魔術師間桐…………それは元はロシアに定住していた魔術師だったがとある儀式の為に日本へ移住、日本の土地が合わなかったのか衰退し滅びを待つだけのよくある魔術師の一族。
それだけならまだ問題はなかった。蟲を使った魔術も嫌悪感はあれど方法の一つだと理解しているので拒絶するほどではない。
問題は…………間桐の現当主である間桐臓硯。
体を蟲に変え、他人を喰らいながら五百年もの年月を生き続ける妖怪。とある目的の為に不老不死になることを望んでいたが永すぎる年月を魂が腐敗する苦痛の中で生きた為にその願いは磨耗してしまい、目的と手段が入れ替わってしまった憐れな存在。
現在俺は三歳になり、腹違いの兄と弟である鶴夜と雁夜もそろそろ臓硯から間桐の魔術を教えられることになるだろう。
今の俺じゃあ臓硯を殺すことは難しい。それに原作の臓硯は個人的には好感が持てていた。
魂が腐敗し、体を保つために蟲になりながらもその願いを叶えようとする姿は醜くもあり美しくもあった。
臓硯を殺すことは難しい。なら、臓硯には磨耗した願いを思い出してもらうとしようか。
「ーーーーーーーーーー時雨や、こんな夜更けに何のようかね?」
時刻は夜、月が夜空の天辺に辿り着いて青白い光を輝かせている時、間桐臓硯は時雨に呼ばれて館の外に出ていた。蟲に堕ちた臓硯は日の光を浴びれば体を保てずに崩れてしまう。それを見越しての呼び出しだったのだろう。時雨の異母兄弟である鶴夜と雁夜は眠りについている。
「いやね、爺さんに聞きたいことがあったからさ」
「相変わらず年不相応な話し方じゃのう。白夜と雁夜とは大違いじゃわい」
臓硯は息子である時雨のことを警戒していた。年に似合わぬ思考を持ち、魔術師としての素質は上質、これで身内とは言え警戒しない方がおかしい。五百年もの年月を生きた狡猾な妖怪は人の良さそうな笑みを浮かべながらも時雨の周囲を蟲で囲んでいた。
いざとなったら、時雨を喰らい自分の血肉とするために。
「おっと、そんなに警戒しないでほしいね。本当に聞きたいことがあるだけだから。爺さんに逆らおうなんて考えてないよ」
「…………そうか、ならは聞かせてみよ」
「なぁ、爺さん」
ーーーーーーーーーーあんた、どうして不老不死になりたいんだ?
臓硯の体を作っていた蟲が、時雨を囲っていた蟲が、時雨の言葉で動きを止めた。蟲が時雨の言葉を理解したからではなく、臓硯が時雨の言葉に反応したからである。
「どう…………して…………」
「不老不死になってはい終わりっていう訳じゃないだろ?歴史で不老不死を求めた奴らは大抵不老不死になってやりたいことがあるからその方法を探していたんだ。だから爺さんに聞きたい。あんたは、不老不死になって何がしたいんだ?」
時雨の言葉に、臓硯は混乱した。
自分は何故不老不死になりたかったのか?崩れ落ちる体を保つために?いいや、そうではない。何か、何か目的があったはずだ。体を蟲に変え、他人を喰らう吸血鬼の様な存在になりながら、何か成し遂げたい目的があったはずだ。
「どうした?答えてみろよ、間桐臓硯!!いいや、マキリ・ゾォルケン!!あんたは蟲になって!!他人喰って!!魂が腐る苦痛に耐えながら!!何がしたかったのか言ってみろよ!!」
時雨が臓硯に近づいているが、臓硯はそれに反応しない。時雨が近づいていることよりも、この質問の答えを探していたから。
【根源】への到達?いいや、そうではない。もっと、もっと何か大切なことがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「アインツベルンと遠坂と手を組んで!!聖杯作ってまでしたかったことは何だぁ!!」
「ーーーーーーーーーー」
