「悪いな、今こんなのしか出せないんだ」
「いえ、突然押し掛けたのはこちらですから」
取り合えず客間にやって来た二人をあげて御門には粗茶を出す。
「そしてジル…………悪いが茶器を切らしていてな、炊飯器にダイレクトになるが良いだろう?」
「おぉありがたい、ちょうど小腹が減っていたところです」
「キャスター!!それは一部の地域で早く帰れって意味だから受け取らないで!!」
ジルに渡した炊飯器にダイレクトに粗茶を注ぐ。ジルはそれを笑いながら受け取ってしゃもじでモシャモシャと即席の茶漬けを食べていた。
「にしても…………ジルはともかく御門までこっちに来てたとはな、正直驚いたよ」
「こっちなんて驚きっぱなしですよ…………時雨さんとキャスターは友人みたいだし、ギルガメッシュやエルキドゥにモードレッドまで知り合いみたいだし…………どれだけ俺のことを驚かせたら気がすむんですか?」
「驚かせてるつもりはないんだがな…………で、今日は何でわざわざここに来たんだ?昼間っから殺り合うつもりか?」
揺さぶりの為に、二人に目掛けて軽く殺気を当ててみる。しかし二人は微動だにもしなかった。まぁ二人ともそれなりに付き合いがあるからこの程度のことには慣れてるんだろう。
「そんなわけ無いですよ。俺は聖杯戦争に参加するつもりはありませんし。てか時雨さんがいるなら勝敗なんてほとんど決まってるようなものじゃないですか」
「シグレに勝とうと思えば…………一国、いや世界すべての戦力を投入しても怪しいですからねぇ」
「おいギョロ目…………目ん玉くり貫くぞ…………じゃあ何で来たのさ?」
「あ~…………じゃあ俺がこっちに来た経歴と一緒に話しますかね」
そう言って御門はお茶を啜り、思い出すようにして語りだした。
『ちょっと舞台を彩るエキストラとなりたまえ』
そんな訳の分からない理解できないような言葉と共に、御門はこの世界に連れてこられ、気がついた時には
銀だったはずの髪の色は茶色に変わり、父と母と年の離れた姉と兄がいる普通の家庭で育っていた。
前の世界には未練が無いこともない、しかし自分にはどうすることも出来ないのも事実。だから御門は愛したヴィータのことを忘れないように、生涯を独身で生きるつもりだった。
そんな御門に、不幸が襲いかかる。
今から数年前のある日のこと、学校から帰ってきた御門を待っていたのはーーーーーーーーーーー血を流して動かなくなった父と母、腹から臓物を溢している姉、そして…………
「よっ、御門じゃん!!お帰り!!」
御門の帰りを笑顔で出迎えながら、姉のことを解体している兄の
その光景を見た御門の頭の中は真っ白になりーーーーーーーーーーー故に、魂が覚えている通りの行動をした。
まずは笑顔で解体している龍之介に接近して喉に一撃。御門からの攻撃を予想していなかったのか龍之介は喉を潰されて息を詰まらせる。その隙に御門は龍之介の頭をつかんで力任せに壁に叩き付けた。ゴンッと鈍い音がして龍之介は白目を向いて倒れた。時折体が動いていることから死んではないようだ。
そして御門は龍之介の用意した縄を使って龍之介を縛り、警察に連絡した。その後どうなったか御門は知らないし、知るつもりもない。ただ、警察からの取り調べで龍之介は『死について知りたかった』と笑顔で語っていたことを聞かされたのは覚えている。
長男による一家殺人事件というのはメディアにとって特ダネであり、その生き残りである御門も格好の獲物だった。メディアからの追求と近所からの視線に耐えられなくなった御門は倉にあった古書数冊を残してそれ以外の物を全部売り払ってただ宛もなくさ迷うことにした。この時御門は十四歳だった。
それから三年経ち、今から半年前に御門は冬木の町に辿り着き、地下にあった貯水槽を仮の寝床として暮らしていた御門だったが…………はっきり言って暇をもて余していた。この時御門は十七歳、この国の法律では未成年と決められている上に住所不定のために仕事に就くことも出来ない。旅立ちの時に作った金はまだ残っているが遊べるほどあるという訳ではない。
だから御門は、もて余している暇を少しでも潰そうと何となく持ってきていた古書を読んでいた。
「慶応二年…………幕末の辺りのか?妖術…………
その古書の内の一つは幕末の辺りに現代で言うところのオカルトについてを書き記した物。根も葉もないような文章に空想の存在を描いた図、それに悪魔召喚の為の呪文など。真偽の程はさておき、暇を潰すという目的を果たすのには十分な物だった。
「昔に書いた割には随分と本格的だな…………ん?この魔法陣…………」
そして御門は古書の一ページに書かれている魔法陣に目が行った。古書自体を読むのは初めてのはずなのにどうしてだかこの魔法陣には見覚えがあった。
「何でこれに見覚えがあるんだ…………?それに説明が書いてあっただろうページが破けてて残ってるのは呪文の部分だけか…………暇だしやってみるか」
