どぞ
セイバーと呼ばれたその騎士は、何もかもが圧倒的だった。
先刻までランサーの殺気に満ちていた空間も、今となってはセイバーの放つその
「助けてくれてありがとう…えっと、セイバー…?」
「…おい、マスター」
完璧と言っていいほどのスルー。不機嫌な様子が声色から伝わるが、やっぱりマスターというのは俺のことらしい。
「俺はマスターなんて名前じゃない。俺の名前は衛宮士郎だ」
「……」
…あれ?もしかして怒っているのか?
俺はただ自分の名前を言っただけのはずだぞ?
はぁ、とセイバーが溜め息。
「…なぁマスター、一応聞いておくが、今の自分の状況理解しているか?」
またマスターと呼ばれた。
状況を理解と言われても、無理な話だ。なんせ今日の衛宮士郎は、放課後に校庭で二人の男の殺し合いを目撃し、そのうちの一人に殺されたと思えば生きていて、そしてまたその男に殺されかけていたところを、突然現れた白銀の騎士に命を救われたばかりなのだから。
頭を掻きながら唸る俺の姿を見て、セイバーはわなわなと肩を震わせる。
「聖杯戦争っていえばわかるか?」
「…せいはいせんそう?」
そう言った瞬間、セイバーが握っていた剣を地面に降り下ろし突き立てた。
「わっ!いきなり危ないだろ!?」
唐突すぎるその行動に驚いて、思わず大声をあげてしまった。が、
「呆れたぞ!聖杯はとんでもないマスターの元にこのオレを喚び出しやがった!」
…セイバーの怒りの籠った叫びに気圧されて、二、三歩と後ずさる。そしてそれと同時に、セイバーも俺へと二、三歩と近づいてきた。
「いいかマスター。お前はオレのマスターで、オレはお前のサーヴァントのセイバーだ」
手を伸ばしたかと思うと、俺の額を二回小突く。
「何すんだよ…」
「まさか、オレを召喚した拍子に記憶が飛んだ訳じゃないよな??」
鉄甲で小突かれたのでそれなりに痛い。なにより、自分より身長の低い相手にこんな真似をされると、流石に己が情けなくなる。
セイバーは再びはぁ、と溜め息をつくと、大袈裟に肩を竦める。
「おい、何がなんだかワケが解らないぞ?」
その様子を見て声をかけたが、セイバーは鎧越しに俺を睨み付けてきた。
「いいか、マスター。お前はこれから…!!」
俺に何かを言いかけ、しかしそこで口を止める。
「___!!」
地面に突き立てていた銀色の剣を引き抜き、
「マスター、絶対にそこでおとなしくしていろ」
と俺に言うと、中庭を抜けて駆け出してしまった。
「あ、おい!」
何処へ行くのかと聞こうとしたが、既にその姿は無い。地面に目をやり、あの銀の剣が刺さっていた跡を眺める。まったく、セイバーの突然の行動には驚かされてばかりだ。
__待てよ?
まるで何かに気が付いたかのように、剣を持ってあの騎士は何処か行ってしまった。
__つまりそれって
「オォォォォォ!!」
その瞬間、石塀の向こうからセイバーの咆哮が響いてきた。それと共に、ガキンという剣戟の金属音が鳴り響く。
「あいつ…!!」
俺は急いで、その音のする外へと駆け出した。
「オォォォォォ!!」
セイバーの振り下ろした銀剣の一撃を、紅い外套を纏った男が双振りの中華剣を交差させて防ぐ。
「__お前は、何だ…!?」
鍔迫り合いの
セイバーの体と剣を、黒い雷のようなものが包み込む。
「…!?」
「__お前の方こそ、このオレに剣で挑むとは何事だ!!」
その黒い雷は、魔力の塊だった。セイバーの魔力が瞬間的に増幅し、その能力を増幅させる。
「はぁッ!」
鍔迫り合いの末、セイバーが男を大きく吹き飛ばした。
「セイバーッ!!」
