どうもゲレゲレです。
他に魔法少女リリカルなのはSTSの二次を書いており、またなろうでもオリジナルを書いている時期がありましたが、文章には全く自信がありません。
現実でも空手とボクシングをやっており、格闘技が非常に大好きな男です。
こちらの二次小説は、もう一つの息抜き程度に考えているので、更新ペースは遅めですが、誰かしらの触角にハマれば幸いです。
では、拙い文章ですがよろしくおねがいします。
何度も何度も、そして何度も問い返してきた言葉がある。
最強って何だ?
最も強いと書いて最強っていう、いかにも馬鹿が考えたような二文字が、俺にとっての人生だと思ってる。
その問い返しよりも更に多く、何度も何度も繰り返してきたことがある。
一千、一万、一億――――それ以上と言っても過言ではないくらいに、反復し、練磨し、突き詰めてきもの。
それは空手だ。
俺にとっての空手は、先の言葉と同じく人生だ……が、こと俺に至って空手というのは一つの“手段”でしかない。
何故なら俺が極めたいのは“強さ”であって、“武”ではないからだ。
矛なんて止める気もなければ、隠す気も無い……だってそれが生き方だから、俺のアイデンティティだから。
最強という言葉を諦めた他人からは無駄だと言われ、世間からはステータスではなく見世物としてしか見られていないとしても、俺はこの道を進み続けたい。
だからこそ探した――――この熱い気持ちをぶつけられる相手を、俺が倒すべき最強と思われる相手を、いい女を物色するよりも、自分の好みの食事を見つけるよりも、何よりも大事な人を探すよりも深く、血眼になって探したんだ。
◆(1)
都会の早朝というのは、なんとも寂しいものだ。
朝の通勤時間から深夜の賑わいまで、眠らぬ街と言われても納得してしまいそうな光景は、今は見られない。
左右に見える、まるで城壁の様に佇むビル群は明かりも消え、シャッターも閉じられ、普段なら常に渋滞に近い状態の大通りも、こと朝の4時過ぎにあっては田舎の道路と対して変わりない。
道端には金曜の夜に飲みすぎて、その場で寝込んでいるスーツ姿の男性も見られれば、クラブ帰りなのかフラフラと千鳥足で歩いている女性たちも伺える……完全に遊び疲れたのであろう、その誰一人として煩く騒いだり、また昨日の夜の様な行動を取ろうとはしていない。
そんな早朝の爽やかさとは無縁な光景を目端に流れさせながら、一人の男は都会の大通りをバイクで走り続けていた。
ジェットヘルメットにバイク用グローブを嵌めた男は、黒の革ジャンに防風性のジーパンと編み上げ靴を身に着け、アメリカンな外見ながらも四気筒の愛車を走らせながら、只管に目的地へと思いをはせていた。
(中国ねぇ……人は多い割に、本物は少ないって印象しかなかったけど。本当にいるんだろうな、伝説の剛拳ってのはさぁ)
男がバイクで向っている先は、ここ日本のハブ空港であり、彼が走っている道はそこに続く国道であった。
サングラスとシールドのせいで顔は伺えないが、その革ジャンからでも分かる隆起した筋肉や、ジーパンを膨らませる程に鍛えられた太腿が、非常にバイクとマッチした体系をしており、早朝の道路を颯爽と走る姿は随分と様になっていた。
四気筒のエンジンと別途で購入し取り付けたマフラーから流れる音が、彼の耳に爽快感を与え続ける中、ふと正面に不可思議な光景が広がっていた。
それは、都会から少し離れ、海を渡るために街のシンボルでもある橋の上を走っている最中だった。
