遠くから金属音と爆発音が聞こえてくる。しかし今この炎の囲いで閉ざされた場に響いているのは途切れなく響く破裂音だった。
切嗣がキャレコの引き金を引き、ひたすらに射撃をしている。すでに放った弾丸は百を越えているが切嗣は射撃を止める素振りを見せようとはしない。何故なら、狙っている対象が存命だから。
キャレコの銃口が向けられている相手は炎で限られた空間を縦横無尽に駆け抜けていた。地面を駆け、時には飛び跳ね、逃げ場が無くなり避けられなくなった時には手に持っている赤黒い太刀で弾丸を弾くという芸当を見せている。流れを変えようと切嗣は懐から手榴弾を取り出して安全ピンを抜いて投げる。普通なら手榴弾から距離を取ろうと考えるのだろうが相手は逆に距離を詰めて炎の囲いの外に蹴り飛ばした。手榴弾は安全ピンを抜いて即座に爆発する訳ではない、使用者が巻き込まれないように数秒空けて爆発する。その事を知っていたとしても近づこうなどと考える者はいないだろう、いるとすれば自暴自棄になった者…………それか手榴弾を脅威と思っていない者。切嗣の相手は間違いなく後者だった。
「どうした切嗣ぅ!!その程度ですかぁ!?ただの人間一人も殺せないようならその理想捨てて隠居しちまいなぁ!!」
炎の囲いの外で爆発した手榴弾のことなど忘れ、キャレコの射撃を止めた切嗣に話しかけるのは時雨。相手を挑発するようにふざけた口調と銃口を向けられているのに自然体を崩さない体制で切嗣に対峙する。
「君が人間ならこの世界のほとんどが人間じゃなくなるよ」
「なんでどいつもこいつも俺のことを人外扱いしようとするのかねぇ…………泣くぞ?泣いちゃうぞ?良い年した大の大人が泣きわめいて暴れちゃうぞ?」
「止めてくれ…………そんなことになったら間違いかく世界が滅ぶから」
「解せぬ」
さっきまでのハイテンションはどこに行ったのか、時雨は見て分かるほどに気分を下げていた。やる気が無くなった、とまではいかないが少なくとも先程までよりも放たれる敵意が薄まっている。
「でもよ、実質お前は詰みとしか言えない状況だよな?セイバーはあいつらにハントされている真っ最中。いくら騎士王であろうともあいつらを前にして生き残れるとは思えない。そしてお前の相手は絶賛人外扱いされている人間代表の俺だろ…………詰んでんじゃん!!」
「ほんとそうなんだよな…………どうしてこうなったんだか…………」
「アーサー王喚び出したから」
「クソッ、全部アハト翁が悪いんだ」
「お?アインツベルンの老害のことか?お礼参りに行くなら付き合ってやろうか?」
「そうだね…………僕が聖杯戦争で勝ったら付き合ってもらおうか!!」
そう言って切嗣は会話を切り上げ、再びキャレコの引き金を引いた。キャレコの残弾は少ない、故に切嗣は強引にでも勝負を終わらせることにした。切嗣はコートから手榴弾を取り出して安全ピンを抜く、そしてレバーを離して三秒待ってから時雨に投げる。切嗣が使っている手榴弾はレバーを離してから五秒後に爆発するように調整されている。だから時雨に蹴って対応されないように三秒の間を空けた。流石に爆発寸前の手榴弾を蹴り飛ばしたくないのか時雨はやって来る手榴弾から離れようとする。
そして手榴弾から爆風ではなく、音と光が放たれた。
「っ!!スタングレネードッ!?」
形状が同じだった為に気付かなかったが切嗣が投げたのは爆風で殺す手榴弾ではなく、音と光で敵を無力化するスタングレネードだった。殺すことに特化しているとはいえどもしもの時の逃走用に用意しておいたスタングレネードの光によって時雨の目が焼かれ、音によって時雨の耳が聞こえなくなる。
一時的にとはいえど時雨の視覚と聴力を奪うことに成功した切嗣は攻めに転じた。
「
