一級冒険者がサポーターなのは間違っているだろうか 作:ジェイ
お楽しみに頂けたら幸いです。
ギルド。それはオラリオの都市運営、冒険者および迷宮の管理、魔石の売買を司る機関。神の一人であるウラヌスを長としているが実質の運営は団員たちがおこなっているウラヌス・ファミリアとも呼べる組織だ。
しかし都市運営や冒険者の管理を行う上で中立を保つために構成員に恩恵は預けないなど徹底した姿勢を示している。故にファミリア間での争いも余程のことが無い限り介入はしないのである。
さて、そんなギルドであるが彼らの仕事の一つに冒険者の記録等も含まれる。細かなステータスや所持スキルは冒険者自身及びファミリアの弱点になりうる為報告や記録の義務は無いが、所属ファミリア、氏名や年齢等の個人情報、そして冒険者のレベルの明記を義務づけている。もしこれを怠り、偽ればギルドよりファミリアに対して罰則を設けているのである。
そしてこの日いつもの様にギルド職員や冒険者、はたまた商人や鍛冶師で賑わうギルド本部に戦慄が駆け巡る。
「あぁー、だりー。なんでこんなにこんでんだよ受付ー」
がしがしと頭をかき欠伸を携えながら現れたランによって。
((((((((何故お前がここにいる!?!?))))))))
これがその場にいたもの達ほとんどの思いである。
「あ?何か静かになったがどーしたんだ?テメーらは」
皆が皆先程までの喧騒とは打って代わり細々と会話をし、目線をランに合わせない様に反らし、極力目立たない様に、目をつけられない様に―――――――ランに巻き込まれない様にしているのである。
もしこれがたった一人の行動なら目立って仕方無いが全員が同じ行動を取れば不自然ではあるが個が目立つ恐れは無くなる。隠すなら森の中である。
ランは有能だ。有能過ぎるほどに。
冒険者時代単独でダンジョンを駆け巡り新階層の開拓やマッピングを行う。新モンスターであろうと大抵は撃破し、無理であろうと確実に情報を持ち帰る。既存階層の隠し部屋等も自慢の速度を活かしたしつこい程の探索で発見し罠や発生モンスター、入手アイテム等の情報提供。
現在であればサポーターとしてパーティーに追従し護衛を努め、モンスターに襲われ危険に晒されるパーティーを救うなどと様々な貢献をギルドにしていたまさに救世主。
だが同時にランはギルドにとって疫病神にも等しい存在でもある。
新階層の開拓やマッピング。情報更新のため仕事が増える。
新モンスター発見。情報更新及びモンスター確認のため冒険者の選別と派遣で職員は仕事が増える。冒険者は未知の敵であるため命の危険が生じる。
隠し部屋の発見。上二つのダブルパンチにプラスしたアイテム調査も追加で仕事倍増。
こんなのを日常業務に追加で持ってこられては残業処の話ではない。下手したら数日寝れない。それ程に密度が濃い内容を持ってくるのだ。
はっきり言ってかなり疲れる。
そして何故冒険者まで同じ反応なのか。それはラン故に、ランの性格にあった。
傍若無人、とまでは言わないがやや強引で荒唐無稽、とまではいかないが周囲を引っ張り回す破天荒なお祭り男。そして無駄に強い。
そんな男に
「あ、この前見つけた隠し部屋の報告したからその調査お前が行けよ」
などと言われて断れるだろうか?いや無理である。ランの機嫌を損ねて物理的に潰されたくないのである。決してそんなことはしないし、ランとて実力を見極めた上での選別であるのだが誰だって大変な思いを好んでしたくはない。
故にギルド本部において暗黙の了解があった。
だが例外と言うのは何処にでもいて、それに巻き込まれる可哀想な者も何処にでもいるのだ。
その1つが下級冒険者とその付き添いできた同ファミリアの先輩だ。以前も述べたが基本的にサポーターは蔑まれる傾向が強い。それは下級冒険者に近いほどそのサポーターを蔑む度合いは高くなる。故にランが有名なサポーターである事は分かっていてもランの本質を知らない下級冒険者は「サポーターがここに何の用だよ!ははは、仕事でも貰いにきたか?」等とヤジを飛ばし、慌てた先輩に頭を無理矢理下げさせられる。これが数組。先輩冒険者達は冷や汗を流しながら必死に嵐が過ぎ去るのを待つのみで、周囲の同情の視線が痛い。後にこの後輩達は先輩より愛と憎しみのこもった、対比1対9の教育指導を受けることになるだろう。