確かに片側4車線という広さで、また朝も早い事もあって男以外に走っている車は無く、上方にも障害物は無い場所ではある……だからといって、その道路のど真ん中に一機のヘリが停まっていれば、誰だって走るのを辞めて呆然と眺めてしまうだろう。
例外なく、さっきまで気持ちよく走っていた男もエンジンブレーキをかけ、緩やかに愛車を停めてしまった。
そしてサングラスとヘルメットを脱ぎ、バイクから降りてヘリの方へと歩いていく。
身長は180程度で、革ジャンを着ていたとしても理想的な逆三角形をした男は、ヘルメットを被っていたせいで汗ばんだ坊主頭を右手で摩りながら、ヘリの操縦席の前で足を止めた。
「よう、あんたここでなにやってんだ?」
まるで世間話とまでいかなくとも、随分と馴れ馴れしい問いかけに、非常識な場所にヘリを降ろしていた操縦士は、笑顔で彼に視線を向けた。
「よーう! チャンプ! こんな朝からどこにいくんだい?」
操縦士から発せられた言葉は、話しかけた男よりも軽々しく、まるで知り合いにでも話しかけているかのように陽気で、まだ朝のテンションが抜けきっていない男にとって、少しだけ面を喰らう形となってしまった。
いや、男が面を喰らったのは話し方だけではない、その言語についても要因があった。
「日本語が分かるんだな」
「あたぼーよ。一応、世界中動き回ってるからな!」
操縦士は席に座ったまま、男に自慢げな顔を向ける。
確りと剃り込まれた禿頭に、黒い肌によく似合うサングラスを掛けた操縦士は、ヘッドセットは着けているが、それ以外はどこかのメディア関係者の様なスーツ姿をしており、何らかの番組を受け持ったプロデューサーと説明されれば納得してしまいそうな雰囲気を醸し出していた。
男は、この一見陽気な黒人にしか見えない操縦士から、一か国でしか使われていない難しい言語が飛び出してきたことに驚いていたのだ。
「で、その世界中を飛び回ってる奴が、なんでこんな橋の上でヘリ停めてんだ? 事故るぞ」
しかし、驚いたのは一瞬であって、別に日本語を話す黒人ぐらい珍しくも無いので、すぐに現実に目を向けた男は、まずは状況の確認に入った。
黒髪の坊主頭をした、獣の様な鋭くも力強い眼をした男に問われた操縦士は、ヘッドセットを外して、徐に操縦席からドアを開けて出てきた。
背は男と同じぐらいで、柄物のワイシャツとスーツを身に纏ったカジュアルな姿ではあるが、その肉体の纏まりは素人でないのが伺える……男は操縦士の衣服越しでの肉体を観察し始める。
(胸板の厚み、腕と足の長さ、そして太さ……首の太さや背中の出来から考えるに、キックの類か)
「いやーよ、ちょいと用事があってね」
操縦士が喋る中、男は構わず彼の手元を見る。
(手首も太いな、おまけに拳も若干潰れてる。こりゃ当たりだ)
「この辺をあんたが通るって予想して張ってたんだよ。わざわざ交通規制してまでさぁ」
「……うん? 俺目当てか?」
ちょうど当たりを付けた所で、自分に用があったと言われた男は、一瞬反応が遅れたが意外そうな返事をする。
操縦士は、そんな彼に白い歯を見せながら話を続けた。
橋の交通を規制したという部分は、突っ込むと面倒そうなので男はスルーしていた。
「そう、あんただ。あんたに出てもらいたいんだよ、Dead or ALIVEによ!」
「デッド・オア・アライブ? ああ、あれね、知ってるぜ。DOATEC(ドアテック)主催の」
「そう、そのデッド・オア・アライブだ! 略してDOAってな。それにあんたに出場してもらいたいんだよ!」
