない」

「興味がないって…………おかしな奴だな」

「それはマーリンとランスロットからよく言われてるよ。お前はキチガイだなって」

「バカにされてるぞ、それ」

「分かってますよっと」

 

 

時雨は立ち上がり、固まった体を解すように伸びをすると、モードレッドの前に立った。

 

 

「だってさ、モードレッドはモードレッドじゃんか。例え王様から出来た存在だとしても俺には関係無い。モードレッドがモードレッドであることには代わりないだろ?」

「オレがオレであることに代わりはない…………」

 

 

時雨にそう言われて、モードレッドは少し嬉しくなった。母であるモルガンはモードレッドのことを王位を簒奪するための道具としてしか見ておらず、父であるアーサー王はモードレッドのことを知らないとはいえ、円卓の騎士の一員としてしか見ていない。

 

 

常に姿を隠していて、自分の出自を漏らさない為にも好きに話すことも出来ないモードレッドには、頼れる者が誰もいなかった。つきまとうのは孤独のみ、ただ王位を簒奪するための道具として生きる日々。

 

 

そんな中で、モードレッドの背景を一切無視してモードレッド自身を見てくれた時雨は初めての存在だった。

 

 

「そういうこと。あぁ、さっきの話しは誰にも言わないし、顔や性別のことも隠すから安心してくれ」

「…………どういうつもりだ?」

「だって俺、王様のこと嫌いだから。一度死ぬほど困るような状況に叩き落としたいと思ってたんだよ…………モードレッドが王位盗ったらモードレッドの側につくから」

「なんで円卓の騎士に入ってるんだよ…………」

「金のために仕官して、気がついたら入れられてた」

 

 

そして夜が明ける。どうやらモードレッドが意識を失っていた時間は長かったらしい。

 

 

「というわけだ、これからもよろしく頼むよ。モードレッド」

「はぁ…………たまに愚痴言わせてもらうからな、シグレ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これがモードレッドが時雨という人間に興味を持った時のこと。今思えばあれが恋の始まりだったのかもしれないとモードレッドは思う。

 

 

それから時が経ち、自分の思いに気づいて告白したときには時雨は死んでいた。しかし今はサーヴァントとしてだが、時雨と共にいれる。だが、サーヴァントは聖杯戦争のために喚び出された存在、それが終わればモードレッドは英霊の座に還ることになる。

 

 

だから、

 

 

「なぁ、シグレ」

「どうした、モード?」

 

 

モードレッドは隣で歩く時雨の服の袖を掴み、下に引っ張る。そうすることで時雨の体制が崩れて頭が下がる。

 

 

そして、下がった時雨の頬に、唇を着けた。

 

 

「…………ホントどうしたよ?」

「へへ~…………内緒だ!!」

 

 

今、この瞬間を楽しもう。聖杯戦争を終えたとしても、悔い無く逝けるように。

 

 

この愛は隠さない。あの時のように手遅れになることなど馬鹿らしいから。

 

 

この愛おしい人といれる今を、全力で楽しもう。

 

 

 






モードレッドと時雨の邂逅の回想です。作者は円卓の騎士には詳しくないのでほとんど想像です。モードレッドが入った時には時雨とランスロットはいたってことでよろしくお願いします。

この話を纏めると、時雨はモードレッドの秘密を知った初めての理解者ってことですね。モルガンに作られて顔を隠して生きていかなければならなかったモードレッド、それを知って尚受け入れてくれたのは時雨…………ってことです。時雨からすればモードレッドの出自はどうでもいいの一言で終わります。国家機密レベルなんですけどね!!

突っ込みどころ満載な気がしますがどうかお許しください。


感想、評価をお待ちしています。

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