セイバーが追撃をかけようとした瞬間、その声は響いた。
「セイバーッ!!」
セイバーの姿を確認すると、俺はその元へと駆け寄った。
「馬鹿か、待っていろって言ったろマスター!」
俺を見たセイバーは開口一番、そんな罵倒を浴びせてきた。…バカとはなんだ、バカとは。
「馬鹿って…いきなりお前が何処かへ行くからだろ?」
「そんなこと、一から説明なんてしてる場合じゃねぇんだよ!いいから下がってろ!」
セイバーが再び剣を構える。
先程セイバーに吹き飛ばされた男も、気が付けば体勢を立て直していた。
その時だった。
「そう…衛宮君がセイバーのマスターなんだ?」
「__え?」
セイバーが剣を構える向こう側から、突然自分の名前を呼ばれたこと驚く。そしてその声の主は、紅い外套の男の後ろから姿を現した。
街灯に照らされ、そこに立っていたのは俺もよく知っている__
「…遠坂!?」
「こんばんは、衛宮君」
目を疑ったが、ニッコリと微笑む彼女は間違いなく、学園のアイドルである遠坂凛その人であった。
「なんだマスター、知り合いか?」
剣の構えはそのまま、セイバーが聞いてきた。知り合い、といえばそうなのかもしれないが、まともに遠坂と会話なんてしたことなどないので何とも言えない。
「いや、知り合いっていうか…そんなことより、なんで遠坂がこんなところにいるんだよ!?」
「説明してあげてもいいけど、まずはあなたのサーヴァントの警戒を解いてもらえるかしら?」
サーヴァントとは、隣にいるセイバーのことだろうか?セイバーのほうを見たが、この騎士は遠坂の言葉に耳を傾けることなど無く、今にも紅い外套の男に噛みつかんばかりの殺気を放ち続けている。男のほうも、まるで長年の仇敵を見たかのような目付きのまま双剣を構え、二人の放つ異様な空気がこの空間を異界へと変えていた。その中でも、遠坂は涼しい顔でこちらの返事を待っている。
「セイバー、少し落ち着いてくれ」
「冗談じゃない、こいつらはオレたちの敵だぞ。それに、魔術師の言うことなんて信用できるか」
「え…遠坂、お前魔術師なのか!?」
…それを聞いた遠坂の笑顔が、一瞬ひきつったような気がした。
「えぇ…アーチャー、剣を仕舞いなさい」
「凛、
「…私の言うことが聞けないって言うの?」
「ふむ…そうだな。マスターの命令に従うのがサーヴァントだったか」
アーチャーと呼ばれた男に握られていた双剣は、どういうわけか一瞬で姿を消した。それでもアーチャーの放つ殺気はそのままで、遠坂を守るようにして彼女の前に立っている。
「どう?これで少しはこっちのこと信用できるかしら」
遠坂はセイバーに言った。
「おい…正気かよ、こいつら」
「セ、セイバー…」
呆れたように物を言うセイバー。
「…チッ、分かったよ。マスターの命令じゃしょうがない」
手にしていた銀の剣が、先ほどのアーチャーがやったように姿を消す。その様子を見てひとまず安堵し、ありがとう、とセイバーに言った。
「…おい、アーチャーのマスター。少しでも妙な真似をしてみろ。そこにいるお前のサーヴァントもろとも、このオレが叩き斬ってやる」
「えぇ、御忠告ありがとう」
唸るセイバーに、遠坂は怖じ気づくことなく答える。それを見ると、やっぱり目の前にいる人物が遠坂凛であるということを改めて認識させられる。
「衛宮君」
「な、なんだ遠坂?」
「立ち話もなんだし、家に上がらせてもらってもいいかしら?」
