Fate/in時雨&リニス   作:鎌鼬

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正妻戦争

 

 

「はい到着しました間桐邸で~す。雁夜に庭で宴会の用意させておいたからそこで待っててくれ。俺はつまみとかの用意してくるから」

 

 

時雨がそう言って家の中に入っていったのがほんの五分ほど前のこと、間桐邸の庭に用意された宴会の席でウェイバーは肩身の狭い思いをしていた。

 

 

「にしても久しぶりだな、ケイネス。時計塔卒業してからだから大体六、七年くらいか?」

「そうだな、確か卒業記念に遠坂時臣の宝石を全部硝子玉に代えてパーティーしたのが最後だからそのくらいだな」

「(…………なんか僕、場違いすぎやしない?)」

 

 

旧知の仲なのかケイネスと雁夜は時雨が買ってきたワインと日本酒を飲みながら昔話に花を咲かせているのをウェイバーは傍らで麦茶を飲みながら眺めていた。

 

 

「おう、ウェイバーよ飲んどるか?」

「お前は飲み過ぎだよ、馬鹿。なんで日本酒を樽ごと飲んでるんだよ」

「む?時雨の奴からこれがこの国での酒の飲み方だと教わったのだが?」

「時雨さん…………あの二人を見てみろ、そんな飲み方してないだろうが。それに聖杯から知識を得てるのになんで騙されてるんだよ」

「ガッハッハ!!細かいことを気にするな!!だから貴様は背が伸びんのだ!!」

「身長は関係無いだろぉ!?」

 

 

先程までの戦闘用の衣服ではなく白地に世界地図が印刷されたTシャツを着たライダーが樽を抱えながらやって来たのにウェイバーは突っ込みを入れる。実は時雨が面白そうだからという理由でライダーに嘘の知識を教えたのだがライダーはその事を気にせずにこの飲み方を続けている。そしてその挙げ句にウェイバーのコンプレックスである身長のことを指摘するが、それは事実なのでウェイバーは怒鳴るだけで留めておいた。

 

 

「ガッハッハ!!…………ウェイバーよ、気にするな、お前はこの場にいるどのマスターたちにも負けてはおらぬ。確かに魔術師としての腕ならば貴様はこの場にいるマスターの足元にも及ばぬだろう。しかし、貴様は自分が劣っていることを知っている。自分を弱者と認めることが出来る者は総じて強い、これは余の経験から来るものだ…………故に、胸を張れ。自分は負けていないと虚勢を張れ。弱き者であるならばそれ相応の戦いを見せてみろ、余のマスターよ」

「…………お前に言われなくても分かっているよ、ライダー」

 

 

ライダーにそう指摘され、ウェイバーは深呼吸をして気持ちを入れ換える。ウェイバーはこの場の空気に飲まれていたのだ。衰退しているとはいえ長い歴史を持つ間桐の当主の間桐雁夜、時計塔で教鞭を振るい天才と呼ばれるのに相応しい才能と実績を持つケイネス・エルメロイ・アーチボルト。ウェイバーからしたらどちらも雲の上の人で、彼らがいる宴会に誘われたというだけでも信じられない物だった。

 

 

だからこそ、ウェイバーは諦めない。例え手が届かぬような場所にいる存在であれ、才能が欠片もない者であれ、そういった者たちに劣っていないと証明するために。

 

 

「雁夜さん、今日はありがとうございます」

「ん、あぁこちらこそわるかったな。兄貴が急に呼び出したりして。そっちの都合もあっただろうに」

「いえ、私のような若輩者がこの席に呼ばれたことだけでも光栄なことですから」

「兄貴はそんなこと気にしてないと思うけどな…………」

「そうなんですか?」

 

 

ウェイバーはケイネスを招くついでに自分を招いたのだと思っていた。実際に、その事は間違いではない。ケイネスは招いたのにウェイバーを招かないのはどうかと思って時雨はウェイバーのことをこの宴会に誘ったのだ。

 

 

「兄貴ってさ、人間関係が広いように見えて人間の好き嫌いがかなり激しいんだよね」

「確かにそうだな、時雨は気に入った者にはかなり深く踏み込んでくる。だが逆に気に入らない…………嫌った人間には冷たくあしらうからな。貴様のことを嫌っているのならこれには誘われていないだろうし、マスターであったかどうかすら…………もっと言えば生きていたかどうかすら怪しかっただろうな」

「うわ…………」

 

 

雁夜とアルコールが入って気分が良くなったケイネスが時雨のことについて饒舌に語り始めた。

 

 

二人が言ったことは間違いではない、時雨のことを知る者がこの場にいれば何も言わずに肯定しているだろう事実だった。ケイネスは時雨のことを成人した子供だと思っている。自分の気に入った存在は愛でて愛し、気に入らない存在は嫌い排除する。この今の世の中では適応出来ないような自分勝手な生き方を貫く子供。

 

 