デッド・オア・アライブ……過去にも何度か開催された事のある格闘技のイベントで、世界各国から選りすぐりの闘技者たちが集まると言われている。
そのバリエーションは豊かで、若者から老人、システマから総合格闘技まで様々な者達が強さを争う場所だ。
だが、この大会には色々な噂も飛び交っており、あまり良いイメージが無いのが一般的な考えであるが、出場者のレベルが“様々な面で”かなり高い事から、熱烈なファンも世界中に存在している。
「DOATECはDOAから手を引いたって聞いたが? 確か2年前にビルが崩壊して、それの処理で忙しかったんだろ? 主催はどこがやるんだ?」
「まあな、だが今回は新生DOATECの主催だ! エレナ様をトップに置いた新体制で再スタートするんだよ! そこに、現総合格闘技界NO.1のあんたに出てもらいたいんだ」
男の疑問に対し、身振り手振りを交えて話す操縦士。
男が話したDOATECとは、世界でも有数というより、もはやトップと言っても過言ではないくらいの巨大重工業企業体(コングリマット)の事であり、その財力とコネは財界だろうが政界だろうが手が及ぶ程の影響力を持っており、この企業名を知らない者はほぼいないのではないかとされている。
そのトップが変わった……あまりの初耳に、男は少しだけ首を傾げた。
「再スタートって、トップが変わったなんてネットにも新聞にも出てなかったぞ?」
世界に影響を与える程の企業体を束ねるトップが変われば、少なくともニュースに目を通す習慣を付けている者ならば、その情報は既に得ている筈なのだが、男の記憶の中には全くもって覚えのない事で、思わず首を傾げてしまう。
「そりゃそうだろ。だって今日発表するんだからよ」
困惑する男に対し、黒人の操縦士はさも当たり前の様に答える。
「そりゃまた随分と急だな……いや、まあそんなものか」
「そうさ、そんなもんさ。だからよ、再スタートをきったDOAを盛り上げるためにも、いま一番ネームバリューの高いあんたが必要なんだよ!」
操縦士の言い分も分かる、確かに一時期自粛というより撤退していた格闘技のイベントを再スタートさせるのならば、大物を呼び寄せて派手に開催する方が、一番の宣伝にもなるし、また以前の様な勢いを取り戻せるかもしれない。
おそらくは施設費用、宣伝費用等も他の団体とは比べ物にならないくらいに金を使う事だろう……そうなれば、出場選手への支払額や優勝賞金も破格の物になるに違いない。
これは喰いつかない理由はないかと思えた条件であったが、男は至って興味無さそうに口を開いた。
「いや、誘ってもらって悪いんだが、俺はいまいちDOAには興味が出なくてな……あれ、なんだっけ。第一回大会の時にあった“デンジャーゾーン”ってやつ? あれの話を聞いちゃうとよ、どうも戦う気にならねえんだ……まるで金持ちの道楽にされてるみたいでよ」
「デンジャーゾーン? あぁ、あの闘技場に仕掛けられたトラップってやつか。安心しな、そんなものは気になんないぐらいに楽しめる筈だぜ、あんたならよ」
デンジャーゾーン……DOAの名前の由来にもなっているトラップで、プロレスの様な有刺鉄線よりも激しい仕掛けが闘技場には仕掛けられている。
時に電流、時に爆薬と予測できないものもあり、そのせいで死者も出ているために一般の格闘技とは違って、TV中継されない闘技場もあるのだ――――そういった場所ではどのような客が楽しんでいるのか?