見覚えがある魔法陣に好奇心を持った御門は深く考えることをしないで、その魔法陣を書き写して書いてある呪文を読み上げることにした。所詮はただのオカルト、何か喚び出せる訳がないとその時は考えていた。
御門は偶々持っていたワインで魔法陣を書くことを決める。たまたまさ迷っていた時に知り合った人から渡された物ではあるが未成年と言うこともあって処分に困っていたのだ。ワインの瓶の口を指で塞ぎ、適当に溢しながら魔法陣を書く。
「えっと…………
古書に書いてあった文字はすべて草書体で書かれていた為に何度も間違えながら呪文を読み上げ、魔法陣を書いていく。そうしてワインが尽きる頃になってようやく魔法陣は完成した。
「これで完成。何々…………告げる」
「 汝の身は我が下に、
我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、
この意、この理に従うならば応えよ」
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、
天秤の守り手よーーーーーーーーーーーだよねぇ」
魔法陣を書き上げ、呪文を読み上げたが何も起きない。その結果に御門は当たり前だという表情になっていた。こんな事でポンポン何かが喚び出されるようならはこの世は等の昔に地獄になっている。
ふと時計を見ると、すでに深夜と言っても差し支えないような時間になっていた。何も喚び出せなかったことは少しガッカリしたものの目的である暇潰しは十分に出来ている。空になったワインの瓶を隅の方に投げ捨てて、御門は鞄を枕に寝ようとしたーーーーーーーーーーー
「イタッ!?」
が、その時、御門の右手に痛みが走る。怪我でもしたかと体を持ち上げて右手を見るとーーーーーーーーーーー手の甲に、刺青のようなものが現れていた。
「なんじゃこりゃ?」
右手に刺青など入れたことのない御門は突然現れたこの刺青を見つめていた。何かの病気かもしれないと不安になった所でーーーーーーーーーーー無風だったはずの貯水槽に風が通った。
「…………風?」
外に通じる道は一つを除いてすべて封鎖されている貯水槽では基本的に風が通る事などない。ここに住み始めて日は浅いとは言ってもその事を理解している御門は風が吹いてきた方向を…………魔法陣のある方向を見た。
そしてーーーーーーーーーーー
「ーーーーーーーーーーーっ!?まぶしっ!?」
暴風が吹き荒れ、魔法陣から目も眩むような閃光が放たれる。咄嗟に手で目を庇うことができたが少しでも遅れていたら光にやられてしばらく使い物にならなくなっていただろう。
閃光が収まり、それと同時に暴風も止む。すると何もなかったはずの魔法陣の上に立つ人影が見えた。
その人影は辺りを見渡し、御門の姿を確認すると爬虫類のような目を御門に向けた。
「この身、キャスターのクラスを依り代に現界したジル・ド・レェと申します。貴方が私を喚び出した召喚者でしょうか?」
「キャスター…………?ジル・ド・レェ…………?」
突然現れた人物の言葉を理解しきれていない御門だったが…………キャスターという言葉が引き金となり、あることを思い出した。
それは過去に偉業を成した英雄たちをサーヴァントとして使役し、聖杯という万能の願望器を手に入れる為の戦い。キャスターとはその英雄たちを現界するために設けられたクラスの一つ。
そしてようやく、御門はどうしてあの魔法陣に見覚えがあったのかを思いますことができた。
「(あれ…………サーヴァント召喚の魔法陣だったやん…………)」
「アッハッハッハッハ!!ヒィッハッハッハッハ!!アヒャッ!!アヒャッ!!クハッハッハッハッハ!!!!」
「時雨さん笑い過ぎぃ!!」
「だっ、だって…………!!暇潰しでサーヴァント喚び出すとか…………!!喚ぶ方も喚ぶ方出し喚ばれる方も喚ばれる方だろ…………!!アッハッハッハッハ!!」
「くぅっ!!事実なのが悔しい!!」
「あぁ…………この狂ったような笑い方も懐かしいですね…………」
俺、爆笑。御門、悔しそう。ジル、しんみり。なんだこの状況は、笑うしかねぇじゃねぇか。
「あぁ…………あぁ…………はぁ、笑った笑った。お前ら俺のことを笑い殺すつもりかよ」
「笑わせるつもりはなかったんですけどね」
「ふぅ…………おかわりを頂いてもよろしいでしょうか?」
「キャスター!!てめぇはもう食うな!!」
「生憎だが今は食い物ないから諦めろ。で、いつ俺のことに気づいたんだ?」
「昨日のコンテナ置き場での戦いをキャスターから習った遠見の魔術で見てたんですよ。そしたら時雨さんいるし、キャスターはキャスターでいきなり泣き出すし…………それで来たんですよ」
なるほど、昨日のあれが見られていたか。ジルにはキャスターの適正らしきものはなかったと思うんだが…………俺が死んでから得たのか?