それは事実であり、時雨本人も認めていることでもある。だが…………そんな生き方をする時雨に、惹かれる存在もいることは事実なのだ。雁夜と、ケイネスがその事を証明している。

 

 

「だが…………その結果があれだ」

「あれ…………ですか」

「あぁ…………あれね」

「ガッハッハ!!あやつめ、楽しませてくれるわい!!」

 

 

ライダーが豪笑するが三人にはそんな余裕はなかった。雁夜、ケイネス、ウェイバーが気まずそうに目を向けるその先にはーーーーーーーーーー

 

 

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 

 

酒器を片手に、互いに向かい合っている四人の女性の姿があった。

 

 

「…………修羅場か?」

「修羅場だな」

「おい、なんで二人ともカメラを回してるんだよ」

「こいつはいい!!酒が美味い!!」

「お前は自重しろぉ!!」

 

 

四人にカメラを回す雁夜とケイネス、四人を見ながら樽ごと日本酒を飲んでるライダーにウェイバーは突っ込みを入れることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 

 

四人の女性の間にあるのは重苦しい沈黙だけ。この間に入るのなら例え神であろうとも潰される程の重圧がそこにはあった。

 

 

「…………我が名はギルガメッシュ、ウルクを治めた王である」

 

 

この沈黙を始めに打ち破ったのはギルガメッシュ。この重圧に怖じ気づくことなく堂々とした態度で名乗りをあげた。

 

 

「僕はエルキドゥ、神からギルのことを諌めるように創られたんだけど…………色々とあって友達になったんだ」

 

 

続いて名乗ったのはエルキドゥ。いつものように落ち着いた態度で名を名乗ったがギルガメッシュを除いた二人を見る目はどこか冷やかだ。

 

 

「…………オレはモードレッド、ブリテンの騎士だった…………けど結局反逆したけどな」

 

 

それに続いたのはモードレッド。世界最古の王とその朋友の威圧に怯むことなく胸を張って名乗った。

 

 

「私はリニスと申します…………時雨の妻です」

 

 

そして最後に名乗ったのはリニス。ギルガメッシュとエルキドゥの威圧に耐えて、さらには爆弾を落とした。

 

 

「お前が…………シグレの妻だと…………?」

「へぇ…………?」

 

 

二人の関係について知っているモードレッドは何も言わないがそうでも無いものからすれば寝耳に水。ギルガメッシュは端正な顔を不快そうに歪ませ、エルキドゥは顔は笑いながらも目は笑っておらず瞳孔を開かせるという荒業を見せてくれた。

 

 

「えぇ、そうですよ。私は時雨の妻です。ギルガメッシュはウルクの王と言ってましたね、ならその前で私は時雨と結婚してました」

「ふっ…………化生の分際で奴の妻を語るとはな」

「語るも何も事実ですからね。子供も出来ましたし、孫もいました。本にして書けばベストセラー間違いなしの人生を歩んでいたと自負していますよ。それにそれは貴女の友達に盛大にブーメランになって帰って来てますよ?」

「戯け、我が朋友とそこいらの有象無象と一緒にするでない。それに奴はエルの出生を知ってなおそれを許容しておったしな」

「王様に仕えるべき騎士なのに反逆したのかい?それでよく騎士を名乗れるね」

「上が仕えるに相応しくないと判断したら従わないのは当たり前だろ。それにお前だって神から遣わされたはずなのにそれに逆らってそいつと友達になってたじゃないか」

「規律規律と五月蝿い奴らよりもギルといた方が楽しかったからね。それにシグレと会ってからあいつらがいかに無能か分かったし…………まぁ、二人に会わせてくれたことには感謝しても良いかな?だけどシグレを殺したことは許サナイケドネ…………」

「おい待て、その話詳しく聞かせろ」

 

 

互いの口から出るのはまさしく口撃。聖杯からの知識により互いの所業が分かっているのでそのことを重箱の隅をつつくように指摘する。

 

 

そしてファーストアタックが終わり、更に口撃が続くかのように思われたがーーーーーーーーーー

 

 

「ーーーーーーーーーーふっ」

「ーーーーーーーーーーアハハッ」

「ーーーーーーーーーーくくっ」

「ーーーーーーーーーーふふっ」

 

 

四人の口から出たのは意外なことに笑い声だった。そして四人が笑うと同時に重圧が霧散する。

 

 

「まったくシグレの奴め…………我ら以外にも女を作るとは、まったく持って不敬な奴よなぁ」

「そうですね…………まぁ時雨は好いた人にはこれでもかって言うくらいに甘やかしますからね。それで骨抜きにされて惚れる人が出てきてもおかしくないです。私たちがいい例ですね」

「この分だと他にも彼に惚れた人が居そうだよね。まったく、どれだけ人をダメにすれば気がすむのやら。」

「だけど、まぁ、ここにいる全員がシグレに愛されるのは自分だけだーとか思ってないんだろ?」

「当然だ」

「そうだね」

「当たり前です」

 

 

