バトルシップイレブン ~艦娘とサッカー少年達の出会い~   作:ヒビキ7991

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Episode33/吹雪、最大の危機!

~鎮守府近海~

 

 

ある日、第八特殊艦隊は近海のパトロール中に深海棲艦と遭遇していた。敵は重巡リ級3隻に輸送ワ級3隻の計6隻。

 

 

天馬

「大和さんと吹雪さんはワ級、俺とユキッペとマーズはリ級を攻撃だ!」

 

「おうっ!」

 

 

大和・吹雪は輸送ワ級、天馬・雪菜・マーズは重巡リ級の撃破に向かった。

 

 

吹雪

「当たってください!」

 

大和

「第一、第二主砲、斉射!」

 

 

 

ズドドン!!

 

 

ズドーン!

 

 

吹雪はワ級集団に向け魚雷を発射し、大和は砲弾を放った。

 

 

ドカーン!

 

 

砲弾・魚雷は全て命中し、ワ級は爆発し破壊された。だが、爆発の拍子にワ級の破片が辺り一面に飛び散った。

 

 

グサッ!

 

 

破片の1つが吹雪の長10cm砲に突き刺さった。

 

 

吹雪

「あっ、もう…」

 

 

吹雪は破片を引き抜こうと左手で破片を掴み引き抜いた。そしてそのまま、破片を海へと捨てた。

 

 

天馬

「主砲、撃ち方始め!」

 

 

バシューン!

 

 

天馬はリ級集団にショックカノンを放ち攻撃。ショックカノンは3隻中1隻に命中、リ級は爆発し撃沈された。

 

 

雪菜

「バトルモード!」

 

 

雪菜は甲板を回転させ遮蔽式砲戦甲板を出現させた。

 

 

雪菜

「照準合わせ!撃ち方始め!」

 

マーズ

「主砲、よく狙って……ってー!」

 

 

バシューン!

 

 

雪菜とマーズが残りのリ級2隻に陽電子ビームを放った。陽電子ビームは両者共リ級に命中し、リ級2隻は撃沈された。

 

 

吹雪

「敵艦隊、排除完了。鎮守府に帰還します。」

 

 

一同は吹雪を先頭に動き始めた。すると・・・。

 

 

天馬

「吹雪さん、左手どうかしたんですか?」

 

 

吹雪の左手の手のひらには切り傷があった。

 

 

吹雪

「あ、さっきワ級の破片が艤装に刺さっちゃって、引き抜こうとしたときに破片で手を切っちゃった・・・。」

 

大和

「帰ったら、手当てしなければいけませんね。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~鎮守府 医務室~

 

 

鎮守府に着くと、吹雪は医務室で陸奥に左手の治療をしてもらった。治療した左手には包帯が巻かれている。

 

 

陸奥

「はい、これでOKよ。」

 

吹雪

「ありがとうございます。」

 

長門

「お前達の今日の任務はこれで終了だ。皆ゆっくり休んでくれ。」

 

「はい!」

 

 

この傷が、吹雪にとって悲劇の始まりであったとは、この時誰も思わなかっただろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

~第八特殊艦隊寝室~

 

 

次の日の朝、天馬は一番に起きた。

 

 

天馬

「ふあぁ、よく寝た。」

 

吹雪

「くっ・・・ううっ・・・。」

 

 

その時、天馬は吹雪のうめき声を聞いた。吹雪は壁の方を向き、左手を押さえていた。

 

 

天馬

「吹雪さん、大丈夫ですか!?」

 

吹雪

「天馬君・・・左手が・・・うううっ・・・。」

 

天馬

「左手?」

 

 

天馬は吹雪の左手の包帯を外した。

すると・・・。

 

 

天馬

「なんだこれ・・・!?」

 

 

吹雪の左手の傷口周辺の皮膚が白く変色していた。

 

 

天馬

「大和さん!ユキッペ!マーズ!」

 

 

天馬は直ぐ、大和と雪菜とマーズを呼び起こした。

 

 

大和

「・・・どうなさいました?」

 

天馬

「これ見てください!」

 

 

天馬は大和と雪菜とマーズに吹雪の左手の傷を見せた。

 