「俺たちがここに来たのは同盟を組みたいからです。俺には聖杯にかける明確な望みはあることにはあるけど時雨さん倒してまで叶えたいとは思いません。てか時雨さん倒すなんて出来る気がしない」
「おい本音が漏れてるぞ」
「私の望みは神に辱しめられて悪魔として蔑まれた貴方の救済でした…………しかし貴方がここにいるのなら私の望みは叶えられました。故に、貴方に聖杯をお譲りします」
「あ~…………そう言えば、ジャンヌはどうなった?」
ジルを見ていると思い出してしまう。神という虚像を信仰し、女でありながら民のために立ち上がり、魔女として処刑されそうだった彼女のことを。
「…………聖処女であるならば、彼女は少なくとも私が処刑されるまでは生きていました。申し訳無いのですがそれ以降のことは…………」
「うん、分かった。まぁ、生きていてくれていたのなら俺が死んだ甲斐があるってもんだよ」
「そんな軽々しく死ねるとか止めてくださいよ…………生死の概念が怪しくなってくるから」
「俺、今って都合四度目の転生だから」
「時雨さん転生し過ぎぃ!!」
し過ぎぃ!!とか言われてもねぇ…………俺のこと強制的に転生させてくれるのがメルクリウスと甘粕の二代馬鹿コンビだからな…………どうしようもない。
「俺としてもお前たちを殺したくないし、同盟の話なら俺は承諾したいと思っている。外の奴と相談してからになるけど期待しといてくれ」
「ありがとうございます」
「感謝します、シグレ」
「善きに計らえってか?」
その後、買い物に行った面子が戻ってくるまで俺たちは再会できた喜びからずっと休むことなく話続けていた。
炊飯器にダイレクト
炊飯器を器に見立てたお茶漬け。一部の地方では気に入らない客が来たときにお茶漬けを出すことで『はやこと帰れや』という意思表示になる。
雨生御門
この世界での御門の本名。原因は大体奴のせい。一応寿命で死んだのちにこの世界に転生させられたので戻ろうと言う意思が薄い。だがヴィータのことが忘れられないので生涯を独身で過ごすつもり。暇潰しで古書に書いてある魔法陣を書いていたらキャスターであるジル・ド・レェを召喚した。
雨生龍之介
原作でのキャスターのマスターでこの世界での御門の実兄。この作品では父と母と姉を殺した所で御門に捕まえられたのですでに刑務所の中で服役中。終身刑か、それに近い刑になることは確定している。
詠唱
原作の龍之介っぽくしてある。幕末の辺りの古書なら字はミミズのような草書体だと考えて解読に難航しながら詠唱したってことになっている。暇潰しに読んでいた時は部分部分で読めるところだけを読んでいた。
ジル・ド・レェ
オルレアン時代の時雨の友人で今回の聖杯戦争でキャスターとして喚び出された。原作ではジャンヌが処刑されたから黒魔術に走ったがこの作品ではジャンヌを救って時雨が死んだから黒魔術に走っている。その目的である時雨が今の時代に生きているので精神汚染は多少緩和されている。が、時雨やジャンヌを本気で辱しめるような発言をされた場合ガチギレする。ステータスは原作通り。
感想、評価をお待ちしています。