魔法少女リリカルなのは 天使とスケベの輪舞 作:ロシアよ永遠に
第97管轄外世界『地球』
某県の海沿いにある市街、海鳴市。
その一角にある学校。聖祥大附属高校。
小学から大学までエスカレーター方式のこの学校は、海鳴市における通わせたい・通いたい学校人気ナンバーワンであり、親からは子供に良い学歴を持たせ、子供からはその端麗な制服を身に纏うことが出来るのが人気の一つだ。私学だけあり学費もそれなりだが、それを踏まえても人気は高い。
「ふぁあ…。」
放課後。
西に傾き、正午から見てほぼ45°。
夏のうっとうしいまでの暑さは通り過ぎ、過ごしやすい10月の気候が眠気を誘う。
秋風に靡く緑のリボンで整えたツーサイドアップの金糸のような髪。窓辺に頬杖をついて欠伸を一つ。涙が少し出てしまうのはご愛敬。
眼下の校庭では部活動に精を出す生徒がまばらとなっている。ソフトボールにソフトテニス、陸上部の生徒が気合いを入れるような掛け声が心地良くも感じる。
ルビーを思わせるような双眼は、しかし遠くを眺めていた。目の前に繰り広げられる部活動の練習も、音だけが聴覚を支配しているだけ。
「…退屈だよぉ…。」
窓際に手を組み、顎をおく枕代わりにする。
友達は皆部活動へ繰り出している。新チームになって初めての大会が近いからと、いたく気合いを入れているみたいだ。
彼女―アリシア・テスタロッサ―は連れ立って帰る相手もいないから、こうして暇をもてあまして学校で時間をつぶしている。
「久しぶりに、翠屋に行こうかな…。」
何となく甘味と空腹感の欲求を満たそうと思い立った。
そうだ、そうしよう。もしかしたら秋の限定スイーツがあるかもしれない。
思い始めたら歯止めが利かないのは、食欲の秋だからだ。
決して自分が食いしん坊だからではない。
断じてない。
無いったらない。
食いしん坊でもっと食べていたなら、もっと大きくなっているはずだ。食べても伸びない身長と、女性としての成長が乏しい身体。
妹は雲泥の差とも、見せしめとも言わんばかりに長身モデル体型でグラマラス。
対して自分は低身長の幼児体型。
高校2年にもなって未だ130㎝台と此程までに比べるにも悲しい事はない。20㎝以上離されたその背は、並んで歩けば姉と妹を逆に思われるならまだしも、親子とまで言われたのは姉妹揃ってショックを受けたこともある。
閑話休題
過去の傷跡を舐めながら、気付けば翠屋に来ていた。妹の友人の家族が営む人気の喫茶店。この時間は学校帰りの学生や、奥様方の溜まり場になって、思い思いの甘味に舌鼓を打っている。席の埋まり具合も八割方。誰も彼もが友人と来ているからか、テーブル席は満席で八割。カウンター席はほぼ空席で二割という割合。
1人で入店、と言うのにも若干の抵抗がある。
その後ろめたさと、食欲を天秤に掛けた。
食欲のコールド勝ちの三タテという圧倒的戦闘力の差で勝利したのと、翠屋のカウベルがドアの開閉でその身を揺らしたのが同時だった。
「いらっしゃい…お、アリシアちゃんじゃないか。」
「こんにちは、士郎さん。」
もはや顔なじみどころか常連、お得意様、それ以上ともなるアリシアを、店長の士郎が笑顔で迎え入れる。
ティータイムとあって、目の回りそうな多忙さすらひしひしと感じられる中で、来客にはしっかりと笑顔で応対する。
注文と配膳、コーヒーの抽出、そして会計を走り回る士郎と、ケーキの追加を作る桃子。長女の美由希の姿が見えないところを見るに、買い出しか何かなのか。
どうにも見知った顔がこうしてせわしなくしているのを見て、アリシアにとって何もせずにいる、と言うのは抵抗を感じられた。
そして辿り着いた答えは…
「士郎さん、手伝うよ!」
今まで何度か手伝ったことがあるものの、三人だけと言うのは初めてだった。1人減る、と言う人材不足でここまで1人あたりの密度が高まる物なのか。
ピークを終え、客足もようやく落ち着いてきた5時。残っていた最後の客を、カウベルと共に見送ると、額の汗を拭いつつ、翠屋のエプロンを外したアリシアは一息つく。