 

大和

「何ですかこれ・・・。」

 

マーズ

「白く、変色してる!?」

 

雪菜

「大変!今すぐ医務室に運ばなきゃ!」

 

天馬

「わかった!吹雪さん、失礼します!」

 

 

天馬は吹雪を抱き上げ、大急ぎで医務室へと向かった。大和と雪菜とマーズも後に続いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~医務室~

 

 

医務室に到着すると、一同は陸奥に診察を依頼した。騒ぎに気付き、剣城・神童・睦月・夕立・赤城・金剛・長門、そして提督が集まっている。

 

 

陸奥

「不味いわね・・・。傷周辺が深海棲艦の細胞に侵されてる・・・。」

 

天馬

「そんな・・・。じゃあ、吹雪さんは・・・。」

 

陸奥

「このまま放っておけば、吹雪ちゃんは次期に深海棲艦に生まれ変わる・・・。」

 

睦月

「そんな・・・!」

 

 

その場にいた誰もが耳を疑った。

 

 

雪菜

「きっとワ級の破片を触った時に、傷口から侵入したんじゃないかしら。」

 

天馬

「・・・治せないんですか?吹雪さんの怪我を治すことは出来ないんですか!?どんな貴重な薬でも手に入れます!どんなに難しくて危険度の高い任務でも受けます!だから、吹雪さんの怪我を治してください!!」

 

 

天馬は陸奥の前で床に膝を着き土下座をした。

 

 

長門

「・・・吹雪を助けたいと思う気持ちは皆同じだ。皆で協力して、治療法を探そう!」

 

「はいっ!」

 

天馬

「長門さん・・・ありがとうございます!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~101病室~

 

 

その後吹雪は病室へと移された。

 

 

吹雪

「天馬君・・・。」

 

天馬

「心配しないでください。吹雪さんの身体、必ず治しますから!」

 

吹雪

「・・・うん!」

 

 

その日から、鎮守府の艦娘達は吹雪の身体を治すため一生懸命になった。戦闘に出撃した艦娘は撃破した深海棲艦の破片を集め、夕張が治療薬を作るため実験を重ね、吹雪が長期出撃不能になるため駆逐艦達は穴を埋めるため毎日演習を行い、遠征に向かった艦隊は遠征先にて情報を集め、大淀は仕事の合間を縫っては書類保管庫で治療に役立ちそうな資料を探した。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~指令室~

 

 

そして数日が経ったある日、金剛が指令室に天馬を呼び興味深い資料を見せた。

 

 

長門

「黄金の薔薇?」

 

金剛

「中世の英国で確認された薔薇デース!太陽の光と月の光が交わる場所に咲くと言われる伝説の薔薇で、その薔薇の花弁を煎じた汁を飲めば、どんな病気や怪我も一瞬で治ると記されてマース!」

 

天馬

「じゃあ、その薔薇を手に入れる事が出来れば吹雪さんは助かるんですね!」

 

金剛

「イエース!ですが、黄金の薔薇は何処に咲くか分かりません。世界中を探し回っても見付からない可能性が極めて高いデース。」

 

天馬

「・・・長門秘書艦、俺に長期遠征の許可をください!黄金の薔薇を探しに行かせてください!」

 

長門

「言われなくてもそのつもりだ。松風天馬、お前に無期限長期遠征任務を言い渡す!世界中を巡り、黄金の薔薇を探すのだ!」

 

天馬

「はいっ!」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~地下ドック~

 

 

その後、天馬は遠征の準備を済ませ地下ドックで待機していた。ドックには天馬達の他に、大勢の艦娘が来ていた。

 

 

「大丈夫?無期限の長期遠征なんて私達でも経験無いからどうなるか分からないけど・・・。」

 

「でも、燃料とかはどうするのです?もし燃料切れになって海上を漂流する羽目になったら・・・。」

 

夕張

「大丈夫よ。波動エンジンは真空からでも無限にエネルギーを取り込んで動く事が出来る無限機関なの。だからエンジンが動く限り、半永久的に航行が可能なの。」

 