時雨の言葉がキーとなり、臓硯はようやく思い出すことができた。
今から二百年前、臓硯とアインツベルンと遠坂は理想に燃える若僧だった。
『此の世全ての悪の根絶』という夢物語を、実現させようと思案する日々。
そうして此の世の方法ではそれをなす事は出来ないと理解し、
『ゾォルケン』
臓硯の脳裏に、一人の女性が浮かぶ。
冬の聖女と呼ばれた白い法衣を纏った女性。
第六法を実現させる手段である聖杯の贄となったアインツベルンの当主。
『後は頼んだぞ。必ずや、第六法を実現させてくれ』
そう言って、彼女は聖杯を司るシステムになった。
「ーーーーーーーーーーアァ」
どうして忘れていたのだろうか。
あの時の理想を、
あの時の誓いを、
あの時の聖女の言葉を、
魂が磨耗したから?いいや、そんなのは理由にはならない。そしてその事を追求するのも馬鹿らしい。
「カカッーーーーーーーーーーアァ、そうじゃったのう…………ユスティーツァよ…………」
すべてを思い出した臓硯はさっきまでの人の油断を誘うような物ではなく、心からの笑みを浮かべた。
「思い出したか?」
「あぁ、思い出せたぞ。儂らは『此の世全ての悪』の根絶を願っていた。その為に蟲に身を堕としたというのになんと無様なことよのぉ」
「良いじゃねぇか思い出せただけでもよ。五百年も生きてれば大切なことの一つや二つは忘れるだろうよ」
「カカッ、そうかそうか。しかし時雨よ、お主何者じゃ?年不相応な成熟に話した覚えの無いことまで知っておるとは」
臓硯はただ純粋に時雨のことを知りたがっていた。忘れていた頃の臓硯ならば警戒していたであろうが、今の思い出した臓硯には息子と会話するのにそんなものは必要なかった。
「転生、って言ったら分かるか?様は記憶を持ったまま人生何度もやり直してるんだよ、俺は」
「転生とな?それは死徒のアカシャの蛇のようなものかの?」
「あんな自分の意思での転生じゃねぇよ。まぁ蛇と言えば蛇何だけどよ…………」
「何があったのじゃ?」
「…………超魔王系勇者と宇宙規模変態蛇に無理矢理転生させられている」
「なにそれこわい」
「…………まぁ良いや。それで爺さん、あんたはまだ不老不死を目指すかい?」
「…………いいや、不老不死を目指すのは諦めよう。その代わり、『此の世全ての悪』を根絶を求める」
「クハッ!!そりゃあまた困難な道を選んだな。そんな爺さんにある言葉を教えてやろう。『諦めなければ、いつかきっと夢は叶う』だそうだ」
「夢は叶う、か…………よい言葉じゃの。誰の言葉じゃ?」
「超魔王系勇者」
「…………魔王なのか?それとも勇者なのか?」
「魔王の様な勇者で勇者の様な魔王だからな、あの大馬鹿は」
「なるほど…………まだ話したいことはあるのじゃがもう夜も遅い。続きは朝にしようではないか」
「はいよ、おやすみ爺さん」
「あぁ、おやすみ時雨」
時雨が館に戻るが臓硯は外に立ったままだった。そして夜空の天辺に辿り着いている月を眺める。
「すまなかった、ユスティーツァよ。お主との誓いを忘れておったわ。じゃが、時雨のお陰で思い出すことができたわい。カカッ!!儂のような外道から産まれたとは思えぬ程に聡明な子よ!!」
青白い月光に照らされながら、目的を思い出すことができた妖怪が心底楽しそうに笑っていた。
間桐=死亡フラグの塊なのでその原因である臓硯の改心を時雨は実行しました。とは言ってもさせたのは思い出させただけですけど。
それでも時雨とついでに雁夜と鶴夜の死亡フラグもへし折ってますね。
この作品では臓硯はチョイ外道爽やか系のお爺ちゃんとして活躍します!!
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