「「「スリープクラウド!!」」」
「ギエニャー!!」
(この数は……!マズい…!!)
すっかり取り囲まれていた二人。
いかにダンナが素早くても狭い檻の中では逃げ回るのに限界がある。
ジャンプで魔法を回避し、檻の中心から離れるように走る。
(穴をあければ………)
ダンナは走った勢いのまま檻に頭から全力でぶつける
体当たり!!
体当たりは檻に直撃し、檻は音をたてて震える。
しかし……
(ぐぬ………)
「な、何て硬さにゃ……ダンナの体当たりでぶち抜けないにゃんて……。」
体当たりを食らった部分は少しへこみ、穴も開いているものの、ダンナが通るには少し狭すぎる。
「いえ、この檻は固定化が何重にも重ねてかけてあるわ。」
エレオノールが驚愕している二人に追いついた。
「それを考えるとむしろ逆、この檻を体当たりなんかでへこませる存在が尋常じゃないのよ。でも……」
エレオノールが杖を二人に見せつけるように突きつける。
「少し力不足みたいね?もうあきらめて捕まりなさい!スリープクラウド!」
(そうはいくか!!)
エレオノールの魔法を再び避け、檻の反対側へと走るダンナ。
(それなら何度も仕掛ければ……!!)
逃げ回りながら幾つかの箇所に何度も体当たりを仕掛け、開いた所から逃げればよいのだ。
「ニャァ!!ダンナ止まって!!」
(なんと!?)
檻の反対側にたどり着いたダンナ達が見たのは、檻の外で整列し杖を構える大人数のメイジだった。
「「「「スリープクラウド!!」」」」
(ウォォォ!!)
今度は避けきれず幾つかをまともに食らってしまう。
ダンナはふらつき近くの木に寄りかかる。
「ダンナ!!しっかりするニャ!!」
(うぅ………)
「ヤレヤレ、行ったり来たりされては面倒なのだけど、それもここまでかしらね?」
追いついたエレオノールと引き連れている兵隊にも再び取り囲まれた。
「さて、この状況はどうする?言葉が通じるならこれ以上は乱暴なやり方はしたくないわね。」
「ダンナ………どうします?」
最早絶望的である。
頼みの脚も魔法でおぼつかない。
少しの間は走れても、直に力尽きる。
では捕まるか?
絶対に嫌だ。断固拒否だ。
マッドサイエンティストに情報を引き出された後バラバラにされるか、もしくは………考えたくも無いような未来しか想像できない。
(どう…すれば……)
先ほど食らった魔法のせいか、立ったままだがダンナは瞼をすっと閉じてしまった。
~~~~~~~
ダンナは夢を見ていた。
昔の夢、ご主人の指示のもとモンスターバトルをしている夢のようだ。
「ダンナ!ゴーレムのパワーは凄まじいぞ!絶対に技を食らうな!」
ご主人は私に相手の特徴を教えてくれた。
だが私は相手の岩で出来た鈍重そうな見た目に油断していた。
(当たらなければどうということはない……)
迂闊に近づき相手にパンチを食らわせる。
手応えはあった、しかしそれこそが相手の狙いだ。
相手の巨大な握り拳が眼前にあった。
懐に潜り込んでいた私は避けられるはずもなく、拳に打たれ宙を待った。
「ダンナァーー!!」
前の記憶を思い出した時にもいた女性、彼女が悲鳴に近い声で私を呼ぶ。
私はくるりと身を翻して着地し、まだ闘えることをアピールする。
女性は少し落ち着いたようだが、まだ不安げにこちらを見ていた。
ちらりと横目で女性の様子を見て、視線をゴーレムへ戻す。
ゴーレムはニヤリとした表情で片手を差し出し、クイクイっと人差し指を動かしていた。
来い来いと挑発しているようだ。
「グゥオォォォォ!!」
恐れ吹き飛ばすように、自分を鼓舞するように、挑発を受けた怒りを露わにするように私は雄叫びをあげた。
そして満身の力を込め、突撃しようと………
「待て!!ダンナ!!」
そんな私をご主人が止めた。
「突っ込んだ所にカウンターを入れるのが奴の狙いだ!わざわざあっちの戦い方に付き合わなくていい!」
その言葉を聞いてか、相手のゴーレムは腕でガードを固めてこちらにジワジワと近づいてきた。
「ゴーレムの弱点はガッツダウンだ!かしこさ技で行け!」
ご主人の指示を聞き、私は地面を思い切り蹴ってゴーレムに砂をかけた。
