一級冒険者がサポーターなのは間違っているだろうか   作:ジェイ

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8話・宴会と狼(前)

 宴会は中盤に差し掛かり、皆思い思いに語り笑い合いと盛り上がりを見せていた。

 散々ランとラウルで遊び倒したロキは満足したのかラウルは解放され、現在は他の団員に肩を叩かれながら慰められている。ちなみにランは未だにロキを膝の上に乗せながら食事をとっていた。その姿は馴れたものでロキの相手を適度にしながらそこそこに楽しんでいるようだ。気が付けばラウルのいた場所にレスティアがリリを抱えながら座っていた。リリは理解が追いつかないのか呆然としながらレスティアやロキに好き勝手、具体的には撫でられたり、口元に食事を運ばれアーンされたりと可愛がられていた。

 ちなみにどごぞの《勇者》もアマゾネスの少女により似た経験があり同情的な視線を送っていた。これも小人族の宿命なのかもしれない。

 

 

 「そうだ、アイズ!お前あの話を聞かせてやれよ!」

 

 酔いが回り各々が楽しむ中で一級冒険者達の集まりは遠征の話となり、狼人のベートが思い出した様にアイズにあることを催促した。

 

 「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウルス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!?そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

 要約するとこうだ。

 

 遠征の帰りでミノタウルスの集団と遭遇しその殲滅にあたる。一部を逃してしまい慌ててミノタウルスを追うも最後の一匹が5階層まで登ってしまい、襲われていた駆け出し冒険者を危うい所ではあったが助ける事に成功した。その際駆け出し冒険者がミノタウルスの血を浴びてまるでトマトの様に赤く染まってしまった事により、ベートはその駆け出し冒険者をトマト野郎と呼んだのだ。そしてそのトマト野郎、駆け出し冒険者はアイズから悲鳴をあげる様に逃げてしまったらしいのだ。

 

 前者については皆気の毒そうに聞いていたが後者、駆け出し冒険者がアイズより悲鳴をあげて逃げた事については流石に笑いを堪えられずに笑い出すものが多くを占めた。

 しかし当人達、そして一部の者にとっては笑い話でなかった。

 一人はアイズ、駆け出し冒険者である少年を救出した少女であり、一人は気高いエルフであるリヴェリア。もう一人は

 

 「ちょっ!?レスティア様ごが!!リリの口にはそれ以上のケーキはもごごご!?!?」

 

 問答無用の笑顔でリリの口にケーキを運び続けるレスティアである。

 

 当人であるアイズは当然だ。自分達の不手際で駆け出しの下級冒険者に危害を与えかねたのだ。何よりあの兎の様な純朴そうな少年にかつての己を見た事で、その不快感はさらに募る。

 リヴェリアに至れば誇り高い故に己達の失態を恥じ、それを酒の肴にする同胞を恥じた。

 そしてレスティアは

 

 「むが!も!もーー!?」

 

 笑顔でリリにケーキを運び続ける。周囲の者は気の毒そうに眺めるのみで距離をあけた。しかし助けるものは誰もいない。リリは呼吸困難により本日2度目の気絶をすることとなった。何故レスティアが不快に思うのかはランを除きわからないだろう。しかしランは気にした様子もなくロキと共にアイズをからかっていた。それを見てレスティアはケーキを運ぶのをやめる。無惨にもケーキまみれになったリリに視線を送る者は既にいない。

 

 

 

 「しかし胸糞わりぃ。泣き叫ぶなら初めから冒険者なんかなるなっての!あんなのがいるから俺らの品位がさがんだよ!なぁアイズ!」

 

 「………あれは、仕方ないです」

 

 ベートは話足りないのだろう、駆け出し冒険者を蔑む。ベートの悪い癖だ。それであると同時にベートなりに弱者を配慮している。

 

 「だったらアイズ、お前ならあの青臭ぇガキと俺、どっちを選ぶ?雌のお前はどっちの雄に尻尾を振るんだよ!」

 

 「ベートいい加減に――――」

 

 「うるせぇ!ババアは黙ってろ!」

 

