魔法少女リリカルなのは!?「落ちこぼれの魔導師」 作:ヘルカイザー
ではよろしくお願いします。
第1話《高町なのはとの関係》
私は高町なのは……ひょんな事から魔法少女なんて始めて、今では魔法を教える教導官などをやっている。これでもエースオブエースなんて言われて周りからはそれなりに評価されているのだ。
しかしそんな評価など私はいらない。私が欲しいのは彼の笑顔だけだった……彼、というのは私の世界の幼馴染。名前を塗栄 瀀(とえい ゆたか)。私はゆた君と呼んでいる。
私は彼の笑顔が大好きだった。優しくて、みんなを癒してくれるような太陽のような笑顔。でも……その笑顔はある時を境に消えてしまったのだ。何が悪い、誰が悪いとかではない。彼が自分自身の弱さと向き合い受け止めきれなかった結果だ。実は彼も魔法の素質があったのだ。しかし彼が保有している魔法の資質は何をどう頑張っても戦いに使えるような代物じゃない。その為、彼は自分の手のひらに直径30㎝程の魔力の膜しか出す事は出来ないし、魔力スフィアを形成する事はおろか、砲撃や飛行といった魔法はまるで使うことができないのだ。そしてもう一つ、一番彼が戦いに向かないと言える要素がある。それはシールド、防御魔法の類い、その全てを行使する事が出来ない。これは戦いにおいて決定的になくてはならないものだ。
確かに反射神経や類い稀ない感覚を保有しているのであれば防御はさほどいらないのかもしれない。だがゆた君には何もない。こんな事決して言いたくはないが彼は間違いなく魔導師の中では落ちこぼれ。それこそ、一般人と何も変わらない。だからこそ彼は壊れた、私達の隣に立てないという劣等感と私達の足を引っ張っているという罪悪感……それに押し潰されてしまっていた。
しかしそれに気づく事が最後の最後まで私にはできなかった。彼を一人で悩ませ、追い込んでしまったのだ。だが果たして気づけたとして私に何か出来たのだろうか……彼に対してキチンと向き合う事が出来ただろうか……過ぎ去った今となっては分かる事ではない。
私は彼が好きだ。親友として、幼馴染として、女の子として………でもそれに気づくのが遅過ぎた。全て遅過ぎたのだ。気がつけば彼はもう側にいない。別に彼が私を嫌った訳じゃない。私が……自分自身で彼を拒絶し傷つけたからだ。
その訳、理由を話す為にはまず……私達の平和な過去へと話を戻さなくてはならない。
「ゆたくぅ〜ん……お腹空いたぁ〜。なんか作ってぇ〜? 」
「い、いや……お腹空いたなら家に帰ればいいんじゃないの? 」
「嫌なの! ゆた君の作ったご飯食べたいの!! 」
この頃の私はまだ小学3年生。あまり家族に甘えたりしなかった私は代わりにこれでもかと言うくらいゆた君のお家でグダグダとゆた君に甘えていた。それというのもゆた君には親がいない。この大きな二階建ての家で一人で住んでいるのだ。その為、ゆた君は炊事、洗濯と家で主婦が行う一切合切を全てこなす。正直な所、ゆた君は男だがいいお嫁さんになれると思うのだ。
そして私がこうして我儘を言ってもゆた君は面倒くさがらずに付き合ってくれる。私の我儘を全て聞いてくれるのだ。でも私はゆた君に何もしてあげてない。こうしてテーブルに顔を乗せてグダグダとしているだけ。
「はい、なのちゃん。夕ご飯もあるんだから食べ過ぎちゃダメだよ? 」
「お、美味しそうなのぉ〜、いただきます! ん!? おいひ〜の!? 」
「なのちゃん? 口に物を入れたまま喋るのは行儀が悪いよ? そんなん
じゃ誰も嫁に貰ってくれないよ? 」
「むっ! 大丈夫だよ! その時はゆた君が貰ってくれるもん! それで私はゆた君のヒモになるのぉ〜うへへへへ〜」
この時私はニヤニヤとアホズラを晒し、ゆた君との将来を想像していた。本当に子供だと自分でも恥ずかしくなるがこれは仕方のない事だ。
