一級冒険者がサポーターなのは間違っているだろうか 作:ジェイ
今日も今日で迷宮都市オラリオは喧騒に包まれている。街道は人々が行き交い、商人達の呼び込み合戦から主婦達の井戸端会議、子供達の遊び回る姿から冒険者たちの喧嘩の騒ぎまで全てが日常だ。最後のはいきすぎると仲裁も必要だが武器は抜いていない。これくらいなら、とランは視線を外し正面の下の方を見た。
「おいおいわん君聞いているのかいボクの話を?良いかい?ベル君はだね――――」
そしてランは途方にくれる。
(いつまで続くんだ?このノロケは………)
普段ならわんと言われた時点で食って掛かるランが突っ込まない程にランは困り果てていた。
ランは改めてその相手をみる。それは美しい、そして小さな少女だった。普段から美の女神を見慣れている、見慣れているからこそランはこの少女、女神ヘスティアを美しいと評する。何故なら女神ヘスティアとランの主神レスティアは名前もそうだが容姿がとてつもなく似ている。レスティアを幼くすればヘスティアに、ヘスティアを成長させればレスティアになるのではと言える位似ている。違うとすればレスティアは長い髪をストレートに流しているなのに対してヘスティアはツインテールにしている事と身長位だろう。
ランの身長は175センチと男性の平均位なのに対してヘスティアは頭がランの胸に届くか程度の物だ。少女と呼ぶに相応しいサイズである。ある一部を除いて。そしてヘスティアはある一部、その体格に似合わない大きな胸を何故か張りながら言う。
「と言うわけで幸せのお裾分けだ!オマケするからじゃが丸君を買ってくれないかい?」
どうやらヘスティアの長いノロケ話―――ようやく眷族が出来た嬉しさとそのベル君なる少年が大好きらしくのろけているように聞こえた―――は接客トークだったらしい。現在ヘスティアはアルバイトでじゃが丸君―――ほぐした芋を揚げた食べ物―――の販売をしていたので接客のつもりなのだろうとは思っていたランだが、本当にそうだったのかと少し驚いた。
しかしランの本来の目的がそのじゃが丸君であったのだがオマケしてくれるなら黙っていようと思った。ノロケ話を聞かされた代償とでも思えばこの辟易とした気持ちも少しは浮かばれる。
「じゃあとりあえず100個下さい」
「100個!?」
ランの注文にヘスティアは思わず叫ぶ。この男はどれだけ食べるのかと戦々恐々とした女神ヘスティア。ランはと言うとどれくらいオマケしてくれるのかなぁ程度にしか考えていなかったりするのだが。
「………ふふふ、いいだろうわん君。君の挑戦受け取ったぁぁぁぁーーーー!へいおばちゃん!」
不敵な笑みを浮かべ効果音がつきそうな勢いでランを指差し叫ぶヘスティア。直後調理のおばちゃんに注文を伝えた。
「厳しい戦いになるぜおばちゃん。ついて来れるかい?」
「ふふん、言ったねヘスティアちゃん。別に注文をこなすのは問題ないけど、多く作ってしまってもいいのだろう?」
どこぞの剣の英雄を思わせる会話をするヘスティアとおばちゃんを眺めているランは思う。
結構余裕そうだなぁ。
実際に100以上の数のじゃが丸君を十数分で作り上げたおばちゃんの技量に感心しながらランはオマケ分のお礼をして店を去る。ヘスティアとおばちゃんも物凄い笑顔であったからボーナスでも出るのだろうか?と考えながら次の目的地へと向かった。
目的地に着いたランはその場に座り込みじゃが丸君を食べ始めた。隣にはいつの間にかレスティアがいて同じようにじゃが丸君を食べている。時間が経っても消えない歯応えに感心しつつ、ランは依頼主を待った。
場所は中央から少し外れの広場。住宅並ぶ一画に一部空いた様に広がる静かな公園だ。噴水も遊具もない公園ゆえに子供には人気が無いが、落ち着いた雰囲気で木々が揺らめき、風を感じる事のできるこの場所は大人達には隠れた名所として人気があった。
自分たち以外の気配を感じないこの穏やかな状態に身を預け、何も語らずにじゃが丸君を食べた。その実、レスティアが凄まじいスピードで幸せそうにじゃが丸君を食べ続けているが、ランはまだ半分以上あるから大丈夫と己に言い聞かせる。ラン自身はそこまで大食いではないが、レスティアがかなりの大食いな為予定の10倍注文をしていたりする。それでもこのペースなら後20分もしない内に無くなってしまうだろうと予測したランは速く来てくれと内心冷や汗を流した。
「遅れてすまねぇな。待った、よな。その様子だと」
いよいよじゃが丸君のカウントダウンが始まりそうな頃、依頼主の神が現れた。じゃが丸君の残骸を目にした依頼主、武神タケミカズチは待たせてしまった事に申し訳ないと頭を下げる。
