中部地方の山奥にひっそりと佇む屋敷の一室、月明かりが唯一の光源である薄暗い部屋で、二人の人物が向かい合っていた。
装飾の施された豪華な椅子に座るのが、険しい顔をした30代半ば程の男性であり、少し離れて片膝を着いているのが、飄々とした雰囲気の少年。
先に口を開いたのは、険しい顔をした男性の方だった。
「先程、四葉本家から連絡があった」
「……例の件が決まったんですね?」
少年――
「そうだ。 例の兄妹が来年、国立魔法大学付属第一高校に入学する。その二人の護衛・監視をお前に命ずる、とのことだ」
「まあ、あの兄妹と同い年で尚且つ面識があるということを考えれば、妥当な人選でしょうね」
忌々しげに頷く清十郎に対して、隼人はやれやれと肩を竦めつつ清十郎の顔を窺う。
清十郎は先程より更に顔を険しく、憎悪に満ちた表情を浮かべていた。
「四葉め、縁者の護衛の為だけに我が大切な手駒を使うとは……。 全く忌々しい連中だ……!!」
心なしか、声も先ほどよりドスが効いている。
彼が四葉家を心底怨んでいることが、赤子でも理解できそうなほどに、全身から憎悪を滾らせていた。
「(四葉を嫌う理由は分からんでもないが…。 手駒扱いとはいえ、実の息子の前で隠す気もなく曝け出さないで欲しいもんだ。 アホ丸出しじゃないか)」
歳の割にくっきりと皺が刻まれていて強面な清十郎に対し、飄々としているが爽やかな風貌の隼人。
苗字も異なり顔立ちも似つかない二人だが、しかし彼らは紛れもなく親子であった。
「急に黙りよって、何ぞ言いたいことでも?」
「…いえ、何でもありません」
隼人は内心で父親を批判していたが、それを表に出していないつもりであったため、父の指摘に一瞬肝を冷やす。
たまに忘れそうになるが、目の前に居るのは古より忍びの技を受け継いできた魔法一族、四紋家の当主である。
あんまりな言動ではあるが、これでも
鋭い指摘に、平静を装いつつも何でもないと答え、話を逸らすために隼人から話題を切り出した。
「ところで、この程度の話であれば、態々自分は呼び出されませんよね? ……別に本題があるのでしょう?」
急な話題転換について特に気にすることなく、清十郎はまたしても尊大に頷いた。
「その通り、ここにお前を呼んだのは他でもない。 お前に極秘任務を言い渡すためである」
ここまで表情を崩さなかった隼人の顔に、僅かに動揺の色が走る。
今まで頻繁に家の仕事を手伝っていたものの、極秘と言われるほどの任務が任されることは初めてであった。
直前の会話の内容から、嫌な予感を覚える隼人に対して、清十郎はさも簡単なことだろう?と言いたげな口調で続ける。
しかし言い渡された任務は、ここまで平静を保っていた隼人の表情を驚愕で染めるに足る、荒唐無稽な内容であった。
「護衛と同時進行で司波兄弟に接近し、四葉の情報を聞き出す。 その上で必要となれば、これを排除しろ」
「っ!? 父上!! それは……!!」
「四紋家復興のための、大いなる計画の為である。 失敗は許さん」
動揺を隠しきれない隼人を尻目に、清十郎は更に言葉を続ける。
「四紋が四葉に取り込まれ、長い年月が経った。……しかし! とうとう我々が覇権を手に入れる時が来たのだ!!」
「…………」
「この任務に、今後の四紋の命運が左右されるであろう。 ……心して掛かれ。 分かったな!?」
「……はい、承知しました」
渋々と返事をし、満足そうに頷く清十郎を尻目に、隼人は退室した。
「…………」
無言で屋敷を歩きながら、先程突き付けられた
「必要となれば排除しろ、か……。 正気なのかね、あの人は。 あの兄妹を始末できるものなら、とっくに四葉家当主を暗殺させているだろうに」
口をついて出る言葉は、どれも四葉への憎悪しか頭にない父の悪口だ。
だが、しかしとも思う。
「第一高校……まさか通えることになるとはな」
隼人にとって第一高校は、父の手駒として動くようになって、諦めざるを得なかった夢の舞台。
遠き日に交わした、もう果たされることはない約束の場所であった。
「まぁただ、マトモな学園生活は送れそうにないな……」
そうボヤキつつも、苦悶の中にどこか喜色を滲ませながら、隼人は四紋の屋敷から去るのであった。
皆さん初めまして、珍獣です。
ひとまずプロローグを読んでくださってありがとうございました。
拙い文章かと思いますが、今後もよろしくお願いします。
(2021/07/13追記)
永らく、本当に永らくエタっていましたが、この度更新を再開することとなりました。
亀更新になるかと思われますが、もしよろしければお付き合いいただければ幸いです。
感想、評価、叱咤激励の言葉をお待ちしております。