__あらゆる願いを叶えるという万能の願望器、聖杯。
__聖杯に選ばれし七人の魔術師は、英雄の魂、乃ち英霊をサーヴァントとして従えるマスターとして、聖杯を手に入れ願いを叶えるという権利を巡り、血で血を洗う闘争にその身を投じるという。
__魔術師たちはこの戦いを、聖杯戦争と呼んだ。
「その戦いに、あなたはもう巻き込まれているのよ」
遠坂は聖杯戦争について一通り語り終えると、まだいまいち理解できていない俺にそう言った。
「…俺は参加した覚えなんて無いぞ」
「でもあなたは、現にそこにいるセイバーを召喚している。衛宮君にその気が無くても、聖杯はあなたを聖杯を巡って争うに相応しい魔術師として選んだのよ」
「そんなこと言ったって…」
はぁ、と溜め息をつく遠坂。
「どうしてこんな奴が、セイバーのマスターなのよ…」
「え?」
思わずそう呟いた俺を、遠坂は凄い形相で睨み付けてきた。
「どうしてあんたみたいなヘッポコ魔術師が、最優のサーヴァントのマスターなのかって言ってんの!!」
「ヘッポコ!?」
「ガラスの修復なんて、魔術の初歩の初歩じゃない。そんなこともできないって、あなたどんな魔術を学んできたのよ」
「うっ…」
そう言われると、何も返す言葉がない。でも、俺に魔術を教えてくれたのは
視線を横で仁王立ちしているセイバーへ移す。セイバーのクラスは、遠坂曰く最優のサーヴァントらしい。
俺は先刻の戦いを思い出す。確かに、あの圧倒的な強さを見せつけられたら、最優と呼ばれるのも
納得できる。
「…なんだマスター、オレのことジロジロ見て」
「いや、セイバーもサーヴァントなら過去の英雄ってことなんだろ?あんだけ強いなら、もしかしてセイバーってかなり有名な英雄なんじゃないか?」
___________________。
一瞬、沈黙。そのはずなのに、俺にはその一瞬が凄く長かったように思えた。
「なぁ、マスターってやっぱり馬鹿なのか?」
口を開いたかと思えば、セイバーはどこか重たい口調で俺のことをそう評価してくれた。
「え?」
「敵のマスターの目の前で、己のサーヴァントの情報について聞こうなんて何考えてんだ」
「あ…」
そうか。サーヴァントの真名は、乃ち英雄の正体。それを知ることは、その英雄のことについて知るわけで。
「あなたの今の行動は、敵にサーヴァントの弱点を教えるようなものってことよ。あなたも聖杯戦争に参加するマスターなら、それくらい考えてから行動しなさい」
遠坂が付け足すように言った。
「あぁ、ごめん…」
セイバーに頭を下げる…ん、ちょっと待てよ?
「俺はまだ聖杯戦争に参加するつもりなんてないぞ?」
「「は!?」」
驚きの声は、遠坂とセイバー二人のもので、セイバーはそのまま、俺の胸元に掴みかかってきた。
「…おい、マスター。オレが暴れる前に『聖杯戦争に参加します』って言え」
「何するんだよセイバー!ってか、もう暴れてるだろ!?」
鎧が皮膚に食い込んで痛い。必死になってセイバーをどかそうとしていると、今度は遠坂が立ち上がった。
「よしなさいセイバー。あなたのマスター、どうやらまだ聖杯戦争のこと理解してないみたい」
セイバーは唸りながら、馬乗りになっていた俺の体の上から降りる。
体を起こしシャツの皺を整えた。
「遠坂、なにが…」
「…呆れた。この期に及んで、まだ聖杯戦争に参加しないなんて言うなんて」
俺は立ち上がる。
「だってそうだろ?魔術師たちが聖杯なんてわけのわからない物のために殺し合うなんてどうかしてる。そんな馬鹿げてることに、俺は参加なんてできないし、するつもりもない」
そう言うと、遠坂が俺のことを睨み付けながら、
「わかった。あなたがそこまで言うなら、私からじゃなくてこの聖杯戦争を監理している奴から直接話を聞かせてあげる」