そしてもう1つ、これは致命的であった。
「あ!ランさーーん!こんにちわーー!」
「おう!ベル坊じゃねーか!こんなところで会うとは奇遇だな!」
「…………………あぁ終わった。今日からしばらく残業だ」
それは駆け出し中も駆け出しであり録に知識のないランの知人である下級冒険者の担当ギルド職員――――――
「エイナ~、助けて~!」
「ごめんね、今ベル君とお話し中だから。頑張ってね!」
「そんなーーー!?」
――――――の隣の現在丁度お手透きになったギルド職員である。とは言えまだ助けを同僚に求めた職員、ミィシャ・フロットが今回の人柱、ではなく受付担当に決まった訳ではない。十中八九決まったようなものだが、一筋の奇跡を信じる様にうつむき瞳を強く瞑り両手を合わせて祈る。
「ベル坊はどうした?エイナの特別授業か?」
「いえ、今日はダンジョンの事で相談をしに来たんです」
そんなミィシャの事を知らぬと言わんばかりに近付くラン。この野郎余計な事を!と内心憤慨しつつも声には出さず出るのは冷や汗のみ。
「ほう、熱心な様で何よりだ。エイナより熱心なスパルタ職員はそうそういないから心しておけよ」
「………はは、身をもってしってますよ」
「ちょっと二人ともそれは酷くないですか?それはそうとランさんお久しぶりです」
必死に祈るミィシャの横でエイナと呼ばれた女性職員が話に加わった事で彼女は思った。ワンチャンきたか!?と。
「それで今日はどうしました?ご用でしたら丁度ミィシャが空いてますのでそちらでお伺いしますよ」
そして売られた。
「ちょっ!?エイナ!?人身売買は道徳に反するよ!」
「人聞きの悪いことを言わないで。手が空いてるのはあなただけ何だから。スムーズに効率良くするための采配よ。さ、ランさんこちらにおかけを」
ミィシャの文句を受け流してランをそくすエイナ。それに従いランはミィシャの前に座った。
「きょ、きょきょきょきょきょーわ、なななな何ををををを?」
どもりすぎである。
「あ?どーした?何言ってんのかわかんねぇぞ?もしかして俺に惚れて緊張してんのか?」
笑いながら言うランに聞き耳を立てていたもの達は、コイツうぜぇ、と声に出さずにしかめっ面を浮かべた。正面のミィシャなど顔がひきつっている。隣のエイナは安定のスルーでベルは何故か瞳を輝かせてランを見ていた。ミィシャはこの少年の将来が不安になった。
「し、失礼しました自意識過剰野郎。それで今日は何か?犬ッコロ」
思わず出た言葉だ。エイナなどは余りの物言いにぎょっとして隣を見る。流石のランも唐突な物言いに少し引きぎみである。周囲の者はとりあえず拳を前に出し真上に親指を立てた。皆の心情は前述の通りなので後は推して知るべしである。
「え?お、俺お前に何かしたっけ?ま、まぁ良いや。今回は簡単な報告だけだ」
「ほぇ?」
若干困惑しているランとアホっぽい返事のミィシャ。良く見ればランの格好は普段着と言われれば納得出来るほどにラフなものだ。黒の長袖の上着と白のインナーシャツ。それに上着と同色の黒のスラックス。それ以外は何も持ち合わせていない。普段なら膨大な量の紙束を両手で抱え、更には背中にも膨大な量の紙束の入ったバッグを背負ってやってくるので今回は本当に報告だけなのだろうと少し安心した。
「あ、その。大変失礼しました。そのいつも凄い量の資料を提供して下さるので身構えてしまって」
「あー、あれか?まぁ今後はそれ出来なくなるから安心して良いぞ。俺事情があってサポーターと冒険者兼業することにしたから暇があんまりなくてな」
「あ、なるほどですね。畏まりました。上にはその様に報告します」
ちなみにランの言うサポーターと冒険者の兼業は今までとやっていることと余り代わりない事への追求はしないでおこう。本人としては片手間でマッピングをしていたつもりだがしているのはまんま冒険者であるなどと突っ込みを入れる勇気のあるものはここにはいない。
「えと、報告は以上ですか?それとも冒険者に戻ると言うことでパーティー募集とかの申請でしょうか?ランさんの所属ファミリアはお一人だけと記憶していますけど」
「あー、パーティー募集はいらねぇよ。最低LV.5じゃないと足手まといだしサポーターは俺がいるし何なら弟子を連れて行くからな。つーか知り合い連れて行くから。本題はそれじゃない。俺ランクアップしたから」