「お疲れ様、アリシアちゃん、助かったよ。」
キンキンに冷えたアイスコーヒーをソーサーに乗せてカウンターに置いた士郎は、労をねぎらって功労者に着席を促す。ガムシロップを一個、ミルクが一個。これが翠屋でアリシアが飲むアイスコーヒーの飲み方。
礼を言って着席すると、早速混ぜ合わせてストローで吸い上げる。
接客で声を出し、オーダーを読み上げ、酷使してカラカラに乾いた喉に、苦みと甘味がブレンドされたソレはとても効いた。
「はふぅ…美味しい~…!」
相変わらずの美味しいコーヒーに思わず顔をほころばせてしまう。そんなアリシアを見て、士郎と桃子も一息入れるために各々マグカップにコーヒーを汲んでいた。
「それにしても、アリシアちゃん、接待とか持ち前の愛想があるからお客さん大喜びよ。よかったらアルバイトしてみない?今の時期、お友達は部活動で忙しいでしょ?」
「え…でも…。」
「なに、友達の家の手伝い、と言えば問題はないよ。お給料も出すし、アリシアちゃんさえよかったら、だけどね。」
アルバイト
確かに、働けばお小遣いはともかく、居候の身として家計を助けることが出来る。
そうすれば、悠も喜んでくれるだろうか?
しかしそんな思考は、翠屋に鳴り響いた一通の電話で遮られた。
「はい、こちら翠屋です。」
『あ、かーさん!大変な変態だよ!倒れた怪我が男の人で、それも変態なんだよ!』
いきなりの娘からの電話は、支離滅裂な物だった。
店を桃子に任せ、家に戻る士郎。美由希の焦り具合からただ事ではないと思いつつも、御神の剣士として冷静さが足りないな、精神鍛錬が足りない、と酷評する。アリシアがしばらく居てくれるそうなので、それとなく安心して任せて家路へと急いだ。
「美由希、帰ったぞ。」
玄関で靴を脱ぐと、そのままリビングへと進んだ。広めのリビングの一角。そこに備えられたソファに、1人の青年が横たわっている。黒に近い茶色の髪と、中肉中背の体付き。服は着ておらず、巻かれた包帯と、所々滲み出た血が深い傷を負っているのが見て取れる。特に右肩の傷が深いように見えた。そして左の頬がまるでこぶとり爺さんのこぶのように膨れあがっているのは何故なのか?
それに付き添うように美由希が看病していた。
「あ、おとーさん。」
「…どうしたんだ?彼はいったい?」
「えっと…実はね…。」
遡り30分前のこと。
店と、そして家の買い物を済ませ、両手にスーパーのビニール袋を引っ提げて美由希は家路を急いでいた。雫のような形に膨らんだ袋は、世間一般の女性ならば重く、加えて両手に持って歩くなど到底出来ない重量だ。しかし彼女は、そんなことは知ったことではないと言わんばかりに平然と持ち運んでいる。御神の剣士である彼女にとってはこの程度序の口の中の序の口。日々の鍛錬の賜物だ。
「いや、こーゆー事のために鍛えてるわけじゃないんだけどね…。」
1人誰に聞こえるともなく呟いた。あくまで御神の剣士として力を使役するために必要な筋力である。その並外れた筋力は、そんじょそこらの成人男性を凌駕しているため、女性としては微妙な思いもある。もちろん御神の剣士として鍛えることに、何ら躊躇いもないし後悔もない。しかし…しかしだ、同級生から更衣の度に言われてきた。
『美由希って、スゴく引き締まってるよね~。筋肉質っていうか…』
えぇ、嫌みなどないというのは重々承知していますとも。しかし、当時年頃の少女であった美由希にとって、その言葉は深く、そして鋭く心を抉り取ったのである。
どうでも良いことなので閑話休題
「ちょっ…!どうでも良くないでしょ!?私の青春を……!」
話が進まないのでサクサク行くとしよう。
つまるところ、美由希は買い物帰りだったのは変わりない。今日は安売りの肉が買えたのでとても上機嫌、鼻歌なんかを歌っていそうな、そんな御機嫌さが見て取れるほどだった。
「ん~、これで買う物はそろったし、先に翠屋へ…」
寄っていこう、と言おうとして続きは飲み込んでしまった。
「ど、どいてぇぇぇぇっ!!」
どけ、とな?
