一級冒険者がサポーターなのは間違っているだろうか   作:ジェイ

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おひさしぶりです。
おひさしぶりすぎてごめんなさい。


9話・宴会と狼(後)

 少年、ベル・クラネルは走る。

 夜の暗闇に包まれた街中を走った。

 

 悔しかった。

 

 馬鹿にされた事が。

 

 恥ずかしかった。

 

 ただ守られ、情けなくも泣き叫び、そして逃げるだけの自分がどうしようもなく滑稽であった。

 

 何が冒険者だ?

 

 そう、思ってしまった。

 

 故に目指す。冒険の入り口、ダンジョンがあるバベルへ。他には何も考えられない。自棄になっているのかもしれない。それでも己にも抑えきれない衝動に突き動かされて走り続けた。

 

 装備など碌にしていない身でありながら。武器であるナイフしか持ち得ないのにも関わらず。

 

 そして

 

 

 「今夜は良い月だ」

 

 そんな、普段でもよくあるありふれた言葉が、しかし妙に響く言葉をベルの耳がとらえた。思わず足を止めて声の方向に向き直るとそこには二人の男女がいた。

 

 一人は狼人の男性。ベルと似た白い髪に輝く様な金色の瞳を持ち、威風堂々と自信に満ち溢れた佇まいで月を見上げている。

 

 一人は人間の女性。輝く黄金の髪と、先の男性同様の金色の瞳を携えた少女がまるで待ち受けていたかの様にベルを見つめていた。

 

 

 

 「なぁ、坊主。てめぇはこの月を見て何を思う?」

 

 ベルの心境などお構いなしに男、ランは問う。

 

 「満月だ。俺らの瞳の様にまん丸で金色に輝き、そして闇夜を照らす光。俺はそれが欲しくてたまらない。喰らいたい程に欲しくて、でも喰らったら今が終わってしまうのが分かっているから喰らえないんだ。すぐ近くにいるのになぁ」

 

 ベルには理解が出来なかった。まるで自分を待っていたかの様に佇む男女を。そしてその二人が先程まで自分がいた酒場で宴会を開いていた人物達であった事に。何故先に酒場を飛び出した己よりも先回りしていたことに。

 

 そして――――――――

 

 

 

 「まぁ俺の話は良いか。すまんな小僧、大事な事はこいつが話す。アイズ、言いたいことを言え。フォローはしてやる」

 

 「………うん。……………えと、君、ごめんなさい」

 

 ――――――――何故助けてくれたアイズ・ヴァレンシュタインが己に頭を下げているのかがベルには理解が出来なかった。

 

 ベルはアイズに助けられた。それは紛う事なき事実である。

 

 その日駆け出し冒険者であるベルはダンジョンに赴いていた。相談者の言を若干無視、と言うより好奇心に付き従い本来設定された階層を越えた結果、本来その階層には現れる筈のないモンスターであるミノタウルスと遭遇してしまったのだ。

 

 知識では知っていた。下級冒険者ではミノタウルスに勝てない。そのモンスターは下級冒険者蔓延る上層には現れないと。故にベルは逃げ、追い詰められ、そして助けられた。目の前の金色の髪と瞳を持つ美しい少女に。

 

 「う、うわ」

 

 「おっと、ここで逃げるのは無しだぜ?」

 

 ふとその場から走り去ろうとしたベルをランは肩を掴み押し止めた。

 

 「おめー、そりゃ無いぞ。女が必死に気持ちを伝えてるのに何も言わずに逃げるとか無ぇわ。そりゃあテメーの気持ちは分かる。怖かったよな、情けなかったよな、助けられて安堵しただろ、こんな美人に助けられたら惚れもする」

 

 ランの言葉に顔を赤く染める他2名。ランはストレートなのである。言葉も行動も考えも。

 

 ちなみにここで顔を赤く染めた理由としてアイズ美人と言われた事に、ベルは己の恋心を悟られた事にあるのだが二人は互いにその関係性に気が付いていないのはある意味幸いであろう。

 

 

 「でもな、だからって逃げんなよ。お前が恥ずかしがりやなのはわかったが」

 

 己の気持ちを言い当てられ悶絶寸前のベルに対してランは更に言葉を続けた。そしてそれはベルにとってはミノタウルスと相対した時以上の衝撃をもたらした。

 

 「小僧、テメェーは一度でも感謝の言葉をアイズに言ったのか?」

 

 「っ!?」

 

 ベルは勢い良く顔をアイズに向ける。アイズはその視線を受け何か不安そうにその整いすぎた容姿を曇らせる。

 

 (僕は一度もお礼を言ってない!?それどころかちゃんと話してすらいない!僕は、僕は何をやっているんだ!!)