赤城

「薔薇を発見出来ても、満身は禁物ですよ?何事も無事に帰るまでが任務ですからね。」

 

天馬

「皆さん、ありがとうございます。それじゃあ・・・。」

 

「待って!」

 

 

突然、天馬は誰かに呼び止められた。声のした方を見ると、大和・剣城・神童・雪菜・マーズ・睦月・夕立が、車椅子に乗った吹雪と共にこちらに向かっていた。吹雪の侵食は進んでおり、左腕全体から首もとまでが白くなっていた。

 

 

天馬

「吹雪さん!?ダメじゃないですか、病室で安静にしてなきゃ!」

 

睦月

「私達も同じ事言ったんだけど、吹雪ちゃんがどうしても天馬君のお見送りに行くって聞かなくて・・・。」

 

吹雪

「だって、もしかしたら天馬君に2度と会えないんじゃないかって思って、そしたら寝てる場合じゃないって思ったから・・・。」

 

天馬

「安心してください。俺は絶対に、黄金の薔薇を手に入れて帰って来ます。」

 

吹雪

「・・・その言葉、信じるね。」

 

 

すると、吹雪が天馬にあるモノを渡した。黄色い布と青い紐でできた小さな巾着だ。

 

 

吹雪

「お守り。私の手作りだよ。」

 

天馬

「吹雪さん・・・ありがとうございます。」

 

 

天馬はお守りを受け取るとカタパルトに乗り、ゆっくりと下りていった。そして艤装を装備し、黄金の薔薇を探す旅へと出発した。

 

 

天馬

「松風天馬、宇宙戦艦ヤマト改、行きます!」

 

 

一同は天馬の船出を見送った。黄金の薔薇を見つけ、無事に帰ってくると信じて。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

~101病室~

 

 

それから1ヶ月後、吹雪と雪菜は病室の窓から海を眺めていた。吹雪の体は殆ど白く染まり、元の色の肌は残すところ顔の右半分だけとなっていた。

 

 

吹雪

「もう1ヶ月だね・・・天馬君、今日は何処を走ってるのかな・・・早く帰ってくるといいな・・・。」

 

雪菜

「天馬はきっと帰ってくるわ。信じて待ちましょう・・・。」

 

 

吹雪は天馬の帰りをずっと待っていた。だが突然・・・。

 

 

バタッ

 

 

吹雪は力尽きた様に倒れた。

 

 

雪菜

「吹雪さん!?ねえ、吹雪さん、しっかり!」

 

 

雪菜は吹雪に声をかける。だが吹雪は気を失っていた。

 

 

雪菜

「吹雪さん!吹雪さんってば!」

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~エベレスト山頂~

 

 

その頃、天馬はエベレストの山頂に来ていた。この1ヶ月の間に世界中を飛び回り黄金の薔薇を探し求めたが、結果は散々であった。時刻は夜中。空には天ノ川が広がっていた。

 

 

天馬

「どこにも無いや、黄金の薔薇・・・。必ず見つけるって約束したのに、これじゃあ吹雪さんに会わせる顔が無いよぉ・・・。」

 

 

天馬は波動防壁を身体中に展開し寒さを凌いだ。そして地面に腰を下ろし、星空を見上げた。

 

 

天馬

「吹雪さん、大丈夫かな・・・。」

 

 

『私は、特型駆逐艦の1番艦吹雪です!

 

 

 

 

 

 お手本の為に、赤城先輩を見に行くというのはどうだろうか!?

 

 

 

 

 

 エターナルブリザード!!

 

 

 

 

 

 天馬君にも感謝してるよ!天馬君が私にサッカーを教えてくれたから、ここまで強くなれたんだよ!

 

 

 

 

 

 私、艦隊に戻ります!天馬君のお陰で、やる気出て来ました!

 

 

 

 

 

 天馬君なら出来るよ!だって、天馬君はキャプテンだったんでしょ?

 

 

 

 

 

 じゃあ天馬君、お互い頑張ろう!

 

 

 

 

 

 なんだかね、男の人にこう寄り添うと、気分がホッとするらしいんだ。

 

 

 

 

 

 そうなんだ。なんだか似てるね、私達。

 

 

 

 

 

 やっぱり、友達がいるのって嬉しいね!