遠坂が、コートを羽織始める。
「遠坂…?」
「ついてきなさい、衛宮君。あなたを監督役のところに連れていくわ」
「監督役って…どこにいるんだよ」
「__言峰教会。名前くらいは聞いたことあるでしょ?」
__言峰教会。
都心から離れた丘の上に、その教会はあった。鬱蒼とした木々と墓地に囲まれ、陰鬱とした雰囲気に気が滅入ってしまう。石畳の広場を抜け、荘厳とした木製の扉を開く。
「__こんな夜中にまで私の教会に来るとは、熱心な信者もいたものだ」
教会内に響き渡る低い男の声。
「…馬鹿なこと言ってないで、さっさと出てきなさい」
「…おや?まさか貴様のほうから私のもとへ来るとは思わなかったぞ、凛」
明かりのついていない教会とは、これほどにまで暗いものなのか。ステンドグラスから差し込む月明かりに導かれるように、その声の主は礼拝堂の奥から俺たちの前へと姿を現した。
「勘違いしないで。私はセイバーのマスターを連れてきただけよ」
「ほう」
長身のその男は、俺の姿を見るとニヤリと笑う。
「私が聖杯戦争の監督役であり、この教会の神父の言峰綺礼だ」
その男は己を言峰と名乗ると、俺へと手を伸ばしてきた。
「む?」
しかしその手を遮るように、霊体化していたセイバーが俺と言峰との間に実体となって姿を現した。
この感覚にはまだ慣れていないので、思わず俺も後ずさってしまう。
「気を付けろマスター、こいつからは嫌な感じがする」
「…おや、これはまた随分と嫌われたものだな。私はただ、君のマスターと握手をしようと思っただけなのだが」
言峰は手を引っ込めると、困ったものだ、と呟いた。
「なるほど、たしかに君はサーヴァントを従えしマスターというわけか」
「…そいつね、聖杯戦争に参加するつもりはないんですって」
遠坂が言った。
「何…?」
言峰は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに俺のほうへと振り返る。
「君はサーヴァントを召喚しておきながら、聖杯戦争に参加するつもりはないと言うのかね?」
「あぁ、俺がセイバーを召喚したのは偶然だし、何より魔術師同士で殺し合うなんて馬鹿げてる」
俺はセイバーの放つあからさまな苛立ち混じりの殺気に耐えつつ、己の意見を述べた。
「ふむ…そうか。そうと言うならば私は止めるつもりはない」
「…え?」
予想に反していたその答えに、思わず俺も拍子抜けしてしまう。
「ちょっと、綺礼!」
遠坂も期待していた答えと異なっていたようで、言峰を鋭く睨み付けた。
「戦う意思の無いものに、殺し合いを強要させるのは酷というものだ。君が望むならば、私は君の聖杯戦争の棄権を認め、その身の安全を保障しよう」
言峰の態度は終始神父然としたもので、語り終えると僅かに笑う。
まさかこうもあっさり話が進むとは思わなかった。たしかに自分は望んで戦いに参加したわけではないし、聖杯託すような願望も、聖杯を求める理由もない。
しかし、そこである一つの疑問が浮かび上がる。
「でも、その場合はセイバーはどうなるんだ?」
自分が棄権したら、一体隣にいるこの騎士はどうなるのだろうか。別のマスターと共に戦うことになるのか、あるいはまた別の方法があるのか。
「__簡単なことだ。君の手にあるその令呪で、サーヴァントに自害を命ずればいい」
「なん、だって…?」
ピタリ、とセイバーの放っていた殺気も止まる。
___________________。
異様なまでの沈黙。それはもう、先程まで自分に向けられていた殺気が恋しく思えるほどに。