切嗣の速度が加速する。切嗣の魔術である『time alter 』は時間操作、自身の体内に固有結界を設定することで僅か数秒限りではあるが神経の反応速度や伝達速度、筋肉の応答速度、体内の活性等のすべてを高速化させることができる。簡単に言えば数秒の間だけだが切嗣は通常の何倍速でも動くことが出来るのだ。しかしその数秒が過ぎてしまえば術式は解除されずれた時間の誤差を修正するために切嗣の体に多大な負荷を与える。二倍速程度なら肉体に損害を出すことなく使えるが三倍速ともなれば文字通り体を切り裂くような痛みを味わうことになる。
それでも切嗣は三倍速で仕掛けた。時雨が見せたこの隙で勝負を決着させるために。
キャレコを投げ捨ててコートから大振りのナイフとトンプソンコンデンターを抜き出し、ナイフを投擲した。狙いは人体の急所である喉元。音をたてることなく投げられたナイフは真っ直ぐに時雨の喉元に向かっていきーーーーーーーーーー時雨の持つ太刀に弾かれた。
普通ならそこで終わっていただろうが切嗣は驚いていなかった。何故なら時雨は普通ではないから、そしてナイフの一投はあくまでも囮に過ぎない。本命は逆の手に持ったトンプソンコンデンターに籠められている弾丸。
霊的加工の施された切嗣の肋骨を粉末にして芯材に使用した弾丸は『起源弾』と呼ばれている。この弾丸に魔術で干渉すると切嗣の起源である『切断と結合』が具現化し、術者の魔術回路を滅茶苦茶に組み換える。その結果、魔力が暴走を起こして回路をショートさせる。そのダメージは術者の使用していた魔術の魔力量に比例して神経系や内臓にまで及び何もかもをズタズタにしてしまう。これが切嗣の魔術礼装で切嗣が魔術師殺しと呼ばれる由縁にもなった対魔術師用の礼装『起源弾』だ。
狙うのは魔術で作られた時雨の持つ太刀ーーーーーーーーーーではなく、時雨の心臓。時雨の魔術である『血闘術』は血を操るという特性上自身の血液すべてに魔力を通す必要がある。つまり時雨の血液すべてが時雨の使う魔術そのものであり、外す可能性のある太刀ではなく当たる可能性の高い胴体を狙った。
『起源弾』が時雨の体に掠りでもすればそこから切嗣の起源が具現化し、時雨の魔術回路は滅茶苦茶になるだろう。時雨がそれで死ぬとは思えないが少なくともそれで魔術師としての時雨がいなくなることは間違いない、例え生き延びたとしても時雨の戦闘能力は半減する。
トンプソンコンデンターの引き金が引かれ、銃口から装甲車並みでもない限り貫通を防げないスプリングフィールド弾が放たれる。目も耳も使えない時雨にその弾丸をかわすどころか防ぐことは出来ない。そして『起源弾』は時雨の心臓に向かいーーーーーーーーーー
「温いぞ、正義の味方」
下から持ち上げられた時雨の履いていた靴に軌道を反らされ、何もない空間にへと飛んでいった。
高速で移動する物体は横からの動きに弱い。高速道路を走っている車が横からの突風でハンドルを持っていかれそうになるのが良い例だろう。それは弾丸にも当てはまる。人の腹に撃たれた弾丸が内臓などの影響で真っ直ぐに進まず肩などの全くの検討違いの方向から出てくるという事例もある。
時雨はそれを知っていた。切嗣の『起源弾』が魔術で触れてはならないものだということも知っていた。だから下から弾丸を靴で蹴り上げた。
言葉にすればそれだけだがこれがどれ程難しいのか語るまでもないだろう。目も耳も使えない状況で、高速で飛翔してくる弾丸に合わせて肉体に当たらないように靴を破損しないように蹴る。恐らく人類が研鑽に研鑽を積み重ねても実現できるがどうか分からない神業を時雨は当たり前のようにやってのけた。
「グゥッ!!」
そしてここで切嗣の固有時頃の効果が切れ、外界とのずれを修正するための負荷が切嗣を襲う。筋肉は千切れ骨は軋み、全身に内出血が起こる。
「目ぇ潰して耳塞いだだけで殺れると思ったか?甘いな、考えうることすべてが甘い!!そんなんで殺られてるなら周りから人外扱いされてねぇんだよ」
