一級冒険者がサポーターなのは間違っているだろうか 作:ジェイ
ロキ・ファミリアの遠征会議は何事も無く終わりランは団長のフィン・ディムナと詳細を纏めていた。ちなみにランはロキがしがみついていて非常に暑苦しそうに表情を歪めているが言っても無駄な為ランもフィンもいないものとして扱っていた。
「んで俺の仕事はお前ら一級冒険者のサポーターと二級冒険者以下とその他の護衛っと事か?ハード過ぎじゃねぇ?」
「ランハティ、君なら出来るだろう?それに君は無理とは言ってない。つまり単純に面倒なだけだろう?いくらでこの依頼を受けるか参考までに聞かせてくれ」
ランはあまりの内容に文句をたれる。しかしフィンの言うように無理とは言っていない事からランは可能だが報酬を弾ませろと言っているのだ。目敏くならず耳敏くその事を把握したフィンはランに報酬の希望を尋ねた。
ランは右手を突きだし指を全て立てる事で報酬を要求する。
「50万かい?少し高くは――――」
「んな訳ねぇだろ。500万だよ」
フィンの言葉を遮りランが要求した金額は500万ヴァリス。下級生冒険者がパーティーを組んで一日に稼ぐ金額が20000から30000ヴァリスなのだが、それを踏まえても異常な金額だ。ちなみにかの零細ロリ巨乳女神のバイト代は100ヴァリスに満たない。
フィンはその金額に呆然とした後笑みを浮かべ
「高過ぎる。100万で手をうってくれないか?」
交渉を持ち掛ける。ロキ・ファミリアの財産ならばその位なら払えるが、決して安くない金額だ。団長として交渉するのは当然である。
「テメェは俺を馬鹿にしてんのか?100万だったらお前らのサポーター分の代金だ。護衛代も勘定にいれろよ。50人はいるんだろ?お前らのファミリアの眷族と他の鍛冶屋ファミリアの命は価値ねぇってか?」
ランはランで安すぎると拒否する。これもまた当然だ。一級冒険者は兎も角、他の冒険者やサポーター、雇われ鍛冶屋の護衛も依頼内容に含まれていて人数は合計で50人は越えていてはランの負担は尋常ではない。それでも断らずに報酬交渉をしているあたり余裕はあるのだろう。
「それにしても500万は高過ぎる。最悪僕達全線のサポーターはやらなくて良い。それで通じる戦力はあるつもりだ。そして君の言うように100万は安すぎた。200万はどうだい?」
そしてフィンも強かだ。譲歩しつつ、相手の意見を取り入れる事で『こっちはこれだけ譲歩した。そっちも譲歩しろ』と暗に言っている。しかしそれで納得するランではない。ロキ・ファミリアの一級冒険者は全員含めて10人に満たない。つまり40人は護衛対象がいることになる。ある程度の階層まではそれで良いかもしれないが新階層を目指すならランにとっても身の危険は同じであり、なによりも
「つー事は何だ?お前の部下達の命の安全は一人たったの5万で買えるのか?なにより他ファミリアに依頼してついてきて貰うファミリアの命がお前の部下と同じ金額の護衛代だと?笑わせるなよ<勇者
ランは声を張り上げる。ランが気に食わないのはロキ・ファミリアと他ファミリアの扱いが同等であることだった。
当然他ファミリア、依頼したファミリアの構成員に損害が出れば償うのはロキ・ファミリアになるが護衛するのはランである。つまりそれ相応の責任が生じる。依頼をうけるにあたり、それをうやむやには出来ない。後から『お前のせいでこっちはこれだけの損害をした』と言われても困るからだ。
「ふむ、ならさらに50万だそう。それなら文句は―――――」
「400万や!」
「うん、それなら良いでしょう。この依頼受けさせて貰います」
「ちょ!?ロキ!勝手な真似をしないで――――」
