Fate/blood arthur   作:枝豆畑

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遅くなりました。本当に申し訳ありません。

ついでに言うと文字数も若干少なめ
切りが良いところだったんでいつもより1000文字程削りました。ご容赦を。





どうぞ


鍛練と

 

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…うっ…」

 

限界だ。俺はそのまま倒れ込み、流れる汗をそのままに横になりながら口から酸素を吸い込む。

火照った体に、道場の床はひんやりとしていて気持ちいい。

 

 

 

 

 

 

 

暫くして、閉じていた目をゆっくりと開く。そこには、横になっている俺の顔を覗きこんでいる、少し顔をしかめたセイバーの顔があった。

 

「いつオレが休んでいいって言ったよ、コラ」

 

セイバーはそう言うと、手にしていた竹刀の先で、俺の頬をペシリと叩いた。

 

「いって…わかった、わかったから止めてくれ」

 

上半身を起こして、叩かれた頬を擦りながらセイバーへと顔を向ける。

 

「この程度でバテてるようじゃ、話にならないぜ?」

 

はぁ、と溜め息をつくセイバー。

 

「この程度って…」

 

俺が言葉を呟こうとした瞬間、セイバーの鋭い視線がこちらに突き刺さった。

運動をしてかいた汗に混ざって、冷や汗が背筋を伝う。

 

「なんだマスター、文句あるのか」

 

「いや、その…」

 

セイバーに睨まれると言葉に詰まってしまう。頼むから、そう殺気を安売りしないでくれ。

 

「なんというか、想像していた訓練と違うというか…」

 

「…?」

 

セイバーが首を傾げる。

 

「剣術というより、なんでもありというか…」

 

「…」

 

 

―――その通り。まさになんでもありだった。

 

 

 

 

 

道場に着くなり、セイバーは用意してあった竹刀を手に取ると、『好きなようにオレにかかってこい!』なんて言い出した。

 

セイバーなりのやり方があるのだろうと俺は俺なりに納得し、だらりと竹刀を構えた彼女の前へと歩み寄った。

 

 

 

 

『いくぞ、セイバー』

 

『あぁ、いつでもいいぜ』

 

 

 

 

―――しかし、問題はここからだったのだ。

 

 

 

まずは一本目。

 

先手必勝、一気に間合いを詰めて、俺は迷うことなくセイバーへと竹刀を振りかざした。

しかしそれを目前にして、微動だにしないセイバー。

 

―――いいのだろうか。これでは本当に当たってしまう。

 

他所から見れば、良い歳した少年が、可憐な女の子相手に斬りかかっているのだ。

 

『…!?』

 

しかし気がつけば、、俺の身体は宙を舞っていた。

 

『バカ。なに迷ってんだ』

 

セイバーのそんな声が聞こえてくる。

 

…と同時に、宙を舞っていた俺の身体は、床へとダイナミックに叩き付けられた。

 

『ほら、次行くぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二本目。

 

話に聞いたところ、さっきセイバーは、竹刀を降り下ろそうとしていた俺の手元を取り、その勢いを利用して放り投げたのだという。後で知ったことだが、この技によくにたものが合気道にあるらしい。

 

―――ん?俺って剣を教わっているんだよな?

 

疑問に思ったが、すぐに俺は頭を切り替える。

つまりセイバーは、まだ竹刀を使ってすらいないのだ。

 

一本目よりも警戒を強めて、俺は再び竹刀を構える。一方のセイバーはというと、先程同様特に竹刀を構えることはなく、だらりと立ったままだ。しかし考え無しにただ攻めるだけではいけない。それではきっと、またセイバーにあしらわれるだけだ。

 

『いくぞ、セイバー…!』

 

今度は右上からの袈裟切り。先程の直線の降り下ろしとは異なり、ただ身体を傾けるだけではそう簡単には避けられない。

 

『…え?』

 

と思っていたのも束の間、俺の視界からセイバーの姿が一瞬にして消滅する。

 

『下だよ、マスター』

 

突然、セイバーのその声が俺の脇腹あたりから聞こえてきた。

 

『…!!』

 

振り返るようにしてそこを見れば、ニヤリと笑う、何とも愉快そうな表情を浮かべたセイバーが顔を覗かせている。

 

 

…そして次の瞬間、俺の身体はそのまま滑るようにして倒れこんだ。

 

『ぐっ…!?』

 

何が起こったのかを把握できないまま、俺は床に伸びてしまう。しかしそれに追い討ちをかけるようにして、セイバーの竹刀は俺の腹部をバシリと叩いた。

 

『いって!?』

 

『よし。次いこうぜ、次』

 

 

 

 

 

 

 

 

三本目。

 

二本目はまたしても、セイバーにろくに竹刀を使わせることなく敗北してしまった。

 

―――竹刀を使わない剣術って…なんだ?