 

 

 

 

 

 そっか、そうだよね!そうと分かれば、もっとトレーニングを積まないと!

 

 

 

 

 

 ダメだなぁ、あんな夢を見るなんて・・・。

 

 

 

 

 

 次の作戦までに改にならないといけないもん!

 

 

 

 

 

 分かってるけど、 ふあぁ~・・・。

 

 

 

 

 

 私、絶対いなくなったりしないから。約束するから。

 

 

 

 

 

 まだ諦めない、私、赤城さんの護衛艦になりたいの。誰かの役に立ちたいの…

 

 

 

 

 はい!やっと先輩と一緒の艦隊で戦えます!これも、みんな先輩と天馬君のおかげです!

 

 

 

 

 

 この鎮守府にきて皆すごいなって。皆素敵でかっこよくって、私もみんなの仲間に。この鎮守府の本当の仲間になりたいって、そう思ったんです。私が頑張れたのは、皆のおかげなんです!だから、ありがとうございます!

 

 

 

 

 

 天馬君!受け取って!!

 

 

 

 

 

 私も、天馬君と一緒に戦う!

 

 

 

 

 

 私、天馬君のこと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大好きだよ!』

 

 

ふと、天馬の脳裏を吹雪の言葉が過った。

 

 

天馬

「大好きか・・・・・・よし、明日も探すぞー!」

 

 

天馬はそのまま眠りについた。そして次の日の夜明け前、天馬は目を覚ました。

 

 

天馬

「う~ん、良く寝た。」

 

 

すると、天馬の右側から太陽が上り始めた。

 

 

天馬

「エベレストの山頂で日の出をみるなんて、夢みたいだ。」

 

 

天馬はふと反対側を見た。反対側にはまだ満月が姿を見せている。

 

 

天馬

「まだ月が見えるや。・・・ん?そういえば、黄金の薔薇は太陽の光と月の光が交わる場所に咲くって金剛さんは言ってた・・・もしかしたら!」

 

 

天馬の予想は当たっていた。徐々に太陽と月の光が天馬の正面に集まりだし、そこから小さな芽が顔を見せた。芽は徐々に大きくなり、やがて蕾を作り出す。そして、黄金色に輝く一輪の薔薇が咲いた。

 

 

天馬

「見つけた・・・ついに見つけた!黄金の薔薇だ!!」

 

 

天馬は嬉しさのあまり泣いていた。天馬は薔薇を根ごと掘り出し、そしてカプセルに納めた。

 

 

天馬

「これで、吹雪さんは助かる!」

 

 

天馬は太陽に向かって大声で叫んだ。

 

 

天馬

「ありがとー!!」

 

 

『ありがとー!!』

 

 

天馬の叫び声は辺りに木霊した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

~南沙諸島沖~

 

 

天馬はその後すぐ下山し、インド洋へと出た。そしてマレー半島を迂回し南シナ海の南沙諸島沖を航行し日本へ向かっていた。

 

 

天馬

「待っててくださいね、吹雪さん!」

 

 

だが・・・。

 

 

「ギャアアアアア!」

 

 

後方から敵艦隊が追いかけてきていた。

 

 

天馬

「余計な時間は削りたくなかったけど、仕方ない!」

 

天馬は180度転身し、主砲を敵艦隊に向けた。

 

 

天馬

「主砲、三式弾装填!」

 

 

だが・・・。

 

 

ガシッ

 

 

天馬

「っ!?」

 

 

何かが天馬の足を掴んだ。足元を見ると、ガスマスクのようなスキューバダイビング用のレギュレーターを装備した深海棲艦、潜水カ級2隻が天馬の足にしがみついていた。

 

 

天馬

「まさか、潜水艦!?」

 

 

ザバーン!