「「「「あいつ、絶対に寂しがるから」」」」

 

 

同時に口にした言葉がまったく同じだったことを驚きながらも当然のことだと思って四人は大声で笑いだした。

 

 

普通なら、自分以外にその男を愛しているものがいれば多少なりとも嫌悪するだろう。しかし時雨という人間のことを知っている彼女たちからすれば、こんなことになることは予想できていた。

 

 

時雨という人間の愛は狭く、そして深いのだ。それは彼の育ちから関係することなのだがここでは省略させてもらう。時雨は認めた者が居なくなることを拒む。例えそれが本人の意思だとしても死のうとしているのなら殴ってでも止めさせると豪語するほどに。認めた者が居なくなるのは寂しいからという子供のような理由であるが、時雨のことを知り、時雨のことを愛している彼女たちは時雨のことを悲しませるような真似をしたくなかった。

 

 

故に、互いの存在を認め合う。恋敵ではあるが同じ男のことを心から愛しているから、彼のことを悲しませたく無いから自分以外を排除しようとしないで受け入れる。だが、まぁ、

 

 

「リニス、モードレッド、貴様らのことを認めてやろう。我は王であるからな。だが、シグレの妻となるのは我だ、貴様らは側室として耐えるが良い」

「ギル、それはちょっと聞き捨てならないな。確かに君は王ではあるけどシグレに向ける愛情は負けているつもりはない。シグレの妻になるのは僕だよ」

「ふふっ、甘い甘いですよ。ホットケーキにハチミツとシュガーとメープルシロップをかけたくらいに甘いです。確かに貴女たちは時雨のことを愛しています。だけど彼の妻は生前から私で決まっています。故に貴女たちが側室であることは生前からの決定事項…………!!」

「オ、オレだってシグレのことを好きだって気持ちは負けてないぞ!!シグレの妻になるのはオレだ!!」

 

 

自分こそが正妻に相応しく、それ以外は愛人で我慢しろという気持ちは変わらないようだ。いや、殺し合いに発展しないだけマシかもしれないがどちらにしてもドロドロとした展開になることは避けられないようだ。

 

 

「フハハッ!!王である我に逆らうか!!それも良し!!貴様らが手を組もうとも妻の座は譲らぬ!!」

「だけど、それを決めるのはシグレなんだよね…………」

「つまり、時雨のことを一番始めに堕とした者が正妻の座に座ることを許される訳ですね」

「これこそが正妻戦争…………!!」

 

 

自分こそが時雨の妻に相応しいと信じている目で、彼女たちは目の前にいる恋のライバルのことを睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………和解したみたいだな」

「ふん、つまらんな」

「あんたらはいったい何を求めてるんだよ!?」

「「修羅場」」

「人として最低だよ!!あんたら!!」

「つまみ持ってきたぞ~い…………って、何やってんだお前ら」

 

 

短時間で大量に作られたつまみを持って現れた時雨が目にした物はつまらなそうにしている雁夜とケイネスに突っ込んでいるウェイバーと樽ごと日本酒を飲んでいるライダー、そして背景に炎のエフェクトを付けながら何故か睨み合っているギルガメッシュとエルキドゥとリニスとモードレッドの姿だった。

 

 

「なんか俺がいない間に面白そうなことになってるじゃないか…………ハブか?梯子外されたのか?」

 

 

ある意味、彼がこうなった原因を知らなかったことは幸運だったのかもしれない…………

 

 

 





雁夜とケイネス
時雨繋がりで友人の関係。ケイネスはソラウのことについて相談したり、雁夜は魔術や時雨のことで相談したりとしていたのでそれなりに良好な関係。

卒業記念パーティー
時雨、雁夜、ケイネスと数名が時計塔卒業の記念に行ったパーティー。資金提供は遠坂時臣(無参加で無許可)。日本に帰ってから宝石箱の中身が硝子玉になっていたのを知って絶叫した。

ウェイバー
歴史のある間桐と才能と実績を持つケイネスに挟まれてたじたじになっていたがライダーからの一喝で気持ちを切り替える。自分が何を出来るのかを把握している弱者が一番厄介だと作者は考える。

修羅場
リニス、モードレッド、ギルガメッシュ、エルキドゥの四人が合ったことで開かれた。今回は口撃だけで終わったが普通なら血みどろな展開になってもおかしくなかった。だけど彼女たちは時雨のことを悲しませるような真似をしたくなかったからそれをしなかった。なお、雁夜とケイネスは血みどろな展開にならなくて残念だった模様。

正妻戦争
時雨の正妻の座を手にいれるために行われる女の戦い。勝利条件は時雨の妻になること。互いを物理的に攻撃すること、催眠や暗示など時雨の意思をねじ曲げることを禁止しているがそれ以外はオールオッケー。勝者は時雨の正妻になり、それ以外は愛人になる。飛び入り参加は認められている。現在の参加者はリニス、モードレッド、ギルガメッシュ、エルキドゥ。


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