バトルシップイレブン ~艦娘とサッカー少年達の出会い~ 作:ヒビキ7991
~居住区 広場~
加賀は天馬達を建物の外へ連れ出し、天馬達にある事を話した。
睦月
「どういう事ですか!?」
加賀
「言った通りよ。如月さんをここには置いておけない。」
天馬
「どうしてですか!?如月さんは俺達の仲間!吹雪さんや睦月さん達と同じ艦娘じゃないですか!」
加賀
「分かってる。でも、彼女は以前の作戦で沈んだ。もう以前の如月さんじゃない。」
天馬
「そんな事無い!だって、帰って来たじゃないですか!剣城が命懸けで飛行場姫の中に飛び込んで、飛行場姫に取り込まれていた如月さんを助け出し生還した!加賀さんや赤城さんだって、あの時俺達と一緒に見たじゃないですか!」
加賀
「確かにそう。でも、彼女が沈んだという事実は変わらない。彼女は何れ、深海棲艦へと姿を変える。」
吹雪
「深海・・・!?」
加賀の放った言葉に、天馬達は耳を疑った。
神童
「どういう事ですか?」
赤城
「加賀さんの言った通りよ。このまま放っておけば・・・いえ、恐らくどんな手を施したとしても、彼女は何れ深海棲艦へと姿を変える。」
剣城
「そんな・・・!」
マーズ
「何よそれ・・・じゃあ、あの子は何なの!?あの子は、如月さんの偽者だって言うの!?」
赤城
「違うわ。彼女は正真正銘、私達の仲間。睦月型駆逐艦の二番艦、如月。海の中へと沈み、戻りたい、帰りたいという想いを持ったまま消えていった。」
加賀
「艦娘の中には、その想いの強さ・悲しさ・口惜しさ等から、消えずに深海棲艦へと姿を変えてしまう者も居る。雪菜さんが天馬君に再び会いたいと強く願った果てに空母ヲ級へと転生した様に。マーズが自分を捨てた提督と扶桑さんに対する恨みと憎しみの感情によって、山城から戦艦棲姫へと変貌した様に。」
赤城
「そして、朧気ながら深海棲艦として艦娘と戦っていた時の記憶を持つ艦娘も、中には居るわ。そうね、加賀さん?」
天馬
「ええっ!?」
赤城の発言に、天馬達は驚いた。
雪菜
「まさか、加賀さんも深海棲艦だった頃の記憶を?」
加賀
「想い半ばの悲しみ、口惜しさ、未練・・・そして、只々苦しい、やりきれないという負の記憶・・・帰りたい、叶えたい、やれる筈、こんな筈じゃない・・・只々そんな想いを、完全な生ある者へとぶつける、悲しく辛い記憶。轟沈した艦娘の一部は深海棲艦へと姿を変え、私達のところへ帰ろうとする。」
剣城
「そんな・・・それじゃ全く意味が無いじゃないですか!!」
赤城
「いえ、意味はあるわ。」
赤城はそう言うと、加賀に目を向ける。
赤城
「加賀さんがここに居る。つまり深海棲艦としての記憶を持った艦娘がここに居ると言うことは、深海棲艦から艦娘として再び戻って来れたということ。」
天馬
「でも、いったいどうやって?」
加賀
「分からない。でももし、一部の艦娘が沈んで深海棲艦になったのだとしたら・・・ 。」
神童
「なるほど、その逆もまた然り。深海棲艦を沈めれば、艦娘として戻ってくる可能性があるかもしれないってことですね?」
加賀の話に神童と剣城は納得したが、残りのメンバーは納得出来なかった。
天馬
「でもそれって、永遠に終わらないって事じゃないんですか?」
睦月
「そうです!深海棲艦に沈められた艦娘は深海棲艦になって、艦娘に沈められた深海棲艦は艦娘に戻って、それじゃ永遠に続くだけじゃないですか!」
加賀
「違うわ。もし私達が誰一人沈まずに、深海棲艦を沈める事が出来たら・・・。」
吹雪
「そうか!それが出来れば!」
神童
「深海棲艦との戦いに終止符を打てるって事か!」
加賀の話を聞いて、吹雪と神童は終戦へと活路を見いだせたと思った。だが、まだ解決していない問題がある。
睦月
「じゃあ、如月ちゃんは・・・如月ちゃんはどうなるんですか!?」
加賀
「・・・如月さんを救う唯一の方法、それは深海棲艦となった彼女を沈める。それしか無いわ。」
加賀の言葉に、天馬達は驚愕した。
睦月
「そんな・・・。」
天馬
「で、でも!深海棲艦になったからって、敵になるって訳じゃないじゃないですか!ユキッペやマーズみたいに、深海棲艦のままでも一緒に・・・!」
加賀
「確かに、彼女が深海棲艦になっても、二人の様にちゃんと自我を持ち話し合う事が出来れば、共存は可能かも知れない。でも、深海棲艦になった途端私達を襲うかもしれないという危険性もある。それに、言葉が通じても渡り合えない場合もある。その様な危険性を考えれば、沈めることが一番の近道なのよ。」
天馬
「そんな・・・。」
睦月
「そんな・・・そんなああぁぁ!!」
天馬達は言葉を失い、睦月は泣き崩れた。そして、その一部始終を建物の窓から一人の少女が見ていた事には、誰も気づかなかった。