 

 「その顔は気が付いたみてーだな。なら俺のお節介はここまで。後はテメェーらで勝手にしろ」

 

 己の失態に気付いたベル。そしてそれを見て察したランはベルから離れアイズの後ろに立った。

 

 

 白い少年は己の淡い想い、そしてそれ故に行ってしまった失態を謝罪し、そして助けてくれた事に対する感謝を述べる為に気恥ずかしさを堪え顔が熱くなるのを感じながら少女の元に歩みを進める。勿論その顔は羞恥で真っ赤である。

 

 金色に輝く少女はそれを見て己も少年に近づこうとしてやめた。下手に動くとまた逃げられてしまうのでは、怖がらせてしまうのではと思ったからだ。

 

 そして二人は相対する。距離は1mもない。

 怖がられてるのに距離近いな、と漠然と思うアイズだがベルの覚悟を決めた様な瞳を見てその疑問を消す。アイズはこの段階にいたっても勘違いしたままである。

 

 そして二人は

 

 『ごめんなさい!』

 

 ほぼ同じタイミングで眼前に火花が散った様な感覚と額に痛みを感じた。

 なんて事はない。近すぎる距離、互いに謝罪の言葉。これだけで十分理解出来よう。要は同じタイミングで同じ行動をした、ただそれだけだ。

 結果として二人は互いに勢い良く頭を下げた事で互いに頭をぶつけ合いアイズは額を押さえてしゃがみこみ、ベルは5mほど離れた場所に仰向けになりながら声にならない声をあげていた。この差はレベル差の現れでもある。

 

 そしてこの結果にランは文字通り腹を抱えて笑い転んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後二人は互いの思い違いを修正出来たと言えるだろう。

 

 痛みが引き漸くまともに言葉が発せられる様になったベルは逃げてしまった事に対する謝罪と、助けてくれた事に対する感謝を告げた。アイズも逃げてしまうほどに怖がらせてしまった事を謝罪した。それにベルは慌てて「そんなことはない!怖がってなんかいない!」と答え、アイズは「じゃあ何で悲鳴をあげながら逃げたの?」と不思議そうに首をかしげてベルを再び羞恥に襲わせる。そんな二人をランは楽しそうに眺めていた。

 

 ともあれ二人の少年少女は顔を見合わせながら談笑出来る位には関係が修正、と言うより向上したのであった。

 

 

 そして現在

 

 

 「それじゃあ僕は行きますね」

 

 「………やっぱり行くんだ」

 

 途中からランも加わり三人で繰り広げられた小一時間にも及ぶ談笑はベルが腰をあげた事で終わりを迎えた。それをアイズは名残惜しく言った。

 

 楽しかったのだとアイズは思う。

 

 ランが己の経験談、武勇伝や失敗談を面白おかしく語り、それをベルが瞳を輝かせながら、時には質問等を交えながら聞き、アイズはそんな二人をまるで兄弟の様だと微笑みながら、そして自身がその輪に加わっていることを嬉しく思いながら見ていたのだ。

 

 「おいベル!」

 

 「なんですか?ランさん?」

 

 「これ持ってけ」

 

 立ち去ろうとするベルにランは声をかけ、ベルが振り向いたと同時にそれを緩く放り投げた。突然の飛来物にベルは慌てはするものの何とか掴み取った。

 

 「これは、アミュレット?」

 

 それは三日月を彫り込まれた銀で出来きた一枚のプレートで、首からさげられる様に黒い紐を通されているペンダント型のものであった。

 御守りか何かと疑問に首をかしげるベルに

 

 「おう。俺の神、レスティア様謹製のアミュレットだ!本来は眷属の俺しか効果はねぇけどヘスティア様の眷属なら効果はあるはずだから持っておけ!」

 

 人懐っこい笑みを浮かべながらランが言う。

 その言葉の意味は分からなかったが、ベルはせっかく貰った御守りと言うことでそれを早速首からさげて感謝の言葉を返してダンジョンに向けて走り去る。

 

