魔法少女リリカルなのは 天使とスケベの輪舞 作:ロシアよ永遠に
アンジュが部隊長室にて憤慨している最中。
機動六課所属のヘリが鎮座する格納庫の一角には人だかりが出来ていた。その視線の先には、件のヴィルキスだ。その芸術とも言うべき程の外見、それに初見で目が奪われない方がおかしいとも言えるだろう。だが、この世界においてパラメイル、ひいてはラグナメイルと言う物は未知の存在である。そのため、一応危険指定と言うことでヴィルキスの周囲五メートルに立ち入り禁止のテープが張られていた。
「バラしたい…早く部隊長から許可が下りませんかねぇ?」
垂涎の顔で興奮気味にヴィルキスへと熱視線を送るのは、シャリオだ。鼻息を荒くして、寧ろ隙あらばスパナを片手にヴィルキスへと突貫しかねない勢いだ。
「お、落ち着いてシャーリー、そんなことしたら、件のアンジュさんに狩られてしまう!」
そんな幼馴染みをシャーリーという愛称で呼んで羽交い締めにしているのは、グリフィスだ。彼女の歯止め役として、部隊長直々に指名されたのは先程の話。メカフェチであるシャリオがヴィルキスに興味を持ち、解体せんと突っ込んでいくのは自明の理だった。それだけに無闇に近付いて問題を起こさないようにお目付役として、グリフィスが選ばれたのである。
「それに、もし変に近付いて、自動防衛装置みたいなものが発動したらどうするんだ?」
「そ、それはそれで興味がそそられるんだけど!」
「ダメだこりゃ。」
「でも、こう言うのって何となく乗ってみたいって言うのもあるよな。」
自身の扱うヘリの整備を終えたヴァイスが、グローブを取りながら野次馬に加わる。マシンオイルがついたのか、頬や額は黒く汚れていた。
「の、乗ってみたい、ですか…?」
「コクピット、見たか?」
「搬入時に一応は…。どことなくバイクを模しているようにも見えましたけど。」
「おうよ。つまり、だ。バイクと同じ感覚で乗れなくもないんじゃないのかって俺は思うわけだ。」
確かにヴィルキスはアクセルからクラッチまで、バイクと同じような位置に設置されている。加えて前傾姿勢で搭乗する点もだ。武装の発射シグナルスイッチは、ウィンカー点灯スイッチのある辺りと、多少の差違はあれど、似通った構造ではある。それだけにバイクを乗り回すヴァイスにとって、ヴィルキスという機体は、シャリオとは別の意味で興味をそそられるものだ。実際はヴィルキスに限らずパラメイルやラグナメイルは、向こうの地球で盛んであった『エアリア』という競技で使われる機体の操作方法と似通う点があり、アンジュもそれを元にピーキーなヴィルキスの空中制御をモノにしたと言っても過言ではなかった。
「でも搭載されているのは光学兵器…ですよね?」
「あぁ。しかも銃剣付きだ。」
ヴィルキスの機体の中央下部に装着された漆黒の銃身。これは本来ヴィルキスに搭載されていない装備だ。以前の戦いの最中、弾切れを起こしたライフルの代わりに、アンジュの友人であるサラマンディーネ。彼女の機体である焰龍號から受け渡された崩壊粒子収束砲「晴嵐」だ。ここでアサルトライフルを装備して居ようモノならば、またしても質量兵器として引っ掛かってしまうために、再度アンジュの嘆きが発せられるだろう。
「これだけの大きな戦闘機に、こんな物騒な見た目のモノを積まなきゃならないなんて、アンジュさんてどんな修羅場を潜ってきたんでしょうねぇ?」
ヴァイスに続いて、ヘリの整備を終えたアルトも、ヴィルキスの見解から想像できることを口にする。
「そりゃまぁ…よっぽどデカい怪獣とか?」
「そうね、あながち間違いじゃないわ。」
「おわっ!?!?」