 

話はさておき何としてでも今度こそは、せめてセイバーにまともに竹刀を使わせたいものだ。

 

再び彼女と相対し、竹刀を構える。

相変わらずセイバーはぶらりと竹刀を片手に立っているだけだ。

 

ただ剣を振るうだけではいけない。闇雲に突っ込むだけでもいけない。

 

―――考えろ、衛宮士郎。

 

上段に竹刀を構えた状態で、俺はセイバーの様子を伺う。

 

―――考えろ、考えろ考えろ。

 

 

 

―――その時だった。

 

 

 

竹刀を構えたままの俺に痺れを切らしたのか、セイバーが竹刀を構えた。

 

『!!』

 

正眼に構えたセイバーが、間合いを一瞬にして詰めると、竹刀を俺の腹部へ目掛けて突き出してきた。

 

―――速い!!

 

流れるような動作でセイバーが襲いかかる。

 

―――避けるか?

 

いや駄目だ。竹刀を上段に構えた今の状態では完全に避けることは出来ない。

 

―――だったら!!

 

俺は構えた竹刀を、そのままセイバーの突きへと降り下ろす。

 

突きという動作は、降り下ろす動作よりも速さも一点に対する威力も高い。

しかしその反面力の流れが単純でもあり、上下左右から力を加えればその軌道は容易にずれてしまう。

 

―――いける!

 

精一杯の力を込めて、俺はセイバーの鋭い突きを叩き落とさんと竹刀を降り下ろした。

 

『え?』

 

俺の竹刀は、確かにセイバーのそれへと直撃した。

 

しかし、叩き落とすはずのセイバーの竹刀は、俺の予想に反してあまりにも感覚が()()()()

 

バシリという音をたてて、俺の竹刀の先が床へと叩きつけられる。

 

『よっと』

 

『!?』

 

セイバーの竹刀はというと、俺の渾身の一撃をそのまま受け流したかと思うと、彼女の指先を軸に180度の半円をくるりと描き、逆手の状態で彼女の手元に収まった。

 

(やられた…!!)

 

そのままセイバーは、竹刀のつかの部分を無防備となっている俺の腹部へと突き刺す。

 

『がっ…!?』

 

突然の衝撃に、俺は腹を押さえながらうずくまる。

 

 

『あ、悪いマスター。ちょっとやり過ぎたか?』

 

悶絶している俺へと近づいてくると、セイバーは頬をかきながらそう言った。

 

 

 

 

『…にしてもさ、こう言っちゃうのもアレだけど』

 

『?』

 

しばらくして、セイバーが口を開いた。

 

『マスター、予想以上に無茶苦茶弱いな。実戦だったら既に三回も死んでるぜ』

 

『なっ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイバーの放ったその一言が俺の心を砕いた後も、何度か俺は彼女に挑んだ。が、もはやその内容は語るまでもない。彼女が竹刀を使用したのも結局ほんの数回だけだったし、俺の竹刀が彼女の身体に触れることはもちろん一度も無かった。

 

「なんでもありか…まぁ、そうかもな」

 

「…やっぱりそうなのか。というかセイバー、俺に剣を教えてくれるんじゃなかったのか?」

 

俺がそう言うと、セイバーはチ、チ、チと舌を鳴らしながら首を横に振った。

 

「あのなマスター、たしかにオレは剣を教えるとは言ったけど、何も剣だけだなんて一言も言ってないぜ?」

 

「…?」

 

「オレが教えるのは戦い方そのものだよ。剣なんてその中の手段の一つに過ぎん」

 

セイバーはそう言いながら、目線を合わせるためにか俺の前に座った。

 

「要するにオレが言いたかったことってのは、勝てばいいってこと。手だって足だって、勝つためだったら使えるものは全部使えばいい。使っちゃ駄目だなんてルールは戦いの中には無いからな。型にはまった戦いかたをわざわざする必要なんてないだろ」

