魔法科高校忍法帖~もう一つの四~   作:珍獣

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第1話~再会~

4月、魔法科第一高校の入学式の日、隼人は校門に立っていた。

 

「しっかし、まさか俺の魔法力程度で受かるとはな」

 

隼人は軽いため息をつきながら、真新しい制服の左胸部分をチラリと見る。

そこには八枚の花弁をデザインした第一高校のエンブレムが刺繍されていた。

まあそれはともかく・・・

 

「余りにも暇だったから学校に来たけど、これは流石に早すぎたな・・・」

 

時計を見れば、まだ入学式が始まる2時間程前だ。

自分みたいに真新しい制服を着た生徒は周りにはいないし、準備に駆られる在校生ですらそこまで居ない。

とりあえず座るところを探そう。

そう思って敷地に足を踏み入れた時だった。

 

「納得できません!」

 

ふと、少し進んだ所から声が聞こえた。

良く見ると、男子生徒とそれより頭一つ小さい少女が言い争っている所だった。

・・・というか

 

「こんなハナっから発見するとは、いやはや運命なのか」

 

あの二人はおそらく、いや間違いなく今回の任務のターゲットの兄妹だ。

まさかこんなに早く接触するとは思わなかったのでどうするかと考えていると、少女の方が校舎の方に去って行った。

少年の方も、奥の方にフラーっと去って行こうとしている。

とりあえず隼人は彼を追いかけることにした。・・・気配を消して。

こそこそと少年の近くの木の裏に身を隠す。

 

「(よし、まだ気づかれていない。そーっとだ、そーっと・・・)」

 

「久しぶりなのにご挨拶だな、隼人」

 

木の陰から身を乗り出した隼人の目の前には、いつの間にか振り返っていて感情のこもっていない目で隼人を見ている少年が立っていた。

 

「うっ、やっぱりバレちゃうか・・・ 久しぶりだね、達也」

 

「ああ、久しぶり」

 

少々驚いたものの、すぐに切り替える辺り二人にとってはいつものやり取りらしい。

司波達也(しばたつや)、それが隼人の前に立つ少年の名前であった。

そしてこの達也こそが、今回隼人が第一高校に入学する理由となった要因の片割れである。

ところで四紋の中でも極一部の人間しか知らない事だが、この達也と先程彼と口論をしていた少女、司波深雪(しばみゆき)

この兄弟は実は四葉に連なる人間である。

訳あって正体を隠す二人と隼人は、家の関係で小さい頃からの知り合いだ。

深雪とはしばらく会っていなかったが、達也とは少し前に顔を合わせている。

それでも、久しぶりという程には会っていなかったのだが。

 

「とりあえずその辺に座ろうか」

 

立ち話は疲れる為、達也と近くのベンチに座る。

座ると同時に、隼人はポケットから携帯端末によく似た物を取り出した。

それは、CADと呼ばれるものである。

正式名称は「キャスティング・アシスタント・デバイス」で、魔法の発動を補助する機械である。

魔法とは、事象を改変する技術の事。

その事象に大きくかかわるのが、個別情報体(エイドス)と呼ばれる全ての事象に付随する想子(サイオン)情報体である。

サイオンとは、非物質粒子で認識や思考結果を記録する情報素子で、現代魔法とはエイドスを書きかえることによってエイドスが付随する事象を改変する事である。

CADは魔法師の体内に宿るサイオンをCADni送り、CADはサイオンを起動式と呼ばれる魔法の設計図のようなものに変換して魔法師に返す。

そして魔法師は返って来た起動式を精神の無意識領域に存在する魔法演算領域と呼ばれる場所に送り、魔法式と呼ばれる事象に付随する情報体を改変する為のサイオン情報体を構築、これでエイドスを書きかえることによって事象を改変する。

これがCADを使った現代魔法の手順である。

CADを使うことによって魔法の発動速度は飛躍的に上昇し、CADは現代の魔法師にとって必須のツールとなったのである。

隼人は自分のCADにサイオンを流し、起動式を受け取って魔法式に変換してエイドスに投射した。

直後に、隼人と達也の周りに見えない内側からの音を漏らさないという、指向性が与えられた遮音防壁が張られた。

遮音防壁を張った理由は一つ、他人に聞かれてはいけない話をするという意思表示だ。

 

「さて、何を聞きたい?」

 

「そうだな、まずは何故お前がここにいる」

 

隼人に向けての達也の質問は、達也らしく単刀直入の物だった。

それに対して隼人は予め用意していたセリフを放つ。

 

「上からの命令で達也たちの監視と護衛だよ」

 

隼人の返事を聞いて、達也は僅かに顔を顰めた。

そして、しばらく考え込むような表情をして、隼人にこんな一言を放った。

 

「もう一つの目的はなんだ?」

 

「!?」

 

いつものような感情のこもっていないように見える目で隼人を見つめる達也。

その目に一切の迷いは見れない。

達也は、隼人が四葉の命令以外にも目的を持ってここにいるという事が分かっているのだ。

恐らくそれが四紋の指示であることも。

自分が嫌っている父を裏切って達也に事情を話すという考えが頭を過ぎったが、隼人はそれを()()()に避けた。

 

「・・・悪いがそれは話せない」

 

結局、隼人が選んだ答えは拒絶だった。

 

「そうか。まあ秘密を守らなきゃいけないのは分かっているから気にするな」

 

それに対する達也の反応も、あっさりしたものであった。

 

「すまない、いつか話せるときが来ると思う」

 