 

 

潜水カ級は天馬を海中へと引きずり込んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~洞窟 牢~

 

 

天馬

「う、う~ん・・・。」

 

 

気が付くと、天馬は牢の中で倒れていた。

 

 

天馬

「ここは・・・俺は確か、海中に引きずり込まれて・・・。」

 

 

天馬はその場を動こうとした。

 

 

ジャラッ

 

 

だが、いつの間にか手首と足首には鎖が繋がれており、鎖は岩壁に繋がれていた。艤装も手袋とアンカー以外は外され、鉄格子の向こうで鎖に吊るされている。

 

 

天馬

「なんだこれっ!?」

 

 

ガシャンッ!

 

 

「目ガ覚メタミタイネ。」

 

 

突然、扉の開く音と共に誰かの声がした。正面には那珂に顔立ちと髪型が似ている、黒いセーラー服を身に纏った青い瞳の深海棲艦がいた。

 

 

天馬

「・・・那珂さん?」

 

???

「はーい!艦隊ノあいどる、那珂チャンダヨー。ヨッロシクゥ~!・・・ッテ、違ウワヨ!」

 

天馬

(ノリ突っ込み・・・。)

 

イシス

「私ハ《軽巡棲鬼》ノいしす。ソシテココハ、私ノ秘密基地。」

 

天馬

「何で、俺をここに?」

 

イシス

「アナタガ面白イものヲ持ッテイタカラネ、欲シクナッタノヨ。」

 

 

イシスの手には、黄金の薔薇を入れたカプセルがあった。

 

 

天馬

「黄金の薔薇!それは大切なモノなんだ。返してくれないかい?」

 

イシス

「悪イケド、御断リヨ。私ハ自分ガ気ニ入ッタものハ絶対ニ返サナイ主義ナノ。タトエぼすノものデモネ。」

 

天馬

「頼む、返してくれ!それを持って、急いで鎮守府に帰らないと、大切な人を助けられないんだ・・・。」

 

イシス

「ソウネ・・・コノ薔薇ガ枯レタラ返シテアゲルワ。フッフッフッ・・・。」

 

 

ガシャンッ!

 

 

イシスは不敵な笑みでその場を去り、牢の扉を閉めた。天馬は絶望し、岩壁に寄りかかった。

 

 

天馬

「そんな・・・。俺はいったい、どうすれば・・・。」

 

 

天馬はポケットから吹雪がくれたお守りを取り出した。

 

 

天馬

「すみません吹雪さん・・・。吹雪さんとの約束、守れそうにありません!」

 

 

すると・・・。

 

 

天馬

「・・・何か、入ってる。」

 

 

お守りの中に何かが入っていた。中身を取り出すと、綿と一緒に手紙が入っていた。

 

 

『天馬君へ。

 

 この天馬を読んでいるってことは、ひょっとして黄金の薔薇は見つからなかったのかな?』

 

 

天馬

「・・・見つかりました。見つかりましたけど、でも・・・。」

 

 

『この手紙が、私にとって最後のメッセージになるかも知れません。でも私、最後まで天馬君を信じて待っています。元気になって、また一緒にサッカーやりたいです。』

 

 

天馬

「俺も同じですよ、吹雪さん・・・。俺も、また一緒にサッカーがしたい・・・!」

 

 

『本当はいつか自分の口で言いたかったんだけど、言えるかどうか分からないので、この手紙に記します。

 

 

 

 

 

 

 

 私、天馬君のことが大好きです!仲間として、友達として、そして一人の男の子として・・・。』

 

 

天馬

「吹雪さん・・・。」

 

 

『天馬君、絶対に諦めちゃダメだよ。どんなに不利な状況でも、負けが決まった訳じゃない。勝利を信じて、最後まで前に進み続ける。それでこそ、私の・・・私の大好きな、松風天馬君だよ!

 

 

 

 

 特型駆逐艦吹雪型1番艦 吹雪より。』

 

 

天馬

「・・・そうだ、そうだよ。俺が諦めて、どうするんだ!」

 

 

この時、天馬は自分の中から物凄い力が湧いてくる感じがした。

 

 

天馬

「俺は絶対に諦めない!吹雪さんが、俺を信じて待ってくれているんだ!こんなところで、諦めるもんかっ!!」

 

 

天馬はありったけの力を右腕に込め、鎖を引っ張る。

 

 

天馬

「うおおおおおお!」

 

 

ギギギギギギ・・・バキンッ!