目も耳も使えないが切嗣が苦しんでいることを分かっているのかうずくまる切嗣に向かって時雨は告げた。そして動けない切嗣に向かい細く伸ばした血の糸を向ける。
「
切嗣を囲うように漂っていた血の糸が時雨の指示と共に同時に発火。固有時制御の反動で動くことの出来ない切嗣にこれをかわせる訳がなく切嗣は炎に飲み込まれた。
全身を焼かれながらもなんとか逃れようとする切嗣だったが顔全体を炎に包まれたことで酸素を取り入れることができず、酸欠で意識を失った。
「「Are you ready!?」」
「「Yeaaaaaaaaaaah!!」」
「「OK!!Let's rock 'n'roll!!」」
どこから学んできたのか流暢な英語を話ながらギルガメッシュとエルキドゥはセイバーに向かって武器を放つ。ギルガメッシュが放つのは生前にこの世のすべての財を納めた宝物庫から放たれる宝具の原典、エルキドゥが放つのはギルガメッシュが放つ宝具を模した土で作られた宝具。殺意を隠すことなく撒き散らしている二人の放つ宝具の雨はセイバー個人ではなくセイバーの周囲一帯を狙った面での攻撃だった。
その攻撃だと密度は薄くなるが範囲が広くなる分セイバーは回避することが出来なくなる。だがセイバーは最良と言われたクラスのサーヴァント、自身のスキルである直感により宝具の射出を上手く防いでいた。
だがそれだけで終わるはずがない、セイバーを殺そうとやって来たのは四人なのだから。宝具の射出を捌いているセイバーに迫る二つの影があった。
「オラァァァァァァァァ!!!!」
「キェェェェェェェェイィ!!!!」
モードレッドとジル・ド・レェだ。モードレッドは赤黒い大剣を、ジル・ド・レェはギルガメッシュが射出してセイバーが弾いた二本の剣を両手で持って宝具の射出をかわしながらセイバーに斬りかかる。
「グ、ゥッ!!」
モードレッドとジル・ド・レェの猛攻に晒されてセイバーは防戦一方だった。モードレッドは一撃で殺そうと強烈な攻撃を繰り返し、ジル・ド・レェは威力こそ無いものの二刀の剣技で連撃を浴びせてくる。押し潰さんばかりのモードレッドの剣と的確に急所を狙うジル・ド・レェの剣、どちらか一方ならばセイバーは対処できたが同時となると受けに回るしかなかった。
なんとかモードレッドとジル・ド・レェから離れることが出来たかと思えばそこにやって来るのはギルガメッシュとエルキドゥの宝具の射出。脅威になる攻撃でありながりもセイバーが生きていられるのはセイバーが攻撃することを捨てて防御に回っているのと…………四人がセイバーを削ることに集中してるからだろう。
セイバーはいかような理由があれど彼らと関わりの深い時雨の命を奪った要因の一つである。だから簡単には殺さずに弱ったところを捕らえて拷問なりなんなりして嬲るつもりだった。
「にしてもお前、キャスターなのに剣が使えたんだな」
「確かに私は黒魔術を嗜んでいましたがそれより前は騎士でした。それにシグレに暇潰しという名目で鍛えられましたので例えセイバーのクラスであろうと剣で負ける気はいたしません」
「ねぇギル、彼って君の宝物使っているけど大丈夫なの?」
「良い、許そう。我が至高を汚した罪人を裁くのにいくら手があっても困ることは無かろう」
ギルガメッシュとエルキドゥの後衛二人による援護射撃、モードレッドとジル・ド・レェの前衛二人による近接戦というセイバー一人を打倒するのに十分すぎる布陣。如何にアーサー王とはいえどこれだけの戦力差をひっくり返すことは不可能だった。
「(エクスカリバーさえ使えれば…………!!)」
