どうぞ
『__良かった。君を助けられて、本当によかった』
__またこの夢か、と俺は思った。ここ最近になって、随分と頻度が増したような気がする。
そこは冬木大災害の中心であり、衛宮士郎が生まれた場所でもある。
目の前に立っているのは、俺にとっては命の恩人であると同時に、今は亡き義父となった切嗣であった。彼は強く自分を抱き締めると__
『__ありがとう。生きててくれてありがとう』
『__諦めてはいけない、貴方は助かる』
__これも、まただ。
二つの映像が、同時に流れ込む。
前者は切嗣が俺を抱き締めた映像の続きだ。あの時のことは、俺は今だって良く覚えている。切嗣が俺を助けてくれたときのことを、俺は忘れたことなんて一度もない。
『__諦めてはいけない』
しかし後者の映像は記憶にない。
そこはあの大災害の最中であることに間違いは無い。夢であるはずなのにも関わらず、脳を直接刺激するような、人や建物が焼ける異臭がそれを証明している。
『__諦めてはいけない』
不思議だ。こんな地獄の真っ只中なのに、その声を聞くと安心する。一体誰なのだろう。声の主らしき人物はそこにいるはずなのだが、靄がかかったかのようにその姿を認識することはできない。
『__諦めてはいけない』
その人の言葉が頭の中で繰り返される。分かっている。俺は、こんなところで死ぬわけにはいかない。
『__ごめんなさい』
___え?
「いって…」
頭をまるで鈍器で殴られたかのような痛みと共に、俺は目を覚ました。俺が寝ていたのは校舎の廊下らしく、窓からは月の光が射し込んでいる。たしか俺は、慎二に頼まれた弓道場の後片付けを終わらせて…。
「なんだってこんなところに…!!」
起き上がり、制服の皺を整えようとした。しかしそこで俺は気付いた。
「なんだよこれ…」
制服の左胸のあたりが破れ、血が滲んでいる。咄嗟に自分の胸に手を当ててみた。微かに痛みがあるが、ワイシャツにまで血がべっとりと付いているにも関わらず、それらしい傷は確認できない。
自分が寝ていた廊下を見ると、そこにも確かに血飛沫があった。
「くっ…!!」
再び頭に激痛が走る。
それと同時に、混乱していた頭の中が整理され、あやふやであった記憶がフラッシュバックされる。
__校庭に響き渡る剣戟。
__その担い手は蒼と紅の二人の騎士。
__現代では目にすることはできない、まさに神話の再現。
「…思い出したぞ」
俺は蒼い男に気付かれ、校舎の中に逃げ込んだ。
『悪いが坊主、死んでくれよ…!』
必死で逃げたのにも関わらず、俺はその男に追い付かれて、そして胸を槍で突き刺された。
もう一度左胸を確認する。やはり、それらしき傷は見当たらない。だが自分はたしかに、あの蒼い男に胸を突かれた。
「どうなってんだよ…」
痛む頭を押さえながら、俺は廊下の血飛沫を拭き取り終わると呟いた。
「…ん?」
今まで陰になっていて気づかなかったが、先程まで横になっていた場所のすぐそばに何か落ちている。拾ってみると、それは紅い宝石のペンダントだった。
「なんだ…これ」
大型のルビーと思われるそれは丁寧に加工されていて、月明かりを通して紅い光を放っている。しばらく見とれていたが、放っておくこともできないので、とりあえずそれをポケットの中に入れておくことにしておいた。
家に帰宅し、服を着替える。
「うわ、こりゃひどいな…」
破れている上、血がべっとりと付着してしまった制服を見て、頭を抱える。幸い、今は藤ねえも桜もいない。余計な心配をかける前にこれをどうにかしなくては…。とは言うものの、やはり先刻に見たあの光景が頭から離れず、どうしたらいいものか全く思い付かなかった。
『死んでくれよ…!!』
蒼い男に、胸を貫かれた時のことを思い出す。
きっとあの男にとって、あの紅い男との戦闘は俺には見られてはいけないものだったのだろう。偶然それを見てしまった俺は、そのせいで殺されかけた。