「ここはウチのファミリアや。文句はあらへんな?」
「……………わかった。400万で手をうとう」
フィンが譲歩の姿勢を見せつつ粘ろうとした刹那のロキによる鶴の一声。ランはこれに内心ガッツポーズをする。
本来ランは300万で交渉締結すれば良い位に考えていた。ランからしても500万は高過ぎる。しかし交渉の基本は初めに大きく見せ、徐々に目的金額に如何に近づけるかにある。故にランは余裕の姿勢を崩さなかった。その結果がこれだ。
「まぁフィンそんな不満そうな顔しちゃアカンでー。たったの400万で全員の安全が買えるなら安いもんやろ?ふぁいたんもワンコおったら眷族の派遣料安くしてくれるって言っとったし」
ロキの諌める様な言葉にフィンは顎に手をあて考える様にふむと呟く。フィンの頭の中では費用の計算がされていた。ちなみにロキの言うふぁいたんとは迷宮都市オラリオ屈指の鍛冶ファミリア、ヘファイストス・ファミリアの主神ヘファイストスの事である。
「………よし、計算上採算は十分に取れる。ランハティの働き次第では追加報酬を出せる位には」
「はいはい、馬車馬の如く働かせて頂きますよっと」
こうして報酬の交渉は終わる。相変わらずロキはランにじゃれついているがランはこの後に用事があるためフィンに視線を送る。するとフィンは溜め息をつきながらもしがみつくロキを器用にランから引き剥がす。
「はなせ!はなすんやフィン!もっとワンコで遊ぶんや!」
「俺で遊ぶって………フィン、任せた」
「誠に遺憾だが任されよう」
ランは全力で逃げ出した。ロキを押さえ込むフィンは音も無く消え去るランに流石と賛辞を送った。残ったのはいつの間にか開けられていた窓と騒ぐロキと呆れるフィン。そして
『お前達の言う新階層は既にマッピング済み。案内と地図が欲しいなら追加で100万な!』
いつの間に書いたのか、そんな手紙が残されていて
「成る程。100万で新階層の情報は安い……………………はぁ!?マッピング済みだって!?」
フィンの珍しい驚愕の叫びがロキ・ファミリアのホームに響いた。
「あーーーー!つーーーかーーーれーーーーたーーーーー!」
ロキ・ファミリアのホームから逃げきったランは次の目的地に向かいながら愚痴る。言わずもなが先程のロキの絡みにあった。
ランは決してロキを嫌ってはいない。むしろ親近感と言うか、身内を相手にしている様な心情ですらあるほどには心許している。それでもあれほどまでに猫可愛がりされると疲れてしまう。心情的には猫に近い。構って貰えるのは嬉しいが構われ過ぎると嫌になる。犬なら尻尾を振って喜ぶがランは狼。犬とは違うのである。あまり変わらない、かつ猫に近い性質なので何とも言いがたい物だが。
「あーーー、疲れたけど………次の予定があるし急ぐか」
ランは予定の事もあり移動速度をあげる。ランとしては少し急ぐ程度のスピードアップだが、周囲にはランが消えたように見えた。それほどまでに冒険者と一般人との身体能力に差があり、尚且最高峰のレベル保持者の通常行動は一般人からすれば異常につきるのである。
「つーわけでロキ・ファミリアの遠征に同行することになったんだわ。そんな訳で危険が予想されるから追加で防具の整備も頼む」
「それは構わんが手前も同行するぞ?」
「え?マジ?お前も護衛対象?必要ないだろー!」
ランは当初の予定通り目的地到着し、約束相手と会話をしていた。
「馬鹿を言え。私にとっても新階層ぞ?ランと一緒にするな。手前はお前より弱いのだぞ」
「はっ!ヘファイストス・ファミリアの団長が言う言葉かよ。俺の専属鍛冶師の椿さんにしては随分弱気な発言だな?」