「 他に、他に方法はあるだろ!?」
我に返り、言峰に向かって叫ぶ。
「円滑に聖杯戦争を進めるためだ。君のサーヴァントには申し訳無いが、君に召喚されてしまった運命を恨むしかあるまい」
「…他の魔術師のサーヴァントになることはできないのか?」
「契約を破棄するということかね?この町に聖杯が認めるような魔術師がいたら可能であろうが、それもあくまで可能性の話だ。契約を破棄するのは別に構わんが、どちらにせよマスターが見つからなければ、そこにいるセイバーでは一日ももたずに消滅するだろうな」
「そんな…」
言峰はそう言うと、さも愉快げに頬を歪める。
この教会に来る前に、遠坂が言峰は気に入らないやつだと言っていたが、今まさにその意味がよく分かった。
「__では少年よ。君はそれでも、この聖杯戦争から降りると言うのかね?」
「…俺は」
俺は、隣に立つ沈黙のままの騎士を見る。兜により表情はわからないが、彼は今何を考えているのだろうか。きっとこの騎士は、俺の答えをただ待っている。
視線をセイバーから言峰へと移す。
「…そんなことはできない。セイバーは、俺の命を救ってくれたんだ」
そう言ったら、隣からギシッ、と鎧の擦れて軋む音が僅かに響いた。その音に、俺はセイバーの方へ視線を移したが、セイバーは相変わらず仁王立ちのままで、特に変わった様子もない。
「ふむ…ならば君は、戦う道を選んだというわけだ」
…今思うと、この神父は始めから俺の選ぶ答えを分かっていたのではないだろうか。
「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったな」
思い出したかのように、言峰はそう言った。
「あぁ…俺は、衛宮士郎だ」
「衛宮だと…?」
言峰の表情に、始めて感情というものが宿っているのを見た気がする。
「お前は、衛宮切嗣の息子か?」
「え…?」
この男の口から、まさか切嗣の名前が出てくるとは思わなかった。
「切嗣を知っているのか…?」
俺がそう言うと、言峰は再び頬を歪めた。
…一体、この男はなんだというのか。
「知っているもなにも…私と衛宮切嗣は、第四次聖杯戦争において、共に聖杯を巡って争った者同士だからな」
「な…!!」
その言葉には、俺だけでなく遠坂も驚いていたようだ。
「切嗣が聖杯戦争に参加していたのか!?」
「…ほう、何も聞かされていなかったようだな」
言峰はそう言うと、切嗣について語り始めた。
「衛宮切嗣は参加していた他の魔術師の誰よりも強かった上、それと同時に誰よりも聖杯を手に入れることを望んでいた。……当然のように、あの男は最後まで勝ち抜き、聖杯を手に入れる寸前まで行った。…しかし、衛宮切嗣は最後の最後で、聖杯を手に入れることを拒んだのだ」
「なんだって…?」
___頭が混乱する。
___あの切嗣が、聖杯戦争に参加していた…?
___誰よりも聖杯を求めていた…?
___その挙げ句、最後には聖杯を手に入れることを拒んだ…?
「奴が、なぜ聖杯を拒んだのかまではわからないがな」
一通り話し終えると、言峰は俺へと視線を移した。
「__衛宮士郎、君はあの大災害を覚えているだろう?」
「__!!」
忘れるはずがない。あの火災でたくさんの人が死んだ。大勢の命を
『君を救えてよかった』
切嗣には、そこで命を救われた。本来なら、衛宮士郎はあの場で死んでいたのだ。
__あるいは、あの場で死んでいるべきだったのかもしれない。
誰も救えなかったこの俺が救われるのは、正しいことだったのだろうか?