「一体、あいつら何者なんだよ…」
頭を掻き、眉間に皺を寄せる。そしてその時、心の中で何かが引っ掛かっていることに気が付いた。
「待てよ、もしもあいつらが俺がまだ生きていることに気が付いたら…!!」
その瞬間、切嗣が生前仕掛けた家の警報が鳴り響く。
「__その通りだ坊主、まさか一日に二度も同じ奴を殺すはめになるとはな」
苛立った声と共に、殺気が肌を突き刺す。
天井の破壊音と同時に、蒼い男が頭上から飛び降りてきた。
「…っ!!」
男は落下の勢いに乗じて、俺に槍を突き刺そうとしてきた。横に転がることでそれを避けると、男は舌打ちをする。
「どんな手品を使ったか知らねぇが、悪いがてめぇにはもう一度死んでもらうぜ…!!」
男は畳に突き刺さった紅い槍を引き抜くと、再び俺に襲いかかる。鋭い横凪ぎの一閃。俺は手元に転がっていたポスターを掴み取り、即座に魔力を流した。咄嗟にそれを構え、男の一撃を凌ぐ。
「っ!?」
予想外の反撃に、男も驚愕する。
「…こりゃあ驚いた。坊主、魔術師か。…なら」
そう呟くと、男はニヤリと笑う。そして次の瞬間、男は槍の柄の部分で左肩を強打した。そのあまりの速さに体が反応しきれず、左肩はみしりと鈍い音を奏でる。
「がっ!?」
「ちったぁ楽しめそうじゃねぇか…!」
俺は左肩の痛みに耐えつつ、反撃しようと強化の魔術で加工したポスターを男に振りかざした。
「あらよっと」
しかしその一撃も男は軽くあしらうと、再びその槍で横凪ぎの一閃を放つ。
「っ!?」
防御に構えたにも関わらず、ポスターは呆気なく折れてしまい、体ごとその一撃にもっていかれる。縁側を通して中庭へと通じている障子を突き破り、俺は外に放り出された。
__殺される。
身体中を打ち付け、激痛が走る。
「なんだ、だらしねぇ」
男はそう言いながら中庭に降りると、転がったままの俺の元へと歩み寄る。
__殺される。
俺は息を上げながらふらふらと立ちあがる。そしてその視線の先に、土蔵があるのを確認した。このままではあの男に殺される。今は何か、あの男に対抗するための武器が必要だ。あの土蔵の中になら、まだ使えるものが幾つかあるはず__!!
__しかし
「おいおい、どこへ行こうってんだ?」
走り出そうとした瞬間、男がすぐ背後にまで迫っていた。
「おらよ…!!」
「__ぐっ!!」
男は俺が振り返った瞬間に、俺の腹を蹴り上げた。身体が再び宙を舞い、土蔵の方へと吹っ飛ぶ。土蔵の扉を突き破り、収蔵されていた道具の中に頭から突っ込んだ。
__殺される
土蔵の入り口へと、
「う…ぐぁ…」
頭を酷く打ち付けたためか、意識が朦朧としている。体を動かそうとしても、激痛がその自由を奪う。戦わなくてはいけない。戦わなくては殺される。何か、武器になるものはないか。しかし探そうにも、体が言うことを聞いてくれない。
「諦めな、坊主」
男の冷酷な声が、入り口付近から響き渡る。
「もしかしたら、お前が七人目だったかもな」
__殺される
『諦めてはいけない』
__!!
脳内に、再びあの声が響き渡る。
諦めてはいけない。あぁそうだとも、そんなことは分かっている。死にたくない。俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。何せ衛宮士郎は、未だ何も成し遂げていないからだ。
__だから、この状況を生き延びる方法を教えてくれ
__!!
__なんだ、これは
頭の中に、イメージが湧き上がる。
それは一振りの剣だ。美しい装飾が施された、黄金の剣。こんな剣は見たことがない。そのはずなのに、不思議なことに頭の中ではその剣の明確なイメージが映し出されている。
__あぁ、この剣が手元にあったのなら、俺は生き残れるだろう
__あの剣が、欲しい
__死にたくない、死ぬわけにはいかない
幻想だとはわかっている。それでも俺は、黄金に輝く剣に手を伸ばす__!!