椿・コルブランド。鍛冶師ファミリア、ヘファイストス・ファミリアの団長にしてLV.5の冒険者でもあり、ランの専属鍛冶師だ。人間とドワーフを親に持つハーフドワーフの女性であり黒髪と赤い瞳、右目には眼帯を着けた特徴的な容貌と美神の様な豊満な肉体を極東のバトルクロスに身を纏うランの専属鍛冶師である。
ちなみに専属鍛冶師とはその名の通り冒険者と専属契約を結んだ鍛冶師の事だ。契約を結ぶ事で得られる利益はお互いにあるため専属契約を結ぶ冒険者と鍛冶師は多く存在する。その中でオラリオ最高峰の冒険者のランとオラリオ最高峰の鍛冶ファミリアヘファイストス・ファミリアの団長椿との専属契約はある意味当然だ。
「そんなこと言いながらもしっかり守ってくれるのだろ?これは楽が出来そうじゃ!」
「けっ!誰が余計な負担を―――」
「報酬に乳を揉ませてやろう」
「―――専属を守るのは当然だろ!ははは!俺に任せておけ!」
椿は誰のとは言っていないのだがランはその言葉にあっさりと了承した。どんなに実力があろうと単純な男と言うことだ。そしてこのやり取りは専属契約を結んだ当初からの恒例行事でまともに履行された事はほぼ無い。ほぼと言うくらいなので稀には履行されるがそれは椿の策略。己の容姿を理解しているからこそ椿は期待を持たせる為に稀に約束を守る。ランはその稀な状況に期待して色々なお願いを聞いてしまうのだ。
ただ単にランが馬鹿なだけだろう。
「それはそうとホレ。注文の品じゃ」
恒例行事を終えた椿は満足気に依頼品を机の上に置く。
「お!サンキュー!」
礼を言いつつランはその依頼の品である二振りのナイフを手に取った。
「うんうん!注文通りの出来だ!さっすが椿!」
「当たり前じゃ。お前の専属を何年やっていると思っている」
しばらくナイフを観察したランは満足気に椿を称賛し、椿はそれが然も当然の様に受け入れた。
ランが椿に依頼したナイフ。それはナイフの形状をしてはいるがナイフの範疇に収まらない形をしていた。刃渡り訳30㎝と小太刀ほどの長さを持ちながら鉈の様に肉厚の片刃の巨大なナイフである。さらにこのナイフは大きいだけではなく、鍛治師椿・コルブランド発祥のローラン・シリーズの不壊属性が付与された一線を画する頑丈差を誇る逸品なのだ。ちなみにこれを相場の金額に換算するとそれなりの家が一振りで買えてしまうほど高い物ではあるが、そこは専属鍛治師。互いの条件が合えば格安、または無料で提供する。つまり専属契約は互いにお得な契約なのである。
武具が欲しいものは素材集めを手伝ったり提供することで格安で手に入り、名と自らが鍛えた武具を売りたい鍛治師は冒険者に宣伝してもらいながら欲しい素材を手にいれる事ができるのだ。
まぁランや椿ほどの者となるとあまり関係無くなってくるのだがそこは腐れ縁に近いものがあるのだろう。互いに相手を気に入っているのもあるが。
「いやー漸く手に入った!俺専用の壊れないナイフ!今日はこいつを抱いて寝よう!」
「やめておけ。無骨な外見じゃが切れ味は私の最高傑作並みだぞ。と言うより一番苦労したのはそれの鞘じゃ。そこらの鞘やホルスターなど紙の様に切れる」
「………………わかった、やめとく」
特注ナイフに浮かれていたランは嬉しそうに頬擦りをしようとして、椿の言葉で止めた。如何に冒険者の頂点に立つほどの実力者でも怪我はするのだ。それが刃を納める鞘すら切り裂くナイフならランと言えども腕の一本や二本など容易く切り裂くだろう。
依頼した以上の出来にランは喜びと共に、己の専属鍛治師の匠の業に戦々恐々としたのであった。
そして舞台は次のステージに移行するのである。
遅くなりました。申し訳ない