そんなものは決まっている、苦痛にゆがんだ顔が好きなサディストか、人の殺し合いを観戦するのが好きな異常者だ……また、殺し合いに直結しかねないステージ故に、その観戦料も高く、とても一般人が取れる客席チケットでは無いのだ。
しかし、ならなぜ人気なのかと言えば、準々決勝からは他よりもまともなステージで行うので、それだけは一般にもTV中継等で公開されるために、世界での周知率も高くなっているという訳なのだ。
「へえ、なんで分かるんだ?」
デンジャーゾーンについて嫌悪感を示している男に対し、若干挑戦的な言葉を吐いた操縦士は、訳知りな口調で答えた。
「あんたの眼を見れば分かるんだよ、餓えてるだろスリルに? いや、正確に言えば戦いにだ。大丈夫、DOAは絶対にあんたを満足させてくれる筈だぜ?」
「満足ねぇ……これからそれをしに行こうって時に、こうやって邪魔されてる俺の身になって考えてみな」
男はそう言いつつ、徐に革ジャンを脱ぎ捨てた。
脱ぐ際に、相手から視線は外さず、常に臨戦態勢を取っていたために、場の空気が張りつめた物に変わる。
操縦士もそれを感じ取ったのか、若干呆れた様なジャスチャーを両手で取りつつ、男から距離を取る。
「おいおい待てって。俺はあんたとやり合うために来たんじゃねえし、出場資格があるかどうかのテストをしに来たわけでもねえ。ただあんたをスカウトしに来ただけなんだぜ? なのにいきなり、そんなギラギラした眼を向けられるとよ……」
刹那、もともと3歩程度の間合いから2歩後ずさっていた筈の操縦士が、アスファルトの地面を蹴り出し、右の前蹴りを男の胴体へと蹴り出す。
鋭く、まるで槍の様な前蹴り――――革ジャンを脱ぎ、Tシャツ姿となった男は、自然体のまま口端を吊り上げる。
「っ!」
操縦士の前蹴りが男の鳩尾に突き刺さる。
鍛え上げられた腹筋と大胸筋、そして胸骨や肋骨弓の隙間に突き刺さった、操縦士の尖った革靴越しの前蹴りは、本来であるならばそれだけで勝負を決めるのに値する一撃だった筈だ。
しかし、男は耐えるために溜めこんだ息を「ふう」と吐くと、前蹴りを引いて動揺している操縦士に、まるでこれから世間話でもするかのように声を発した。
「なかなかだ。初速や軌道、タイミングに威力も申し分ない……だがな、足りねえな。俺にダメージを与えるには少し足りない」
「へへ、そいつあ残念だぜ」
男から発せられ始めている威圧感に、前蹴りを引いた後、思わず両手でファイティングポーズを取ってしまっていた操縦士は、ゆっくりとその構えを解いていた。
打たれ強さのレベルが違いすぎる……いかに来ると分かったうえでの受けとはいえ、あれを喰らった後に普通に喋っている時点でノーダメージである事が伺える。
また、操縦士の足に残る感触はクリーンヒットによる爽快感ではない……分厚く、中に鉄柱でも仕込んであるかのような物体を蹴りつけた、そんな痛みが残っていた。
「で、次は何をしてくれるんだ?」
「いや、これで終いだよ。実力は分かったからな」
「そうか、そいつは残念だ」
そう言って男は、革ジャンを地面から拾い、流れのままそれを着込んだ。
戦うのは止めた……暗に、そう告げる仕草であった。
「一つ聞きたい、お前の名前は?」
革ジャンのファスナーを上げた男は、目の前の操縦士にそう尋ねた。
すると操縦士は、胸ポケットから一枚の名刺を取り出して、それを男に気取った仕草で弾き、投げ渡した。
右手で飛んできた名刺を受取り、男はそのまま名刺に書かれた文字を読む。
「ザック……そうか、あんただったのか。DOA第三回優勝者で、自己流のムエタイを使う格闘家」
「知ってたのかい?」
「いいや、経歴だけだ。DOAは見てないからな。結果だけは知ってるんだが、選手の詳細までは知らん」