「なに…!?」
「…!!」
男の声と、突然痛みだした手の甲により、意識が現実へと引き戻される。目の前では、覚えのない魔法陣が光を放ち、土蔵の中を眩く照らしている。暴風が吹き荒れ、男の表情から余裕を奪っていた。
次の瞬間、光が一層強まったと思うと、俺はあまりの眩しさに目を瞑ってしまった。
「__七人目のサーヴァントだと…!?」
男の声と共に、室内の光が弱まったのを瞼越しに確認すると、俺はゆっくりと目を開いた。すると、先程まで魔法陣があった場所に、あの蒼い男とは別の何者かが立っていた。
「__問おう」
__顔をあげる。そこには全身を鋼の鎧で包んだ、小柄な騎士が立っていた。
「__お前がオレの」
__威圧的な雰囲気を放つ鎧姿に反して、透き通るような声が兜越しに伝わってくる。
「__マスターか?」
__その力強い姿に、俺は見とれていたんだ。
「おい、聞こえてるだろ」
不機嫌そうな声で、その騎士が問いかける。
「あぁ、えぇと…」
あまりにも突然の出来事の連続に、言葉が出てこない。なにより、この騎士の言うマスターとは、一体なんのことなのだろうか。騎士は俺の手の甲に、痣のようなものがあるのを確認すると何やら満足げに頷いた。。マスターといいこの痣といい、一体何がどうなっているのかわからない。そんなことを考えていたら、騎士が土蔵の入り口にいる蒼い男の存在に気付く。
「もういい、お前はオレのマスターだ。ではマスター、早速だが、オレにあの青タイツを倒すよう指示を出せ」
騎士はそう言うと、俺を見た。どうやらこの騎士は、あの蒼い男と違って俺の味方のようだ。
「__あいつを、倒してくれ!!」
気が付けば、そんな言葉を放っていた。
「ああ、任された…!!」
騎士はその瞬間、まるで弾丸のように飛び出していった。
「ッく…!!」
そのまま繰り出された騎士の銀色の剣による一撃に、あの男も防御したが、大きく後退する。
「貴様、セイバーのサーヴァントか…!!」
男が騎士の剣を見ると、そう言った。
「当たり前だ。オレのこの姿を見てアサシンだのキャスターだのと言うやつがいたら、そいつは間違いなく間抜けだね。お前は…ランサーか」
ランサーと呼ばれた男がニヤリと笑って中腰に朱槍を構える。
「ご明察…!!」
ランサーはそう言うと、セイバーへと一機に駆け出した。
「最優のサーヴァント様のお手並み拝見といこうかっ!!」
「ごちゃごちゃ喋ってると、舌を噛み切るぞ…!!」
10メートル以上はあったはずのセイバーとランサーとの間合いが、ランサーの跳躍により一瞬で縮まる。ランサーの一突きをセイバーはいなすと、そのまま銀の美しい輝きを放つ剣をランサーに振り下ろす。
「はっ!」
しかしそれはランサーが槍先で弾く。隙の出来たセイバーに、ランサーは追い打ちをかけるように嵐のような連突を繰り出す。
「そらそらそらそらそらそらぁっ!!」
「チッ!!」
ランサーの怒濤の連撃を、セイバーはギリギリのタイミングで防ぎ続ける。しかし次の瞬間、セイバーは槍を弾いたかと思うとそのまましゃがみこんだ。
「なにっ!」
「オラッ!!」
しゃがみこんだセイバーは地面についた左手を軸に、ランサーの足に回し蹴りをする。ランサーがバランスを崩すと、セイバーは剣をそのまま振りかざした。
「くたばりやがれ…!!」
剣を振り下ろす。しかしランサーも即座にそれに反応し、朱槍を構えて直撃を防いだ。
「どうやら貴様、真っ当な騎士ではないようだな…!!」
鍔迫り合いをランサーが押しやることで終わらせると、セイバーがそれに答える。
「なに言ってんだ、お前。要は勝てばいいんだよ、勝てば」
セイバーが挑発的にそう言うと、ランサーは少し笑った。
「はっ、おもしれぇ…!! 」
再び開始される剣戟。槍と剣が衝突するたびに、火花があたりを照らす。ランサーは長身で、加えてあの長槍を手足のように操り、次から次へと高速で攻撃を繰り出している。リーチと素早さに関しては、ランサーがセイバーを上回っていることに間違いはない。
「チッ!!」
「おぉぉっ!」
にも関わらず、セイバーはランサー相手に対等か、それ以上の強さで渡り合っている。
セイバーの連撃をランサーが防ごうとする。
「はぁっ!!」