 その時のベルは笑顔だった。

 

 酒場を出てから浮かべていた暗い物とは違い自然な笑みを浮かべていた。

 

 

 最初は憤りだった。

 何を言われても言い返せない己が情けなく、不甲斐なく悔しかったから。弱い自分が許せなくて。

 

 続いて驚愕と羞恥。

 憧れた女性(ヒト)が見知らぬ男性と、先程まで自分がいた酒場にいたはずなのに目の前で待ち構える様に立ち尽くしていたから。

 

 そして罪悪感と更なる憧憬。

 己の失態に気が付き謝罪し、醜態を晒しながらも互いの思い違いや距離を修正出来た。むしろ向上しただろう。端から見ても仲が良く見えるほどに。そして彼女(アイズ)を知れば知るほどに思った。

 

 彼女(アイズ)はあまりに美しく、あまりに強い。

 己と歳がたいして離れていないのにも関わらずLV.5であり、迷宮都市オラリオでもトップクラスの冒険者。

 そんな彼女に頼られ信頼されるランに対して強い憧れを抱いた。憧れの先の憧れを見つけた。

 親近感にも似た感情なのかもしれない。

 色合いは若干異なるものの己と似た髪色。速さを重視する戦闘スタイル。そして似た容姿の、まるで親子や姉妹の様な()を持つ眷属故の感情。

 己もこの人に近づき越えられるかもしれない。憧れた人に(アイズ)憧れるヒト(ラン)と同じ世界を見れるかもしれない。

 

 そんな期待感がベルを動かした。

 正直先は遠い。手を届かせるどころか指先すら触れられず、まるで見えない。

 それでも追い付きたいと、むしろ追い越したいと憧れは昇華して目標(野望)となり浮かべた笑み。

 

 そしてその思いは少年に反映された。誰も気が付かない、本人さえも知らぬままその身に宿ることとなる。後日とあるロリで巨乳な黒髪ツインテールな僕っ娘女神が絶叫をあげることになる。それはあまりに有名すぎる冒険者と同じスキルを発現させたからである。

 

 ともあれベルは二人に背をむけダンジョンに向かい走り出す。

 今は弱い己を鍛える為に。

 目標(野望)越え(達成る)る為に。

 

 少年は疾走する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………ラン、ありがとう」

 

 「気にすんな。俺がやりたくてやった事だ」

 

 

 ベルを見送った二人は少しの静寂を間に挟み言葉を交わす。他者からすれば驚愕な場面である。何せ無口とは言わないまでもあまり感情表現が豊かではない物静かなアイズが先に口を開き、普段は騒がしく口汚い、そして言うなれば喧しいお祭り男のランがアイズに合わせる様にしていたから。しかしこの二人だけの時はこれが通常でもある。

 ランはアイズを理解している。

 アイズはランを信頼している。

 

 

 出会いはアイズが駆け出しの時に始まり、今ではアイズのロキ・ファミリア以外の唯一の理解者にしてアイズの目標(野望)でもある。

 故に二人にとっては何気無い自然な空間でもあった。

 

 

 「彼、ベルは強くなるよ」

 

 「ああ、そうだな」

 

 アイズはベルに己と同じ光を見たから。ランはその光を見続け、今もなお見続けているから。だから

 

 「先は私で、その先も譲らない」

 

 「しってる(理解してる)

 

 

 「だからランはずっと私の前にいて。それじゃないと追いかけられない。ランが先にいる限り私は強くなれる。ゴールしたいのにゴールしたら先が見えないから、だから………」

 

 

 再び沈黙が二人を包む。がそこに気まずさなどは無く寧ろ人見知りな妹のお願いを聞いている兄、そんな構図が想像される微笑ましい空間が成されていた。

 

 

 「ったく。わぁーたよ!」

 

 ランは応える。言葉は普段と変わらぬものだがその雰囲気は普段の荒々しさとは真逆の落ち着いたもので、妹のお願いを聞き届ける兄そのもの。優しさと慈愛に溢れたものであった。

 

 「そろそろ解禁だ!明日5年ぶりにステータス更新してくる!また差をつけてやるから覚悟しとけ」

 

 そのあまりに非常識な兄貴分の発言にアイズは目を見開き口をだらしなく開けたまま硬直する。

 

 そしてアイズにしては珍しく獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 「………絶対に追い越す!」

 

 

 

 

 

 

 

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