魔法科高校忍法帖~もう一つの四~   作:珍獣

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プロローグ

中部地方の山奥にひっそりと佇む屋敷の一室、月明かりが唯一の光源である薄暗い部屋で、二人の人物が向かい合っていた。

装飾の施された豪華な椅子に座るのが、険しい顔をした30代半ば程の男性であり、少し離れて片膝を着いているのが、飄々とした雰囲気の少年。

先に口を開いたのは、険しい顔をした男性の方だった。

 

「先程、四葉本家から連絡があった」

 

「……例の件が決まったんですね?」

 

少年――夜津谷隼人(よつやはやと)は、向かいに座る男性――四紋家代表の四紋清十郎(しもんせいじゅうろう)に質問で返す。

 

「そうだ。 例の兄妹が来年、国立魔法大学付属第一高校に入学する。その二人の護衛・監視をお前に命ずる、とのことだ」

 

「まあ、あの兄妹と同い年で尚且つ面識があるということを考えれば、妥当な人選でしょうね」

 

忌々しげに頷く清十郎に対して、隼人はやれやれと肩を竦めつつ清十郎の顔を窺う。

清十郎は先程より更に顔を険しく、憎悪に満ちた表情を浮かべていた。

 

「四葉め、縁者の護衛の為だけに我が大切な手駒を使うとは……。 全く忌々しい連中だ……!!」

 

心なしか、声も先ほどよりドスが効いている。

彼が四葉家を心底怨んでいることが、赤子でも理解できそうなほどに、全身から憎悪を滾らせていた。

 

「(四葉を嫌う理由は分からんでもないが…。 手駒扱いとはいえ、実の息子の前で隠す気もなく曝け出さないで欲しいもんだ。 アホ丸出しじゃないか)」

 

歳の割にくっきりと皺が刻まれていて強面な清十郎に対し、飄々としているが爽やかな風貌の隼人。

苗字も異なり顔立ちも似つかない二人だが、しかし彼らは紛れもなく親子であった。

「急に黙りよって、何ぞ言いたいことでも?」

 

「…いえ、何でもありません」

 

隼人は内心で父親を批判していたが、それを表に出していないつもりであったため、父の指摘に一瞬肝を冷やす。

たまに忘れそうになるが、目の前に居るのは古より忍びの技を受け継いできた魔法一族、四紋家の当主である。

あんまりな言動ではあるが、これでも数字付き(ナンバーズ)の当主として相応しい腕を持った、屈指の使い手である。

鋭い指摘に、平静を装いつつも何でもないと答え、話を逸らすために隼人から話題を切り出した。

 

「ところで、この程度の話であれば、態々自分は呼び出されませんよね? ……別に本題があるのでしょう?」

 

急な話題転換について特に気にすることなく、清十郎はまたしても尊大に頷いた。

 

「その通り、ここにお前を呼んだのは他でもない。 お前に極秘任務を言い渡すためである」

 

ここまで表情を崩さなかった隼人の顔に、僅かに動揺の色が走る。

今まで頻繁に家の仕事を手伝っていたものの、極秘と言われるほどの任務が任されることは初めてであった。

直前の会話の内容から、嫌な予感を覚える隼人に対して、清十郎はさも簡単なことだろう?と言いたげな口調で続ける。

しかし言い渡された任務は、ここまで平静を保っていた隼人の表情を驚愕で染めるに足る、荒唐無稽な内容であった。

 

「護衛と同時進行で司波兄弟に接近し、四葉の情報を聞き出す。 その上で必要となれば、これを排除しろ」

 

「っ!? 父上!! それは……!!」

 

「四紋家復興のための、大いなる計画の為である。 失敗は許さん」

 

動揺を隠しきれない隼人を尻目に、清十郎は更に言葉を続ける。

 

「四紋が四葉に取り込まれ、長い年月が経った。……しかし! とうとう我々が覇権を手に入れる時が来たのだ!!」

 

「…………」

 

「この任務に、今後の四紋の命運が左右されるであろう。 ……心して掛かれ。 分かったな!?」

 

「……はい、承知しました」

 

渋々と返事をし、満足そうに頷く清十郎を尻目に、隼人は退室した。

 

 

「…………」

 

無言で屋敷を歩きながら、先程突き付けられた命令(死刑宣告)について考える。

 

「必要となれば排除しろ、か……。 正気なのかね、あの人は。 あの兄妹を始末できるものなら、とっくに四葉家当主を暗殺させているだろうに」

 

口をついて出る言葉は、どれも四葉への憎悪しか頭にない父の悪口だ。

だが、しかしとも思う。

 

「第一高校……まさか通えることになるとはな」

 

隼人にとって第一高校は、父の手駒として動くようになって、諦めざるを得なかった夢の舞台。

遠き日に交わした、もう果たされることはない約束の場所であった。

 

「まぁただ、マトモな学園生活は送れそうにないな……」

 

そうボヤキつつも、苦悶の中にどこか喜色を滲ませながら、隼人は四紋の屋敷から去るのであった。




皆さん初めまして、珍獣です。

ひとまずプロローグを読んでくださってありがとうございました。

拙い文章かと思いますが、今後もよろしくお願いします。


(2021/07/13追記)

永らく、本当に永らくエタっていましたが、この度更新を再開することとなりました。

亀更新になるかと思われますが、もしよろしければお付き合いいただければ幸いです。

感想、評価、叱咤激励の言葉をお待ちしております。
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