魔法少女リリカルなのは!?「落ちこぼれの魔導師」   作:ヘルカイザー

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ども〜遅くなって申し訳ありません。

これでプロローグ最後になります。

ではよろしくお願いします。


第5話《塗栄 瀀と言う人間》

僕は幸せだった。親は早くに亡くなっていなかったけど、なのちゃんやすずちゃん、アリちゃんがいて。僕は十分に幸せだった。当時の僕は小学生だ。だから何も難しい事は考えずにその瞬間だけを考えて生きていた。別に適当に生きていた訳じゃない。でも……その時その時を大事に過ごすと言う意味で、僕は生きていた。

しかしそんな僕にも先を考えなくてはいけない時が来たのだ。それは魔法との出会い。魔法は僕に新たな友達とこれからのきっかけを与えてくれた。友達とはフェイト・T・ハラオウン、フェイちゃんの事だ。魔法があったからこそ僕は彼女と出会えたし、友達になる事が出来た。そしてこれからのきっかけ……それは僕にも魔法素質があったという事。それが分かったのはなのちゃんが魔法の力を得た後、しばらく経った時の事だった。僕達と初めて出会ったフェイちゃんとの出来事、その時。僕はフェイちゃんに魔法で攻撃を受けた。その際、フェイちゃんから魔法での治療が施されたようで、それがきっかけとなり、僕の中にあったリンカーコアが目を覚ました。しかし僕の魔法……その素質はなくてもいいと思える程微量な物。ランクとしてはなのちゃんが今現在、空戦S+。だが僕は今現在となってもランクがつけられない程微量な物。未だに直径30㎝の薄い膜しか出す事が出来ない。でもだからと言って僕はそんな事を気にする気はなかったのだ。才能は人それぞれ。僕には僕の出来ることがある筈、そう思っていた。しかし思っている事と現実は大きく違った。

僕はなのちゃんが戦いに出る時、いつも不安だった。もしかしたらなのちゃんが死んでしまうかもしれない。例え死ななくても怪我をしたら? そう思うと待ってなどいられない。何も出来なくても側に居たかった。絶対に何か出来ることが、なのちゃん達の力になれる事がある筈だと。なのちゃんが最初にフェイちゃんと戦った時もそうだ。なのちゃんが気絶し、僕は初めて誰かに対して怒りを覚えた。でもだからと言ってフェイちゃんを殴ろうとは思わない。ただ僕は聞きたかった。何故こんな事をするのか。話し合い、分かり合えれば争いなどしなくていい。だからこそ僕はフェイちゃんに詰め寄ったのだ。暴力ではなく、相手と会話をする事で……言葉で彼女と分かり合えると信じていたから。だが現実と言うのはいつも残酷だ。彼女は僕の話など聞く気はなかった。しかしそれも今考えれば当たり前の事だ。僕は一体何を夢見ていたのか、何を幻想に溺れていたのか。彼女は今なのちゃんの敵。さっきまで戦闘していた間柄なのだ。にも関わらず、僕は彼女と話をすれば大丈夫だと思い行動に出た。敵である彼女がなのちゃんの側にいる僕を信用する訳もないのに…………

当然の事ながら僕は魔法で吹き飛ばされ頭を切ってしまった。普通ならここで諦めるか命乞いをする。僕はまだ子供なのだから。しかしその時の僕は不思議と彼女に対して恐怖を抱いたりはしていなかった。逆に絶対に話し合える筈だとまだ諦めもしないで彼女の方へフラフラと近づく。

 

「僕の……話を……聞いて、くれ……僕は……君……に

…………」

 

「!? ……ごめんね」

 

意識を失う直前、僕はフェイちゃんの口からそう言葉が漏れた気がした。後で聞けば僕はフェイちゃんに治療されたのだと言う。だから僕はこの時余計にフェイちゃんとは話せば分かるのだと確信したのだ。そして結局フェイちゃんとは顔は合わせても話す機会がなく、最後まで話す事が出来なかった。しかしこの事件の最終局面にやっと話す機会が出来たのだ。それはフェイちゃんのお母さん、プレシアさんがフェイちゃんにとんでもない事を言った時の事。まるで存在価値のない道具とでも言うように。フェイちゃんの事を否定した。フェイちゃんはその場に倒れ、側に僕がついてる事になった。なのちゃん達はプレシアさんの所へ向かい、僕は行くなと止められた。