後、余談であるがヒモなんて言葉を何故小学生の私が知っているかと言えばお姉ちゃんが最近ハマっている昼ドラの中でその単語と意味が出てきた為である。
勿論ゆた君もその意味は知っている。何故なら私が教えたからだ。だがそれを言ったらゆた君は断固として嫌だと言っていた。だからその度に私は軽いショックを受けていたのだ。
そしてこの時期、私の魔法はと言えば既にユーノ君と出会い、魔法の力を得ていた。しかしゆた君には内緒にしていたのだ。ゆた君には怪我をして欲しくなかったし、巻き込みたくなかった為である。だがそれはとても隠しきれるものじゃなかった。私とゆた君の仲が良ければ余計に…………
「なのちゃん? 本当に行くの? 」
「うん。このまま放って置けないから……もう関わっちゃったし」
「そっか……なら「ゆた君はダメ! 」え…………」
「ゆた君はダメだよ。だってゆた君は……『弱いんだから』」
「っ!? 」
「大丈夫だよ! みんなで帰って来るから。だからゆた君はフェイトちゃんの側にいてあげて? 」
時は少し進んで私が初めて関わった事件、その最終局面。最初は巻き込まれただけだったけど、その後私は自分から関わっていった。そしてその事件の途中、ゆた君にも魔法の素質があると分かったのだ。しかしゆた君には戦う事は出来ない。だから連れて行く事が出来ないのだ。きっと行けばゆた君は死んでしまう。
でも私は後に後悔した……これがきっとゆた君の心に少しでも自分が劣っているという考えを植え付けさせてしまった、最初の言葉の筈だからである。勿論、そんな事を当時の私が気づく筈もない。
そしてその後の事だが、私達は無事に帰って来る事が出来た。ゆた君も、帰って来た私達の無事に安堵し喜んでくれた。しかし心のどこかではきっと自分が戦えないという事を呪い、責めていたのだろう。でなければゆた君の笑顔が消える事はなかった筈だ。
私はいつも気づくのが遅い。あの時だってそうだった。それは敵だったフェイトちゃんがもうすっかり私達の友達となった、この事件からそう経っていない時期に起きた事件の事。私は突然襲ってきた謎の赤い魔導師に襲われ、倒された。でも危ない所をフェイトちゃんに助けて貰って、大事には至らなかったが、そこへどういう訳か騒ぎを聞きつけてゆた君がやって来た。
私は焦った。こんな危険な場所へゆた君が来てしまった。このままではゆた君が怪我を……もしかしたら死んでしまうかもしれない。そんな想いが私を冷静に考える思考を停止させてしまった。
「なのちゃんダメだよそんな身体で!? 無茶だよ!? 」
「だ、大丈夫だから……ゆた君は私が……まもるの…………」
「なのちゃん!? 」
「うるさい!!! ゆた君は『弱い』んだから大人しくしてて!!! 」
「っ!? 」
本当はそんな事を言いたいわけじゃなかった。けど……ゆた君を守らないとと言う気持ちが先走り過ぎて、自分がゆた君にどんなに残酷な事を言っているのかも分かっていなかったのだ。
そして私達を閉じ込めている結界を私が収束砲撃で壊し、敵は一先ず逃げ出した。私はその瞬間気を失い、みんなに心配をかけてしまった。でも私が起きた後、側にゆた君の姿はなかった。聞けば、ゆた君はもうお家に帰ったのだと言っていた。取り敢えず、私はゆた君が無事な事に安堵し、喜んだ。この時、ゆた君が何を想い、苦しんでいるかも知らないで…………
「悪魔め…………」
「悪魔で……いいよ? 悪魔らしいやり方で……話を聞いて貰うから! 」
この事件の中心は八神はやてという私達の友達……彼女の騎士、ヴォルケンリッター達が起こした事件だった。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。何せ、主の……はやてちゃんの命がかかっていたのだから。
しかしこの事件は普通には終わらなかった。何故ならこの事件、闇の書と呼ばれるロストロギア。それを完成させ、それを完全に封じようとしたある管理局員の思惑による物だったからだ。