はて?
ここは住宅街にある路地で一本道。そして歩行者なので右側通行なう。
それじゃ、どうしろと?
後ろを見ても誰も居ない。
前は勿論誰も居ない。
小首を傾げる仕草が、妙に板に付いている美由希をよそに、何が何だか分からない予感が押し寄せる。
鳥の糞でも落ちてくるのか?と、思って見上げた空。そこからは糞なんて可愛いもんじゃないものが落ちてくるのがすぐそこに見えた。
「おわっ!?」
「きゃぁ!?」
2人の悲鳴は重なった。なんと落下してきたのは青年だった。
落下してきた彼に頭からダイブを喰らう。
「いたた…!」
強かに尻餅をついてしまった。
今日はセールに鉢合わせて運が良かったと思ったのに、どうしてこうなった?
なに、美由希?運が良いと思っていたら、落ちてきた人とぶつかって痛い目に遭った?
逆に考えるんだ。
空から人が落ちてくるなんて滅多にないんだから、それに鉢合わせたことは幸運なんだと考えるんだ。
昔愛読していた漫画の主人公、その父親の台詞が脳裏に浮かぶ。
条件反射で咄嗟に目を閉じていたことで現状を理解できない。とりあえず何が起こったのかを把握する必要がある。
美由希は目を開いた。
黒茶の頭が見える。
あれ?
お腹辺りに重たい感覚が…。
そして自身の胸元に手がのせられてる?
…しかも揉んでる?
…
……
………
「…あれ?アンジュ…にしては…小さ…」
「こぉの変態がぁァぁァァあッ!!!!」
鍛えられた上腕二頭筋が猛威を振るい、1人の青年の意識を刈り取った。豪腕が彼の左頬を無情且つ的確に捉え、彼は宙を舞う。見事な放物線を描いて、青年は『頭』から地へと還り、数回痙攣した後動かなくなった。
荒い息を整えながら美由希は思った。
やはり運が悪い、と。
逆に考えるんだ。
男運がない君が、πタッチをされるなんて運が
「そんな運、いらないよっ!!!」
「で、家に運んで現在に至る、と?」
「そ、そーいうことになる、かな。」
場所と時は戻り、高町家のリビング。青年を冷静に見たところ、負傷していたので家に運び、手当てをした、と言うことになる。
不断の鍛錬で傷を作ることの多い美由希は、こう言う手当てはお手の物で、シンプルながらも的確な処置をしていた。
「まぁその…胸の云々は不慮の事故、と言うことで受け入れておきなさい。」
「うぅ…なんだか納得できないんですけど…」
「肝要なのは、彼が何者か、と言うことになる。美由希、身分証明書のような物はあったかい?」
「うぅん。無かったんだよ。着ていたのは、なんかのコスプレ?なのかな。黒い軽装の…なんだろ。パイロットスーツ?そんな感じの物だよ。」
ソファの隅には脱がせたであろう、黒いパイロットスーツらしき物が捏ねてある。士郎はそれを広げて見てみるが、軍隊で使用するような物に見えない。それにこんな規格の物を見たこともない。右肩や左肩、太股に当たる部分が負傷したのか、血で滲んでいるのは痛々しい。
「…ふむ。…右肩の傷は…刃物での裂傷…か?…他の部位は、銃弾によるものに見える。」
「そ、それじゃ、そう言う人から追われてる人なのかな?」
「どうだろう?…並大抵の相手ならば、僕や美由希は迎え撃つことも出来るからね。彼が目を覚まして、事情を聞いてからその先を考えよう。」
あ!そういえば…と、美由希は思い出したかのように、ソファの向こう側へ。
持ってきたそれは少し反り曲がった士郎もよく見る物。
「こんなのがこの人の落ちてきた近くに落ちてきたんだけど…、これって刀…だよね?」
赤く、それでいて艶のある雅な鞘に収められた日本刀と思しき得物。士郎は美由希からそれを受け取ると、ゆっくりと抜いてその刃を確かめる。
まず美しい刃紋が目に入った。ほぼ均一に波打たれた紋は、小太刀といえど刀を得物とする者でも目を奪われるほどに美しい光沢を放つ。
…なるほど。
ただこれだけを見てもこの刀が余程の業物であるのが感じられる。
