魔法科高校忍法帖~もう一つの四~   作:珍獣

3 / 4
第2話~見え隠れする陰~

「申し遅れましたね。私はこの学校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いてさえぐさと読みます」

 

目の前の先輩の自己紹介を聞いて、隼人と達也は普通に見ていれば気づかれないレベルで眉を顰めた。

 

「(数字付きだな・・・しかし七草とは)」

 

何とか平静を保って愛想笑いを浮かべ、二人は名乗り返した。

 

「自分は司波達也です」

 

「夜津谷隼人です」

 

「司波達也君に夜津谷隼人君・・・そう、あなた達があの司波君に夜津谷君ですか」

 

「・・・・」

 

「・・・?」

 

二人の自己紹介を聞いて、真由美は何か思い当たったような顔をした。

隼人には何が『あの』なのか解らなくて変な表情をしてしまったが、達也は表情を変えずに黙っている。

 

「ふふ、先生方の間では貴方達の噂で持ち切りでしたよ」

 

「(どういうことだ?深雪ちゃんの兄である達也が噂になるのは分かるが、表面上は特にこれと言った目立つ能力が無い俺の噂まで?)」

 

彼女の笑顔からは、ポジティブなものしか見えない。

どういうことかと考えていた二人だったが、真由美の言葉はかなり意外なものであった。

 

「入学試験、二人とも七教科平均百点満点中九十点越え。特に達也君は平均九十六点だったわね。特に圧巻だったのは魔法理論と魔法工学。

受験者平均が七十点に満たないのに、両教科とも小論文含めて二人揃って文句なしの満点。・・・前代未聞の高得点だって」

 

「・・・ペーパーテストの成績です。情報システムの中だけの話ですよ」

 

左胸を指さしながら、少し素っ気ない態度で達也が言った。

当然この言葉の意味は、彼女には良く分かっていることだろう。

隼人だって思うところが無いと言えば、嘘になる。

この成績は、ただただ足りない才能を補おうと死に物狂いで努力したから取ることが出来た物である。

普通に聞けば良く聞こえるだろうが、隼人にとっては逆に自分の魔法力の弱さを付きつけられているようなものだ。

しかし、特段隼人の魔法力が低いわけではない。

隼人自身は疑問に思っているが、一科生になれたということがそれを証明している。

 

「(・・・そんなこと気にしてもしょうがないか)」

 

そう思って、隼人はネガティブな思考をシャットアウトした。

 

「いいえ、少なくとも私にはこんな高得点取れない。凄いわ!」

 

しかし、そんな二人の心情も全く気にした様子が無い真由美は、純粋に称賛の表情を浮かべてそう言ってきた。

 

「そろそろ時間ですので・・・失礼します」

 

「・・・失礼します、先輩」

 

突然、達也が軽く礼だけして歩きだしてしまったため、隼人も失礼のないレベルで軽い礼をして達也の後に続いた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

真由美と話していたからか、隼人達が講堂に入った時には半分ほど座席が埋まっていた。

この学校は、入学式の後にIDカードを交付し、その時にクラスが判明する仕組みになっているため、クラスごとに分かれて座るということはない。

つまり座席の指定は無いのだが、新入生の分布には明らかに規則性があった。

座席の前半分が一科生(ブルーム)

後ろ半分が二科生(ウィード)

 

「もっとも差別意識が強いのは、差別を受けている者である・・・か」

 

達也がポツリとつぶやいた。

確かに、それも生きる知恵の一つである。

達也はあえて逆らうつもりはないようだ。

しかし、達也と一緒に後ろに座れば、間違いなく周りの目を引くことになる。

それは望ましくなかったので、隼人は達也と別れて前から2列目のほぼ最前列に座った。

時計を見ると、後20分程時間が余っていた。

何もしないで過ごすには些か長い時間だ。

どう過ごそうか考えようとした隼人だが、その思考は横から掛けられた声に中断させられた。

 

「すいません。隣、開いてますか?」

 

声のした方を見ると、胸にエンブレムの刺繍がある女子生徒と、陰になって顔は見えないもう一人女子生徒が立っていた。

 

「ええ、どうぞ」

 

隼人は気にした様子も無く、迷わずに承諾した。

というか、後ろの少女は分からないが声をかけてきた少女は一般の水準と比べても結構美少女である。

隼人は別に女好きというわけでも無いが、可愛い女の子が隣に座るのを拒む男はそういないだろう。

二人の少女が座るのを視界の片隅で捕えながら、軽く周りを見渡すと、空席はさっきより明らかに減っていた。

特に最前列はほぼ満席で、二人で並んで座れるのは隼人の横だけであったところを考えると、二人は前の学校からの友達なのだろう、と隼人は適当に推測する。

 

「俺の名前は夜津谷隼人だ。よろしく」

 

「え・・・あ、私は光井ほのかです」

 

隼人の方から話しかけてくるとは思っていなかったのか、返事にはタイムラグがあった。

しかし、特に嫌な表情をすることなく、少女は名乗り返してきてくれた。

ほのかが自己紹介をした直後、自分も自己紹介をするためか、今まで隠れて顔が見えていなかった少女がひょこっと顔を出した。

 

「北山雫です。よろしくおねがいします」

 