「あ、なるほど!確かにそれなら報告が………………は?」
「いや、だからランクアップしてLV.7になったんだって。いやー参ったぜ。久々にステイタス更新したら基礎アビリティがカンストしてるしランク上がるしでよ!」
はははと笑うランと静まり返る周囲。正面のミィシャはその可愛いらしい相貌が驚愕のあまり目を見開き口はだらしなく開きっぱなしになっている。それはミィシャのみならず知的眼鏡美人のエイナも同様でトレードマークでもある眼鏡がずれ落ちかけており直すのも忘れてランを見ている。周囲も差異はあれど同様だ。本当に周囲を巻き込みまくる男である。
なおもベラベラと話すランをよそに静寂が続き、いったいどれ程の時間がたったのだろうか。10秒か、1分か、はたまた10分だろうか。まるで時間を停められたかの様に動きを完全に停めたギルド本部でランだけが自由に動き回れる。いったいどこの停止世界だろうか。
そして時は動き出し―――――――
『えええぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!』
全ての者が驚愕に包まれた。
この日迷宮都市オラリオに激震がはしる。このまち二人目のLV.7の登場として。
ギルドの騒ぎを散々楽しんだランは未だに収まらぬ周囲を放置してとある場所に赴く。
「ランハティ、ここに何用だ。フレイヤ様はお前には会わせんぞ」
「俺だってあの方には会いたくねぇ。俺はあんたに会いに来たんだよオッタルさん」
そこはオラリオにおいてもっとも高い所に位置するバベルの頂上。その屋根である。そこで向かい合うのはランとオッタル。この街においてたった二人だけのLV.7だ。
フレイヤ・ファミリアの<猛者>オッタル。オラリオ最強の頂天である。ランに正面から勝てる数少ない人物であり、過去にランとパーティーを組んだ経歴の持ち主でもある。
「俺さ、LV.7になったんだよ。その報告にな」
「聞いている。ここまで来たのか、と言っておこう」
「なんだ、待っててくれたのか?」
「それは少し違う。俺はフレイヤ様に全てを捧げている。フレイヤ様をお守りするために頂天にたったに過ぎず、側に支えることが至上の幸福だ。故に必要無かった。あの方に危害を加えかねんお前がそこで甘んじていたからな」
この二人は似た者同士である。己が主神の為に。側にいるために強くなった。ただただそれだけの為にオラリオ最高峰の戦力を得た。そしてある意味現状に満足していた。しかしだ。
「約束しちまったからな。先を歩み続けるって。可愛い妹分に頼まれて断れる兄貴分はいねぇって話だ」
アイズとの約束。ランはそれを果たすために先に進む。
「………そうか。ならば精進することだ。俺はフレイヤ様に支えるのみ」
オッタルは支えるべき主神の為に最強であり続ける。
「へっ。気を抜くなよ。あっという間に追い付いてくらっちまうぞ」
「ふん。そう言って出来た試しがあったか?」
こうして二人はお互いに高めあってきた。敵の様で友人であり、師弟の様で何よりもライバルと言うべき関係。それがこの二人である。
「まぁ良い。距離が離れてるほど追いかけがいがある。覚悟しとけよ。俺は速いぞ」
「そんなこと誰よりも俺が知っている。だが速いだけで俺に追い付けるなどと思わぬ事だ。お前は俺より速くても俺より弱い事を忘れたのか」
「それこそ言われるまでもねぇよ。でもだから面白い。まっ言いたいことは言ったから帰るわ。そろそろレスティア様とデートの時間だしな!」
そうして音もなくランは姿を消した。まるでそれまでの出来事が幻覚だったのかと思わせる程に速く、ただ速く去ったのであった。
それを確りと捉え、姿が見えなくなるまで見届けたオッタルは静かに、そして彼からは想像出来ない程に熱く燃えたぎる心を持ちながら己の主神の元へ向かったのであった。
ちなみにその出来事を覗いていたオッタルの主神フレイヤは大のお気に入りである彼の魂の輝きが強く増したことに歓喜し、更なる愛を彼に捧ぐ事になるのであった。
~停止世界~
俺が時を停めた。そして時は動き出す。
めっちゃ使いたかったけど三人称視点の文章なので断念しました。
ただ↑のが書きたいが為にWiki風に後書きに書きました。
話があまり進まず申し訳ないですが、今後もお付き合い下さい。