「いえ、問題ないです。むしろすみません。差し入れの分も含めて大量に買ったはずがもうこれしか………」
そう言ってランが差し出したのは十数個のじゃが丸君。実際に待った時間は30分にも満たないのにこれだけ数を減らしたレスティアに冷たい視線を送るもレスティアは何の事かわからず不思議そうに首を傾げる。
「毎度毎度すまねぇ。こっちが依頼する側なのに差し入れまでもらっちまって。恩に着る」
「いえ、むしろ俺が授業料を払いたいくらいですからこの位どうと言うことはありませんよ。それより今回の依頼は?」
差し入れを受け取ったタケミカズチは再び申し訳ないと詫びるが、ランは気にしていないと応えた。
「今回は命のサポーター兼監視役としてあいつについて欲しい。最初は桜花がつくと言っていたがあいつは団長だから却下した。それでこんなこと頼めるのはお前しかいなくてな」
「………なるほど。俺はサポーターですから勿論受けさせてもらいますが監視役とは?うちと違って眷族は一人二人ではないはずですよね?」
ランは率直な疑問を告げる。タケミガズチ・ファミリアは零細ファミリアではあるが一応パーティーを組めるだけの人数はそろっている。対してランの所属するレスティア・ファミリアの眷族はランただ一人だが、過去はどうあれ現在のランはLv.6。レスティアとランの生活する分など余裕で賄えた。それはともかくサポーターの件はわかるが監視役の意味がわからない。普通にパーティーを組めば良いだけの話だからだ。しかし敢えてこの様な依頼をした理由を考えてランは思い浮かぶ。
「………ソロで挑むって事ですね。理由を聞いても?」
「ああ、勿論教えるさ。命のやつ後一歩の所でLv.2になれそうだがなかなかなれなくてな。悩んだ挙げ句にソロで13階層を攻略するって聞かねえんだ。それでサポーター付きならOK出してお前に依頼したって事になる。ステイタス的にはいつレベルアップしてもおかしくないからもどかしいんだろうな」
理由を聞いてランはなるほどと納得する。
ランもこれまで5回経験したから気持ちはわかるのだ。
(それにしても13層か、やっかいなモンスターが出始める層だな)
ランはダンジョンの出現モンスターを思い出し思う。
ダンジョンは地下に向かって伸びる迷宮である。地下に行けばその分難易度も上がって行くが1層から10層はLv.1向けの比較的易しい難易度となっている。そして12層に稀に現れ13層から現れるやっかいなモンスターがいた。
(ヘルハウンドか、ソロのLv.1には辛いだろうなぁ)
ヘルハウンド、犬型のモンスターで遠距離攻撃を行うのが特徴である。犬型らしく俊敏な動きに強力な噛み付き、出会い頭に放たれる灼熱の業火に焼かれ命を失う者も少なくない。遠吠えにより仲間を呼ぶ事もある。パーティーを組んでいてもやっかいなモンスターであるのにソロならその難易度の高さは格段に跳ね上がる。
「状況は理解しました。この依頼受けましょう」
「助かるぜ」
ゆえにランは依頼を受けた。その理由には知り合いである命の心配も含まれているが、正直割合としては2割にもみたない。冒険者なのだ。それくらいの覚悟はして然るべきである。では何故依頼を受けたかと言えばランがサポーターであり、タケミガズチに対して恩義を感じているからだ。サポーターとして冒険者を支援するのは勿論の事ではあるとランは考えている。しかしランにとってタケミガズチからの報酬は金銭以上の価値があるからだ。
「ちなみに報酬は配当命9の俺1で後はいつもので良いですか?」
「俺が言えた義理じゃ無いし、金は対して払えねぇが本当にそれで良いのか?毎度の事だが今更お前には必要無いだろ。お前くらいだぜ?俺から武を報酬として欲しがる一級冒険者は。むしろ冒険者の中でお前しかいないんじゃないか?」
「俺からすればそれこそおかしな話です。何故戦いを生業とする冒険者が武神タケミガズチに教えを請わないのか。あなたくらいですよ?Lv.6の俺に対して『もったいない。足運びが若干荒い』なんて言ったの」
それはタケミガズチ・ファミリアがオラリオにやって来た時の話だ。天界の頃よりタケミガズチはレスティアと交流があったため早い段階でファミリアの交流があった。その際迷宮都市オラリオでも珍しいLv.6の実力を知りたいと声があがり、酒の入っていたランはその声に応えた。その時ランがしたことは演武である
しかしその演武に魅了された者はいなかった。当然だ。タケミガズチを除きランの姿を捉える事が出来なかったのだから。
ランが動くと暴風が吹き、空間が揺れ、音が響いた。それに対してレスティアは誇らしげに、タケミガズチ・ファミリアの冒険者達は圧倒された。そしてタケミガズチは