「そうなのか? 俺はてっきり、これからゲン・フーに会いに行くって聞いてたから、DOAの参加者については知ってるもんだと思ってたんだが」
ザックと呼んだ操縦士に、男は片眉を吊り上げ「なぜそれを知っている?」と尋ねた。
その視線には敵意は無く、別に行き先を知られようと構わないが、ただ興味が湧いただけという素直な感情が見て取れた。
ザックは彼の疑問に対し、隠し事などする気も無いとばかりに軽々しい口調で答える。
「あんたをここで待ち伏せるために、それなりに身辺調査はさせてもらったからな。これぐらいは朝飯前よ!」
「そうかい。なら、お前なら伝説の剛拳とか言われてる爺の居場所は知ってるんだな」
「いいや、知らねえよ? だってあの爺さん、今はそのへんウロチョロしてるからな。住んでる場所にいっても、大体留守にしてるしよ」
「……ふん、残念だ」
男はため息交じりにそういうと、受け取った名刺をその辺に投げ捨て、ザックから背を向けてしまう。
「お、おい! 待てって!」
自分のバイクへと歩いて行ってしまう男をザックが呼び止めようとするが、男は関係ないとばかりに歩みを続け、バイクのハンドルに手を掛けた。
「俺が今興味あるのは、ゲン・フーとやらだけだ。他は興味ないし、DOAに参加する気も無い」
「いやいや、待てよ! おたくがゲン・フーの爺に会いたいのは分かったけどよ、そんなに悪い話じゃない筈だぜ? 実際、ゲン・フーの爺だってDOAに出てたんだしよ!」
「……今回も出ると? 居場所も分からないのに?」
バイクに跨り、チョークを引いてエンジンを掛けた男は、ヘルメットを被りながら駆け寄るザックに問いかける。
しかしザックも、いま男を逃すと後々面倒になると考えているため、バイクの前に立ちはだかると、焦った様子で捲し立てた。
「居場所なんてこれから探したって間に合うから、ちょっと待ってくれって。まだ開催するまで期間も空いてるし、何より選手だって選別中なんだからよ! ゲン・フーの爺以上の奴が出て来たって不思議じゃねえだろ? あ、あれも出るぜ! スペインのミラ! あんたも同じ畑なら知ってるだろ? 数々の総合格闘技団体のベルトを持ってる、新鋭の女チャンプをさ! あれが出るならあんたも満足……」
「出来ねえな。所詮小娘だろ? 一回見たが、ありゃアマチュア意識から脱せてない、ケツの青い餓鬼だよ。俺と比べる奴もいるらしいが……正直見当違いにも程がある。まず俺のバックボーンは空手だ、MMAじゃない」
「そんな事ねえって! 俺が前にテストした時は、やっぱ強かったんだぜ?」
「昔のあんたがどの程度のレベルだったが知らないが。今のあんただったら、俺は2分以内に沈められる自信がある」
「かもしれねえけどよ! もうちょっと話を聞いてくれよ! 中国のジャン・リーも出るし、ドイツの空手家のヒトミ、アメリカのバースも出るんだぜ!?」
「ジャン・リーは知ってる、昔のアクションスターみたいな戦い方をする奴だろ? 確かに強くは感じたが、俺が戦いたいのはゲン・フーだ。今は興味を持てないな」
そう言って、男は自分のバイクのエンジンに火をともし、四気筒のエンジン音を周囲に撒き散らし始めた。
クラッチを握りながらアクセルを回し、エンジンの回転数を上げて安定させるとギアペダルを踏み込み、Nから1速へとギアを切り替える。
「待て待て待てって! いや本当に待ってくれって! 興業を成功させるにはアンタがどうしても必要なんだよ!」
「俺じゃなくても、既存の面子でやってけるだろ?」
「ファンだって誰に出てもらいたいかの投票で、あんたが1位になるぐらいに期待してるんだぜ?」
「ファンは知らん。俺は人生で一度も人のために戦った事は無いからな」
「なら俺が爺さんを呼ぶから! 絶対に見つけるから! 頼むよなあ!」