 

…なるほどセイバーは訓練というよりも、より実戦的なモノを意識していたということだろうか。

ならば最初にそうだと言ってくれればいいのに。

 

「まあ、マスターの場合はあまりにも弱かったから、剣を使うまでも無かったってだけなんだけどな?」

 

…あぁ、やっぱりそうですか。

 

「筋は良いんだけどさ。真っ直ぐ過ぎるんだよ、マスターの剣は全部。その癖中身はスッカスカ。だからこそ剣筋が読めちまうし、避けることだって朝飯前だ。良くいうなら素直、悪くいうならバカ正直ってとこかな」

 

言いたい放題だな、セイバー。それも全部正論な分、言い返せないのでタチが悪い。

 

「…だからこそ、セイバーに剣を教えてもらおうとしたんじゃないか」

 

俺は苦し紛れに、精一杯の反論をする。元より、自分が弱いことだなんて百も承知だ。だからこうして目の前にいる、英霊たるこの少女に、剣を教えてもらえるように頼んだのだ。

 

「なんだマスター、もしかして一から丁寧に手取り足取り教えてもらえるとでも思ってたのか?」

 

「…え?」

 

セイバーはやれやれ、と首を傾ける。

 

「さっきも言ったはずだぜ?剣なんて所詮戦いの中での手段の一つに過ぎないってさ」

 

…たしかに、そう言われた。

 

 

「そう言った技術とか手段ってのはさ、戦いの中でしか身に付かないもんなんだよ。特にマスターみたいなやつにとってはな」

 

「…俺みたいなやつ?」

 

「要するに、才能が無い奴等ってこと」

 

…セイバーの辞書には、情けという言葉はない。

 

「先天的に戦いの才能(センス)があるやつってのは、例えそれが生まれて初めての殺し合いでも、敵を殺すには、自分がどう動けばいいのかってのがわかっちまう」

 

「…」

 

「才能の無い奴等には、もちろんそんなことできっこない。戦場で見るなり盗むなり、自分で技術を習得して磨くしかない」

 

そういうと、セイバーはニヤリと笑った。

 

「でもマスターは最高に運がいい。なんてったて、マスターは聖杯戦争っていう正真正銘、本物の殺し合いの参加者なんだ。しかも英霊七人っていう特典付き。殺し合いの中でしか強くなれない凡才にとってはこれ以上の機会はないぜ?」

 

「でもセイバー、俺は別に殺し合いがしたくて聖杯戦争に参加してる訳じゃない…」

 

そうだ、オレはこの無意味な戦いを終わらせるために参加している。その為に必要な力が欲しいから戦うのでは、本末転倒ではないか。

 

「まぁ落ち着けって。何もマスターに殺し合いをさせようだなんて思っちゃいないよ。聖杯戦争そのものは、オレが勝てばいいだけなんだから」

 

「…?」

 

 

「だから代わりに、この道場では本気でオレと殺し合うつもりで鍛練すればいい。せっかくオレが教えるんだ、生半可な気持ちでその竹刀振るってもしょうがないだろ?」

 

「あ…」

 

ようやく、セイバーが言いたいことがわかった。

戦いの中でしか成長できない。ならば、それと限りなく近い状況下で鍛練する必要がある。

いわば、セイバーはこの道場で俺に戦いにおける死を仮想体験させようとしているのだ。

ルールの無い戦場で勝たなくてはいけないのに、ルールに縛られた鍛練をしても意味がない。

セイバーの言うなんでもありというのは、そういうことなのだろう。

 

「すまない、セイバー。ようやく何かわかった気がする」

 

「中途半端な気持ちで強くなろうだなんて無理な話だろ、マスター?」

 

「ああ、その通りだ…でもさ」

 

「…あ?」

 

一つだけ、気になることがある。

 

「セイバーって、剣の英霊だろ?その、何て言うか…ありなのか?拘りというか、なんというか…」

 

戦いにおける、セイバーの理論は実戦的な意味では概ね正しい。しかし剣の英霊である彼女にとって、戦場で剣以外の手段を選ぶことに戸惑いは無いのだろうか。

 

「ふぅん、こだわりねぇ…まあ無いって訳でもないが」

 

セイバーは言った。

 

「それ以上に、オレは勝利にこだわる。勝つためにだったら殴るし蹴るし、剣を投げることだって構わない」

 

