『座』と呼ばれる偉業を成し遂げた英雄たちが集う世界の中にある教会、奉られた十字架の下に膝をついて祈りを捧げている女性がいた。
彼女の心中にあるのはーーーーーーーーーー後悔だった。
自身の行いを悔いているのか?いいや、違う。あの時、自分がしたことに対する悔いは一つも無かった…………と言えば嘘にはなるがそれでも自分がしたことを間違っていたと、やり直したいと思ったことなどはない。民たちが虐げられていたあの時代で自分たちの故郷を守るためのあの戦いは間違いではなかったと信じていた。
なら何故祈っているのか?
それは彼女がフランスに裏切られ、魔女として火炙りにされる寸前に救い出してくれた存在ーーーーーーーーーー自分の為に命を落とした彼に対する後悔だった。
フランスにとって不利益な存在になった彼女は策謀により国を救った英雄としてではなく人を誑かし、陥れる魔女として処刑されるはずだった。しかし、その彼女を救ったのは…………旅の途中で行き倒れになっていた彼だった。見捨てるわけにもいかず、残りわずかなパンを差し出すと彼は貪るようにそれを食べた。そして彼女の事情を聞き、助けてくれた礼と言って守ることを約束してくれたのだ。
彼の戦いは凄まじく、彼女を狙う敵兵は彼の手によって悉く葬られていった。そして彼女が魔女として火炙りにされると知ると戦いの途中で知り合った友人と共に彼女を助けに来た。そしてーーーーーーーーーーその時の傷で命を落とした。
魔女として処刑されるはずの自分を救って命を落とした彼に対する後悔、それがこの『座』に至っても彼女を縛る鎖となる。だから彼女は祈りを捧げる。
そしてーーーーーーーーーー彼女は聖なる杯によって現世に喚び出される事になった。
喚び出されると同時に彼女の頭の中に流れ込むのは現世の情報、聖杯戦争と呼ばれる聖杯を求める戦いの情報、そしてルーラーのクラスとして聖杯戦争の中で生じる異常をすべて取り除き聖杯戦争を進行させろという命令。
後悔で満ちた心だったが、それでも与えられた役目をこなさなくてはならないと思考を切り替える。そして聖杯戦争に参加しているサーヴァントたちが集っている前で堂々と告げた。
「双方剣を納めなさい。私はルーラー、此度の聖杯戦争の監督役として聖杯より召喚されたサーヴァントです」
「セイバーが…………増えた?」
セイバーと似た顔付きのルーラーの登場にエルキドゥは思わず戸惑いの声をあげるが、それはギルガメッシュによって否定された。
「いや違うな、よく見てみろ。確かに顔を作りは似ているやもしれぬが服装や明らかに違うところがある」
「違うところ…………?」
ギルガメッシュに指摘されてモードレッドとエルキドゥはルーラーの観察を始める。確かに顔立ちは似ているものの、セイバーは気品のある服装に対してルーラーは似合ってはいるが何処か間に合わせのような格好。そして明らかに一部、セイバーには無くてルーラーには有るものがあった。
「「胸か」」
「その通りだ!!ルーラーは胸があるがセイバーには無い!!」
「斬るぞ貴様らぁ!!」
確かにルーラーはあるのだがセイバーには無い。鎧をつけているから、という優しい声があがるかもしれないが外したところで無いものは無いのだ。事実とはいえどその事を指摘されてセイバーは宝具である
「(このやり取り…………懐かしいですね。まるで彼がいたときのフランス軍のようです)」
モードレッドたちに煽られているセイバーの姿を見てルーラーは自分の記憶の中にある彼のことを思い出して懐かしんでいた。命を賭けた戦いを控えているのに道化師のようなふざけた言動で緊張を解してくれていた彼の姿が、モードレッドたちの姿に重なったのだ。
しかし懐かしんでいる暇は無いと意識を切り替えようとしたときーーーーーーーーーー金属音が聞こえ、全員の目がそちらに向かった。そこにいるのはジル・ド・レェ。手にしていた二本の剣を落とし、ルーラーを見つめて涙を流している。
「ーーーーーーーーーーまさか…………貴女なのですか?聖処女よ」
「…………ジル・ド・レェ?」
ルーラーの口からジル・ド・レェの名前が告げられる。ルーラーに与えられたスキルの『真名看破』等ではなく、生前に互いのことを知り合っていたからである。
「オォーーーーーーーーーーオォ…………!!」