そしてフェイちゃんは人形みたいに何も言わずに動かなくなったまま。僕が何を言ってもフェイちゃんは反応しない。でも僕は、諦めずに話し続けた。すると少しだがフェイちゃんは反応を見せてくれて、ちょっとずつでも正気を取り戻してくれたのだ。

 

「行くの? 」

 

「うん! まだ……やらなきゃいけない事、あるから! ……その……ありがとう……えっと…………」

「瀀だよ。塗栄 瀀。君と戦ってた白い服の子はゆた君って呼んでくれるかな」

 

「じ、じゃ……ゆた」

 

「うん! それで僕からお願いがあるんだ。情けない話、僕は何も出来ない……だから、なのちゃんの事助けてくれないかな? 僕の……代わりに…………」

 

「……うん……分かった! 」

 

この頃から僕はなのちゃん達に対して決して対等ではない何かを感じ始めていた。なのちゃん達からも、そして……自分でも。

なのちゃん達は危ない所へ行く、でも僕は安全な所で待っているだけ。しかし仕方ないのだ。僕には力がない。なのちゃん達の安全を願う事で精一杯だ。なら他に出来る事はないのか……ない。いや、正確には分からなかったというのが正しい。その頃の僕は自分が弱いという事を気にし、周りがまるで見えてなかった。戦う力がないから僕は足手まとい。危なくてもなのちゃんに守られているだけ。道は他にもあった筈なのにも関わらずだ。

今でこそ、なのちゃんのサポート、そこを目指す事も出来たであろうと思える。だが僕はそれに思い至らず、アリちゃんやすずちゃんに迷惑をかけてしまった。あれはなのちゃんが大怪我をした時の事だ。僕は精神的に壊れた。理由は簡単だ、痛々しい程に包帯を身体中に巻き、ベッドで横になっているなのちゃんを見たからだ。

僕は自分でも気づかないうちになのちゃんに対して普通じゃない感情を抱いていた。僕は彼女に惹かれていたのだ。幼馴染、ずっと一人でいる僕と関わってくれた女の子。僕はなのちゃんが好きになっていた。友達じゃない、それ以上に。だから僕は大怪我をしたなのちゃんの姿を見て正気でいられなくなったのだ。僕はなのちゃんに依存している。それをアリちゃんの言葉で気づかされた。何故僕はなのちゃんの側にいてあげるだけで。それだけで良かったものを……支えてあげるだけで良かったものを……たかがそれだけの事をしてあげられなかったのだろうか。少しの間でも……彼女のお見舞いに行かなくなった事を僕は一生、今でも後悔している。

そして僕にとって一番の助けは、すずちゃん。僕を強引な手段でも、力について教えてくれた彼女だ。力がない事の何が悪い。力があるから誰かが救えるのか。力がなければ誰も救えないのか。いや、そんな事は絶対にない。助けとは戦う事ばかりじゃない。それを僕は分かってなかった。忘れていたのだ。それをすずちゃんが教えてくれた。彼女達には今でも感謝している。

 

「ゆた君? ゆた君は中学卒業したらどうするの? 私は管理局で働きたいと思ってるんだけど……もしゆた君が良ければ一緒に……ダメ、かな? 」

 

「う〜ん……そうだね。特にやりたい事決まってるわけじゃなし……うん! 僕もなのちゃんと一緒に行こうかな? 」

 

「本当!? えへへ、ゆた君大好き〜! 」

「ちょっ!? なのちゃん!? 」

 

中学卒業間際、僕はなのちゃんに管理局に誘われた。一瞬考えた。僕がそこへ行って何か出来ることがあるのだろうかと。でもその時、アリちゃんとすずちゃんの言葉を思い出した。だから僕は前に進む決心をした。僕が向き合ってこなかった魔法の力。きっと努力すれば、諦めなければまともに使えるようになる筈だ。しかしだからと言って戦場に出ようとかそう言った事じゃない。少しでもなのちゃんの助けに、協力できればいいなと思ったのだ。同じ職場ならなのちゃんの支えになれるのではないかと。でもそれは並大抵の事じゃなかった。何故なら僕はなのちゃん達より管理局の訓練校を一年遅く出ている。魔法がまともに使えない僕は苦労が絶えなかったのだ。同じ仲間には馬鹿にされ、教官からも出来の悪さにため息を吐かれる始末。しかしそれでも僕は頑張れた。なのちゃん達を目標に、助けになれる事を目指して。そして何とか訓練校を卒業できた僕は戦闘に全く関わりのない事務を扱う部隊へと配属された。ただし、魔法の使える人間は別だ、だから魔法の使える先輩達は次元世界の危険生物を狩るという仕事をしている。僕はそのサポートと事務と雑務が仕事だ。

