魔王来臨
宴会の翌日、暇潰しにまだ幻想郷を詳しく知らない悠岐達と散策しようと考えた霊夢、魔理沙は彼らを案内することにした。それには妹紅、慧音、文、椛も賛成してくれた。そして悠岐には妹紅が、隼人には文が、ミクには霊夢が、啓介には魔理沙が、ウロボロスには慧音が、麻里には椛が付き添い、幻想郷を散策し始めた。
そのペアの内、悠岐と妹紅は・・・。二人は人里を散策していた。悠岐は何気なくあの二人との戦いの時に人里へ行ったがどのようなものがあるかは全く理解していなかった。と、悠岐が妹紅に言った。
「な、なぁ妹紅。なんか人里にお前がお勧めする場所とかあるかな?」
「ああ、一つあるよ。だったら案内してあげるよ。」
そのまま彼女に案内され、やって来たのは一軒の家だった。見た目はただの二階建ての家だが妹紅はこの家の主について語りだした。
「この家にはな、すごい奴がいるんだよ。」
「ほう、すごい奴か。それほど強い人がいるのか?」
「いや、そうじゃないわ。別の方ですごいと言えば分かるかも。」
「まあ、早くその人に会わせてくれよ。」
妹紅は家の扉をノックすると一声掛けて中に入った。
「おーい阿求、入るぞー。」
「はい、どうぞ。」
二階から少女の声が聞こえた。二人はそのまま二階へ上がり、部屋の中へと入った。
「よっ、元気にしてるかい?阿求。」
「はい。そういえば妹紅さん、そちらの方は?」
「ああ、自己紹介しないとな。初めまして、俺の名前は西田悠岐。現実世界から来た人間さ。」
「初めまして西田悠岐さん。私は稗田阿求と申します。あなたと同じ、人間です。」
「稗田家か。ひよっとして、稗田阿礼のお孫さん?」
「あ、知ってるんですか?私の先祖様の名前を。」
「聞いたことはあるよ。その人はどういう人か知らないけどね。」
「そうですか。あっそうだ、折角来てくれたのでお茶を用意しますね。お二人はそこで座って待ってて下さい。」
そう言うと彼女は部屋を出ていった。部屋を見て悠岐は唖然となった。そこには数多くの書物が並んでいたのだ。彼は思わず妹紅に尋ねる。
「なあ、妹紅。これは何だ?」
「ん?ああ、それなら阿求が教えてくれるから待ってたら。」
「そっか・・・」
しばらくするとお茶の入った湯飲み茶碗を持ってきた阿求が部屋に入ってきた。そして二人の前に置いた。早速悠岐が口を開いた。
「なあ、阿求。この書物は何なんだ?」
「あ、これですか?これは幻想郷で起こったことが記されている書物です。これは全て私が書きました。」
「これを全部か!?スゲェな。」
「当たり前だろ、悠岐。なんせ阿求は『見たものを忘れない程度の能力』の持ち主なんだからな!」
「見たものを忘れない、か。俺は見たくないものが忘れられないんだよな。」
彼は過去に大きな戦争を体験している。多くの犠牲を出したあの戦争を、彼は忘れたいのに忘れることが出来なかった。
「・・・悠岐?」
呆然となっていた悠岐に妹紅が話しかける。彼女の言葉で我に返る。
「す、すまん。ちょっと回顧が・・・」
「回顧、ですか。あなたにも辛いことがあったんですね。」
「ああ、もう忘れたい思い出だ。なのに忘れられない。」
「人はトラウマになってしまったこと、印象に残ったものは忘れないんですよ。けど、大切な用事は忘れてしまうんです。人間って不思議ですね。」
「ああ、そうだな。」
「ん?確か誰かが何かを予期していたような気が・・・」
「予期?あれ、誰が言ってたんだっけ?」
「うーん、私には着いていけない話ですね。」
その頃、ウロボロスと慧音は・・・。慧音は自分の寺子屋に彼を案内すると自分の部屋で彼に話し始めた。
「これから私はあいつらに授業をさせる。ウロボロスは後ろで見ててくれ。寝てる奴がいればすぐに叩き起こしてくれ。」
「おいおい、一応お前の生徒だろ?叩き起こしていいのかよ。」
「構わないよ。なんせあいつらはそういう連中ばかりだ。」
そして彼は慧音に案内され、教室の中へ入った。彼は教室の中を見て少し引いてしまった。そして一言声を発する。
「・・・妖精しかいねぇ。」
その言葉に慧音は食らいつく。
「誤解されては困るぞウロボロス。いるのは妖精だけじゃなく、妖怪も人間、動物もいるぞ。」
「・・・とは言ってもなぁ。」