嘘だった。

父からの命令は、達也たち兄弟から四葉の情報を聞き出して、必要となれば始末しろというものだ。

この必要なら始末しろというのは、四葉の直系である二人を消すことによって、四葉に混乱をもたらそうとしているらしい。

当然二人に伝えることなど出来無い。

それをすれば、裏切ったと判断して四紋は総力を挙げて隼人を消しに掛かるだろう。

残念だが、今の隼人には四紋を敵に回して勝つだけの実力が無い。

もし秘密がバレるとしたら、恐らくその時は達也とCADを向け合っている時であろう。

 

「ねぇねぇ、あの二人って新入生よね?」

 

これ以上遮音障壁を発動したまま話していては明らかに怪しまれるという理由で、魔法を消した途端、目の前を通り過ぎようとしている女子生徒がボソッとつぶやいた。

 

「見たとこ友達みたいだけど、可哀想にね。ブルーム(・・・・)ウィード(・・・・)に別れちゃうなんて」

 

もう一人の女子生徒が小さい声で今のように返しながら、目の前を通り過ぎてどこかに消えてしまった。

一見同じに見える隼人と達也。

しかし二人には小さくて、大きな違いがあった。

 

花冠(ブルーム)雑草(ウィード)ねぇ」

 

隼人は口に出して、二人の間に存在する違いを確認した。

二人の違い、それは隼人の胸と肩には第一高校のエンブレムが刺繍されているのに対し、達也の制服には何も刺繍されていないと言うところだった。

魔法科高校は国立大学付属の教育機関、魔法師育成のための国策機関だ。

国から予算が与えられる代わりに、一定の成果を上げる事が義務付けられている。

第一高校のノルマは、毎年100名以上の生徒を魔法科大学および魔法技能専門訓練機関に送り出すこと。

魔法教育に平等という言葉は存在しない。

制服にエンブレムを持つ一科生(ブルーム)と、エンブレムを持たない二科生(ウィード)

入学試験の成績で、定員は真っ二つに分けられる。

実技の個別指導を受けられるのは一科生のみ。

1科生が全員進学できるなら二科生は不要である。

しかしながら、魔法教育には事故が付きものである。

ノウハウの蓄積により、死亡事故や後遺症が残るような事故はほぼ根絶されているが、事故のショックで魔法を使えなくなった生徒が毎年少なからずこの学校を去っていく。

その為の、二科生制度。

二科生は、魔法事故によって退学していく生徒の補欠でしかない。

隼人は一科生、達也は二科生。

二人の間には制服の見た目だけではない、見えない大きな壁が存在した。

 

「気にするだけ労力の無駄だ」

 

達也が心底つまらなさそうにつぶやく。

演技などでは無く、彼は心の底からどうでもいいと思っているのだろう。

 

「そうだなぁ・・・ってもうこんな時間か」

 

ふと、携帯端末をとりだして表示された時刻に目を向けると、もう入学式開始まで30分程となっていた。

達也も話しがてらに開いていた携帯端末で時間を確認していた。

その時だった。

 

「新入生ですね?そろそろ開場の時間ですよ」

 

突如、頭上から声が降って来た。

視線を前に向けると、制服のスカートと左腕に巻かれたテンキー付きの幅広なブレスレットが目に付いた。

汎用型のCADだ。

書類に書いてあったことだが、校内でCADを常時携行出来るのは限られた人間だけだったはずだ。

確か、生徒会役員と特定の委員会メンバーのみ。

もちろん左胸には第一高校のエンブレムがある。

 

「ありがとうございます。直ぐに向かいます」

 

達也は端末を閉じながら先輩にお礼を述べる。

ここに至るまで、達也はまだ先輩の顔を見ていない。

達也の抱える事情を考えると、恐らく校内でCADの携行を許されるような優等生とあまり関わりたくないのだろう。

 

「感心ですね、二人揃ってスクリーン型ですか」

 

しかし、相手は達也とは違ったようだ。

こちらだけ座ったまま話すのも失礼なので達也と揃って立ち上がり、ここで初めて相手の顔を見た。

隼人は178cm、達也は175cmなのだが、この先輩は隼人達より20cmは小さい。

女性としても小柄な方なのではないだろうか、と適当に考えながらも、隼人の意識はこの先輩の容姿に向いていた。

 

「(深雪ちゃんとまではいかないけど、かなり可愛いな・・・)」

 

先輩は隼人と達也を交互に見た。

身長差からして、ちょうど二人の左胸が良く見える位置だ。

しかし、先程の女子生徒と違って達也の制服を見ても一切見下すような表情は無い。

軽い観察を終え、先輩は口を開いた。

 

「当校では仮想型ディスプレイ端末の持ち込みを禁止しています。しかし、残念なことに多くの生徒が仮想型端末を使用しています。貴方達は、入学前からスクリーン型の端末を使用しているのですね」

 

「仮想型は読書に不向きですので」

 

それに達也が返事を返す。

達也はよく端末で電子書籍を読んでいるので、嘘ではない。

先輩が何やら嬉しそうな顔をしているのは、彼女も映像資料より書籍資料の方が好みなのだろうか

しかしそんなことを考えていた隼人は、一瞬で現実に引き戻された。

ただの自己紹介(・・・・・・・)によって。

 

「あ。申し遅れましたね。私はこの学校の生徒会長を務めています、七草真由美(さえぐさまゆみ)です」




ということで第1話投下です。

プロローグの直ぐ後に投下したかったんですが、少し時間が開いてしまいました。

今回は基本達也との関係性についての話です。

他のキャラは次話になってしまいましたが・・・

それでは、感想お待ちしています。
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