でもそれ自体、僕は何の文句もない。現場に出ないからなのちゃん達は安心してくれるし、僕もゆっくりだが魔法について多くを先輩達から教えて貰える。だがその日々は長く続かなかった。最初は真面目に働いてる僕を上司や先輩は評価してくれた。魔法が使える使えないは関係ない。お前は十分出来る人間だと。しかし管理局で働き始めて一年が経ったある日だ。僕は魔法が使えないにも関わらず、三等陸士から二等陸士へと昇格した。認められたのだ。事務仕事、雑務を。だが同時に、僕と同じ階級にいた先輩達は僕より下になってしまい、その頃から先輩達の態度が変わった。

 

「おい、瀀早くしろ! 俺は腹が減った! 食堂行くぞ食堂! 」

 

「ああ、待ってくださいよモルタ先輩!? 」

 

「待てるかよ! ……まったく、階級が上がっても体力と魔法はダメダメなんだからよ。はぁ〜これだから『落ちこぼれ』は…………ん? どうした瀀? 」

 

「え? あはは、なんでもないですよモルタ先輩。ささ、食堂いきましょう! 」

 

この時先輩からポロリと出た言葉……『落ちこぼれ』。それはなのちゃん達に言われていた『弱い』という言葉以外に僕の中の何かをもやもやと湧きあがらせるきっかけだった。先輩もこの時は悪気があって言ったわけではないと思う。しかし僕にとってその言葉はいつまでも耳に残り、僕の心に何かを植え付けたような、そんな言葉だったのだ。

そして先輩達が決定的に僕に対しての態度を変えたのはそれから一週間が経った後。その時モルタ先輩はいなかったが僕は昼食の後、そのまま先輩達に連れられ中庭に連れて行かれた。いつもは隊舎だが今日は中庭で休憩するのかと思い、特に気にはしなかった。だが先輩達は突然僕の周りを囲うように足を止めると周りには聞こえないような声で喋り始めた。

 

「なぁ〜瀀? いや、二等陸士様か? 魔法も使えない癖に俺達より偉いんだもんな? お前最近俺達の事馬鹿にしてないか? 」

 

「な、何言ってるんですか先輩!? 僕は一度だって先輩達より偉いだなんて思った事「本当にそうか? 」 え…………」

 

「お前は最近管理局のエース達と親しくしてるようだよな? 特に高町 なのは、エースオブエースとかよ? 何故だ? 魔法も使えない、特に秀でた才能もない。なのに何故お前は俺達より上の奴らに好かれる? お前、本当は魔法が使えないなんて嘘じゃないのか? 」

 

「ち、違いますよ!? 彼女達とは幼馴染なだけで、それに魔法だって僕は全然…………」

 

先輩達は僕に対して不満があるようだった。悪く言えば妬みだ。自分より後に入った後輩が魔法も使えない癖に自分より階級が上がってしまった、それが面白くないのだろう。たかだが一つ上。しかし先輩達にとっては大きいのだ。そもそも僕は階級が上だろうが下だろうが先輩達は尊敬していたし、魔法の事も色々教えて貰った。だからお世話になった先輩達には階級が上でも好きに呼んでもらっている、勿論正式な場では違うかもしれない。だがそれでも僕は先輩達の前では後輩として接してるつもりだった。

 

「なら証明してみろよ! 」

 

「証……明? 」

 

「明後日、俺達はある世界の危険生物を駆逐する任務がある。だからそれにお前も同行しろ」

「何言ってるんですか!? 僕は戦う力なんてまだ!? 」

 

「安心しろって! 戦えないなら下がらせるからよ? お前が本当に無能か確かめるだけだ。危なくなれば嫌でも素が出るだろ? 部隊長にはお前の為の訓練だと言っておくから安心しろ? フフ、そんな顔をするな。今回駆逐する生物は気性の荒い奴じゃない。瀀、『落ちこぼれ』を証明してみせろ。そしたらもう何も言わないからよ? 」

 