そして、闇の書は完成した……みんなで相談し、対策を練った。けど……その時にも私はゆた君に酷い事を言っていたのだ。
「ゆた君は待っててね? 危ないから」
「で、でもなのちゃん……僕は…………」
「ゆた? 大丈夫、みんなで片付けて来るから! ゆたは待ってて? 」
「フェイちゃん…………」
「ゆた君? ゆた君は『弱く』てもいいの! だってゆた君は私が……私達が守るから! 」
「っ!? 」
その時はそれが一番最善で、ゆた君にとって一番いい事だと思っていた。しかしそれは私の身勝手な押し付けだったのだ。自分が守るからゆた君は何もしなくていい、何も出来なくていい……なんて身勝手で残酷な言葉なのか。自分がもしそれを言われて納得出来ただろうか……いや、できる訳ない。もし、私なら大人しく待っているなんて出来ない。けどそれは力があるからこそ言える選択肢なのだ。それじゃ……力のないゆた君はそれを言われて、納得出来なくても納得しなくてはならない。何より、私達の足を引っ張ってしまうからだ。
結局の所、私が関わった事件でゆた君が戦闘に参加した事は全くと言っていいほどない。その度に私や周りがゆた君を止めていたからだ。
そしてこの事件から数年が経ったある日、私は異世界からの任務の帰り、襲撃を受け、普段の無理がたたって大怪我をしてしまった。当然、みんなに心配をかけたし、ゆた君も心配してお見舞いに来てくれた。私はもう飛べないかもしれないと言われ、私の心はボロボロだった。まともに歩く事も出来ずに……それでもくる日もくる日も、大丈夫と自分に言い聞かせてリハビリに明け暮れた。けど……そんなある日の事……私の溜め込んでいた不安やマイナスの気持ちが爆発してしまったのだ。しかも……よりによってゆた君に向けて…………
「ゆた君に何がわかるの!!! 魔法もまともに使えない、まともに戦う事も出来ない、そんなゆた君なんかに私の気持ちなんて分かるわけない!!! 」
「なの……ちゃん…………」
「出てって!! 出てってよ!!! 」
「……分かった。でも……帰って来てくれて……生きていてくれてありがとう」
「つっ!? ……ゆた君……私…………」
私はこの時……ゆた君が出て行った後、自分がどんなに酷い事を言っているか気づいた。自分で守ると言っておきながら、弱くても良いと言っておきながら、ゆた君が弱い事を咎め、ゆた君を傷つけた。それなのにゆた君は言い返しもしないでただ私が生きている事に感謝してくれた。
この時からかもしれない。ゆた君の笑顔が段々薄れて来たのは。
それに気づいたのは私がリハビリを重ね、すっかり歩けるようになった時だ。しばらくお見舞いに来なかったゆた君が久しぶりに顔を見せてくれた時。最初に見たゆた君の顔が笑っていた。しかしその笑顔は……私の好きな笑顔じゃなかった。完全に作り笑い。心のそこから笑っている顔じゃなかったのだ。ゆた君に対して酷い事を言った手前、何かあったのか踏み込んだ事を聞けなかった私はそれを確かめる事が出来なかった。でもゆた君はその後、いつもと変わらない笑顔を見せてくれて、気の所為だと思ってしまったのだ。いや、もしかしたら無意識に認めたくなかったのかもしれない。ゆた君が変わってしまう事を…………
「ゆた君? ゆた君は中学卒業したらどうするの? 私は管理局で働きたいと思ってるんだけど……もしゆた君が良ければ一緒に……ダメ、かな? 」
「う〜ん……そうだね。特にやりたい事決まってるわけじゃなし……うん! 僕もなのちゃんと一緒に行こうかな? 」
「本当!? えへへ、ゆた君大好き〜! 」
「ちょっ!? なのちゃん!? 」
