魔法科高校忍法帖~もう一つの四~   作:珍獣

4 / 4
第3話~手袋~

二人と別れてしばらく歩くと、二人の女子生徒と話している達也を発見した。

 

「お疲れ達也」

 

後ろから近づいて達也に話しかけると、多少驚いた顔で達也が振り返った。

 

「隼人、ホームルームには行かなかったのか?」

 

「ちょっと、この後用事があってね」

 

「なるほど、大変だな」

 

隼人の言葉に、達也は物知り顔で頷いた。

 

「ねぇ司波君、この人誰?」

 

すると、隼人が入って来たせいで蚊帳の外にされていた女子生徒が横から声をかけてきた。

 

「ああ、悪かったな。こいつは小さい頃からの付き合いの友人だ」

 

「夜津谷隼人です、よろしく」

 

「司波君の友達かぁ。私は千葉エリカ、こちらこそよろしく」

 

「柴田美月です。よろしくお願いします」

 

達也の紹介に合わせて自己紹介をすると、二人とも自己紹介をを返してくれた。

エリカは、ショートの明るい髪に、整った顔立ちが目立つ美少女だ。

そして美月も眼鏡をかけていて分かりにくいが、癒し系という感じのかわいらしい美少女だ。

ちなみに眼鏡は、治療技術が普及した結果、この国ではかなり珍しくなっており、重度の先天性視力障害でもない限り、視力矯正具は必要ないし、必要でも今は年単位で装着可能なコンタクトレンズも開発されている。

そのため眼鏡をかけるのは、ファッションなどでかける場合がほとんどだ。

しかし、若干気弱そうな雰囲気の彼女がそういう目的で眼鏡をかけるのは考えにくい。

 

「(となると、霊子放射光敏症か・・・)」

 

霊子放射光過敏症とは、通称見えすぎ病とも言われる、意図しないで霊子放射光が見えたり、意図的に見ないようにすることが出来ない一種の魔力制御不全症である。

霊子(プシオン)とは、サイオンと同じで非物質粒子だが、サイオンとは違って意志や思考などを生み出す情動を形作っている粒子、という説が有力だが、詳しくは分かっていない。

このプシオンの波動が霊子放射光で、プシオンに対する感受性が強い人には、霊子放射光が光・色として見えるのである。

別に光が見えるくらいなら放っておいても良いじゃないか、と思わなくもないが、もっとも見られやすい放射光は感情の波動とされている。

そして強い感情であればある程強い光や色に見え、その強い感情はネガティブなものが多い。

霊子放射光過敏症の人は、このネガティブなプシオン波動の影響を受けて、精神に異常をきたすことが多い。

予防手段は、プシオン感受性をコントロールする技術を身につける事だ。

だが、それが出来ない者には道具などでそれを補助する必要がある。

その一つが、オーラ・カット・コーティング・レンズと呼ばれる眼鏡である。

しかし、魔法科高校に入学できるだけの魔法技能がありながら、保護用眼鏡を必要とするほどの鋭敏な感受性をもつ者は稀だ。

つまり美月は極めて強いプシオン感受性を持っているということになる。

それだけ強い「視力」となれば、ただ霊子放射光を見るだけの能力ではなく、もっと別なものを見られるかもしれない。

ーー例えば、素情を隠している達也の本来の力。

ーー例えば、隼人の持っている禁断の魔法。

今は何もないだろうが、彼女の前では今後注意しなければいけないな、と隼人は自分を戒めた。

そして、美月だけではなくエリカの方も名字が「()葉」だ。

あの千葉なのかは分からないが、数字付きの可能性は高い為、一応注意しておいた方がいいかもしれない。

といっても二人とも、クラスは違えどこれから学校生活を共にする友達ーー会って直ぐに友達と言うのも少し気が速いと思うがーーである。

なるべくそう言った警戒心を捨てたいものだ。

 

「自己紹介して早々悪いんだけど、俺この後用事があるんだ。また次の機会にでも話そう」

 

隼人は、本当はもう少し話していたかったのだが、この後外せない用事ーーというか工作ーーがあるので三人と別れることにした。

 

「そっかぁ、残念だね。じゃあね~」

 

「用事があるんなら仕方ないですね。ではまた明日」

 

「うん、また明日。達也もね。・・・それと深雪ちゃんにもよろしく」

 

「深雪の事をちゃん付けで呼ぶのはもうお前だけだぞ・・・」

 

三人と挨拶を交わし、隼人は校門を出た。

学校から家に帰る時、家と学校の距離が近くない場合殆どの生徒が駅を経由する。

隼人の家は今回の任務の為に四紋が用意した一軒家で、学校から遠い訳ではないが、近いというわけでもないために駅を利用しなければならない。

そして、駅は第一高校の目の前の一本道を歩けば一度も曲がらないで駅に着くことが出来る。

ただ隼人は駅に直接向かわず、学校から100m程のところの店に立ち寄った。

ちなみだが、魔法科高校の中にも普通の学校と同様売店が存在しており、その品揃えはーー魔法関係の物も多いがーー普通の売店と比べてかなり充実している。

そしてこちらも第一高校に限らない事だが、魔法科高校の前にはその門前町とでも言える商店街があり、校内の売店で買えない物は大抵ここで揃う。

そして第一高校の前の商店街は特に充実しており、一高生以外の魔法関係者も遠くから足を運ぶことがあるほどだ。

というわけで商店街で必要な物を買い揃えた隼人は、その後寄り道せずに真っ直ぐ家に帰った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