「落ち……こぼれ…………」

 

その言葉には悪意があった。この間のようなモルタ先輩が不意に行った言葉じゃない。完全に僕を見下していた。顔が目が……僕を『落ちこぼれと』言っていたのだ。確かに僕には力なんてない。落ちこぼれと言われても否定できないし、するつもりもない。でも僕は悔しかった。やれる事を全力でやっても結局……僕に対する目は変わらない。人の目線はいつも上から来る気がする。

そして先輩達がどこかへ行った後、後ろからはやちゃんの声が聞こえた。まさか聞かれたのかと思ったがどうやら違うらしい。ただ僕の心配をしてくれただけだった。しかしはやちゃんの一言は僕の中で溢れずに留まっていた物を少し、溢れさした。

 

「あはは、何やゆ〜ちゃん? 元気ないで? そや! 私で良ければ相談に乗るよ? 何か悩みがあるんやろ? 魔法は教えても『しょうがない』から無理やけど……他の事なら「はやちゃんもなんだね……」ん? 今、何て言ったんや? ごめんな、聞こえんかった。もう一度言ってくれへん? 」

 

「どうしてなの? 」

「え? え〜と……」

 

「どうして……僕を…………」

 

僕の中で黒い物が湧き立つのを感じた。はやちゃんがそんなつもりで言ったわけじゃないことは分かっていた。でもそれを分かっていても僕は悔しいと言う感情が制御できない。魔法が使えない事がどうしてこんなに惨めなのか。どうしてここまで言われなければならないのか。今僕は嫌な人間になってきている。はやちゃんが心配してくれても全てマイナスにしか捉えられなくなってきているのだ。自分で自分が分からない。そんな感じだった。

そして任務当日、僕は先輩達の予定通り任務へと出かけた。だが出発する前、先輩達と任務には同行しないモルタ先輩が言い争いをしているのを見た。何を言っているかもハッキリ聞こえている。

 

「瀀を連れて行くとはどういう事だ? 俺はそんな話聞いてないし賛成できない。お前らだって分かってるだろ? あいつは、瀀は戦闘が出来るような人間じゃない!! 戦闘技術以前にあいつは優しすぎるんだよ! だから瀀に危険生物なんて殺せないし、勝てるとも思えない!!! 」

 

「うるせーぞモルタ! お前があいつを可愛がってるのは知ってるさ。だが、俺はあいつが気に入らない。仕事は俺達だって出来る、魔法も使える。優秀なのは俺達だ! なのに何故あいつは俺より偉い? 何故俺達より上官に好かれている? 気に入らない、気に入らないんだよ!!! 」

 

「それはあいつにお前らにはない物があるからだろう!!! 勿論、俺にだってあんな物ない!!! 分かるだろ? あいつは俺達とは違う! 俺達みたいに仕事で……仕事で1日1日を消化するように生きている俺達とはな!!! ……信念と覚悟が違うんだよ…………」

 

「くっ……るせぇ……うるせぇ!!! 別に怪我させたり殺そうってんじゃねぇんだよ!! 絶対に生きたまま連れて帰る! それでいいだろ!!! 」

「あ、おい!? ……まったく……本当は分かってる癖によ…………」

 

モルタ先輩はいつもそうだ。いつも僕の事を可愛がってくれている。心配もしてくれるし魔法の事だって色々教えてくれる。面倒見がいいのだ。噂では階級の割に強いと話題。危険生物の駆逐率が管理局でトップ。しかしその真相は現場に出ている人しか知らない。

そして現場までの道中、僕を任務に同行させた先輩であるサーモ先輩から話をされた。何を言われるのかと思えば予想にもしていない事だった。

 

「瀀……その……悪かったよ。実は来る前にモルタの奴に色々言われてな? 考え直したんだ。いや、まぁ〜俺も本当は分かってたんだ。お前がそんな奴じゃないのは……でもさ……悔しかったんだよ。お前に先越されたのがさ……すまなかった! 」

 

「あはは、頭上げて下さいよ。気にしてないって言うのは少し嘘になっちゃいますけど……先輩がそこまでしてくれたんです。だから僕は……満足だ」

 

「あ、ああ。本当に悪かった。今日は後方で控えてて構わないから。お前に怪我されるとモルタの奴に怒られる。……それに……俺も気分悪いし……な? 」

 