砂が目に入ったゴーレムは涙を流して怯んでいる。
その隙に私は思いっきり空気を吸い込み、それを炎へと変えて相手に吐き出した。
炎に包まれたゴーレムは力尽き、体がボロボロと崩れてしまった。
大丈夫、見た目ちょっとグロいがこいつらやられるときはいつもこうである。
大事には至らない。
試合が全て終わり、私はご主人達を背に乗せてファームへの帰路にいていた。
辺りはすっかり暗くなっていた。
「ゴーレムの時はホントに心配したんだからね、ダンナ!」
ご主人と二人で乗っているいつもの女性はそういうと私の首筋に抱きついてきた。
ちょっと息が苦しい………
「ふふ、ちょっとカッとなってたときもあったしな。」
ご主人、面目ない。
最初に教えていてくれたのに、私は油断してしまった。
「でも、」
ご主人は女性を後ろから抱きかかえるようにして手を伸ばし、私の首を撫でてくれた。
「ちょ、ちょっと……” “さん…///」
もともと近かった体がより密着して、女性の方は頬をほんのり赤くしている。
「あのパンチを食らった時、よく踏ん張ったなえらいぞ。」
ご主人はニッコリ笑って私をほめてくれた。
「お前はまた強くなったな。俺はうれしいよ。」
「グルルル…!」
ありがとう、ご主人。
そうやってあなたがほめてくれると、私はまた強くなろうという気持ちになれる。
そして私も、あなたの手にその優勝カップがあることが嬉しくて仕方ないのです。
私があなた達をこうやって喜ばせる事ができるのが、とても、とても………
夜空の星々が煌めく中にキラリとご主人の掲げた光が加わり、二人の笑い声と、嬉しそうなうなり声一つがのんびりとファームへと向かった。
~~~~~~~
「ニャニャ!ダンナ!駄目にゃ!目を開けるニャ!」
夢の世界から帰ってきたダンナ。
うっすらと目を開けると、世界が45°ほど傾いていた。
どうやら倒れる直前だったようだ。
そんなダンナの様子をエレオノールがニヤリとした顔で見ていた。
(そうは……いくか!!)
傾いていた体を脚をとっさに出して転けないようにダンナは踏ん張った。
ズドン!!と地面を踏みしめた時に周りのメイジ達は少し驚いた様で、二歩ほど後ろに下がったように思える。
よく踏ん張ったな偉いぞ。
そんなご主人の声が聞こえたような気がした。
「ニャア!ダンナ!」
(ふふ、心配するなニャーよ。こんな事でやられはせんよ。)
「ニャニャァ!ヤッパリダンナは頼りになるニャ!」
(それとニャーよ少し頼みたい事がある………)
その一方でエレオノールは驚愕していた。
「あれほどにスリープクラウドを食らってもまだ眠らないの……!?」
普通の生き物なら食らえばたちまち抵抗しがたい眠りが訪れる魔法、スリープクラウド。
かけられた人物がかけた人物よりもメイジとしてのランクが高ければ効きが悪いという話は聞いたことがあるが、これは明らかにそのレベルでは済まされない。
「特定の魔法が効かない種族………」
例えば火竜などは火の魔法が効きにくい種族である。
火竜山脈に住まう彼らにとっては火の魔法など、普段から溶岩の近くで暮らしているのだから何とも無いのである。
だがそれですら不思議である。
暮らしている環境にあわせた結果魔法が効かないのならわかる、しかしスリープクラウドが効かないのはそれでは説明がつかない。
「特定ではなく、もともと魔法の効きが悪い種族?」
それならば説明がつくが、そのような生物はメイジにとって脅威となる存在である。
まさしくそれはメイジ殺しというべき特性だ。
「試せばわかる……!?」
思考の海から戻ってきたエレオノールが見たのは
「ちょっと大きすぎる隙なんだにゃぁ。」
爛々と輝くニャーの目だった。
「食らうにゃ!目から…」
ビーム!
「ぐ……!」
ニャーの放ったビームは呆気なくかわされ、砂埃を巻き上げるだけである。
「…ふふ、隙があると言ったわりには、当てる気が無いのかしら?」
「無いにゃ。」
「!」
そうこれはお膳立て。
時間稼ぎの為のお膳立て。
「今にゃ!ダンナ!」
巻き上げる砂に更に勢いをつける
砂キック!