「…なによ?怪物か幽霊か見たみたいに…。」
いつの間にか話に参加していたアンジュに、ヴァイスは大袈裟に仰け反って距離を取った。どうにも彼の中で、先程のランチタイムでの出来事が引き摺っているようで、その表情は引きつっている。そんなヴァイスは何処吹く風と言わんばかりに、ざわめきとどよめきが支配するヴィルキスの野次馬共を押し退け、イエローテープを潜り抜けて、愛機のコクピットに跨がる。
「お、おい。勝手に触ったら…」
「なによ。発砲したり急発進したりなんかしないわ。念のために異常がないのかチェックするだけよ。」
「はぁ…はぁ…!アンジュさん!その役目!是非ともこの私めに!」
「シャーリー!キャラ変わってるよ!?落ち着いてくれぇ!」
涎を垂らし、鼻息は荒く。メカフェチ眼鏡はもはやグリフィスの力では抑えきれないようで、ズルズルと引き摺られながらヴィルキスに近付きつつある。もはや恐怖を抱いても可笑しくないほどに、その狂気を表面化させつつある。
「貴女…整備とか出来るの?」
「イエス!六課のデバイス整備は私めがほぼ任されております!」
「ふぅん…。」
まるで値踏みをするかのように、シャーリーを一瞥。見た感じでは、このフェチシズムの異常性はともかくしとして、訓練で見たあの多機能性をもつデバイスの整備を請け負うと言うだけあるのであれば、機械知識もそれなりに豊富だろう。一考したアンジュは、
「いいわ。そこまで言うのならヴィルキスを触らせてあげる。」
許可を下す。
「ちょっ!?アンジュさん!?そんな勝手に…」
「一応、あの狸隊長に許可は貰ってるわよ?」
ヴィルキスのコクピットから降りつつ、懐から取り出した一枚の書類をグリフィスへと投じる。ふわりと空気の抵抗に乗ったそれは、重力と空気に従って、上手い具合に彼の手元に治まった。
「えっと…『ヴィルキスの一切の責任は、アンジュその人に一任する。地上本部には、次元漂流者で、なおかつ管理外世界の人物の所有物であるが故に、当人の保護以外の介入は、彼女の許可なくして行うことは出来ない』?…八神二佐のサインだ。間違いない。」
「そゆこと。つまり、ヴィルキスの整備を誰に任せるか、それは私が一任できるってわけ。おわかりかしら?」
この隊のトップからのお達しでは、グリフィスも首を縦に振るしかない。しかし代償と言っては何だが、途方もない借金を抱えることとなったわけだが、ここは割愛とする。
「…わかりました。部隊長の命となれば異存はありません。」
「聞き分けいいのね。」
「上司の命令に異論を唱えるほど、僕は反骨精神はありませんので。」
彼女達がシャリオに許可を下した以上は何も言えない。しかし目の前で涎をまき散らしながらあれこれ探るメカフェチには、幼馴染みとして肩をすくめざるを得ない。
「アンジュさんアンジュさん!」
「はいはい、何かしら?」
「キースロットがないんですが、どうやってエンジンを起動させるんですか?」
デバイスはAIによっての起動補助があるとして、この世界においても起動に際しては、ヘリコプターだろうとバイクだろうと車だろうと、それに合わせたキーによって動かすことに変わりない。
デバイスマイスターとて、やはり普通のメカと一味も二味も違うヴィルキスの機器を目の当たりにして、既存の機械を基軸にした知識から来る構造に関する疑問が浮かぶのも当然だろう。
ましてや、ヴァイスの言うように、バイクと似たようなコクピットならば尚のこと。
「あぁ。それなら…。」
ひらり、と身軽な動きでコクピットに飛び乗ると、計器回りに備え付けられたスイッチを手慣れた動作でオンにしていく。
レーダー
高度計
推進剤残量
火器管制パネル
etc.etc.