「つてはあるのか? さっきは居場所も分からないって言ってたくせによ」
「つてなら有る! 爺さんの弟子のエリオットってのが出場するからな! そいつに聞けば何かしらは分かるだろ」
ザックの言葉に、男の触角が動く……。
ゲン・フーの弟子――――聞いた事は無いし本人の実力も知らないが、DOAに出るぐらいならそれなりの情報は持っていると期待は出来るし、なにより前哨戦として、伝説の剛拳の技を教わっている弟子と戦うのは決して無駄にはならない。
男は愛車に跨りながら、暫く一考する……。
突然黙り込み始めた男に、ザックは手ごたえありと見たのか、次に出てくる言葉を待つ傍ら、交渉材料を自身の頭脳の中から無数に引っ張り出し始めていた。
すると、男が口を開く。
「良いだろう。ただし、まずはその弟子に会わせろ。そいつがもし情報を知らない、俺の求める実力を持っていないのなら、出場の件は本当に断らせてもらう」
瞬間、サングラス越しのザックの表情が一気に破顔し、大口を広げて喜び始める。
「本当か! よっしゃ!! これで上にも顔向けできるってもんだ!」
両手を広げて喜ぶザックをよそに、男はヘルメットを脱ぎ、自身の携帯電話を革ジャンの胸ポケットから取り出すと、予約してあった航空チケットをキャンセルするために電話を掛けた。
その様子をザックが嬉々とした目で――――といってもサングラスで見えないのだが――――眺めていると、キャンセルがすんだのか男が携帯電話を革ジャンの胸ポケットに仕舞い込み、跨っていたバイクのエンジンを切って降車した。
「バイクはあんたらに預ける。さっきから俺の事を警戒してる奴等にでも運ばせろ」
バイクから降りた男は、そのキーをザックに手渡すと、周囲にいるという何者かに聞こえる声量で指示を出す。
随分と偉そうな態度だが、男の言葉を間近で聞いたザックは「なんだよ、あんたも気付けちゃう人間だったのかよ」と驚いた顔をしていた。
「趣味が悪いとしか言いようがないな。俺の事を犯罪者か何かと勘違いしてるんじゃないのか? 俺はただの格闘家なのに、敵意まで向けられちゃ機嫌も悪くなるってもんさ」
「そいつは悪かったな……お~い! そういう訳だから、すぐに出て来てくれ!」
ザックがこの周辺一帯に聞こえるぐらいの大声で呼び出すと、橋の左右から総勢で6名の屈強な男たちが手摺を伝って姿を露わにした。
皆、其々に防弾ジョッキや活動服、編み上げ靴に無線機、更には銃火器といった重装備なのにも関わらず、足取りは軽くザックのもとまで歩いてきた。
目の前に現れた武装集団に、男は「物騒だな、おい」と改めて警戒し始める。
そんな臨戦態勢に入り始めた男を見て、ザックは「気にすんなって。こいつらは言わば俺のボディガードってやつだからさ」と言って、男の警戒心を無意識に煽り始める。
「たった一人の格闘家に、こんな装備をした男を6人とは……随分と用心深い事で」
「まあしょうがねえよ。仕事柄ヤバい奴と交渉したりもするからな、俺は」
「かといって、銃を持った人間に囲まれるのは良い気がしねえな……」
男は周りを見渡す……確かに周囲の武装集団には既に敵意が無く、よく見れば全員の銃火器は安全装置が掛かっており、それを使用する気が無いのが伺える。
表情も険しくはあるが、もう仕事をする必要は無くなったと気を抜いた様子だ。
一人は寝技が得意そうな体格をしており、また一人はザックと同じキック系統の体格……他の男たちも、皆一様に格闘技を修めている体つきをしている。
これは――――と、男が胸中でニヤリと口端を歪めた。
「そういえば、まだ俺の名前を言って無かったな」
「ああ? いや知ってるから別に良いって。事前に調べてあるし」
男からの提案に、ザックが首を傾げる。
しかし、男は「いいから、一応初対面だしな。こういう挨拶ってのは大事なんだよ」と言って、ゆらりと右手を差し出した。