「…なるほど」

 

実にセイバーらしい理由だった。型にこだわることよりも、彼女は勝つことにより貪欲なのだ。

 

「要するに負けず嫌いなんだな、セイバーは」

 

「ん?何か言ったか、マスター」

 

「…いや、なんでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ今日はこの辺で終わりにするか、マスター」

 

しばらく時間が経ち、セイバーが口を開いた。

時計を見れば、驚いたことにこの道場に来てからすでに三時間以上も経過していた。

色々酷評されたが、なんやかんやでセイバーは俺のためににかなりの時間を費やしてくれていた。

 

「ああ、ありがとうセイバー。凄く有意義な時間だった。できればまた頼む」

 

「当然。誰が鍛えてると思ってんだ。それよりマスター、さっきの約束覚えてる?」

 

「約束って…ああ」

 

そういえば、この鍛練が終わったらご飯を食べようって話になっていたんだっけ。

 

「そうだな。すっかり遅くなっちゃったから、夕飯も兼ねる感じになるけど構わないか?」

 

「いいよ、別に」

 

「でも、やっぱりセイバーも食事はとるんだな。サーヴァントでもお腹はすくのか」

 

「いや減らない。サーヴァントにそんなものは必要ない。俺のはただのこの時代の食い物への好奇心だ」

 

「ああ…そうなんだ。まあとりあえず、シャワーで汗を軽く流したらすぐに仕度をするから、セイバーは部屋でくつろいでいてくれ」

 

「あいよ」

 

セイバーはそう言うと、道場から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャワーを浴びて居間に戻ると、セイバーは横になって本当にくつろいでいた。

 

「遅いぜマスター。すぐに仕度でも何でも始めてくれ」

 

「…お、おう。わかった」

 

「ていうか、マスターが作るのか?」

 

セイバーが上半身を起こして言った。

 

「ん…まあ一応。それなりに腕には自信があるから、そんな心配しなくても構わないぞ?」

 

俺がそう言うと、セイバーが愉快そうにニヤニヤと笑う。

 

…む、さては疑っているな?

 

「へえ…この時代の魔術師は魔術はできなくても、料理はできるってか」

 

「お前なぁ…」

 

「そう怒るなって、別に悪口じゃあない。ま、それほど自信があるっていうなら、楽しみにさせてもらうぜ、マスター」

 

そう言うとセイバーは再び横になった。

 

「オレは寝る。できたら起こしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと…」

 

冷蔵庫を開けて、食材の備蓄を確認する。

なんやかんやで、セイバーには長い時間鍛練に付き合ってもらったんだ。腕によりをかけて作らないと。それに遅くなってしまったから、作るものはあまり時間のかからないものがいいかもしれない。

 

 

 

「…よし、決めた」

 

 

作るものを一通り決めて、必要な食材を取り出し鍋に火をかける。

まずは肉の下ごしらえをしてから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…?」

 

「あ、起きたのかセイバー」

 

起こそうと思ったその時、セイバーは自ら目を覚ました。

机の上に食器や料理を並べながら、おはようと声をかける。

今日の献立は唐揚げに揚げ出し豆腐、青菜と大根のサラダに…

 

「お…お?」

 

目の前の机の上に並べられた料理を見るなり、セイバーは目を丸くした。

 

「これ…全部マスターが作ったのか?」

 

「ああ。なるべく早くできるようにって思ってたんだけど、気が付いたら色々作っちゃってて…また遅くなっちゃったな。すまん」

 

「お…おう…」

 

セイバーの好みがわからなかったので、味付けや量など色々悩んでしまった。西洋人であろうセイバーの口に合うかどうか、食べてもらわない限り分からないのだ。

 

「これは…」

 

セイバーに箸を渡すと、彼女は差し出されたそれを両手に持った。

 

「あ、セイバー。箸ってこうやって持つんだ」

 

ご飯をよそっている手を止めて、セイバーに見えるように自分の箸を持って見せた。

 

「…ほう」

 

「はい、これ」

 

炊きたての白米の盛られた茶碗をセイバーに渡し、セイバーの向かいの自分の席につく。

 

「じゃ、冷めないうちに食べよう。セイバーの口に合うか分からないけど…」

 

と言い切る前に、セイバーはぎこちない箸使いで唐揚げを掴んでおり、そしてそれを頬張った。

 