砂キックは見事メイジ達を目くらましすることが出来た。
「ぐあぁあぁ!!目が!!目がぁぁ!!」
「いてぇよぉぉぉ!!」
「なんだこれは……力が…!」
叩きつけられたとはいえ、明らかにメイジ達の様子がおかしい。
鍛えられた軍人達が尋常でない怯みようをみせている。
「何をやってるの…あなた達…!!砂が目に入っただけでしょう…!?持ち直しなさい…!!」
かくいうエレオノールも目を開けることができない。
一体何が起きているのか?
その秘密はこの砂キックが単なる目くらましでは無く、相手の戦意を削ぐ事も狙った技、ガッツダウン技だからである。
ダンナ達モンスター、その他生き物には行動するための気力、ガッツというものが存在する。
これを奪われると目と鼻の先に敵が迫っていようと、何一つ行動を起こす事ができないのだ。
それをまともに食らってしまい、彼女達は気力を削がれているのだ。
そしてガッツダウン技は相手の攻撃を封じ、尚且つそれによってこちらが望む距離へ向かう事ができる技でもある。
ダンナは怯んでいるメイジ達に向かって突っ込んだ。
「!避けなさい!突進してくるわ!」
視界を僅かに取り戻したエレオノールが体当たりの構えをとるダンナの姿を朧気ながらとらえた。
「うわぁ!」
「跳びのけぇ!」
メイジ達が開いた道をダンナが爆走する。
そのまま檻にぶつかるも、ダンナの体当たりは檻に少し穴を開けるだけ。
(充分だ。)
ダンナは大きく息を吸い込み、紅蓮の炎を吐き出した
火炎!!
火炎は見事檻にくり抜いたような大穴を作るのだった。
(走り抜けるぞ。)
「はいにゃ!」
「今……火を吐いたわ…あの竜。」
未だガッツダウン状態のエレオノール
「地を駆け、魔法に耐性があり、人語を理解し、火を吐く竜………。」
視界を取り戻した彼女はその姿を見て
「絶対に逃がさない!!」
先程まで以上にガッツを燃やし始めていた。
「あなた達!しっかりして!檻から逃げたわ!追いかけて!」
「は、はい!おいお前ら!しっかりしろ!目標が逃げたぞ!」
「く!檻の外を任されていたのに……不覚!すぐに追いかける!」
エレオノールの燃えさかるガッツは他のメイジ達の萎えた心にも火をつけた。
「にゃにゃ!?もうガッツが回復してるにゃ!?」
(あれを食らってか…やりすぎたかと思ったぐらいだったのだが…まずいな。)
二人は予想より早く復活したエレオノール達に焦りをおぼえていた。
(いくらか技をくらっているこの状態では……。)
ダンナは檻を飛び出たまでは良かったが、スリープクラウドを食らっているその体ではこのままのペースで走れない。
徐々にペースダウンしていく。
その二人の前に鏡のような物が不意に現れた。
「あれは……!!」
(追っ手の技か!?)
ダンナは急ブレーキをかけ、避ける体勢に入る。
「いや、大丈夫にゃ!あれに飛び込んで!」
(なに?何を根拠に……)
「逃がさないわよ!!地竜!!」
エレオノール達はすぐそこまで迫っている。
「ダンナ!迷ってる時間は…」
(無いのか!!)
ダンナは意を決してその鏡に飛び込んだ。
(なんだこれは……)
ダンナ達が飛び込んだその先は明るい光が溢れる世界だった。
目を閉じたくなるほどの眩い空間だ。
「ダンナ、もう大丈夫にゃ。直ぐに僕達の新しい居場所につくにゃ。」
(新しい居場所?)
「そうにゃ。僕達はそこで僕達を呼び出してくれた人と一緒に暮らすんだにゃ。」
(…………)
「………ダンナ、僕はあなたに言ってない事が沢山あるにゃ。でもきっといつか話すにゃ、だから…」
(分かっているお前に害意は無い。お前の事を信じているよ。)
「ありがとうにゃ。ダンナ。それと、さっきのダンナの質問の答えにゃ。」
(…私はどんなモンスターだったか…)
「ダンナはどんな勝負にも手抜きはしないけど、相手を傷つける事を楽しんだりなんかしないにゃ。みんなのヒーロー、優しくて強いディノ、ダンナにゃ。」
(…そうか、私は優しくて強い…)
「そうにゃ。あなたはとても心優しいヒーローにゃ。」
二人の会話が終わると光が一つの場所に収束しはじめた。
「ダンナ。もうすぐ外にゃ。」
その光は二人を吸いこむように引き寄せる。
そして彼らはその光に飲み込まれるのだった。