本当、長らく空いてすみませんでした!!( ̄^ ̄)ゞ
―――――……
長い、とても永い時間、病に臥せっていた
生きることが辛いと思った。
けど死にたくないと思い続けた。
それが報われた時、あったのはただ感謝。
だから「生きよう」と決意した。
それが、最初の恩返し。
―――――……
――美術館にて。
「これが……」
今日の監視担当は一空だ。
キリヱは相手にされなかったと怒って屋台巡りに行き、残りの三人で相談し三太と九郎丸がキリヱをなだめる役に。そして一空が美術館を担当することとなった。
とはいえ監視の初日だ。余程怪しい行動をとっていないなら注意・警戒する必要もないだろう。
なので、全体を一時間ほど掛けて見て回った後、一空は件の展示物を見に行くことにした。
今見ているのは日本人形だ。
魔法には少々疎いサイボーグの一空だが、この人形のヤバさははっきり伝わってきた。
まず、傍目にも分かりやすく封印がなされている。
ショーケースの内側に札がいくつも貼ってあり、ショーケースの周囲にも工夫が施されていた。
そこには普通の模様のようにデザインされた床に見せかけた魔方陣が描かれていたのだ。
さらにこれは一空だからこそ分かったのだが、封印が破られた際にいつでも破壊できるように銃口がいくつも人形に向けられている。
これはもう異常と言う他ない。
しかし真正面から人形を見て。
悪寒が、駆け巡った。
その瞬間納得する。
この厳重な警戒は当然のことだと。
もしも一空が生身の人間だったなら、滝のような汗が流れていただろう。
(こ、これは……とんでもないな……)
たかが人形、などとは決して言えないねっとりとした負の感情。それがプレッシャーとなって一空にまとわり付いてくる。
数十秒も経ってようやく一空はその場から離れたが、その緊張感は仲間たちと会うまで弛むことはなかった。
「もう!なんだってのよ!?」
あむ、もぐ。
「何が『お前そんなはしゃげるのか?』よ!失礼しちゃうわね!」
もぐもぐ……ごくん。
「そりゃ一瞬、優勝は難しいかなとは思ったわよ!」
ごくごく、ぷはぁ。
「だからって……!」
「うん分かった。分かったから一回手を止めよう、ね?」
「そ、そうだって。今回はたまたま雪姫様が来たからそっち行っちゃっただけだって」
「ふん!」
なだめられ、一度ヤケ食いの手を止める。
目の前にはまだまだ山のようにある屋台の食べ物。
行く先行く先でささっと買えるものをごっそり買っていった結果である。
もう分かりやすいほどの暴飲暴食ヤケ食い祭りだ。
よっぽど刀太から言われたダメ出しがプライドを傷つけたらしい。
さすがにまだまだ肉体年齢的に子供のキリヱに自分の体重の一割近くありそうな食事をさせるわけにも行かないので、止める二人も必死である。
この三人でも食べるのが無理そうな量なのに限界を超えて食べてしまったら――主に体重計の上で――後悔すること必至なのだ。
「うぷ」
数分もすると、もうすでに満腹を越えてたのか若干辛そうな顔をする。
「大丈夫かい?」
「………………へ、平気よ」
((駄目だなこりゃ))
二人の心は一致した。
とにかくうちわで扇ぎながらキリヱを休ませることに。
「で、これからどうする?」
「う~ん、とりあえずキリヱが動けるまでここで待とうか」
さんせ~と三太から同意が上がったのでそのまま寛ぐことにした。
チンピラを撃退してからしばらくして。
夏凛が小腹が空いたと言うので屋台に並んだのだが……
「お、兄ちゃん。さっきは格好よかったぜぇ?」
「あらまぁ、べっぴんさんだこと!こりゃたぁんとサービスしなきゃだね」
「ねぇねぇ!あの時どうやって倒したの?」
「あいつらが熱~いベーゼを交わした時は腹抱えて笑わせてもらったわ!」
な、なんというかむず痒い!