「これ程までに見事な刀、僕も中々お目にかかれないものだと感じるな…。」
「うん、スゴく綺麗だよね…。」
思わず見ほれる2人。トリップした二人を目覚めさせるかのように、呻き声がリビングに響いた。
「うぅ…ん?」
頭を抱えてもっそりと身体を起こした青年は、ゆっくりと目を見開いていく。
深い色をした紫の瞳
今の自分を見据え、現状を理解しようと頭を回転させる。
「あ…れ?ここは…どこだ?」
「おぉ、気付いたか?気分はどうだ?」
「え?あ…はい。少し全身と、あと特に頭と頬が痛いですけど、耐えられないほどじゃないです。」
「そうか。全身を怪我していたからビックリしたよ。…とはいっても、発見したのは僕の娘の美由希だからね。お手柄だよ。」
かく言う美由希はというと、初対面が最悪だったからか、あまりいい心境をしていないが、それでも怪我人に追い打ちを掛けたことに対しての罪悪感も持ち合わせており、微妙な表情だ。
「そ、その…さっきはごめんなさい…。事故だったのに、殴り飛ばしちゃって…」
「え?あ、あぁ。あれは俺の方も悪かったと思ってるよ。こちらこそ事故とはいえ、あんな事しちゃったし…」
思い出して気まずいのか、視線を逸らして頬を掻く青年。しかしまぁ、今まで同じように破廉恥な行為を繰り返して、その度に報復されていたこともあり、仕方ないと解っている所もある。
「僕は士郎。高町士郎。ここ、海鳴市で喫茶店を経営している。こっちは娘の美由希。」
「ど、ども…。」
「俺はタスク。よろしくお願いします、士郎さん、美由希さん。」
とりあえずタスクと名乗った青年の事を知る必要があるため、話を円滑に進める目的と、一服もかねてコーヒーを汲み入れてテーブルに置いた。
その黒く、僅かに波打つ液体をジッとタスクは射貫くように見続ける。
「どうしたんだい?もしかして、コーヒーは飲めない…とか?」
「あ、いえ、違うんです。頂きます。」
何も入れず、ブラックで味わおうとするタスクの心意気に、少なからず士郎は好感触に感じた。士郎としても喫茶店の経営者として豆にこだわりがある。それを最大限に味わえるのがブラックであるとも思っている。しかし、その思いを押しつける気は無い。飲み方は人それぞれだし、その人々の一番美味しいと思う飲み方をすればそれが一番とも思う。
「…!…なんだこれは…!!」
「あ~口にあわなかっ…」
「旨い!こんなコーヒー初めてです!!」
予想以上に大袈裟なリアクション。料理漫画なら目からビームが出ていそうな、しかし現実はカップを持つ手を震わせながら、再び口に含む。口の中で転がし、その苦みと酸味を存分に堪能する。
「…なるほど、その豆の味が分かるとは、タスク君、君は中々にコーヒーを愛しているね。」
「はい!俺、将来喫茶店を開くのが夢なんです!」
「なるほど、良い夢を持っている。」
美由希は思った。
なんで身の上を聞き出そうとして、コーヒーの話題やら喫茶店の話題で盛り上がっているのだろう?話がとんとん拍子に逸れていってるではないか?ここは話を切り替えるように…
「そうか、君の愛する人はアンジュというのか。離れ離れになってそれは心中痛み入るよ。」
「アンジュは強い子です。俺も再会できるようになんとかしなきゃって思ってますし。」
「その心意気、わかるよ。僕も桃子、あぁ、妻の名前なんだがね。彼女のためなら地獄の閻魔のふんどしを盗んでくることもいとわないさ。」
「そうですよね!俺もアンジュの騎士として、命を燃やす覚悟です!」
あるぇ?
なんか知らないけど意気投合してないかこの二人。恋は盲目とは良く言うものだけど、とーさんもかーさんといつまでたっても気分は新婚、もしくは熱愛カップルだし、このタスクって子も、アンジュっていう子にそうとうメロメロみたいだ。
…
……
………
あるぇ?
なんか私、完全に蚊帳の外じゃない?