 かもしれないが、現在のベートは酔っ払っていた。普段から粗暴な発言が多いが酒により気分が高揚しそれが顕著に現れているのだ。

 

 「………少なくともそんな事言うベートさんは嫌です」

 

 流石にアイズも嫌悪感が隠しきれず哀れ、ベートは拒否された。団員達は吹き出しそうになるのを懸命に堪える。笑ってしまえば後が怖いからだ。

 

 一部の幹部や主神、そしてランは『やーい!ふられてやんのー!』等と野次を飛ばすが感情的になりつつあるベートには「うるせぇ!」の一言で一蹴された。

 

 「じゃあアイズ!お前はあのガキを選ぶのか?選ばねぇよな!誰よりもお前が認めない!隣に立つものが自分より弱いなんてアイズ・ヴァレンシュタインは許容しない!」

 

 「――――――」

 

 そうだ、とアイズも思う。何よりも強さを求める彼女は今までその様な事にうつつを抜かす暇などなかったので考えもしなかったが確信する。アイズが救った今の兎を連想させる少年冒険者にその様な気持ちになることはあり得ない。何故か純朴そうな少年に懐かしいものを見たがそれだけであった。

 

 「………………」

 

 アイズは何も言えない。何も間違っていないのだから。ただそれでも謝りたかった。いかにも駆け出しの冒険者である少年に怖い思いをさせてしまった事を。己の不手際で中層のモンスターを上層の5階層まで逃してしまった事を。

 

 「もう耐えられん。ベートその煩い口を閉じろ。ミノタウルスを逃したのは我等の失態だ。その冒険者に謝罪こそすれど中傷するなど愚の骨頂!恥を知れ!」

 

 「おーおー、流石はエルフ様!誇り高いねぇー!でもな、雑魚に雑魚と言って何が悪い!立ち向かう覚悟もねぇ奴が冒険者なんかになるんじゃねぇよ!」

 

 とうとう言い争いにリヴェリアも参加する。そのため宴会の空気はどんどん悪くなり、主催者で幹事であるロキの機嫌も見るからに悪くなっていた。そして

 

 「ワンコ、あれどうにかせぇ」

 

 「りょーかい」

 

 ランの姿が消えた。それと時を同じくして一人の、ランと同じ白い髪の少年がうつむきながら駆け出すのをランは見逃さなかった。

 (あー、完全にやっちまったなコイツ)

 

 少年から流れる涙を。悔しげに歪む表情を。激情に震える体を。その鼻が、その目が、その耳が捕らえてしまったのである。

 

 

 「ベートやり過ぎたな。お前が言ってることは間違っちゃいないが言葉を選べ。テメェもガキじゃねぇんだからよ」

 

 「ぬごっ!?」

 

 言葉と共にベートは縄で中釣りにされた。何故か亀甲縛りで何故か海老反り。ご丁寧に猿轡と目隠しまで装着されていて文句を言おうにも、周囲を威嚇しようにも唸る事しか出来ない。そしてこの体勢はプライドの高いベートにとって屈辱意外の何物でもなかった。

 

 

 執行者はもちろんランである。あまりの早業に、と言うより同じLV.6を除き何が起きたかわからなかった。速さに自信のあるベートが反応出来ず、瞬間的にはベートをも上回るアイズでも少し分かる程度での正に神業。ちなみに縛り方はランの趣味、もとい嫌がらせ、では無くちょっとしたお茶目である。

 

 「おー、流石にアイズは気が付いたみたいだな」

 

 「何がだ?」

 

 「ふが!がぁーーーーー!?」

 

 関心するランに問うのはリヴェリア、そして喚くのはリヴェリアに踏まれているベートである。アイズは既に店外まで出ておりロキもアイズを追って外に出ていた。

 

 「あぁ、今食い逃げしたガキはそこの踏まれてる狼君の馬鹿にした駆け出し冒険者だったんだよ。まぁアイズも気付いたのついさっきみたいだけど」

 

 「なんと………」

 

 「………うわぁ」

 

 「ベート、君って奴は………」

 

 「………最低」

 