ザックは男が握手を求めているのだと理解すると、案外律儀な奴なんだなと感心しつつ、同じ右手を差し出そうとする……その時だった。
「っ!?」
ザックの右手と、男の右手が重なる刹那――――突如、男がザックの右手首を右手で掴むと、相手の驚いた硬直によって発生した力みを利用した技を掛ける。
小指側の掌で相手の手首を斜め下に押し込み、ザックの右ひじを真っ直ぐに固定させ、関節の連動を利用して右肩まで肩鎖関節に押し込む。
すると、ザックの姿勢が瞬間的にピンとした棒立ちになった……かと思えば、次の瞬間にはザックは男の右手一本で後方へと投げられ、自身のボディガード二人に背中を衝突させてしまう。
約180㎝の大の男を投げつけられたボディガード二人は、あまりにも突然の事に支える事すら出来ずに巻き込れ、アスファルトの地面に背中と後頭部を打ち付けてしまう。
しかし、その一部始終を見ていた他の4名のボディガードが、全員一様にホルスターから拳銃を抜き放つと、それをザックを投げた男へと構える。
「動くな! 両手を後頭部に回して地面に伏せろ!」
男から見て右斜め前にいたボディガードからの警告。
しかし、男はそれに答えることなく、既に次の標的へと左の拳を放っていた。
ザックを投げた流れのままに放たれた左の正拳は、男の右後方にいたボディガードの人中に突き刺さり、前歯を折り、頭蓋骨の前面に亀裂を走らせた。
そして、その回転をピタリと止めた男は、次の標的に背中を向けたまま足をスライドさせ接近を果たすと、右の後ろ蹴りを放つ。
下から上方に、まるで高射砲の様に放たれた上段の後ろ蹴りは、ボディガードの顎先を抉り抜くと、音も無しに大の男の意識を刈り取った。
ここまで来ると、残りのボディガード二名も容赦を捨てて、構えていた拳銃で男を狙い撃つ。
狙う箇所は足と肩……急所は狙わず、大会出場に支障のない所を狙った発砲。
だが、そのどれもが男には掠りもせずに、次なる標的が餌食となってしまった。
今度は飛び膝蹴りだった――――正面から二方向の銃撃を躱し切り、さっきまでザックの右手側に立っていたボディーガードの顔面を陥没させた男は、着地する隙を殺す為に、飛び膝の際に頭を掴んでいた標的の体を無理矢理射線上へと置いた。
瞬間、この橋から発砲音が消える。
既に残っているのは、今さっき動くなと警告したボディガードただ一名。
男が意識を失った相手をその辺に投げ捨てると、拳銃を構えていたボディガードが左肩から大きなナイフを抜いた。
この世界は広い……銃撃を正面から避ける人間もいれば、異形の者と戦う一族が存在するという話もあるし、それが発端で軍が動いた事もあるのだ。
最後に残ったボディガードはそれを理解しているために、拳銃や自動小銃が役に立たないと知るや否や、自身が最も信頼できる接近戦を選択したのだ。
「いいねえ。ザックを除けば、あんたが一番出来そうだったからな……」
男は構えを取っていない。
両手をだらりと脱力し、まるで呆然と立っている様にしか見えない自然体だ。
ボディガードの男は、夜間なら見辛くなる黒い刀身のナイフを右手に握り、その切っ先を相手に向けた半身の姿勢を取っている。
おそらくは最小限の動きで相手を切り裂き、確実に仕留めるための構えだろうと判断した男だったが、次の瞬間に目を見開き、コマ送りかと思えるウェービングで突如飛来した物を開始した。
飛んできたもの、それはボディガードが構えたナイフの刀身だった。
スぺツナズナイフ……旧ソビエト連邦の特殊部隊が使用したとされる、刀身が射出可能なナイフ。
これを初見で躱した男だったが、上半身を自然体の位置まで起き上がらせた時には、ボディーガードが自身の懐に入り込んでいた。