先輩は謝ってくれた。普段、よっぽどの事がない限り頭なんて下げないサーモ先輩がだ。だから僕は少し気分が晴れ、先輩に対して何も思わなくなった。

先輩は少し気の迷いと言うかどうかしていたのだ。そう思う事にした。しかし現場に到着し、ターゲットの危険生物と対峙した時だった。先輩達が見事にそれを駆逐し、その場にいた全員が安堵したその時……事故、いや……起こってはいけない事が……起こってしまった。

 

「さて、思ったより早く済んだ。瀀、帰るぞ? 」

 

「あ、はい! サーモせん……ぱ……い…………」

 

「ん? どうした? ん? 何だよ、俺の顔に何かついてるのか? ……瀀? ……っ!? ……お、おい……冗談……止めろ……よ…………」

 

「キュカァァアアアアアアアアアアアアアア!!! 」

「全員退避!!! 全員逃げろぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!! 」

 

駆逐対象は倒した。しかしその直後、サーモ先輩の後方から恐ろしく大きい。そして黒い何かが飛んできた。僕はそれを見た時目を疑ったが、僕の異変に気づき、後ろを振り返った時のサーモ先輩の声でそこにいた全員が我に返り一斉に動き出す。理由は簡単だ。ここにいる全員、誰もあれに勝てないからだ。

僕達の前に姿を現した生物。それはSSS級危険生物、名をワールド・イーター。この世界に限らず、様々な世界を移動し、沢山の生物を食してはまた別の世界へ移動する天災のような生物である。うちの部隊ではこれにあったら関わるな、即座に撤退しろとのマニュアルがあり、絶対に戦ってはいけない生物と言われている。何故ならこの生物は人を食べるからである。

 

「助けてくれぇぇぇええええ!? あがっ!? ひっ!? ぎゃぁぁああああああああああああ!!! 」

「うわぁああああああああああ!!! 」

 

次々と先輩達が食べられていく。残ったのは僕とサーモ先輩だけだ。僕らは四人の班で動いている。つまり二人が食べられてしまった。僕は恐ろしくて腰を抜かし、ワールド・イーターが僕の方を見る。そして美味しそうと言わんばかりにヨダレと舌を出して僕へと迫ってきた。

その身体は悪魔のようにもドラゴンのようにも見える。黒く大きな羽根に、胸には真っ赤な毛なのか炎なのか、それが無限の形になっている。

 

「た、助け……嫌だ…………っ!? サーモ……先輩…………」

「行け! 」

 

「ダメですサーモ先輩!? 一人でなんて無茶です!? 僕にも何か「うるせぇ!!! お前は黙って逃げろっつってんだ!!! 」 先輩…………」

 

「『落ちこぼれ』のお前がいても足手纏いだ。行け……行けぇぇぇぇえええええええええええええ!!! 」

 

「う、うっ……うわぁぁあああああああああああああああ!!! 」

 

サーモ先輩が僕とワールド・イーターの間に入り、僕を逃した。そしてその直後、サーモ先輩の悲鳴が僕の耳へと鳴り響く。でも僕は振り返らず走った。怖かったのもあるが、サーモ先輩は死を覚悟して僕を逃してくれた。だから止まれない。先輩に助けて貰ったこの命を守る為に。

しかしこの時、僕はどうしようもない感覚に襲われていた。それは自分の不甲斐なさ。僕が弱いという証明。何もできない。仲間が食べられても助ける事も出来ずにそれに背を向けて逃げた。それが僕の心をさらに黒く染め、自分自身を呪った。

必死に逃げた甲斐もあり僕はワールド・イーターから逃げ切れた。だが帰った僕を待っていたのは仲間を見殺しにし、班を全滅させたと言う汚名だった。詳細はサーチャーでの記録映像があった筈なのだが、部隊長もそんな物は残っていないと言う。そして三人の死者を出したと言う理由で僕は管理局をクビになった。しかも……その時の事実は一切公開されないまま。つまりは隠蔽されたのだ。理由は分からない。でも何も出来ずに先輩達を見殺しにした僕には反論どころか何も言う資格はない。

 

「ゆた君!? 何があったの? こんなのおかしいよ、ちゃんと抗議すれば必ず…………」

「ありがとうなのちゃん。でも、いいんだ。僕が『悪い』んだから…………」

 

「ゆた……君? 」

 

