(ははははは!!!!何と爽快なのだ!!楽しい!!楽しいぞ!!)
「ギニャー!!止まってぇぇ!!止まってくださぁぃ!!」
あの二人のメイジが新種のドラゴンを発見したとアカデミーに報告してから二日が経った。
最初はあの洞窟で数日過ごそうとした彼だったが、一晩過ぎて雨が止んだ時にニャーがダンナと呼ぶ彼にここから離れようと言ったのだ。
(ぐぅぅ!!その結果がこれニャよ!!)
(走ると気が高ぶる!!何故かは知らんが高揚するのだ!!)
「そのあたりも説明するから、止まってくださいよぉ!!ダンナぁ!!」
背中にニャーを乗せ、いざ洞窟から出て駆け出した彼は風を切る内に何故だか気分が高ぶり、自分でも抑えがきかずに森の中を爆走していたのだ。
木を避ける為にジグザグに進み、大岩を飛び越え、時には木を踏み台に飛び跳ねるように。
(ははは!!後ちょっと!!後ちょっと待て!!)
「さっきもそう聞いたニャァァ!!!」
ガォォォォォン!!!!
ギエニャァァァ!!!!
それからしばらくして、背中に乗るニャーが息も絶え絶えになった頃にようやく彼の気が収まった。
「しばらくは……勘弁………」
(………すまんな。)
「本当ニャ………でも、やっと説明できるニャ。」
一息ついたニャーは気を取り直して彼に説明を始めた。
「さて、ダンナが何者か?ってことニャけど、都合よくあるあの川まで水飲みがてら行きましょう。」
(うむ、私も喉が乾いた。)
川まで歩き、水を飲もうとしゃがみこんだ彼はそこで初めて自分の顔を見た。
(これが私の顔か。)
水面には鋭い牙とゴツゴツとした頭、そして緑色の鱗を持つ顔が移っていた。
「そうですにゃ、ダンナの種族は“ディノ”っていうんですにゃ。」
(ディノ………それが私の。)
彼は自分の種族の名を心の中で復唱する。
「ダンナの種族は本能的に走るのが大好きで、それでいて人懐っこいのにゃ。そしてダンナはご存じの通りとっても脚力が強い種族なのにゃ。」
ディノは全身緑色の自信の体を見渡した。
太く長く力強い脚、反して短い手、そして自分の背中に括り付けられた鞍と荷物入れ。
(私は誰かと一緒に旅でもしていたのか?)
「そう言う訳じゃ無いんですにゃ。ダンナは良く郵便配達の仕事をしてらっしゃったんですにゃ。」
(郵便配達?)
「そう、元々ダンナとニャーはファームって所で暮らしてて、そこにいたご主人様と仕事しながら一緒に暮らしてたのにゃ。」
そう言うとニャーは顔を伏せ気味にして、水面を少し寂しそうな表情で見つめる。
(…………それでは、そのファームという場所に戻るのが我々の当面の目標か?)
「それは無理にゃ。」
(何故だ?)
「無いからなのにゃ。」
(何?)
「もう無いのにゃ、ファームも、僕達の小屋も……そして僕達のご主人ももういないのにゃ。」
いつの間にか膝を抱え座っていたニャーは川に小石を投げた。
小石の落ちた所から波紋が広がり、ニャーとディノの顔がゆらゆらと水面でゆがむ。
「ごめんなさいにゃ、ダンナ。ニャーからはこれ以上教えるのは難しいにゃ。辛いにゃ。」
(………分かった、聞かないでおこう。)
「本当にごめんなさい。」
(いいんだよ。ただ、いつか、いつか気持ちの整理をつけて教えてくれないかい?)
「…………頑張るにゃ。」
そう言うとニャーは再びディノの鞍に跨がり、鞍についている取っ手を掴んだ。
(それでは行くアテは無いということか?)
「いや、そうでもないんですにゃ。一応あるんですけど、その前に。」
(その前に?)
「腹ごしらえにゃ!」
ニャーのお腹がグゥと音をたてると、つられてディノのお腹もグゥとなる。
(そういえば走り通しで腹が空いたな。)
「本当にゃ。ちゃんとご飯は食べないと行けないにゃ。」
(しかしなぁ、食べるものは………)
「にゃ……持ってないにゃ。」
(困ったなぁ………)
二人は食料の事で困っていたが、周囲を見回すうちに森の異変に気づいた。
(………気づいているか?ニャーよ。)
「はいダンナ……何か近づいて来てるにゃ。」
ディノは茂みにさっと隠れる。
それからすぐに入れ違いで大きな体をした、豚の顔を持つ生き物がやってきた。
ニャーは小声でディノに伝える。
〈ダンナ、あれはきっとオーク鬼って奴にゃ。〉
(ほぅ、あれはどんな生き物なんだ?)
〈とっても凶暴な生き物らしいにゃ。人間が相手にすると、とっても強い人5人がかりぐらいで対等になるかどうかぐらいらしいにゃ。〉
(ふむ、では隠れていた方が良さそうだな。)
彼等が様子をうかがっている事に全く気づいていないオーク鬼、水を飲んだ後に彼等が潜んでいる場所とは違う茂みの木から果実を一つもぎ取った。
オーク鬼は果実にかぶりつきながらその場を離れていった。
(………行ったな。)
「そのようですにゃ。まあ、ダンナなら力ずくでも………いや、不要な暴力は使わない方がいいかにゃ。」
(さて、この果実を食べていたな。)
「よし、採ってみますかにゃ。」
ディノが木の下までやってくると、ニャーはディノの首をよじ登り頭の上で器用に立って果実を三つほど取った。
「これで美味しかったらもういくつか採って、しばらくの間のご飯にするのにゃ。」
(うむ、しかし不思議な果実だ。どこか懐かしさを感じる。)
「ニャーもですにゃ。どこかで見覚えがありますにゃ。」
その果実は黄色で中ほどの部分がくびれている。
ディノは大きな口で一口でペロリと、ニャーは小さな口でかぶりついた。
(こ……この味……この味は……!!)