ボディーガードが男の顎を打ち抜こうと、最小限の挙動で右ストレートを放つ。
その動きはジャブと変わらない、正に当てるだけの右ストレート……しかし、剥き出しの拳であるのなら、ましてや鍛え抜かれた男の拳ならば、それが当たっただけでも相手を怯ませることができる。
タックルでのテイクダウンも頭にはあったが、ボディガードは耐えられるリスクを考え、そちらを取ったのだ。
しかし、その拳は男の顔に掠りもしなかった。
ボディガードは目を疑った。
さっきまで正面にいた男が、既に自身の左側へとサイドステップをしていたからだ。
そして次の瞬間には、ボディガードの視界はブラックアウトを起こす。
意識は無い、思考もできない、ボディガードはそのまま膝から崩れ、眠る様にアスファルトの地面に沈み込んだのだった。
ボディガードの意識を刈り取ったのは、超至近距離での左上段蹴りだった……まるで雛鳥を包み込む親鳥の翼の様に相手の後頭部へ吸い込まれていった男の足の甲は、その驚異的な柔軟性からは考えられない程に堅く、そして速かった。
最小限の挙動で繰り出された右ストレートの更に“内側”を取った軌跡は、男の蹴りが常人の手の動きよりも遥かに素早い事が分かるもので、傍から見れば交差際にボディガードが倒れたとしか思えない光景だったであろう。
男は既に左足を引いて地に着け、先ほどザックを投げ捨てた方向へと視線を向けている。
「いや~見事なもんだね。驚いちゃったよ全く」
「あんただって、これぐらいは出来るんじゃないのかい? DOA第3回優勝者さん?」
ザックは投げられたとしても外れないサングラスをかけ直し、その辺に落ちていたヘッドセットを再び頭に着け、服に着いた埃を払っている最中であった。
彼の足元には後頭部をアスファルトに打ったものの、意識がはっきりしているボディガード二名が胡坐をかいて座っていた……おそらく、彼に手を出すなとでも言われたのであろう、仲間が目の前でやられたため不満顔を隠そうともしていなかった。
「まあ出来るっちゃ出来るけどよ……取りあえず、ヤバそうなのがいるから救急車呼んでもいいかい?」
「どうぞご勝手に。俺は先にヘリに乗らせてもらうわ」
「どうぞご勝手に……あ~もしもし?」
ザックは勝手にヘリの方へと歩いていく男の背中を眺めつつ、胸ポケットから取り出した携帯電話で119番を押し、今の間に負傷した者達を地元の救急部隊に預け、残りの者達には置き去りにされた男のバイクの回収を命じた。
そして、粗方の指示を飛ばしたザックは、次に衛星回線を通した国際電話を行った。
呼び出し音はものの数秒で鳴りやみ、目的の人物へと電話が繋がる。
「あ~エレナ様? 私です! ザックです!」
『あら、お疲れ様ザック。調子はどうかしら?』
現代の国際電話と言うのは非常に性能が良く、電話越しに聞こえる音声も普段と同じものであるために、そこから聞こえてくる女性の声は非常に艶があり、そして気品が感じられるものだった。
ザックはその声が聴けただけで、俗物的な気持ちが湧き上がるのを感じたが、それよりも優先すべきことがあったために、邪念をそのへんに吐き捨てていた。
「ノブナガの勧誘に成功しました! 今からノブナガを連れて、船に戻ります! 待っててくださいね~エレナ様ぁ!」
『ふふ……ええ、楽しみにして待ってるわ』
電話から聞こえてくる女性の声が、それを最後に途絶えた。
ザックは自身の報告が終わると、携帯電話を胸ポケットに入れると、意気揚々と自身が乗ってきたヘリの操縦席へと歩いて行った。
チェックなどしていません、ナマで投稿しちゃいました。
ええ、勢いで書いたものなので、勢いで進んでいく作品になります。
なので、ストーリーとか期待しないでください、ゲレゲレの頭は8ビットしかないので、難しい事は考えられないのです。