自身の名を知っている、それだけでジル・ド・レェはルーラーの正体を理解した。その場に膝をついて手を組み、まるで信仰する神が眼前に現れた信者のような反応を見せる。
「ジャンヌ…………!!我らが聖処女よ…………!!貴女までこの聖杯戦争に喚ばれるとはなんたる運命の悪戯か…………!!」
「ジャンヌ…………聖処女…………ま、まさか!!ジャンヌ・ダルクなのか!?オルレアンの英雄の!?」
ジル・ド・レェの口から出た言葉に反応してライダーの
ジャンヌ・ダルク。神の声を聞き、イングランド軍に占領されたフランス領土を奪還する為に立ち上がった英雄。ジャンヌ・ダルクの参戦によりフランスはイングランド軍から領土を奪還し、百年戦争と呼ばれた戦争に勝利した。知名度だけならば恐らくセイバーのクラスとして喚ばれたアーサー王をも凌ぐ。
「貴方がこの聖杯戦争に喚ばれているとは…………」
「オォ…………オォ…………!!神はどこまで私のことを弄ぶつもりなのか…………!!死後に我が友だけではなく聖処女にまで会わせるとは…………!!」
ジル・ド・レェはジャンヌと再会できた喜びとジャンヌがルーラーとして聖杯戦争にサーヴァントとして喚び出された悲しみで涙を流した。やり場のない気持ちを発散させる為にか号泣しながら地面を力任せに叩いている。
「我が友…………ジル、それはもしかしてーーーーーーーーーー」
ジルの口から出た友に心当たりがあるのか、ジャンヌはそのことについて問おうとした時だった。
「ーーーーーーーーーーッ!!」
遠く離れた場所からこの場所に向かって三発の魔弾が放たれる。そしてその魔弾は地面に着弾し、強烈な閃光となってジャンヌ、セイバー、ライダー、ウェイバーの目を眩ました。ようやく閃光が治まった時にはーーーーーーーーーーモードレッドたちの姿は無くなっていた。先程の魔弾による閃光で逃げたのだ。
「もしかして…………貴方もこの時代にいるのですか?」
そしてジャンヌは呟くようにジル・ド・レェの友であり、『座』に辿り着いても心の中にある彼の名を口にした。
「ーーーーーーーーーーシグレ…………」
「あーーーーーーーーーー」
全身から感じられる針を刺すような痛みで切嗣は覚醒する。時雨によって焼かれたはずなのにまだ生きているのは加減されたからなのか、そう考えながら目を開くと目の前にはアイリスフィールの顔があった。
「アイ…………リ?」
「っ!!良かった…………!!」
切嗣が起きたことに気づくと使っていた治療魔術を中断してアイリスフィールは切嗣に抱き着いた。火傷が深かったのか治療はまだ終わっておらず、アイリスフィールが抱き着いたことで先程よりも強い痛みを感じるのだが切嗣はそれを指摘しなかった。
「切嗣…………」
「舞弥まで…………」
「ぷは~…………」
アイリスフィールと舞弥が安心した顔で切嗣の側によっている中で時雨は近くにあった木に寄りかかってタバコを吸っていた。
「切嗣、お前二人に感謝しろよ?お前をこんがり焼いて扱いに困ってたところに二人が来てさ、自分達が相手するとかいってお前のことを守ろうとしたんだぜ?」
「何故、僕を殺さなかった?」
「いやね、俺切嗣に聞きたいことがあっただけで殺すつもりなんて無かったし、正直バトったのもその場のノリに近いし」
「…………ノリで僕は殺されかけたのか」
「それに俺の目的はあくまでセイバーだし?切嗣に死なれると消滅しちゃうから生きていてもらった方が好都合なもんでね」
「何…………?」
時雨のセイバーが目的という言葉を聞いて切嗣は昨夜のコンテナ置き場の戦いのことを思い出した。ランサーであるエルキドゥと冷静に戦っていたセイバーが時雨の姿を見た途端に激高して襲いかかったのだ。その時はバーサーカーであるモードレッドに防がれていたがあの時のセイバーは明らかに時雨に敵意を向けていた。
「セイバーと何かあったのか?」
「教えねぇよ、気になるならセイバーから聞いてみろよ。まぁ経緯を省いて理由だけ言わせてもらうなら…………俺、あいつの事嫌いだから」
それだけを言って時雨は口を閉ざし、フィルターまで燃え尽きたタバコを地面に落として踏んで火を消した。
『時雨』
「(あ、リニスか?)」
その時、リニスから念話が入る。緊急時や予想外の出来事があるときに使うように言っておいた念話だが、リニスの声から焦りを感じないことから後者だと判断した。