 

 

そして右腕の鎖を引きちぎった。

 

 

ギギギギギギ・・・バキンッ!

 

 

さらに左腕。

 

 

ガシャン! ガシャン!

 

 

さらにアンカーソードで両足の鎖を切断。

 

 

ジャキン!

 

 

さらに鉄格子を切断し破壊した。そして艤装を装備し、天馬は牢を離れた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

~大広間~

 

 

一方、基地の大広間ではイシスが椅子に腰掛けて、カプセル越しに黄金の薔薇を眺めていた。

 

 

イシス

「美シイワァ。コノ薔薇ハ、私ニコソ相応シイノヨ!」

 

 

ギギギギギギ・・・!

 

 

突然、大扉が開き天馬が現れた。イシスは驚き、目を見開いた。

 

 

イシス

「オマエハ・・・!?」

 

天馬

「イシス!その薔薇は返してもらうぞ!」

 

イシス

「・・・嫌ト言ッタラ?」

 

天馬

「力尽くでも取り返す!」

 

 

天馬は全ての砲身をイシスに向けた。

 

 

イシス

「無駄ヨ。アナタノ持ッテイタ三式弾ヤみさいるハ全テ外シテアル。砲撃ナンテ出来ル訳ガナイ。」

 

天馬

「確かに三式弾を外されたのは痛いけど、俺は三式弾が無くても砲撃出来る!全砲門、撃ち方始め!」

 

 

バシューン!

 

 

天馬はショックカノンをイシスに向け発砲。

 

 

イシス

「ナニッ!?」

 

 

イシスは速やかに椅子から離れ、ショックカノンは椅子に命中し爆発。カプセルは爆発の拍子に宙を舞い、天馬の手元へと戻った。

 

 

イシス

「マサカ、コンナ力ヲ持ッテイタナンテ・・・。」

 

天馬

「俺はお前と戦うつもりは無い。悪いけど、これで失礼させてもらう。」

 

 

天馬はそう言うと、カプセルを持って大広間を後にした。

 

 

イシス

「・・・。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~秘密基地 出入り口~

 

 

天馬は秘密基地の出入り口に到達した。だが出入り口は海中にあり、外は潜水カ級がウヨウヨいる。

 

 

天馬

「ここを突破しなくちゃ、鎮守府へは帰れない!こうなったら、沖田戦法で行くっきゃない!」

 

 

天馬は覚悟を決め海中に飛び込んだ。そして出入り口を通り、カ級の集団へ飛び込んだ。

 

 

天馬

「撃ち方始め!」

 

 

バシュバシュバシューン!

 

 

天馬はショックカノンを全方位に乱射。カ級を次々と沈めていく。

 

 

天馬

「ここで始めるか。」

 

 

天馬は途中で180度転身し、艦首型艤装を正面で合体させ、波動砲の発射体制に入った。

 

 

天馬

「波動砲、発射用意!機関圧力上げ!非常弁、全閉鎖!波動砲発射弁、開放!強制注入機、作動!安全装置、解除!」

 

 

その頃、イシスが基地から海中へと姿を現した。

 

 

イシス

「イタ。何ヲスルツモリ?」

 

 

天馬

「薬室内、エネルギー充填120%!」

 

 

射口辺りにエネルギーが集まりだした。

 

 

天馬

「波動砲、発射!」

 

 

バッシュウウウウウウゥゥゥ!!

 

 

波動砲は基地の出入り口に向けて放たれた。

 

 

イシス

「全艦撤退!基地ヲ捨テテ、今スグ逃ゲルノヨ!」

 

 

出入り口付近にいたイシスは直ちに撤退命令を出し、いち速くその場から逃げた。そしてその直後、波動砲が基地に到達した。

 

 

天馬

「重力アンカー解除!」

 

 

ガシャン!

 

 

天馬は推進機内に仕組まれた重力アンカーを解除。そして波動砲に押され、海面へと突き進む。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~南シナ海 南沙諸島沖~

 

 

ザバーン!

 

 

ドカーン!

 

 

天馬は海中から上空へと飛ばされ、その直後基地があった場所から巨大な水飛沫があがった。

 

 

バシャーン!