幸せだった。ゆた君がいて、フェイトちゃんがいて、はやてちゃんがいて、みんながいて。でもその幸せは数年で壊れてしまった。管理局で働き始めてさらに数年が経ったある日、ゆた君は管理局をクビになった。理由はゆた君がいる部隊で、ゆた君が部隊の足を引っ張った為に部隊で死者が出てしまったとの事だった。しかし私はそれを信じる事が出来なかった。あまりにも不自然だったからだ。その時の記録映像は残っておらず、その状況にしても詳しい事は当事者以外は分からないとの事だった。なんらかの、意図的な思惑があった。そう疑わずにいられなかったのだ。
私はゆた君と話した。これは不当だと、ちゃんと話せばひっくり返せる筈だと……でもゆた君は抵抗する事なく管理局を去った。そしてその時に私はまた見てしまったのだ、あの……作り笑いを…………
それからと言うもの、ゆた君とは連絡が一切取れなくなってしまった。いくら探しても、ゆた君は見つからない。私達の世界へ帰ったのかと思い、確認したがどうやら帰った訳でもないらしい。私は心配だった。今迄、ずっとそばに居てくれた彼が、いなくなってしまったからだ。しかし…………
「久しぶりだね……ゆた君? 驚いたよ、こんな所で会うなんて思わなかったから」
「…………」
私は数年後に彼と会った。絶対に会わないと思える場所で。それはある年に開催された魔導師達の腕試を兼ねたトーナメント大会。私はそれに出ていた。観客として来た彼に会ったわけじゃない、選手として出ている彼に会ったのだ。それも私の対戦相手として、決勝の舞台でだ。
正直信じられなかった。魔法もまともに使えない彼が、手練の魔導師達の集うこの大会に出ているなんて、勝ち残っているなんて……昔の彼からは想像もできなかったのだ。それに彼の服装は、ただ黒いコート、そして、刀のようなデバイス。顔からは笑顔が完全に消えていた。
「行くよ? ゆた君! 」
試合が始まり、私は最初、様子見も兼ねて数個の魔力スフィアをゆた君に向けて放った。しかしゆた君はそれを紙一重でかわし、刀を抜く事なく魔力スフィア同士を衝突させてこれを攻略した。別に彼をナメていたわけじゃない。ただ、彼がどんな風に戦うのか見てみたかっただけだ。そして彼は強くなっていた。私がどんな攻撃をしてもそれをかわしてくる。でも気になる事があった。彼は一度も攻撃をしていない。それどころか刀すら抜いていないのだ。一体どういうつもりなのか私には分からなかったが、私が試合を決めるために彼にバインドをかけ、私の最高の魔法、スターライト・ブレイカーを放った時だった。私はその異変に気づいた。彼はバインドをかけられているというのに全くと言っていいほど抵抗していなかったのだ。しかもまるで私の収束砲を待っているかのようにじっと私の方を見つめている。
「当たった……ゆた君大丈……っ!? 」
「終わったと思ったならそれはお前の慢心だ。エリートはエリートと凡人には勝てても、『落ちこぼれ』には勝てない。何故だか分かるか? それは……無意識でも落ちこぼれを見下しているからだ!!! 」
「しまっ!? がっ、はっ……ゆた……君…………」
その瞬間私は意識を失い、私は初めてゆた君に負けた。戦ったのも初めてだがそれでも負けるなんて微塵も思っていなかった。ゆた君が何をしたのかは私には分からなかった。砲撃が当たったと思った直後、空中にいる筈の私の背後で声が聞こえると思えば私の意識がブラックアウトしたのだ。
ゆた君は飛べない。にも関わらず私は空中で倒された。そしてその後、気が付いた私の側にいたのはゆた君ではなく、試合を見に来ていたフェイトちゃんだったのだ。聞けばゆた君は試合が終わると表彰も受けずに消えたのだと言う。
私は引っかかっていた……私が意識を失う前、確かに聞こえたゆた君の声、言葉。
「エリートと凡人には勝てても落ちこぼれには勝てない……か…………うっ……ひぐっ……うわぁぁぁ……ごめん……ごめんね……ゆた君…………」
私が全てに気づいたのはこの時、この瞬間だった…………
次回もよろしくお願いします。