今回来ているのは人間数名と妖精の三月精とチルノ、大妖精、そして妖怪であるルーミア、ミスティア、リグル、そして唯一の動物であるてゐ。彼は慧音に一言発した。
「・・・俺がいて本当に大丈夫か?」
「ああ、問題ない!」
彼の心の中には不安しかなかった。そして授業は始まった。授業が始まって早速彼に語りかけてきたのはチルノだった。そして彼に挑発するかのように言った。
「あたいは最強だからお前なんて雑魚だ!」
そんな彼女にウロボロスは辛い言葉を言った。
「はいはいそうだな。そうやって授業中に余所見してると先生の頭突きをやられるぞ?それに、夏休みの宿題は進んでるのか?今夏期授業だけどしっかり休みの日にやっておかないと後悔するのは自分だからな。」
「あたいは最強だからそんなのは・・・」
彼女が続きを言おうとした時だった。ウロボロスの言った通り慧音の頭突きがチルノにヒットしたからである。
「ウロボロスの言う通りだよみんな。しっかりやらないとこうなるからね!」
慧音の一言で辺りが静まりかえった。そして授業が終わった。ウロボロスは教室で歴史の本を読んでいた。そこへ、一人の少女が彼に寄ってきた。彼もそれに気づき、顔を上げる。そこにいたのは顔を真っ赤にしている、大妖精だった。ウロボロスは本を閉じて彼女に話し掛けた。
「どうした?何か聞きたいことがあるのか?」
「あの・・・歴史、分かりますか?」
「まさか、大人である俺が分からないとでも?」
「あっ、じ、じゃあここの問題を教えて下さい!」
「あー大ちゃん、その人に惚れちゃったのー?」
「ち、違うよ!ただ、分からない問題があるから・・・」
「ハハ、まあそんなに恥ずかしがるなって。俺が優しく教えてあげるから。」
「あ、ありがとうございます!」
彼が大妖精に教える様子を慧音は黙って見ていた。
一方、啓介と魔理沙は・・・。魔法の森にある一軒の店の前に来ていた。そして彼女が口を開いた。
「ここには私のこれを作ってくれた奴がいるんだぜ。」
「へぇ、それはすごいな。是非会ってみたいな。」
彼がそう言った瞬間、魔理沙は店の扉を勢いおく開け、中に向かって叫んだ。
「香霖!遊びに来たぜ!」
「香霖?短い名前だな。」
「こらこら、それは君だけが僕を呼ぶ時に言う名前だろう。」
店の中から現れたのは白髪に青い服、そして眼鏡をかけている青年、森近霖之助だった。啓介は思わず声を発してしまう。
「お、男の人?」
「ん?ああ、君にとって幻想郷は女の子の世界だったかな?けど、男の人もいるよ。初めまして、僕はこの香霖堂の店主、森近霖之助だ。」
「初めまして、俺は山下啓介だ。よろしく!」
「ここには君のいる現実世界の物ばかりだけど、まあ、ゆっくり見物していくといいよ。」
「へぇ、いろんな物があるんだな。こいつらは霖之助のいる幻想郷では価値がある物なのか?」
「物によるけどね。その一部は魔理沙に盗まれて大変だけどね。」
「ちょっ、違うぜ香霖。あれはただ借りてるだけだ。」
「それを返さないのがお前なんだよな、魔理沙?」
「違うってば!あれは借りてるだけだって!」
「パチュリーから聞いたぞ。お前、かなりの量の本を借りたまま返してないんだって?」
「借りてるだけだって!誤解しないでくれよ!あれは新たな魔法の研究のために・・・」
「あんな大量の本に夢中になるとは思えないな。第一、まずは人の物はすぐに返すべきだと僕は思うよ。」
「俺も同感だ。」
「ちょっ、二人とも!それ以上言わないでくれ!」
「ハハ、やっぱおもしれぇなお前。」
そのまま魔理沙は黙り込んでしまった。
無縁塚では隼人と文ペア、麻里と椛ペアが散策していた。と、隼人があるものに気づき、立ち止まった。それに気づいた椛が彼に話し掛ける。
「どうしたんですか?隼人さん。」
「確かここは・・・あいつが滅んだ場所だったな。」
その言葉に三人はある一人の人物が頭の中に浮かんだ。かつて幻想郷を支配せんと試みた帝王メルト・グランチである。ここで彼は自らの命を絶っていった。と、文が言った。
「私達も冥福を祈るべきでしょうか・・・」
「あんな梟に冥福なんて必要ないわ。ウロボロスを殺したあいつを私はまだ許すつもりはない。」
きっぱりと麻里が言う。
「そうですか・・・」
「さ、話はここまでだ。色んなことを教えながら案内してくれ。文、椛。」