「くっ…!!」
剣を野球のバッターのようなスイングで振るい、セイバーはランサーの防御ごと吹っ飛ばした。俺は、セイバーの力に驚愕した。自分に圧倒的な強さを持っていたランサーに、これほどにまで優位にセイバーは戦っているのだ。しかしセイバーは、怒りの籠った声をランサーに浴びせた。
「舐めてるのかランサー、手なんか抜きやがって!!」
「…なんだって?」
俺は思わず声を漏らした。
「へっ、こちらにも都合があってね。生憎今お前と全力で戦うわけにはいかないのよ」
弾き飛ばされていたランサーが、体勢を整えながらそう言った。そしてそのまま、ランサーは石塀の上に登った。
「どこへ行く気だ」
セイバーが問いかける。
「マスターの命令でな…悪いがセイバー、貴様との決着は預けておく」
「臆病者め、逃げる気か…!!」
セイバーが唸る。しかしランサーはそれを聞くと、飄々とした態度から一変し、セイバーを睨み付けた。
「__勘違いするなよセイバー。次に会うときが、貴様の最期だと思え…!!」
「__!!」
ランサーはそう言い残すと、その場を立ち去った。セイバーもそれを追うことはなく、ランサーのいた虚空を睨み付けるだけであった。
夜の闇を駆け抜けながら、ランサーは先刻の戦闘を振り返る。
まずはあの紅い主従。話によれば、あれは遠坂という御三家の一角らしい。若いながらも、中々大した腕をもったマスターだった。気に食わないのは、そのサーヴァントだ。
「まったく、気に食わねぇ野郎だぜ…にしても」
ランサーは、セイバーとの戦闘を思い出した。
騎士道とはかけ離れたその豪快な戦術と、最優の名に恥じぬ戦闘能力。
「いいじゃねぇか…面白くなってきた」
ランサーはニヤリと笑うと、そう呟いた。
「戻ったぜ」
ランサーは拠点の館に到着すると、奥の部屋で待っているマスターの元へと向かった。
「えぇ…首尾はどうですか、ランサー」
そう聞かれると、ランサーは笑いながら答えた。
「ま、悪くないね。気に食わない野郎もいたが、中々楽しめそうだ。あの坊主がセイバーを召喚したときは少し肝を冷やしたぜ」
「…」
「何はともあれ、坊主が魔術師でマスターだってわかったんだ。お前が心配していたような、一般人を巻き込むなんてことにならなくて良かったんじゃないか?」
「そうですか…」
ランサーはそばに置いてあった椅子に腰を下ろす。
「どうした、湿気た顔して」
ランサーはマスターの顔を伺うとそう言った。
「いえ、その、貴方が怒っているのではないかと…」
「は?」
予想外の答えに思わず眉をひそめる。
「…貴方を、全力で戦わせる前に撤退させてしまいましたから」
「あー…」
ランサーはどうしたものかと頬をかいた。
「別に、なんとも思ってねぇよ。戦いたいのはそりゃそうだが、マスターの命令なら仕方ないってもんさ」
「…そうですか?」
あぁそうだよ、とランサーは答える。
「なんせ戦争はまだ始まったばかりだ。今後俺を好きなだけ暴れさせてくれるんなら、文句なんて言わねぇよ」
ランサーは笑いながらそう言った。
「そうだろ、バゼット?」
それを聞くと、バゼットも笑って答えた。
「えぇ、そうですね。期待していますよ、ランサー?」
ランサーは笑ったバゼットの表情を眺めた。
「いいねぇその顔。いつもそうしてくれりゃ、女らしくてこちらとしても嬉しいんだがね」
「なっ!」
ニヤニヤと笑うランサーに対し、バゼットは頬を紅に染める。
「なにを言うのですか、あなたは!!」
__それは、セイバーが召喚される数日前
男は冬木に着くと、共闘を結んでいる魔術師との待ち合わせ場所へと向かった。しかしその場所へ到着し、いくら待っても魔術師は来ない。
「アトラムのやつめ…何をしているのだ」
苛立ちのあまり、男はそう呟いた。しかしその直後、背後で何者かの異常な気配を感じ取った。
「…誰だ!!」
振り返ると、そこには頭まで隠れるような黒いローブに身を包んだ女がいた。
「…クリード様ですね?」
女がそう言うと、クリードは魔術礼装と思われるステッキを構えたまま、女に聞き返した。
「お前は…?」
「
クリードはそれを聞くと、構えていたステッキを下ろした。
「お前がキャスターか」
「あら、御存知で?」