『___諦めてはいけない』
__また、この声だ。
___一体誰なんだよ。
__________!!
「あの大災害は、前回の聖杯戦争の余波によって引き起こされたものだ」
「なんだって…?」
その言葉によって、意識が現実に引き戻される。
「あの火災が、聖杯戦争によるものだったっていうのか…!?」
俺の叫びに答えることはなく、神父は言葉を続ける。
「…そして再び、聖杯戦争は開始される。衛宮士郎、この意味が君にはもう理解できるだろう?」
「__!!」
__あの地獄が、また起きるかもしれないというのか。
「そんなこと、絶対にさせない…!!」
言峰は俺のその様子を見るとほう、と呟いた。
「決めた。無関係の人を巻き込むくらいなら…そうさせないためにも、俺は聖杯戦争にだって参加する。そしてこのふざけた戦いを、俺の手で終わらせてやる」
言峰はそれを聞くと祭壇へと向かう。
「…ならば、これで聖杯戦争に参加するすべてのマスターが揃ったわけだ」
そして祭壇に登ると、言峰は両手を広げて言った。
「___ここに、聖杯戦争の開幕を告げる」
教会を出て、俺たちは帰り路についた。
『___喜べ少年。君の願いは、ようやく叶う』
教会を出るときに言峰が言った言葉が、脳内で反芻される。
「…俺の、願い?」
『マスター』
霊体化しているセイバーが、俺に話しかけてきた。
「?」
『その…なんだ。ありがとうな』
突然礼を言われたので、俺も驚いてしまう。
「なんだよ、藪から棒に」
『…オレさ、正直マスターに捨てられるんじゃないかって思ったんだ』
「あ…」
あの時の沈黙は、俺がセイバーを捨てるかもしれないと思ったために出たものだったのか。
『でもマスターは、オレと一緒に戦う道を選んでくれた。それってようするに、このオレを共に戦うサーヴァントとして選んでくれたってことだろ?だから、そういうことだ』
俺はその時、このサーヴァントの普段とは異なったまた別の顔を見たような気がした。
「俺のほうこそ、助けてもらっておきながら好き勝手なこと言って悪かった」
『それにさ、マスターが戦う理由』
「ん?」
『気に入った』
___暴れん坊な奴だと思ってたけど、認識を改めなくちゃいけないな
「これからよろしくな、セイバー」
『あぁ。マスターの敵はオレが全部ぶっ飛ばしてやる』
しばらくの沈黙。
「ところで、結局セイバーの真名ってなんなんだ?」
『あぁ、そのことだが…マスターにはまだ明かさないことにした』
その答えに驚き、思わず躓きそうになった。
「…なんでさ?」
『なんでってそりゃ…』
一瞬、セイバーの言葉が詰まったかのように思えたが、
『さっきみたいに、うっかり敵のマスターに話されちまったりしたらたまらないからなぁー!なんせマスターは、ヘッポコ魔術師だからな!』
…うん。やっぱりまだまだ問題は山積みのようだ。
「今日は色々ありがとうな、遠坂」
別れ際に、遠坂にそう伝える。
しかし遠坂は、それを聞くと呆れたような表情を浮かべた。
「いい衛宮君?私とあなたは本来は敵同士なの。今日は、あなたが聖杯戦争の"せ"の字も知らないような素人だったから協力してあげただけで、明日からはまた敵同士よ」
「うーん…でも俺遠坂とは敵同士になりたくないな。俺、遠坂みたいなやつは好きだ」
「……な……」
アーチャーが実体化し、遠坂に近付く。
「いいのか凛。倒せる敵は倒しておくべきだと思うのだが」
「誰が倒せる敵だって?」
その言葉を聞き、セイバーも実体化する。まずい、さすがにこれ以上暴れられたら困る。
「お、落ち着けってセイバー」
「___ふーん。で、お話は終わり?」
「!!」
その突然響いた第三者の声に、全員が一斉に振り返る。
___そこにいたのは、まだ年端もいかない、雪のように白い髪の小さな少女と___
「はじめまして、リン、それにお兄ちゃん」
_______鉛の、巨人だった。
こんにちわ。枝豆です。
とりあえずセイバーを違和感無く書けるようにするのが当面の目標になりそうです。
もう一回apocryphaを読み直すか…いやでもstrange fake だってまだ読み終わっていないのに!
アニメも三話?あるいはもっと溜まっている気がします。
来週辺りの日曜日はそれだけで一日が潰れそうですね(幸せ)
それではまた
PS
前回の投稿の時、感想がログインしている方のみ可能という設定のまま気付かずに投稿してしまいました。申し訳ありません。
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ご迷惑お掛けいたしました。