淡い光が機材に灯り、その機能を十全にしていく。
そして動力炉に火が入り、いつでも飛び立てるように青い三対のウイングの隙間から光の粒子が噴出し、周囲に微弱ながら噴気を発生させる。
「今の所、各部位に異常は無いかしらね。…でもやっぱり決戦後そのままだから推進剤残量が気になるわ。」
「あと、各所から軋むような音がしますね。…大分無理させてません?」
「あら?わかるの?」
「こう見えてもデバイスマイスターの資格を持ってますから。」
えへんと胸を張るシャリオに、思わず眼を丸めて舌を巻く。ある程度、管理局という組織の概要を聞いたから、その技術のノウハウはあらゆる世界の物を網羅しているのは想像できた。しかしそれでも、初見の、それも見たことも無い機械の塊であろうヴィルキスの異常を、駆動音を聞いただけで理解するというのは並大抵では出来るものではない。永らく共に戦ったアンジュも気付けないような微弱な異常音を聞き分けるというのは、機械の整備に携わる者の特製でもあるのか。
「しかもこれ…戦闘機、と言うのはこの機体の一面でしかないですね。…この構造からして…可変機構。…人型に可変するのでは?」
「…ホント、あんたの観察眼てどうなってんのよ。」
「この眼鏡は伊達じゃない、ですよ。」
きらりと怪しく光る丸眼鏡が、頼もしさと共に、胡散臭さもアンジュには感じられた。そもそも、観察眼に眼鏡は関係は余りないだろうに。
「まぁ、この分だと腕に問題はなさそうね。」
「あはは…まぁデバイスに限り、ですが。でもやりますよ、やりますとも!」
どこからともなく取り出したレンチやドライバーなどの工具を指の間に挟み、正に六刀流…否、六爪流だ。
Let's!Party!!と歓喜の声を挙げんばかりに、シャーリーの顔は恍惚感に満ちていた。実際、未知の機械を整備できるだけに、彼女の脳内はPartyなのだろうが。
「で?」
「なんですか?」
「何ですかじゃないわよ!」
翌朝。
ヘリハンガーには怒号が響いた。
捲し立てるのはアンジュだ。余程ご機嫌が宜しくないのか、額に幾つもの青筋をおっ立てている。
対し、シャーリーはというと、何故怒られているのか解らないという様子で、キョトンと目を点にしている。
「何なのよ!この機首につけられたものは!」
そう、黒と白とが織りなす、芸術とも呼べるまでに鋭角的な造形を成していたヴィルキスの機首。そこには原形を留めない程に変化した部品…いや、武装があった。
それは、円錐だった。
しかし、ただの円錐ではない。
根元より、螺旋状に細い溝が、渦を巻くように先端へと続く。
男は、それに浪漫を感じる。
一部の女も、それに逞しさを感じる。
浪漫を求めて止まない人種が行き着く、あらゆる浪漫の原点にして頂点。
「何って…ドリルですけど?」
「んなこたぁ解ってんのよ!なんでつけたのか聞いてんの!」
そう、ドリルである。
回転することにより地中を掘り進むための工具となるこれは、地に埋まる地盤をも貫通させるその貫通力を武器に転用することも出来る技術である。
そしてそれを装着されたヴィルキスを見て、朝一で唖然としてしまったアンジュは、さぞ見物だっただろう。
「なんでって…浪漫だから?」
「何で疑問形式なのよ……。これじゃ、駆逐形態になったときにドリルが胸に来ちゃって、すんごく不格好じゃない…。」
「大丈夫ですよ!その時は、ドリルがくぱぁ!っと開いて、その…アルゼナル?でしたか?そのエンブレムが中から現れるようになってるんです!」
「何そのドリルの無駄遣い…。それじゃあまるで……まるで…何みたいなのかしら?うっ……頭が…!来年…来年になれば解りそうなのに…!」
「痛み止め飲みますか?」
「その前にドリルを外しなさい。」
今日も六課は平和です。