如月
「・・・。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~指令所~
翌日、指令所では大淀が基地に入った通信を解析していた。
大淀
「ソロモン海域北部外縁を照海中の、第二航空戦隊旗艦飛龍より緊急入電!」
長門
「読んでくれ。」
大淀
「はい!第二航空戦隊飛龍。宛、南方海域艦隊指令府着長門。我、南太平洋ソロモン海域北部外縁部において、複数の有力なる敵機動部隊を発見。」
長門
「何だと!?」
長門は驚き、立ち上がる。
大淀
「敵機動部隊軍、各輪形陣中心は空母棲姫級のもよう。随伴・護衛艦に高速戦隊タ級、防空巡ツ級を含む。」
陸奥
「とんでもない数じゃない!」
長門
「大規模な空母機動部隊だ・・・。」
と、再び通信が入った。
大淀
「二航戦飛龍より速報!我、これより航空隊の指揮を取る。稼働攻撃隊、発艦開始する。」
長門
「飛龍らしいな。だが流石に戦力比が違い過ぎる。一撃与えたら撤退する用に指示を。第五航空戦隊翔鶴及び瑞鶴を向かわせ撤退を援護する。合流後は直ちに全速力で退避。」
大淀
「了解!第五航空戦隊翔鶴及び瑞鶴に緊急出場命令。」
ツツツ・・・ツツツ・・・
大淀
「アイアンボトム・サウンド調査隊の金剛隊から入電!調査海域に到達したとの事です。」
長門
「っ!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~アイアンボトム・サウンド 調査海域~
その頃、金剛率いるアイアンボトム・サウンド調査隊は、赤く変色した海を航行し調査をしていた。
金剛
「長門が危惧した通り、ちょっと不味い事になってマース 。」
ピキン
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~指令所~
夜、ショートランドに帰投した金剛は調査の結果を長門達に報告した。
金剛
「このアイアンボトム・サウンドを起点とした謎のボイスは、次第に広がり、それに効するかの様に海の変色がどんどん広がっているデス。」
長門
「変色・・・他の艦隊からも同じ報告があったな。」
カチャ
比叡が紅茶を入れ、長門の前に置いた。
比叡
「どうぞ。」
長門
「ありがとう。」
金剛
「この変色した海域では、生態系は壊滅。しかも海域内を航行すれば、艤装が損傷するという謎の現象が起きているデス。」
長門
「艤装が損傷?」
比叡
「はい。お姉様も私も、僅かながら艤装に損傷を受けました。」
大淀
「損傷は、同海域を長く航行していた艦ほど大きく、変色海域が何らかの影響を与えている事は間違いありません。」
長門
「つまり長時間航行すれば、最悪艤装が使えなくなると言うことか。ウム・・・。」
ガチャ
指令所入り口の扉が開き、大和・赤城・加賀の3人がやって来た。
大和
「大和、遅くなりました!」
赤城
「一航戦赤城、加賀、参りました!」
大和は変色海域について調べた結果を長門に報告。長門はそれを聞いて驚いた。
長門
「変色海域が拡大している!?」
大和
「はい。私の零式艦偵及び天馬君のコスモゼロ・100式空間偵察機による航空偵察と、最新観測結果から計算すると・・・。」
大和はソロモン海域の地図に書かれた赤丸の外周に、約二倍の大きさの赤丸を書き足す。
大和
「1日にこれだけの速度で広がっています。もしこの速度を維持したまま拡大を続けた場合、あと三日と七時間後にはこの泊地も変色海域に飲み込まれるでしょう。」
比叡
「ヒエー!た、大変です!」
大和
「観測されたポイントから推定される発生源は以前と変わらず、鉄底海峡の一点、ポイントレコリス沖です。」
長門
「レコリス・・・過日飛行場姫を無力化したところか。」
金剛
「先手必勝!件敵必殺!それしか無いデス!」
長門
「と言いたいところだが、まだ問題がある。二航戦が会敵した空母機動部隊だ。」
赤城
「二航戦がその一軍に打撃を与えましたが、攻撃隊の未帰艦機が多く、現在最編成と補充・錬成を急いでいます。」
陸奥
「二航戦が?」
長門
「大淀、敵の機動部隊は何軍確認されているんだ?」
大淀
「空母棲姫級を主力とした、六群以上の集団が確認されています。場所はここ、マライタ島の北です。敵集団の進行方向から推測される到達ポイントは、鉄底海峡。現在の進行速度を維持したままだと、あと58時間、約二日と十時間後には鉄底海峡に到達します。」
金剛
「どうしますか?合流すれば、アイアンボトム・サウンドへの突入は不可能デス。」
長門
「しかし闇雲に変色海域に突入すれば、艤装に損傷を受け、下手をすれば会敵の前に全滅の危険性もある。ウム・・・。」
加賀
「・・・。」