 問われたランは何とも無いように答えた。問い掛けたリヴェリアは絶句し、一部はドン引き、そして一部はベートを蔑む。

 

 「つーわけでベート君のお仕置きターイム!これからベート君を駆け出し冒険者君と同じ恐怖を味わって貰います!具体的には俺との鬼ごっこ!つーかリンチ?じゃねーな!ただのイジメ!つーかムカつくんだよこいつ!弱いくせにいきがって弱者蔑んで!そして毎回俺に絡みやがって!あんなに面倒見てやったのにアイズやティオナの100分の1所かラウルの半分の可愛げもありゃぁしねぇ!」

 

 「酷いっすよ!愛弟子の俺よりアイズさんやティオナさんの方が50倍可愛いんですか!?」

 

 「ったりめーだろ!テメーみてーなむさい男より可愛いくて素直な女の子の方が1億倍可愛いに決まってんだろ!それを弟子のよしみで半分にしてやってんだ!感謝しろ!」

 

 「鬼!悪魔!鬼畜!この《犬》!!」

 

 「………おい、俺きれちまったよ。お前、明日から地獄見るぜ?安心しろ?意識失うなんて優しい事はしねえよ。意識あるギリギリでつれ回してやる…………。勿論バイト代は無し」

 

 「ぎゃーーーーーーーー!地雷踏んだっす!?!?!」

 

 そしてランはただの私怨であった。

 ランは職業上、と言うより性格上様々な後輩たちの面倒を見てきた。それはもう様々で、下級冒険者は勿論2級冒険者、更には一級冒険者すらランの世話になった者は少なくない。中でも主神であるロキと仲の良いランはロキファミリアの眷属の世話も多分にしている。特に可愛がっていたのが歳の近いアイズやベートやヒリュテ姉妹、そして弟子であるラウルだ。

 アイズやティオナはもとよりランを信頼しているし、ラウルも師として尊敬している。ロキファミリア団長を愛してやまないティオネとてランを認めているがベートだけは昔からランを目の敵にしていた。それには本人のみぞ知る理由があるが、毎回悪態をつかれてはランとて面白いはずもない。と、色々理由を上げればきりがないがただの嫌がらせである。ラウルは自業自得だ。

 

 

 「いや、流石にやめてくれ。君の嫌がらせにあったらベートはストレスで病んでしまう」

 

 「良い薬ではないか?最近増長しすぎているぞ、こやつは。1度身の程を弁えるべきだと私は思う」

 

 「ほらベート、団長は反対してるけどママが賛成してるから行くぞ!!」

 

 「むがぁーーーーーーー!!!!」

 

 「おいまて誰がママだ!」

 

 カオスである。

 発端はベートの悪酒ではあるが、ランの発言で場は混沌としていた。

 しかしベートの語る前よりは空気が軽くなり、笑いが漏れている事から指示を出したロキは満足そうに他の団員に絡み初め、幹部達はここぞとばかりにベートを笑い、そしてランは

 

 

 

 

 

 「よぉベート!団長が懇願するから今回は勘弁してやる。いいか?今回は、だぞ?てめぇーの言い分は間違っちゃいねぇが好きでもねぇんだよ。次同じ事したら、わかってるな?ってこらリヴェリア!?何で俺を殴る!?」

 

 「私は!お前の!母になった!記憶など!ない!!」

 

 「おい!言葉のあやって奴だよ!団員からすればお前ママじゃねーか!ラウルがよく言ってるぞ!」

 

 「ちょま!?ランさん酷いッス!そんな事言ったら」

 

 「よしラウル。少し話をしよう」

 

 「ギャーーーーーーーッス!巻き込まれたッス!?」

 

 ラウルを囮に逃げた。これぞ美しき師弟愛……………とは違うがその場をラウルに任せて落ち込むアイズに近より

 

 「アイズ、行くぞ。掴まれ」

 

 「……………………………うん」

 

 刹那、その空間からランとアイズの姿が無くなった。気が付いたのはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにアイズがこれまで以上になつく事になるのは誰も知らない。

   

 

 

 

 

 

 

 

 

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