「…」

 

「あ、あのセイバー…?」

 

無言で咀嚼し続ける彼女の姿に、不安が過った。やはり味付けが合わなかったのだろうか。

 

「…」

 

「…!!」

 

しかしセイバーの箸は、二つ目の唐揚げを既に掴んでいた。

 

「……ふぅん……へぇ……」

 

それを口に運ぶと、時折何やらぼそぼそと呟いたり、コクコクと頷いたりしながら再び咀嚼する。

 

「…なあ、マスター」

 

「!!な、なんだセイバー?」

 

セイバーが呟く。

 

「マスターはさ、もっと強くなりたいよな?」

 

「…え?」

 

突然、彼女はそう聞いてきた。

 

「…なりたいよな?」

 

「そりゃ…そうだけど」

 

「もっとオレに鍛えて欲しいよな?」

 

「もちろん…って、なんだよセイバー急に」

 

セイバーが再び新たなる唐揚げを頬張りながら言葉を続ける。

 

「毎日鍛えてやる」

 

「…ありがとう?」

 

それはありがたい。

 

「だから毎日食べたい」

 

「…はい?」

 

…なんだって?

 

「…駄目か?」

 

セイバーがさらに唐揚げを頬張りながら聞いてきた。

……というか、せめて話している時くらいはもぐもぐするのを止めてくれ。

 

「いや、セイバーが鍛練に付き合ってくれるのはありがたいし…というより、気に入ってくれたのか、それ?」

 

「…」

 

コクリ、とセイバーが頷く。

 

―――そうか、俺の料理は英霊にも通用するというわけか。

 

「そうか、それは良かった。だったらむしろセイバーがいい限り、是非毎日食べてくれ」

 

「おお…そうこなくっちゃな…!!」

 

そう言うとセイバーは、箸の速度を速めた。

凄い勢いで、皿に盛られていた唐揚げが姿を消していく。

 

…あ、一応さっきまでは遠慮していたのか。

 

「マスターはこれ以外にも?」

 

作れるかどうか、という意味だろうか。

 

「ああ、それなりに作れるぞ」

 

当然だ。切嗣が死んでからは、ほぼ毎日俺が料理してきたんだから。

 

「そうかそうか。そいつは良い!」

 

セイバーは頷くと、再び箸を進める。

 

「明日の鍛練が楽しみだな、マスター!」

 

「そ、そうだな」

 

―――まあ形がどうあれ、セイバーが乗り気になってくれるのはありがたい。

 

…にしても、この少女はよく食べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

玄関の呼び鈴が鳴る。

 

「あ…もしかして藤ねえか…?」

 

いや、でも藤ねえはいつも呼び鈴なんて鳴らさないしな…。

 

そうこうしているうちに、二度目の呼び鈴が鳴る。

 

「この感じは… 」

 

セイバーが何か呟いていたが、俺は既に玄関へと向かっていた。

 

 

 

 

 

「って…」

 

磨りガラス越しに見える、紅いシルエット。

もしやと思いつつ、扉を開ける。

―――そこにいたのは

 

「やっぱり、遠坂じゃないか」

 

「こんばんはって…やっぱりとは何のことかしら」

 

紅いコートを身に纏った遠坂が、そこに立っていた。

 

「いや、なんでもない。でも遠坂、なんだってうちに…?」

 

「なんだって、衛宮くんが学校を休んでるって聞いたものだから心配して見にきてあげたんじゃない」

 

「…へ?」

 

…そんな理由でわざわざ来たのか、遠坂?

 

「へ、じゃないわよ!同盟組んでいるんだから、衛宮くんに何かあったら私が困るの! …まぁ、どうやら無用の心配だったみたいだけど」

 

「ああ、そういうことか。ごめん遠坂、俺のこと心配してくれてたんだよな。ありがとう」

 

「べ、別に、分かれば良いのよ、分かれば…って、なんだかいい香りがするわね…」

 

香りって…唐揚げのことか。

 

「ああ、実は…」

 

「人様の家の入り口で、なに喚いてんだよ赤女」

 

俺の言葉を遮る形で、遠坂ではない別の人物の声が玄関に響いた。

 

見れば隣には、箸を止めることなく、唐揚げの盛られた皿を片手に立っているセイバーの姿があった。

 

「…へ?」

 