 

 

天馬

「よし、急いで戻らなきゃ!」

 

 

天馬は着水すると直ぐさまエンジンを最大出力で回し、猛スピードでその場を離脱した。イシスはその様子を近くの岩影からこっそり見ていた。

 

 

イシス

「天馬・・・。」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

~鎮守府 港~

 

 

夕方、天馬はようやく鎮守府に到着した。港では剣城・神童・雪菜・睦月・夕立・大和・マーズ・金剛・赤城・夕張が待っていてくれた。

 

 

天馬

「皆さん、ただいま戻りました!」

 

神童

「黄金の薔薇は?」

 

天馬

「手に入りました!夕張さん、これで薬を作ってください!」

 

夕張

「うん、わかったわ!」

 

 

夕張は薔薇の入ったカプセルを受け取ると、大急ぎで工廠に向かった。剣城と金剛も後に続いた。

 

 

天馬

「ところで、吹雪さんの容態は?」

 

 

「・・・。」

 

 

突然、その場にいた全員が口を閉じた。

 

 

天馬

「皆さん?」

 

赤城

「・・・天馬君、1つお約束してもらってもよろしいですか?たとえ、どんなに残酷な運命であっても、それを受け入れると・・・。」

 

天馬

「・・・まさか、吹雪さんに何かあったんですか!?」

 

睦月

「・・・吹雪ちゃん、昨日の夕方から意識が無いの・・・。」

 

夕立

「もう身体の殆どが深海棲艦化してて、ひょっとしたら、もう助からないかもって・・・。」

 

天馬

「そんな・・・くっ!」

 

 

ガシャンッ!

 

 

天馬は艤装を外し、吹雪のいる病室へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~101病室~

 

 

病室へと到着すると、吹雪はベッドで心電計と繋がれ、酸素マスクを装着し眠っていた。肌は殆ど白く染まり、右目周辺を残すまでとなった。

 

 

天馬

「吹雪・・・さん・・・。」

 

 

吹雪のベッドの隣では、長門と陸奥が守りをしていた。

 

 

長門

「天馬、戻ったのか。黄金の薔薇は?」

 

天馬

「何とか手に入れました。今、夕張さん達が薬を作ってくれています。」

 

陸奥

「・・・吹雪ちゃんのこと、聞いたの?」

 

天馬

「はい。」

 

長門

「見ての通り、昨日から意識不明だ。もう、助からないかも知れない・・・。」

 

天馬

「それでも俺は・・・。」

 

金剛

「ヘイマッツー!薬が完成したデース!」

 

 

金剛と剣城が完成した薬をフラスコに入れて持って来た。薬はキラキラと、黄金色に輝いている。神童・雪菜・睦月・夕立・大和・マーズ・赤城も合流した。

 

 

天馬

「それでも俺は、僅かな可能性に掛けます!」

 

 

天馬は金剛から薬を受け取り、病室内へ入った。薬を自身の口に含み、フラスコを投げ捨て、吹雪の酸素マスクを慎重に外し、そして・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ

 

 

 

「んなっ!?」

 

「うえええっ!?」

 

 

天馬は吹雪と唇を重ね、吹雪の口に薬を移した。その光景を目撃した睦月・夕立・大和・雪菜・マーズ・金剛・長門は顔を真っ赤にして驚き、神童・剣城・赤城は口をぽかんと開けて呆然とし、陸奥は「まあ…」と口元を押さえた。

 

 

神童

「く、口移し・・・。」

 

夕立

「大胆過ぎッポイ・・・。」

 

睦月

「如月ちゃんともやったこと無いのに・・・。」

 

 

口移しが終わると、天馬は唇を離した。

 

 

ゴクッ

 

 

「っ!?」

 

 

一同は、薬が喉を通る音を聞いた。すると、みるみるうちに吹雪の肌は元の色に戻り、モノの数秒で、吹雪の身体は元に戻った。

 

 

吹雪

「………ん。」

 

 

吹雪の身体がピクッと反応したかと思った直後、彼女はゆっくりとその瞼を開いた。そして彼女はゆっくりと起き上がり、辺りを見回し、天馬と目を合わせた。

 