『もったいない。足運びが若干荒い。そのせいで音が響く。実力者ならその音でお前の位置を把握するぞ』
その言葉に誰もが驚いたが、一番驚いたのはラン自身だった。速さにおいてオラリオ最速を自負していたランにとって正に青天の霹靂であった。そしてその後のランの行動は誰もが鮮明に覚えていた。
「『俺をもっと速くして下さい』だったなぁ確か。そう言えばそれからだな。俺がお前に武を授け」
「俺が貴方の依頼を受ける。俺にとって金では買えない価値のある神の恩恵に迫る報酬ですから。お陰でステイタスは同じなのに世界が変わりましたから」
ランは頭を下げた。これでもかと言うくらい頭を下げた。地に手と膝と頭を付き懇願したのだ。奇しくもそれは東洋の土下座と瓜二つの姿でそれに感心したタケミガズチは条件付きでそれに応えたのだ。それが今のランとタケミガズチの関係の始まりである。
「まぁそう言う訳だ。明日までダンジョンにパーティーで潜ってるから予定では明後日になる。当日の朝命を向かわせるから頼むぜ」
「承りました。もし命がレベルアップしたら暫く俺の修行に付き合ってもらいますよ?バイト先より謝礼は出すんで安心してください!」
「馬鹿野郎、俺が首になるだろうが!」
最後は笑いながら他愛のない会話を交わし、ランとレスティアは用事があったためタケミガズチと別れた。タケミガズチはバイトに向かい、二人は同じ目的地に向かうのだった。
「おーーーー!きたかワンコ!れーたんも久しぶりやなぁー!相変わらす意味無くカワエエなワンコは!れーたんの眷族やなかったらウチのペットにしてたわ!」
「だあーーーーー!いきなり頭を撫でるな!そして何故神は俺を犬呼ばわりする!?つーかペットってなんだよ!せめて眷族にしろよ!」
「ロキちゃんおひさ~」
「無視かーーーー!?」
次の目的地、神ロキとの待ち合わせ場所である喫茶店に着いた瞬間ランはロキにアームロックをかけられ頭を撫でくり回された。ちなみにワンコ呼ばわり。
対してランはそれに対して文句を言うが無視された。ロキにも主神たるレスティアにも。
「ほんまなんでワンコはそんなに可愛いん?まるで腹痛めた愛息子の子供みたいな可愛さや!なぁれーたん?ワンコうちにくれへん?」
「だめ~!わんちゃんは私の~!」
「なんでそんなに具体的なの!?おばあちゃんって呼ぶぞロキ無乳!?つーか俺はレスティア様を追い続ける!命を奪われても、レスティア様に拒絶されても変わんないぞ!だから頭を放して骨が当たっていたたたた!!!??」
「んーーー?おばあちゃん?無乳?骨?なんの事や?まぁおばあちゃんはええ。実にしっくりくるからそこは譲ったる。しかしなんや?無乳?骨?うち程の美少女のむ・ね・に顔埋めて文句なんかあるんかぁ?」
痛みを訴えるランに苛立ちをそのままぶつける神ロキ。その周囲でランの腕を抱え込み取り返そうとするレスティア。見た限りは修羅場だが周囲の反応は薄い。それはこの面子がそろうと何時もの光景であるからだ。ゆえに周囲は『またか?あきないよね』位の反応でしかない。
そもそも神ロキがファミリア以外の者をここまで気に入るのは珍しい。本人もよくわかっていないようだが何故か本当の子供の様に可愛がっていた。
「わ、わかった!わかりました!ロキ様の広大な胸に抱かれて幸せです!」
「ウチを馬鹿にしとんのか!広大って、せめて慎ましいっていえやコラ!」
「自分に嘘はぁぁたたたたた!?」
「ねーえー、それでロキちゃん依頼ってなぁに~?」
ギャーギャーと騒ぐランとロキ。まるで喧嘩しているようにも見えるが、本人達は楽しそうに、むしろわざとやっているようにも見える。ただいつまでもじゃれているわけにもいがず、レスティアは今回の本題を即した。それを聞いたロキは今まで乞われても離さなかったランを無造作に放り投げて言った。
「今度ウチんとこの子らが遠征行くんやけど」
先ほどのふざけた雰囲気とはまるで違う真剣な表情だ。これはロキにしては真面目な話なのだとランは察する。勿論依頼の内容も。
「ワンコ貸してくれへん?新しい層に挑戦するんやけど不確定要素は極力減らしたいんや。ワンコ、レスティア、ええか?」
物語は刻一刻と近づいている。
原作はルビが多すぎて面倒くさい。なのでこの作品は未読者にとって非常に不親切な設計となっています。
そのうちちゃんとやりたいなぁとは思っています。
後今回の話で主人公の事をわかった方はあのお話が好き、または詳しい人だと思われますが、設定の一部を使わせてもらっているだけですので、実際のお話とは違ってくる部分は多くありますがご容赦下さい。