なのちゃんも当然僕を心配して僕の所に来てくれたが、その時の僕は全ての気力や目標を完全に失っていた。つまりは……自分で自分を殺してしまったのだ。何もやる気になれず、しばらく一人になりたかった。

そして管理局をクビになった僕は一人ミッドチルダの街を歩く。そんな時だった。丁度裏手で人通りのない所に入った時、僕はその子と出会った。いや、正確には再開したと言った方が正しいのかもしれない。

 

「はぁ……はぁ……やっと見つけたよー! 会いたかったー! お・に・い・さ・まぁ〜? 」

 

「え……いや……誰? 」

 

最初は誰かなんて分からなかった。いや、分かる筈がない。何故ならこんな小さい女の子僕は知らない。見た感じ小学3年生ぐらいだ。季節外れの白いワンピースを来て、綺麗な白っぽいと言ったらいいのか、銀髪ぽいっと言ったらいいのかそんな女の子が僕の前に息を切らせて立っていた。

そしてしばらくその子を見ていたがその時、その子の後ろから管理局員が四人走ってきた。何事かと思ったがどうやらこの子に用があるらしい。しかしおかしかった。何故なら駆けつけた管理局員は僕が元々いた部隊の人達だ。だから普通の人間に対しての取り締まりや犯罪に関わる事はない。何故ならうちの部隊は危険生物を専門に動く部隊だからだ。

 

「あ? お前この間クビになった瀀じゃねか? 」

 

「せ、先輩方……どうも」

 

「どうも? フンっ。仲間を殺した『落ちこぼれ』がこんな所で何してんだ? まぁ〜いいが。瀀? その子を渡せ? 」

 

「どういう事ですか? 先輩方の部隊は危険生物を扱う部隊の筈ですよ? 」

「あ? だから俺らが来てんだろうが! その子が危険生物だ! 感知器にしっかりと出ている。そいつは人間じゃない。そいつは……ワールド・イーターだ」

 

「え…………」

 

僕はそう言われてその子を見る。しかしその子は首を傾げて僕の後ろで不安そうな顔を浮かべているのだ。こんな小さな子があのワールド・イーター……僕は信じられなかった。この子がサーモ先輩達の仇。そう思うと僕は少し顔をしかめる。

 

「君が……サーモ先輩達を食べたの? 」

 

「え? 違うよ〜? あの時お兄様のお友達を食べたのは私のママだよー! でもでもー私はママのお腹の中にいたから私が食べた事になるのかな? お兄様が逃げた次の日に私が産まれたんだよ? お兄様のお友達の栄養のお陰かもね? 」

 

「あのワールド・イーターの子供? お、お腹の中にいたのに何で僕の事知って…………」

 

「えー? 分かるよぉ〜? だってお腹の中だってもう意識あるし、外の様子だってこの目があれば簡単に見れるもん! でねぇー? その時、私お兄様を見てドキドキしちゃったんだぁー? ……お兄様は……どんな味がするんだろぉ〜なーって」

 

顔を赤くして指をくわえた彼女を見て僕は多少なりとも恐怖を覚えた。この子は僕を追ってミッドチルダに来たのだ。本来、この世界にワールド・イーターは入れない。それはこの世界に対ワールド・イーター用の結界魔法が施されているからだ。しかしこの子は反応がまだ小さいのかそれに引っかからなかったようだ。

 

「ママには止められたんだよ? でも私はお兄様好きになったから、食べてみたいの! ダメ? 」

 

「い、いや……ダメって言うか…………」

「おい! 早く渡せ!!! 」

 

「お兄様……」

「え? いや……僕に助けを求められても……っ!? あがっ!? 」

 

「お兄様!? 」

 

僕は一人の管理局員にお腹を殴られた。痛みで膝をつく僕。その隙にその子は連れて行かれる。どうやら子供のワールド・イーターには抵抗する力はないようでもがいているだけだ。そして僕の事を何度も呼び、助けを求めてる。

 

「哀れな奴だ! 一人じゃ何も出来ないんだからな? 自分を守る事も。誰かの助けになる事も。お前みたいな奴が何故管理局に入ったんだ? 魔法も使えない癖によ? 本当『落ちこぼれ』だよな? フフ、『落ちこぼれ』! 」

 

「……なせ…………」

「あ? 」

 

「その子を離せと言ったんだ!!! 」

 