「(何かあったか?)」
『二つ報告があります。一つはモードとギルとエルとジルで景気よくセイバーを虐めていたところにライダーが乱入しました。モードとジルが引かれそうになりましたが被害は無いです』
「(それなら良かった。もう一つは?)」
『新しいサーヴァントが召喚されました』
「ーーーーーーーーーーは?」
リニスからの報告に時雨は思わず声に出してしまった。切嗣たちが不審そうな目で見てくるがそれを気にしている余裕はない。
「(マジかよ…………いや、七騎が出揃ってる中でイレギュラークラスの
『クラスはルーラーと名乗って聖杯戦争の監督役として召喚されたと言っていました。顔立ちがセイバーと似ていますがセイバーと違って胸があります…………あと、ジルがルーラーの顔を見て泣きながら聖処女と呼んでいました』
「ーーーーーーーーーー」
ジルがルーラーのことを聖処女と呼んでいたとリニスから言われ、時雨は新しく火を着けようとしていたタバコを地面に落とした。セイバーに似た聖処女とジルが呼ぶ人物に心当たりがあったからだ。
『…………時雨?』
「(悪い、抜けてた…………四人はどうした?)」
『一先ず引かせました。今頃は霊体化して間桐邸に戻っているはずです』
「(分かった、リニスも戻ってくれ)」
『分かりました』
そこでリニスとの念話が途絶える。リニスが時雨の指示通りに戻ったのならこのアインツベルンの森に残っているのは時雨だけになっているはずだ。
「じゃ、俺帰るわ」
「散々好き勝手暴れて帰っていくんだな…………」
「クハッ!!俺の事知ってるならこういう奴だって分かってるだろ?あと、セイバーに自害なんかさせるなよ?つまらなくなるからな」
「当たり前だ、セイバーが無いと聖杯戦争に勝てないからな」
「俺の相手しておきながら勝つ気でいるところとか好きよ?シーユー!!」
それだけを言って時雨は切嗣たちに背を向けてこの場から立ち去った。そしてアインツベルンの森を駆けている途中で一見すれば何もない空間に向かって、
「綺礼~流石に今は愉悦を自重しろよ?」
それだけを口にした。そして何事も無かったかのように森の中を駆けていくがーーーーーーーーーー時雨の頭の中には、恐らく自分の知っている人物であろうルーラーのことで一杯になっていた。
「ルーラー…………ジルが聖処女と言うのは一人だけ…………まさかお前も聖杯戦争に喚ばれるとはねぇ…………」
「ーーーーーーーーーーそうだろ?ジャンヌ・ダルクよぅ」
『座』で悔いる女性
自身のしたことには悔いはあるが間違った事をしたとは思っていない、だが自分を救ってくれた彼を結果的に殺してしまった事だけを悔いている。
ルーラー
聖杯戦争の監督役として聖杯によって召喚されたサーヴァントに与えられるクラス。今回は本来なら喚び出されるはずのない第八のクラスで第八のサーヴァントである
胸
セイバーと決定的に違う点。無い方が良いと言う人もいるかもしれないがやはり有る方が良いのも事実。セイバーとの見分け方は胸の有無で確かめよう!!なお、モードたちはその事でセイバーを弄る模様。
ジャンヌ・ダルク
オルレアンの英雄と呼ばれた女性。神からの声を聞き、イングランド軍に占領されたフランス領土を奪還する為に立ち上がった。その後、領土の奪還には成功するもののフランスの陰謀によって魔女として火炙りにされる…………ここまでは伝承に残っている話。実際にはジャンヌは処刑寸前に時雨の手によって救出された。しかし国としての面子云々によって『魔女のジャンヌ・ダルクは火炙りの刑に処された』と伝えられている。
切嗣生存
元々殺すつもりは無かった。だがその場のノリで切嗣は時雨によってこんがり焼かれてしまった。そして切嗣を助けに来たアイリと舞弥の姿を見て時雨は切嗣のことを二人に任せた。
時雨とセイバー
経緯は明かされていないが時雨が口にしたのはセイバーが嫌いという理由だけ。そしてセイバーは消滅なんていうつまらない終わり方をさせないために切嗣は生きている。
時雨とジャンヌ
ジャンヌが『座』に至ってまで悔いているのは時雨のことについて。本人は気にしていないがジャンヌは相当に堪えていたらしい。これは顔を合わせた時が楽しみですわ…………(ゲス顔)
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