セイバーに逆転の手が無いわけではない、アーサー王の代名詞とも言えるセイバーの宝具のエクスカリバーを使うことができればこの劣勢を覆すことは難しいことでは無いだろう。しかしそれだけの威力を持つ宝具故にエクスカリバーの発動には溜めが必要となる。その溜めが出来るだけの時間をこの四人が与えるとは考えられなかった。
そしてまたセイバーを休ませないようにとモードレッドとジル・ド・レェがセイバーに向かう。この状態が続けばセイバーは疲弊し捕らわれ、四人の気がすむまで嬲られることになるだろうーーーーーーーーーー
「Aaaaaaaaaalalalalalalalalalalalalalalalalalala!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そこに乱入者が現れた。
木々を薙ぎ倒し、雷鳴を轟かせながら現れたのは一騎の
「ライダー…………何故貴方がここに?」
「なぁに、戦場の華は愛でる質でな」
「ライダー…………貴様か」
「そうだとも英雄王よ」
邪魔されたことに誰が見ても不機嫌だという顔になったギルガメッシュにライダーはあっけらかんとそう言った。ギルガメッシュの背後の黄金の渦が増える。セイバーを狩るという行為を邪魔したライダーを消そうとしているのだ。
そして、乱入者はライダーだけでは無かった。
睨み合っているギルガメッシュとライダーの間に、魔法陣が現れる。それはサーヴァントであるなら誰もが知っているーーーーーーーーーーサーヴァントを召喚するための魔法陣だった。
突然のそれに驚く間もなく魔法陣が輝き、魔力が暴風のように吹き荒れる。それから守るために全員が腕で顔を庇い、治まって退けた時には魔法陣の中央に女性が一人立っていた。
金髪を三編みにまとめ、
飾り気の無い鎧を最低限で纏い、
腰に剣を下げたセイバーに似た顔の女性はこの場にいる全員に言い聞かせるように告げた。
「双方剣を納めなさい。私はルーラー、此度の聖杯戦争の監督役として聖杯より召喚されたサーヴァントです」
時雨VS切嗣
切嗣が善戦しているようにも思えるがこれは時雨が切嗣よりも僅かに上の程度に力量を押さえていたから。時雨が本気でやったなら最初の接触の時点で切嗣は十七分割にされてる。
起源弾
切嗣の切り札。ようするに魔術師の魔術回路を滅茶苦茶にして肉体にもダメージを与えるという切嗣の呼び名である『魔術師殺し』の元になったと思われる礼装。魔術師に対しては強力な礼装だといえるが魔術を使わない相手だとただの弾丸でしかない。だとしても装甲車並みでもない限り貫通を防げないのだから十分強い。
時雨に起源弾
血闘術は魔術で血を操っているので時雨に起源弾をぶつけた場合、着弾部位が血の出る場所ならば起源弾は発動する。そのことを時雨は知っていたので靴に当てて軌道を反らすという神業で回避した。
篝火
血闘術火具壌之型の一つ。血の糸で相手を囲い、一気に燃焼させることで囲んだ相手を燃やす。範囲は糸が届く範囲、大体200~300m。
ギル様とエルちゃん
ノリノリである。セイバーに対してはギリギリ対処できそうな程度の宝具の射出をしていた。目的はセイバーを弱らせるため。
モードとギョロ目
モードはともかくギョロ目はキャスターなのか怪しい行動。キャスターの癖に接近戦が出来るなんて…………でもギョロ目は普通に騎士として戦ってたから剣を使えてもおかしくはないと思われる。そこに時雨が暇潰しと称して訓練をしていたのでセイバーとも打ち合えるようになっている。だけど一対一ではステータスの差から負けてしまう。
ライダー乱入
好き勝手に動く征服王まじ征服王。原作でもバーサーカーとランサーが二騎がかりでセイバーを襲っていたところに乱入してたから普通にやりそう。
ルーラー出現
セイバーに似た顔のルーラー…………いったい何ダルクなんだ…………
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