「何? こいつはワールド・イーターだぞ? 放っておけば沢山の死者が出る。今のうちに駆逐しなければ取り返しがつかない! 」

 

「確かに……うぐっ……その子はワールド・イーターかもしれないよ? でもまだ誰も襲ってない。誰にも迷惑をかけてないじゃないか? だからこのまま母親の所に帰してあげて? 」

「無理だ。今すぐ殺す! でもそうだな? 『落ちこぼれ』のお前が俺らを倒せたら考えなくもないぜ?まぁ〜できるわけないけどよ? 」

 

先輩はそう言って笑っている。狂っている。どうしてだ。何もしていない。しかもワールド・イーターには意思があったのだ。なのに何故無理をして始末する必要がある? ワールド・イーターは先輩の仇だがその子じゃない。こんな考えは間違っているかもしれない。でも……僕は救いたい。命を。助けられる物を……そう思った時だった。ワールド・イーターの女の子が何かを僕に投げた。

 

「お兄様! 」

 

「え!? おっと、と……これって……デバイス? 」

《モード・ジン! 》

 

彼女から渡されたデバイスは僕がキャッチすると形が変わりまるで刀のような物になった。そして僕はそれを構えて戦う意思を見せる。しかし僕は先輩にまるで歯が立たなかった。沢山の殴られ、蹴られ、終いには先輩のデバイスで思いっきりド突かれ、僕は地面に横たわる。

 

「うっ……あ…………」

 

「いい様だな? 所詮お前じゃ何も守れない。フフフ……『落ちこぼれ』! ははは!! 」

 

先輩が僕を『落ちこぼれ』と笑い。それに合わせて他の先輩方も笑う。しかしその瞬間、僕の中で何かがキレた。プツンと音を立てるように。今まで溜めて溢れずに留めていた水が溢れて止まらない。そんな感覚だ。色は黒。そして憎しみでも悔しさでもない何かが僕を支配する。これはどんな感情なのか……僕は知らない。この感覚を僕は知らない。感じた事がない。でも分かる。これは……殺意だ、自然に笑いも湧き上がってくる。

 

「フフフ……あふふふ……ひはははは……あはははは………あっはははははは!!! 」

 

「何だ? おかしくなったのか? 瀀? 今更立ち上がっても無駄だ! お前は……俺には勝てない!!! 」

 

先輩のソード型のデバイスが僕へと迫る。しかし僕はそれを躱す為に動こうとはしなかった。分かったからだ。僕には力はない。誰かを負かす力なんてない。守る力もない。攻撃を躱すことも、防ぐ事も出来ない。なら躱さなければいい。全てを受け入れ、これを受ければいい。そう思い、僕はこれを受けた。

 

「うぐっ!? ……へへ……はは! 」

「なっ!? ぐあぁっ!? ばか……な…………」

 

「『落ちこぼれ』? そうだ、僕は『落ちこぼれだ』! でもそれが何? 誰が強い? 弱い? 魔法が使える? 使えない? 関係ない……もし関係あるならどうして『落ちこぼれ』の僕の前に倒れている? 人を見下しているからそうやって這いつくばるんだ。因果応報。どうして攻撃が当たったからって勝った気なんだ? 刃が肉に食い込む手応え、それを感じたからってどうして勝った気でいる? 簡単だ、お前が僕を見下しているからだ。人間は格下の……見下している相手と戦う時、攻撃が当たっただけで勝った気でいるみたいだ。だからそこに隙が生じる。そこをつけばいい。強さなんて、才能なんていらない。たったそれだけでお前みたいな奴らは這いつくばる。『落ちこぼれ』の僕なんかの前に! 」

 

僕の中で黒くて濃い何かが絶えず膨らむ。もうダメだった。完全に制御の外。いや、僕が抱いていた前の考え方が全て壊れた。誰かを傷つける。それを今は何とも思わない。戦わないで何が救える? 傷つけずに誰が救える? 僕は悟った。争わずに済む戦いなんてない。話し合いで解決できる戦いなんてありはしない。誰かを守るには誰かを傷つけるしかない。その為に、相手の事を心配するのは馬鹿のする事だ。敵は殺せばいい。僕は弱くていい。強くなくていい。誰にも勝てなくていい。でも……守る為に殺すのは誰にも負けない。だから……だから僕は……いや……『俺』は…………

 

「『落ちこぼれ』でいい…………」

 

 




次回もよろしくお願いします。
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