雫と名乗った少女は、パッと見無口な雰囲気で無表情なイメージを受ける。

しかし、何故か雫を見て隼人は固まっていた。

確かに雫もほのかに劣らず十分な美少女である。

ただ、隼人が固まったのは別に雫の容姿に目を惹かれたという訳ではなかった。

いや、一応雫の容姿を見て固まっているのだが、正確に言えばかわいいという側面の容姿では無く、容姿そのもの(・・・・・・)を見て隼人は表情を驚愕に染めたーーといっても普通の人が見れば解らない程度ーーのだった。

 

「・・・どうかしました?」

 

突然隼人が固まったことに疑問を感じたのか、雫が問いかけてきた。

 

「いや何でもない、こちらこそよろしく」

 

言葉を濁すようなことはせず、隼人は本当に何もなかったかのように返事を返す。

特に大したことも無かったのだろうと思ってくれたのか、雫は追求せずに顔を元の位置に戻した。

その後は、三人で中学の時の事などを話していた。

ただ、二人と話しながら、隼人は別の事を考えていた。

彼女ーー雫は、余りにも似ている。

これは運命なのか、はたまた偶然なのか・・・

隼人の思考は、入学式が始まる直前まで続いた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

開会式が始まり、校長の挨拶に始まったプログラムはスムーズに消化され、とうとう新入生の答辞になった。

 

「続きまして新入生答辞ーー新入生代表、司波深雪」

 

講堂に流れるアナウンスと共に、壇上に一人の少女が姿を現した。

それと同時に、会場の人間のほぼ全てが言葉を失った。

演台の中央に立った少女こそ、達也の妹であり、隼人の任務のターゲット、司波深雪である。

会場の人間が言葉を失った理由、それは深雪の容姿であった。

隼人の横に座っているほのかと雫も十分に可愛い。

しかし、深雪のそれは最早次元が違った。

超高精度に作った3DCGだと言っても、全ての人が信じるだろう。

青少年の願望を実体化させた、と言っても疑う人は誰ひとりとして居ないだろう。

それほどの、美貌。

男子生徒だけではなく女子生徒も深雪に見とれている中、彼女の答辞が始まった。

「皆等しく」や、「一丸となって」、「魔法以外にも」等の際どいフレーズが多々出てきたが、流石と言うべきか、それらを上手に建前で包み一切の棘を感じさせない。

そんな深雪の態度は堂々としていながらも初々しく慎ましく、聞いているものの心を掴んで話さないような巧みな答辞だった。

そして、彼女の元々の美貌と相まって、新入生・上級生や男女の区別なく、全ての生徒の心を鷲掴みにしていた。

昔からそうだったが、やはりここでも深雪の周りはさぞかし賑やかになることだろう。

世間一般の基準に照らしてシスコンと言っても過言ではない、深雪のお兄様こと達也は彼女の事を今すぐにでも労ってやりたいことだろう。

しかし、式が終われば即解散というわけではなく、IDカードの交付がある。

IDカードの交付はどの窓口でも出来るのだが、やはり一科生と二科生の間で壁が出来てしまう。

ちなみに深雪は新入生を代表して既にカードを交付されている為、今は来賓と生徒会の人ごみの中である。

ということで隼人は、ほのか・雫と一緒の窓口に手続きに来ている。

 

「二人とも、どうだった?」

 

「私はAクラスです」

 

「私もAクラス」

 

レディーファーストということで先にカードを受け取っていた二人の元に行くと、二人とも同じクラスのようだ。

 

「夜津谷君はどうでした?」

 

「俺もAクラスだよ」

 

「やった!同じクラスですね!」

 

かくいう隼人もAクラスなのだが。

ところで、第一高校は一学年八クラスで、一クラス二十五人となっている。

もっとも、一科生はA~D、二科生はE~Hと同じクラスになることは無いが。

 

「ところで、夜津谷君はこの後ホームルームに行くんですか?私と雫は行く予定なんですけど」

 

そう言いだしたのはほのか。

現在の学校は、ごく一部の例外を除いてほとんど担任教師と言う制度は存在しない。

全て学内ネットを利用した端末通信で済まされる。

学校用の端末が一人一台体制になったのはかなり昔で、個別指導も実技の指導でなければ基本は情報端末が使われる。

担任もいないのに何故ホームルームがあるのかと言うと、授業や実験の都合や、自分専用の端末があれば何かと便利だという理由である。

そして、ホームルームという一つのコミュニティで一緒に過ごせば、自然に交流が深まる。

友達を作りたいのなら、ホームルームに行くのが一番の近道と言うわけだ。

任務で入学したとはいえ、昔からの夢だった魔法科高校。

隼人は任務に支障が出ない範囲で出来るだけ学園生活を楽しむつもりだった。

新しい友人作りも、その中に含まれる。

・・・しかし、隼人はほのかの誘いに首を横に振った。

 

「悪いけどこの後用事があるんだ」

 

今日はもう連絡事項も無い事が分かっているので、隼人はこのまま用事を済ませて帰るつもりだった。

 

「そうですか・・・では、また明日」

 

「さようなら」

 

ほのかは多少残念そうに、雫は変わらず無表情で別れの言葉を告げ、ホームルームに向かって行った。

 

「さて・・・俺も行くか」

 

隼人は振り返り、二人とは逆の方向に向かって歩き出した。




どうも、珍獣です。

今回も長々と入学式の話をしてしまった・・・

しかし、次は微量ですが、戦闘シーンを入れる予定です。

心苦しいですが、隼人君の実力に就いては次話までお待ちください。

ちなみにお分かりでしょうが、この作品は雫をヒロインとする予定でいます。

では、評価・感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。