「知ってるにゃ、ニャーも知ってる!!」
確かこの果実は………
(そうだ、カララギ……カララギマンゴーだ!!)
「そうにゃ!!昔ファームでご主人がおやつで買ってきてくれたにゃ………」
ニャーはそう言っているが、ディノの思い出した記憶は少し違う。
(この果実を私が見たのは………)
彼の頭の中で記憶が少しずつ蘇る。
~~~~~~~
そこは鬱蒼としたジャングル。彼と共にそこに居るのは三人の人。
「うわぁ、大きな岩。」
女性の声だ。私はこの声をよく聞いていた気がする。
「うむ、このままでは通れませんな。」
メガネを掛けてヒゲを沢山はやしたお爺さん。
確かこの人は…………
「カルナボさん、ダンナに任せてみましょう。」
そうだ、カルナボさんだ。
そう言われて私は荷物を置き、大岩の前に立つ。
私は地面を強く蹴って岩に飛びつき、その拍子に足の裏で岩を蹴り飛ばした。
岩が轟音を立てて崩れて行く。
「な、なんと、パンチで叩き壊すとは……」
「えへへ、ウチのダンナは並のモンスターじゃありませんから。」
「………モンスターバトル不敗も納得ですな。パンチでこれなら他の技など食らおう物なら………いや、今は探索に集中しますか。」
「ふふふ………あ!カルナボさん!あれ!」
女性が指さした方向を見る、そこには古めかしくて、こぢんまりとした建物があった。
三人と一匹はその建物へ近づく。
「ふむふむ、この建物は………」
「ということはお宝とか………」
カルナボさんと女性が話しているのをよそに、私は木に生っているカララギマンゴーに目を奪われている。
気づけば自分のそばにさっきからしゃべっていなかったもう一人の人間が来ていた。
「食べたいのかい?ダンナ?」
私はその人に顔を向けコクリと頷いた。
「そうか、よぅし……」
「ダンナ!」
女性に私が呼ばれる。
私が女性の元へと向かうと、どうやらこの建物を調べてほしいらしい。
「ダンナ、頑張って!」
女性の応援を背に受けながら、私は建物の内部へと向かっていった。
数時間後、私は金銀財宝や、薬品の入った小瓶、不思議な果実など沢山の物を建物から持ち出した。
「ふむ、これは………」
カルナボさんが私の取ってきた物品を鑑定している。
「えらいぞ!ダンナ!」
そう言って女性がほめてくれる。
だけど、私がこの時一番嬉しかったのは
「それでね、“ ”さんからダンナにあげたい物があるんだって。」
何故か名前が思い出せないこの人。
でも、この人が私の主人なのは分かる。
「お疲れ様、ありがとう、ダンナ。」
そう、一番嬉しかったのは
~~~~~~~~
(ご主人の採ってきてくれたカララギマンゴーだった。)
「!?ダンナ、もしかして記憶が!?」
(少し、ほんの少しだがな。)
そう言うとニャーは何故か少し安堵したような表情を見せる。
ダンナは先の事もあり、まあ今は細かく問うまいと心の中で思い、言葉を続ける。
(ダンナとは名前だったのだな。)
「うにゃ、しまったにゃ。種族だけしか説明してなかったにゃ。」
(なるほど、だからダンナ、ダンナと読んでくれたのだな。)
しまった、しまったと頭を掻くニャーに、ダンナは納得したように頷く。
(しかし不思議だ。何故こんな所にカララギマンゴーが生えているんだ?)
「む、それは僕も気になってたにゃ。風土が違いすぎるにゃ。」
二人は木の前で不思議だ不思議だと首を傾げる。
その時だった。
「ブゴォォォ!!!!」
「にゃ!?」
(ぬぅ!?)
先ほど一つでは満足しなかったのか、去ったはずのオーク鬼が茂みの中から飛び出してきたのだ。
「ブギィィィ!!!!」
彼等はとても攻撃的なようだ。
棍棒を振り上げ、ニャーに狙いを定める。
「う、うにゃ!?」
このままではニャーがぺしゃんこだ。
ぬいぐるみだから平気か。
いやいや、そんなわけがない。
(守らねば!!!!)
彼は先ほど記憶の中で使った技の構えを取った。
跳躍、そして足の裏で蹴りつける!!
パンチ!!
オーク鬼の腹部にダンナのパンチが叩き込まれる。
オーク鬼は衝撃で棍棒を取り落とす。
そのまま後方へ木をなぎ倒しながら吹き飛び、大木にぶつかり反動で錐揉み回転しながらうつ伏せに倒れた。
可哀想だが殺めてしまっただろう。脱力した体が動く気配が無い。
「ニャー!!助かったにゃ!!さっすがダンナなのにゃ!!」
危機から逃れたニャーはダンナに駆け寄る。
しかし、そんなダンナの胸中は穏やかでなかった。
(この力は………)
なんなんだこの力は。過剰すぎる。
手加減したつもりだったが殺めてしまった。
記憶の中でカルナボさんはモンスターバトルとか言っていた。こんな力が必要な闘いをしていたのか私は?
ニャーは当然のような口振りだ。何を隠している?
私は……私は……
ダンナは制御できない自分に震えていた。
ニャーから聞き、記憶も少し取り戻した事でちょっとは自分の事や境遇が分かった気でいた。
しかし、まだまだ彼は分かっていなかったのだ。
(私は………何者……?何が起きたんだ………私に?)