駅のキャビネット(現在電車と言うものは既に無くなっている)に乗って最寄りの駅まで移動し、そこから歩いて少しの所に隼人の家がある。

外見は特に変わった所が無い普通の一軒家だ。

高校生が一人で住むには少し大きい。

家に入ってまず自室へ行き、制服を脱いで私服に着替えながら思い出す。

昔の隼人だったら、ここで着替えるのがシャツやジーンズなどでは無く、動きやすさを重視した戦闘服であっただろう。

小学校の時から、隼人は放課後誰とも遊ばずに直ぐに家に帰っていた。

子供同士の遊び程度で時間を無駄にすることなど、父が許さなかったのだ。

そして四紋の屋敷に帰った隼人は、着替えたらすぐに屋敷の外の森に出る。

殆ど知られていないことなのだが、四紋は古式魔法”忍術”を伝える家で、隼人も当然忍術を教えられていた。

古式魔法とは、忍術・陰陽術・SB(Spiritual Being)魔法ーー精霊魔法ともいうーーなど、現代魔法とは違った方法で魔法を発動する魔法である。

ただ、古式魔法はCADを使用する現代魔法と比べて魔法を発動する速度が著しく劣っている。

現代魔法がほぼ一瞬で発動できる魔法を、古式魔法なら5秒掛かるというのは良くある話だ。

なので一般の魔法師は、古式魔法は現代魔法より劣っている、というイメージを持っている場合が多い。

これは間違ってはいないのだが、少し訂正しなければならない。

確かに古式魔法は魔法の発動速度で現代魔法に劣っている為、正面からの撃ちあいでは現代魔法に分がある。

しかし、隠密性やフレキシブルな発動座標などの点で古式魔法は現代魔法よりも優れているため、知覚外からの奇襲は古式魔法に分があるのだ。

隼人が習得した忍術は、森林などの障害物が多くある場所での戦いで真価を発揮するものである。

その為普段は森で戦闘訓練をさせられていた。

しかしそのお陰か、隼人は現代魔法こそ普通であるものの、忍術においては優秀な”忍び”となった。

といっても魔法力が平凡なために、優秀なのは魔法の威力や規模では無く忍術の運用や発動に対しての技量であり、現代魔法よりも忍術が得意だというわけではない。

閑話休題。

私服に着替えた隼人は、デスクの上に乗っていた小包を開けた。

中に入っていたのは、薄めの黒い手袋だった。

パッと見はただの革製の手袋。

だが、これはただの手袋ではない。

少し話は戻って忍術の事だが、忍術の場合魔法を発動する時は主に印契を使う。

その印契にも色々あって、普通に印を組んで発動するものもあれば、徒手格闘をしながら魔法を発動する為に身体全体などで意味のある形を作って魔法を発動するものなどもある。

この手袋はその印契の補助のために使われ、魔法陣を織り込んだ特別なものである。

それと同時に、隼人の持つ特異能力(・・・・)にとって重要な意味を持つ道具でもある。

ところで、第一高校では決められた委員会の生徒以外は校内でCADを持ち歩くことは出来ない。

しかし、CADを持っていない時に何かが起こる可能性はゼロではない。

手袋は、この校則の抜け道として用意したものだった。

ただ、使っていたのが少し前の事なのでサイズが隼人の手に合わなくなってしまったのだ。

さっきの買い物はそれを直すための工作、もとい裁縫の為の道具であった。

買ってきた道具を作業用のデスクの上に置いて、隼人はさっそく作業に取り掛かった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

時刻は午前0時を少し回った頃、手袋の手直しを終えた隼人は、遅めの夕食を取ってベッドの上で横になっていた。

ぼんやりと天井を眺めながら、隼人は今日出会った人物の事を思い出していた。

小柄で無口・無表情で、可愛い容姿の美少女。

隼人の視線が、天井からベッドの横のデスクに移る。

デスクの端には、一枚の写真が入った写真立てが飾られていた。

そこには、まだ幼さを残す小学生くらいの少年と、同じくらいの歳の少女が綺麗な海をバックに仲よさそうに映っている。

良く見ると、少年は隼人に、少女は雫にどことなく似ている。

しばらく写真を眺めていると、睡魔が襲ってきた。

隼人は睡魔に逆らうことなく、意識を闇に沈めていった。




どうも、珍獣です。

まずは謝罪を。

作者のプライベートの事情で投稿がかなり遅れてしまったこと、そして前回戦闘描写を書くと言ったのにも関わらず入れられなかったこと、スイマセンでした。

次回は間違いなく戦闘シーンを書きます!!

それまで、どうかお待ちください。

では、感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。