キャスターがそう言うと、クリードは答える。
「…アトラムからお前の真名は聞いている」
クリードはキャスターを睨み付けた。しかしそれにキャスターも怯むことはなく、ただそう、と答えた。
「アトラムのやつはどうした?」
キャスターの口元が僅かに笑った。クリードはそれを見て少し疑問に思ったが、言葉を続けた。
「共闘者の迎えに自らは来ないとは…あいつも相変わらず失礼なやつだ」
元々アトラムとはそういう男だった。共闘者とはいえ、内心クリードはアトラムのそういった傲慢な態度を快くは思っていなかった。
「ところでクリード様、サーヴァントの召喚はまだなされていませんね?」
「あぁ…なんせ冬木に着いたのはついさっきだからな。そのうえ、アトラムから話は聞いているかもしれんが、私の召喚は少し特殊だ。そうすぐには…」
クリードがそう言うと、キャスターは言った。
「__なら、私がサーヴァント召喚の手伝いをいたしましょう」
「通常ではアサシンのサーヴァントは、
キャスターが柳洞寺にクリードを連れてくると、早速サーヴァントの召喚の準備に取り掛かった。なんでもこの場所は、冬木の町中から霊脈が集まっている土地らしく、召喚の成功率を上げるためにもうってつけらしい。
「そこで私は、ハサン以外のアサシンの召喚を試みるというわけだ」
キャスターが前もって用意しておいたという巨大な魔法陣の中心に、クリードは己のサーヴァント召喚用の魔法陣を描く。
「聖杯のシステムに直接干渉することになるため、通常では成功率は低い。しかし私が、クリード様が召喚を行っている最中、すなわち聖杯に接続している間にシステムに手を加えれば、クリード様が望む英雄をアサシンのクラスとして召喚することも可能となるでしょう」
キャスターがそう言うと、クリードはキャスターを睨み付けた。
「勘違いするなよキャスター!!これは私の力をもってはじめて成功するのだ!!そもそも、アトラムの魔術工房の作成に関しても、私の協力があったからこそ成功したのだ。故に、貴様が私に手を貸すのも当然なのだ!!」
「……」
クリードはそう怒鳴り散らすと、再び魔法陣の作成に取り掛かった。
「完成だ…」
クリードは手を払いながら言った。
「それではクリード様、触媒をこちらに…」
「うるさい、そんなことくらいわかっている!!」
キャスターがそう言うと、クリードはアタッシュケースの中から、何やら焼け焦げた木片のようなものを取り出した。
「これは…」
その聖遺物の秘めている神秘性に、キャスターも思わず声を漏らす。
クリードはその聖遺物を然るべき場所に設置した。
「それでは、召喚を開始する」
クリードが手を掲げた。
「__
。
「_____」
クリードが詠唱を開始すると同時に、キャスターも何やら呪文を唱え始めた。
「_____告げる」
「___ 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
魔法陣が輝きを放ち、魔力の風が吹き荒れる。
「____誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、 我は常世総ての悪を敷く者。」
「________」
キャスターの巨大な魔法陣も、鈍い光を放つ。
「____汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
「__成功だ」
クリードの魔法陣の中心に、圧倒的な神秘を放つそれはいた。耐久力よりも敏捷性を重視した革と鉄の鎧に、黒いマントを羽織ったその男は、クリードのことを無言で見つめる。そのハサンとは異なる容姿を見ると、クリードは召喚の成功を確信する。
「__は、ははは、成功したぞ!!」
クリードは興奮のあまり先程までの怒りを忘れ、 後ろにいるキャスターへと振り返った。
「__えぇ、ご苦労様」
「…は?」
ずきり、と胸の痛みを感じる。クリードが見ると、そこには歪な形をした剣が、己の胸に突き刺さっていた。
「!?」
それと同時に、腕に違和感を感じとる。慌ててみると、そこにあったはずの令呪が存在しない。
「な、なんだこれは…!?」