「さて、場も暖まったことだし、そろそろ本題に入ろうか。」
はじめからそうして欲しかったと心中穏やかではない美由希。居たたまれない話題の中で、どうしたらいいか困惑していたというのに…。
「まず君の身の上、それを教えて欲しい。そもそも、なんで空から降ってきたのか、後君の服装もそうだし、何より刀を持っていたこと。これは銃刀法に抵触するからね。」
「えっと…そうですね、順を追って説明します。…というより、まずここは地球…ですよね?」
「勿論そうだよ?まさか違う星から来た、なんて言わないでしょ?」
「その辺に関しては、正真正銘、地球人です。あとは…ノーマ、という言葉に覚えは?」
「ノーマ…?いや、聞いたことはないな。何かのキーワードかい?」
ここまでの問答で、タスクは一つの答えに辿り着いた。それは奇しくも別世界に流れ着いたアンジュと同じような答えの導き方。世界の差別の根底たるノーマを知らない。ともすれば、辿り着くのは一つの結論。
「今の質問で、ある程度の現状把握はできました。そしてそれは、お二人に俺の素性を知る為に重要な要素となります。
俺は、同じ地球でも、別の世界の地球から来ました。」
やはり推測は確証となった。
DRAGON
パラメイル
ノーマ
マナ
タスクは自分の世界の中でのキーワードを幾つか出しても、士郎と美由希は首を傾げるばかり。最初の二つはノーマでしかほぼ知り得ない言葉だが、残る二つはあの世界において知らずに育つことのないもの。
「つまり君は、隣り合う平行世界の地球の命運を賭けた戦いを経て、その際の事故でここにやってきた、と?」
「はい。俺はアンジュ…そして仲間と共に、調律者…エンブリヲを倒し、二つの地球の崩壊を防いだ所までは覚えています。しかし、ここからは俺の憶測ですが、近くに寄りすぎた地球が時空レベルで融合しかけて、それが元に戻る際、その間に起こった時空の歪み。それに吸い込まれて、恐らく数多ある平行世界の地球の一つに辿り着いたと思っています。」
「ふむ…、それであの刀は、そのエンブリヲと戦っていたときに使用した得物なんだね?」
「はい、仲間の1人…サラマンディーネさんから預かったものです。」
「…そうか。わかった。…そう言った別世界からの来訪者、それについて任せられる組織に伝がある。…と言っても僕の娘なんだけど。そこで働いているから、アンジュという子も含めて、帰る方法が無いか聞いてみるとしよう。」
時空管理局ならば、次元渡航技術が発達しているので、何らかの手がかりがあるかもしれない。そう推察した士郎は、早速携帯電話を取り出し、娘であるなのはに連絡を入れる。
「ねね、マナってなんなの?」
聞き慣れない言葉に興味を持った美由希が身を乗り出して尋ねる。
「エンブリヲが遺伝子調整して生み出した万能の力です。人間の生活の基盤を支えるもので、それに依存した文化が築かれていましたけどね。」
「築かれて…いた?」
「マナ、と言う物の正体は、DRAGONの始祖であるアウラによって生み出されるエネルギーだったんです。話すと長いのですが、エンブリヲはアウラをとらえてエネルギーを放出させることにより、マナのある生活を構築していたんです。それで俺達の目的はエンブリヲを倒すこと。協力してくれたサラマンディーネさんの目的はアウラ奪還と解放。結果として両方果たせたので、アウラを解放した後は恐らく、マナによる社会は破綻した、と考えるべきですかね。」
「それじゃ、ノーマは?」
「人間の間に生まれた子は、稀にマナの干渉を受けないイレギュラーが生まれるんです。それがノーマ。世界でノーマは忌み嫌われる物として隔離され、DRAGONと戦うことを強いられていたんです。…ですが、ある意味それは先祖返り。遺伝子調整された人間が、本来の種に戻ったのがノーマだったんでしょうね。…因みにノーマとして生まれるのは、大抵女性ばかりなんです。それだけに、送られていた施設は女性ばかりでした。」
そう。
一王女から一兵士へ。
裕福な生活から囚人にも似た生活へ。
『彼女』は目を瞑りたくなるような絶望にも似た経験をし、それでも持ち前のメンタルで足掻いて自由をつかみ取った。
…今思えば、あのクソッタレな世界が無ければ、アンジュと出会うことも無く、家族とともに暮らしていたのだろう。