 

吹雪

「天馬・・・君?」

 

天馬

「吹雪さんっ!!」

 

 

天馬はたまらず、起き上がったばかりの吹雪を抱きしめる。

 

 

吹雪

「うええええっ!!ちょっ、天馬君!?」

 

いきなり抱きしめられた吹雪は一気に目が覚めて顔が真っ赤になる。

 

天馬

「吹雪さん、吹雪さん!本当に・・・本当に良かった…!」

 

天馬は目に涙を浮かべながら、吹雪をぎゅっと抱きしめていた。

 

 

夕立

「よかった、吹雪ちゃんが無事で・・・グスッ・・・。」

 

睦月

「吹雪ちゃん・・・本当に、本当によかった・・・!うう・・・!」

 

 

睦月と夕立も、涙で顔がくしゃくしゃになっていた。

 

 

吹雪

「睦月ちゃん、夕立ちゃん・・・。」

 

神童

「吹雪さん、どこか身体に異常は無いですか?」

 

吹雪

「あ、ううん。何とも。」

 

神童

「そうか・・・。」

 

 

神童は安心しきったように微笑みかける。

 

 

吹雪

「天馬君、ありがとう。それと、ごめんなさい・・・。」

 

天馬

「謝るのは俺の方です!薔薇を見つけるのに、1ヶ月以上も掛かってしまった・・・。そのせいで、吹雪さんの病状を悪化させてしまいました・・・。」

 

吹雪

「天馬君は悪くないよ。私のために、一人で頑張ってくれたんだもの。・・・ありがとう、天馬君。」

 

天馬

「吹雪さん。」

 

 

 

一同は抱き合う天馬と吹雪を優しく見守った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

~グラウンド~

 

 

それから吹雪は順調に回復し、数日後無事に退院することが出来た。

 

 

吹雪

「んーっ!外の空気を吸うの久しぶりだなぁ。」

 

天馬

「吹雪さん、やりますか!」

 

吹雪

「うん!」

 

 

二人はグラウンドで仲良くパス練習を始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~甘味処 間宮~

 

 

その後、間宮の店では・・・。

 

 

天馬・吹雪

「いただきま~す!」

 

 

二人仲良く、特盛りあんみつを食べたという目撃情報が後を断たないとか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~波止場 灯台前~

 

 

その日の夜、天馬と吹雪は波止場で海を眺めていた。

 

 

天馬

「・・・。」

 

吹雪

「・・・天馬君。」

 

天馬

「はい?」

 

 

天馬は吹雪に呼ばれ振り向いた。すると・・・。

 

 

チュッ

 

 

天馬

「っ!?」

 

 

吹雪は天馬の両肩に手を添え、彼と唇を重ねた。吹雪の口づけは数秒間続き、唇が離れると天馬の頬が赤くなっていた。

 

 

天馬

「吹雪さん、何を・・・。」

 

吹雪

「これで、おあいこだね。」

 

天馬

「えっ?」

 

吹雪

「睦月ちゃんから聞いたよ。だから御返し。」

 

天馬

「いや、その・・・あああれはあくまで現状で最適な方法だと思って、その・・・。」

 

吹雪

「フフッ。」

 

 

吹雪の発言に、天馬は動揺した。だが、直ぐに落ち着きを取り戻した。

 

 

天馬

「・・・手紙の返事、してもいいですか?」

 

吹雪

「読んでくれたんだ。」

 

天馬

「はい。あの手紙に気付かなかったら、きっと俺は吹雪さんを助けられませんでした。諦めかけていたときに、吹雪さんのメッセージが、俺を奮い立たせてくれたんです。そして、確信が持てたんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺も、吹雪さんのことが大好きです!」

 

吹雪

「天馬君・・・。

 

 

 

 

ありがとう・・・!」

 

 

 

二人は共に身を寄せ、そして優しく抱き合った。そして天馬は確信した。吹雪と一緒なら、きっとどんな困難でも乗り越えられると・・・。

 

 

 

 

 

今、二人の秘密を知っているのは、夜空に輝く星たちだけであることを願う。

 

 


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