「あ、はい!」
「勿論ですとも。」
そのまま四人はさらに奥へと突き進んでいった。一つの異形なる影に気づかずに。
その頃、霊夢とミクは・・・。地霊殿付近を散策していた。と、ミクが霊夢に言った。
「なんだか静かな場所ね。紅魔館とは大違いの場所だわ。」
「ここにはあまり人は寄ってこないからね。なんせさとりを怖がってる人が多いのよ。」
「どうしてあんな優しいさとりを怖がるのかしら?」
「私にだってそれは分からないわ。」
「おっ、霊夢じゃないか。久しぶりだねぇ。」
二人が話している中ある人物がやって来た。長身で黄色く腰まで伸びる髪、そして額についている大きな角が特徴の鬼、星熊勇儀である。
「こっちこそ久しぶりね、勇儀。」
「そちらにいるのは誰だい?」
「あなた大きいわね・・・。あっ、私の名前はミク・サイバーグレントよ。よろしく。」
「ミクっていうのか、いい名前だな。アタシの名前は星熊勇儀。見ての通り、鬼だ。そういえば霊夢、ミクの所にいるあの大将さんはいないのかい?」
「今はここにいないわよ。戦うのは次の機会にしたら?」
「ちぇっ、そうするよ。」
「あなたは強い人と戦うのが趣味なのかしら?」
「ああ、そうとも。なんなら、あんたとも戦ってもいいんだぜ?ただし、素手の勝負だけどな。」
「素手なら美鈴がいるけど、恐らくあなたにとって相手にならない人みたいね。」
「あいつはいい筋してるよ。けど、まだ力の差ってもんがあるようだな。」
その瞬間、突如として爆発音が響いた。三人はその方向を見る。すぐに無縁塚だと気づいた三人は無言のままその場へ向かった。
三人が無縁塚に到着すると既に隼人、麻里、文、椛がある所を見たまま戦闘体制に入っていた。三人もその方向を見る。
「な、何よあいつ・・・」
思わず声を発する霊夢。そこには長身で腰まで伸びる後ろ髪を縛っていて黒い服に悪魔の絵が描かれていて1、2cmほど生えた顎髭に邪気に満ちた刀を持っている男がいた。男の後ろには多くの軍勢がいた。彼らが持つ旗にも悪魔の絵が描かれていた。後に悠岐、妹紅、慧音、ウロボロス、啓介、魔理沙、霖之助も駆けつけた。と、悠岐と啓介、ウロボロスは目を大きく見開いた。そして悠岐が男に言う。
「テメェ、どうして生きてやがる!」
「我は冥界より復活を遂げた、誰かの手によってな。」
と、霊夢は悠岐に尋ねた。
「悠岐、あれは何なの?」
「あれは大魔王。現実世界を支配しようとした男。だが謀反を起こされ、命を落とした筈だったんだが・・・」
「そんなのはどうでもいいよ。アタシと競り合える程の力の持ち主なんだろ、山下啓介さんよぉ。」
「いや、恐らくお前の力を越えてるかもしれないぞ勇儀。とにかく、奴には気をつけろ。」
霊夢達に笑みを見せながら大魔王は左手に持っていた拳銃を構える。
「我に従えば貴様らの命は助けよう。だが、反逆するならば、我の手で死に至らせよう。」
「上等だ、マスタースパーク!」
「よせ魔理沙!」
霖之助が彼女を止めようとしたが手遅れだった。そのまま彼女の攻撃は彼に向かっていく。だが、大魔王はそれを拳銃の中へ吸収し、そのまま魔理沙に向かって放った。
「魔理沙どけ!」
そう言うと悠岐は魔理沙を霖之助の方へ投げて波動の鉄壁を使った。幸い魔理沙に怪我はなかった。だが波動の鉄壁を使った反動で彼の左腕からゴキッという鈍い音が響いた。そのまま彼は左腕を押さえた。
「悠岐!」
すぐに啓介が駆け寄る。悠岐は強がっているのか、笑みを浮かべている。悠岐を見ていた他の人達は大魔王を睨む。彼は笑っていた。そして言った。
「貴様らの世界は我ら魔王軍がいただこう。明日が貴様らの命日だ。それではさらばだ!」
そう言うと大魔王率いる軍勢は一瞬にして消えていった。そのままここにいる一同は永遠亭へ向かった。
永遠亭に着くと永琳がすぐに彼の治療をし、折れた腕を治してくれた。その夜、一同は永遠亭に泊まることにした。と、霊夢が悠岐達に言った。
「現実世界にいたあんた達なら知ってるわよね?あの男のこと。」
「ああ、知ってるとも。とりあえず、俺達が知っていることを全て話そう。」
次作は回顧です。悠岐達が現実世界で起こった大魔王への謀反について話す。そして新たなる戦いが幕を開ける。
次作もお楽しみに!