エンブリヲに感謝、などというものはない。しかし、アンジュと出会えた奇跡には感謝したいと思う。
「…やはり君の言う世界、というのは、僕達の世界と一線を画すようだね。マナ…か。もしかしたら、なのは達の使う『魔力』に似たようなものなのかもしれないね。」
「魔力…ですか?」
「もっとも、タスク君の言うような万能な力とは違うようだけどね。聞くところによると、電気とかそう言ったエネルギーの一種らしい。それを扱った技術の一つが魔法で、それを行使出来る人間を魔導師と呼ぶけど。」
魔導師
漫画やそう言った創作物に出て来る架空の人種。しかし、彼らの口振りからするに、極近しい人物にそう言う人が居る。しかも、士郎は魔力が扱えないにも関わらず、魔導師である娘…なのはと呼んでいた子と家族として暮らせている。
…マナを魔力と捉えるなら、人間とノーマの隔たりが無いと言うことになるこの世界。同じ地球でもこうも違うものなのか。
「…えっと、難しい顔しているとこ悪いけど、魔力って言うのは、地球じゃ認知されてないんだ。」
「え″?」
「妹…なのはの友達とかにはそう言った人は居るけどさ。地球じゃ基本的に魔法技術はないの。だから、魔法を扱うことが出来る人なんて滅多にいないし、使える人が居たとしてもその事を気付かないで暮らしている人も多いと思うよ。」
「じゃあ、その別世界からの来訪者について任せられる伝って…?」
「時空管理局。数多ある次元世界を管轄する司法組織だ。」
「…おかしいな…。」
士郎は自らの携帯電話を耳に当て、呼び出し音に耳を傾ける。黒い、所謂ガラケーというタイプの電話。次世代の機種が発表される中で、士郎は長い間このテのタイプを使い続けている。
曰く、長年使い続けたから今更変更するとなると覚えるのが大変、とのことらしい。
まぁそれはともかくとして、耳に聞こえてくる呼び出し音、それは
電話に出ない
ではなく、
繋がらない
と言うように、
『お客様のおかけになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため…』
と繰り返しているのだ。
一応、高町家を含め、魔法を知る関係者各位の携帯電話には次元を隔てる垣根を越えて通話が出来るように、管理局の技術によって改良されているものだ。
電波の届かないところ、と言うのも基本的にほぼ存在し得ない筈なのだが、こういった状況になる、と言うことは、クロノが言うに『海が荒れている』と言う可能性があると説明を受けた。
「どうやら、繋がらないようだな。」
「本当だ…私の方も駄目みたい。」
「そ、そうですか。」
がっくりと肩を落とすタスク。落ち込む彼に、暫くしたら繋がるはずだから、気を落とすな、と気休め程度には声をかけておくことを忘れない。
「でも、管理局に繋がらないってことは、タスク君は…。」
「もちろん、我が家で待てば良いさ。どうだい?」
「い、いやいや!流石にそこまでは…。」
「なに、怪我も治っていないのなら尚更だ。食事も出すし、寝床も用意しよう。…もし心苦しい、と思うなら、僕の経営する喫茶店で働けば良い。…将来喫茶店を開くのだろう?コーヒーの入れ方とか接客とか、良い修行になるんじゃないか?」
ぐうの音も出ない程に願ってもない好待遇だった。勿論行く当てもないわけだし、野宿確定かもしれなかったことを鑑みれば、これ以上のことはない。少し遠慮したい気持ちはあるが、礼儀も過ぎれば失礼になるもの。
「そ、それじゃあ…お世話になります。士郎さん、美由希さん。」
「あぁ…、一つ言い忘れていた。」
「…???」
「僕の妻、桃子さんに美由希にしたような破廉恥な行為に及んだら…
わ か っ て る ね ?」
「はっ!はいぃっ!」
それでも、ちょっと先行きの不安を拭いきれないものだ。
次回予告
タスク「俺が降り立ったのは今までと違う地球。平和で、それでいて豊かな。」
アンジュ「だからといってラッキースケベをして良いってもんじゃないでしょ!?盛りの付いた犬みたい!」
タスク「大丈夫だ。」
アンジュ「は?」
タスク「俺が発情するのはアンジュ、キミだけ…」
アンジュ「死ね!この変態騎士!!」
はい、と言うわけでアンジュのラッキースケベ、タスク君降臨です。
マナと魔力の関係性は追々。
これからタスクはどうなってしまうんだー(棒)