遠坂の口から、少し間抜けな声が漏れた。

…あ、そういえば遠坂が鎧姿ではないセイバーを見るのってこれが初めてだっけか。

 

「…何見てんだよ、こいつはオレのもんだ」

 

口に唐揚げを含んだまま皿を半身で隠すと、セイバーは遠坂のことを睨み付ける。

 

「嘘…じゃあ貴女、セイバーなの…?」

 

「はぁ?馬鹿かお前は、昨日会ったばかりじゃねぇか」

 

「だって貴女、おん―――」

 

「わぁぁぁぁぁ!!」

 

NGワードを言いかけた遠坂の口を、ギリギリのタイミングで押さえる。

 

「ちょ、いきなり何するのよ衛宮くん!」

 

「頼む遠坂。言いたいことは分かるけど、ここは一つ抑えてくれ…!」

 

「…?」

 

セイバーに聞こえない程度の音量で、遠坂に事情を伝える。ここでもし、()()()()で再びセイバーの逆鱗に触れてしまったら、今度は何をしでかすか分からない。

 

「なるほど、そういうことね…」

 

遠坂が呟く。

 

「なにこそこそ話してんだよ。おい赤女、まさかマスターに妙なこと吹き込んでるんじゃないだろうな?」

 

…すまん、セイバー。吹き込んでるの俺のほうだ。

 

「いや、休んだ学校の連絡事項を聞いていただけだから大丈夫だ。あ、そうだ遠坂。なんならうちにあがっていくか?」

 

セイバーの気を逸らそうと、咄嗟に遠坂にそう言ってしまった。

話を合わせてくれ、と俺は遠坂に必死で視線で訴える。

 

「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ。…ええ、私も元々そのつもりだったから。今後の方針についても話しておきたいところだったし」

 

……ふう、助かった。

 

「それは良かった。玄関の鍵はそのままでいいから、どうぞ上がってくれ」

 

「ええ、ありがとう。…アーチャー、出てきてくれる?」

 

遠坂がそう言うと、霊体化していたであろうアーチャーが姿を現した。

すると遠坂が、自身の隣にいるアーチャーと俺の隣で相変わらずもぐもぐしているセイバーとを、まるで骨董品の品定めをするかのように交互に繰り返し見比べた。

そして最後に、アーチャーへと視線を戻すと、

 

「はぁ…」

 

と大きく溜め息をついた。

 

「おい、凛。その溜め息はどういう意味だ?」

 

「…いいえ、なんでもないわ。アーチャー、悪いけどこの家から見回りしておいて」

 

 

「……了解した。溜め息の理由は後ほどゆっくり聞かせてもらおう」

 

 

そう言うと、アーチャーは姿を消した。

 

 

 

 

「よく分からんが、今のってもしかしてオレのせいか、マスター?」

 

セイバーが箸で自身を指しながら俺に聞いてきた。

 

「…さあ、そうかもしれないな」

 

 

 

 

 




いつも読んでいただきありがとうございます。枝豆です。
ざっくり言うと日常回?です。
予定していた部分まで書こうとしたら20000文字越えてしまいそうだったので今回はここまでです。お待たせしておきながらアレですがどうかご容赦を。

7、8月は忙しいもんで、書くのが(というより趣味に割ける時間が)深夜帯になりがちです。健康面やモチベ的な面では余裕なのですが、いかんせん時間が足りない。他にもやりたいことあるですねん。申し訳ありません。

話はさておき、泥ではついにgrand orderが配信されましたね。
という私も泥勢なのですが…まぁ、何か色々改善すべき点はあると思います。
個人的には一回の戦闘がソシャゲにしては長過ぎる&敵が無茶苦茶強い。
そこさえ何とかしてくれればもっと快適に遊べるんだ、というより時間効率上がるんだ。

ちなみに現在はオルレアンにてエリザと清姫さんと戦闘中。
ジャンヌ早く助けてください。

ともあれ、ストーリーは流石きのこ大先生、無茶苦茶面白いです。というより続きが気になる。
それだけのためにもやる価値は十分あります。いや本当に。
でもストーリー進めるには戦闘で勝たなきゃいけないんですけどね☆

マシュ可愛い、本当可愛い。マシュ応援してくれてありがとう。

もしGOで枝豆畑とかいうフレンドいたらそっと申請しておいてください。お願いします。


話が長くなりました。
それでは。次回もよろしくお願いいたします。

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