次の瞬間、足元に魔法陣が現れたかと思うと、それは魔力で編まれた鳥籠となり、クリードから自由を奪った。召喚されたアサシンと思われる男も同様に、鳥籠により拘束される。しかりクリードと異なり、この男の表情には焦りがない。
「だ、だましたのかっ!!」
鳥籠の中から、キャスターへとクリードが叫ぶ。
「あら、なんのことかしら?」
キャスターの口元が歪む。
「令呪を、返せっ!!」
先程まで刺さっていた奇怪な剣が、気がつけばキャスターの手元にある。
「召喚したのは私と貴方…むしろ九割以上が私のおかげ。それなのに私が令呪を持っていることが、何か間違いなのかしら?」
「な、に…?」
クリードが呟く。
「気づいてなかったようね?これだから無能な魔術師は無能のままなのよ」
「アトラムめ…私を裏切ったな…」
クリードが憎悪に満ちた声で唸る。しかしキャスターはそれを聞くと、愉快げに笑みを浮かべた。
「アトラム…あぁ、あのあなたと同じ無能な魔術師ね。私がとっくに殺したわ」
「なっ……」
キャスターが言葉を続ける。
「残念ね、あなたは最初から私の手のひらの上で遊ばれてたのよ?」
「…頼む、なんでもする!!私を助けてくれ !!」
青冷めた表情で、クリードは叫んだ。
「安心しなさい。殺しはしないわ」
キャスターはクスクスと笑いながら言った。
「ほ、ほんとうか…!?」
「えぇ。だってあなたは、令呪が無いとはいえ仮にもマスター。アサシンをこの世に繋ぎ止めておくための依り代になってもらわなくては困るもの」
キャスターはそう言うと、クリードに何やら呪文を唱えた。
「があぁぁっ!?」
クリードは泡を噴いて絶叫した。
「この…裏切りの魔女、め…」
そう最後に呟きキャスターを睨み付けると、そのまま倒れてしまった。
「言葉には気を付けることね…そのまま、覚めない夢でも見てなさい…」
「さぁアサシン、私があなたのマスターよ」
鳥籠に拘束されたままのアサシンに近付くと、キャスターはそう言った。
「…ひとつ聞かせてもらいたい。その私のマスターとなるはずだった男の遺言から察するに、お前の真名はメディアで間違いないか?」
アサシンが初めて口を開いた。
「…えぇ、そうよ」
キャスターがアサシンを睨み付けた。『裏切りの魔女』と呼ばれることに、彼女はこのうえない怒りを覚えるのだ。
「そうか…」
アサシンがそう言うと、腰から小剣を取り出し逆手に持った。
「!?」
突然の行動に、キャスターは反応が遅れた。
「なにを…!!」
「…失礼する」
アサシンはその小剣で鳥籠を切り裂いた。
「…馬鹿な!」
アサシンに施した魔術は、簡易的なモノとはいえ、アサシン程度のサーヴァントを拘束するには十分なモノであるはずだった。しかしそれをこのアサシンは容易く突破してしまった。キャスターは咄嗟に詠唱を唱えようとする。
__しかし
「…え?」
アサシンはそのまま攻撃することはなく、キャスターの前に跪いていた。
「…はじめまして、コルキスの王女よ」
アサシンの度重なる突然の行動に、キャスターも驚愕する。
「…私がマスターであることを認めるの?」
キャスターはおそるおそる聞いてみた。
「如何にも。君も俺を召喚したマスターであることに相違はないのだろ?」
「え、えぇ。たしかにそうだけど…」
アサシンはゆっくりと立ち上がった。
「なにより、君の故郷には少し縁があるのでね。ま、君の言うところの無能なマスターに仕えるよりかは、君みたいな力のある魔術師に仕えるほうが賢明かなと判断したまでさ」
はっはっは、とアサシンは笑った。
「そう…まぁ、それなら私としても都合がいいのだけれど。ところでアサシン、あなたの真名は______で間違いないかしら?」
それを聞くとアサシンは頷いた。
「俺の能力については追々説明しよう。なにはともあれ、よろしく頼むよ、マスター」
アサシンが手を差しのべる。しかしキャスターはそれに応じず、はぁ、と溜め息をついた。
「えぇ…よろしく頼むわ、アサシン」
お久しぶりです。
アニメFateすげーって思ってたら気が付いたら書いていた。
Last night 以上にプロットが不安定なので、更新はかなり遅めかと。
完結したらいいな、とは思っています。一応。
それでは