「ほら!いっぱい盛ったからしっかり食べな!」
「お、おう……」
こういった純粋な善意に中々馴染めない黒斗の動きはぎこちない。
「礼くらい言いなさい。ありがとうございます」
「なぁに、良いってことさね!」
逆に嬉しく思い、柔らかく微笑むのは夏凛だ。
彼女は普段こそ鉄面皮だが、誰かからの温かい心に触れることが好きで、時折こうして微笑むのである。
その表情は一輪の花を思わせるような美しさで、周りの男たちを魅了している。
「と、とにかく行くぞ!」
居づらそうな黒斗が夏凛の手を引っ張ってその屋台の付近から連れ出した。
瘴気でできている黒斗は、こういった温かみのある空気というのが苦手で、かなり強引に進んでいく。
囃し立てる口笛をBGMに。
「ともかく、やることはキチッとやらないとね」
日本人形の寒気は取れないが、かと言ってそれで逃げ帰るつもりもない。
一空は内心嫌なものが燻っていても己の役割のために美術館を周っていた。
ささっと見回る程度なので、それほど大変でもない。多少の広さを持っていても2時間3時間もあれば充分見れる。
今は特におかしなところはない。
(いや、すでにおかしいところだらけだけどね)
一空も黒斗からリストをもらっているが何より、曰く付きの物品の多さが目に着く。
何せ可能性の低いものを合わせれば百を下らないのだ。
よほど最初に集まったものがそういったものだったのか。
「あるいは、それらを集めようとしたのか。かぁ……」
黒斗がどう考えているかは知らないが、そう考えるとここも充分きな臭い。
警戒は怠らない方が――
トン
「おっと、失礼」
考え事をしていたら、途中で人とぶつかってしまった。
「いえいえ、こちらこそ申し訳ない」
ぶつかったのは、シルクハットとステッキが見事な紳士だった。
「ふふふ、若いのに随分と渋い趣味ですなぁ。あなたほどの年齢なら外の方が楽しいでしょうに」
「いえ、これからお祭りには参加しますよ。ただ、ここの美術館は有名ですからね」
咄嗟に取り繕った意見だが、上手くまとまった。
「ほぅほぅ、それはそれは。勉強熱心で良いことです」
「ありがとうございます。ムッシュはまたどうしてここに?」
「ほっほっほ。こうして歳を取ると、中々どうして同じように時を歩んだものを、見てみたくなるものでしてなぁ」
「そんなものですか?」
ベッドの上とはいえ長年生きていてもそんな考えには至らなかった一空からしたら新鮮な意見だ。
「ええ、言うなれば彼らは同志、と言っても過言ではありません」
「変わった考え方ですねぇ」
「ほっほっほ。よく言われます」
朗らかな笑みを浮かべて老紳士はその場を立ち去る。
「それでは、またご縁がありますように」
「次はぶつからないように気を付けますね」
ほっほっほ、と笑う老紳士のおかげで、張り詰めたものが少し緩和してくれた気がした。
「……ありがとうございます」
小さい声で、その背中にお礼を言った。
「はぁ、この辺なら大丈夫だろ」
あれから注目され続けるのが嫌になった黒斗は、人目につかなそうな場所まで走ってきてようやく息をついた。
その様子はだれがどう見ても疲れ果てている。
「何もそこまでしなくてもいいじゃない」
涼しい顔をしている夏凛はあきれ顔だ。
「そうは言っても仕方ねぇだろ?俺、あんなとこに長時間居たら浄化しちまうよ」
以前にも言った通り、黒斗の身体は瘴気で出来ている。
それ故に、澄んだ空気の中に居続けるだけで存在の維持のために自身の身体である瘴気を消費してしまうのだ。
「ふふっ」
「何だよ?」
くすっと笑った理由が分からず聞き返すが、夏凛は答えない。
首を傾げて、しかし理解できないので、まぁいいかと流す黒斗に夏凛は笑みが零れて止まらない。
(そう言う割に、手は離さなかったのね)
神に愛され常に浄化されていると言っても過言ではない夏凛と触れることは、黒斗にとって間違いなくダメージになるにも関わらず、その手は離さなかったのだ。
これを嬉しく思わず、どう思えというのか。
しかも、本人はそれに気が付いてないのだから笑ってしまう。
紳士としての対応以上の何かを確かに感じられるのだから。
「少し休んだら、そろそろいい時間だし、ホテルに戻って雪姫様たちと合流しましょう」
その提案に頷いて、腰を落ち着ける黒斗と、それを笑顔で見守る夏凛。
周りに人がいれば、二人はカップルにしか見えないだろう。
それほどまでに、二人の間の空気は柔らかかった。