自分に対して敬語を使うようなキャラじゃないと思うけど、原作では後輩だから敬語しか使わないせいで、一人称の地の文が敬語じゃないと違和感バリバリというこの書き手殺し……。
誰だよいろはす主人公で書こう思った奴!考えなし過ぎるだろ!(ブーメラン)
……すいません。グチってしまいました。
今回はオマケがあるよ!本編と全く関係ないパラレルワールドのオマケが!しかもまた他原作からの設定引用ものだよ!
ではではどうぞー。
四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
全くもって授業に集中していなかったわたしではあったが、この瞬間に一気に覚醒したような気がする。
なぜならそう! 昼休み突入だー!
先生が退出した後、わたしはカバンごと持って教室を出ることに。流石に教室内でお弁当箱を二つ持っているところなど、見られたら堪ったものじゃないので。……まぁ、先輩の教室で既にやらかしてしまっているので、無駄な配慮かもしれないですけどねー。
向かう先は職員室。そこで生徒会室の鍵を借りて、そのまま目的地へ直行する予定である。
先輩を待たせるわけにもいかないので、走らない程度の早歩きで進む。自分で言うのもなんだが、足取りは超軽い。本当は走り出したいくらいの気持ちなんだから。
先輩に会える。
ただそれだけが、それだけなのに、楽しみで楽しみで仕方がない。
高校に入学してから……ううん。きっと、知らぬ間に愛想を振りまくようになっていた頃からも、こんなにも楽しい想いに浸ったことはなかった気がする。今のわたしのような人を、リアルに充実していると言うのかもしれない。
でも、ここで終わる気なんてゼロです。わたしの人生を潤す最後のピースは間違いなく先輩です。
なのでわたしの勝手な都合ですが、先輩にはわたしの恋人になってもらいます! 大丈夫! これから両想いになればいいだけなんです! わたしがこんなにも乙女思考になったのは先輩のせいなんですから、責任をとってもらうのは当然なんです!
……だから、絶対に諦めません。
たとえ
どのくらい好きかというと、ゾッとするほど綺麗に彩られた花を吐けるほどに!
……………おかしいですね。一気に乙女力がマイナスを振り切りました。今のはカットしましょう。現在進行形で胃がぐるぐるしてるのなんて気にしない。気にしないったら気にしない! 今はこれからの先輩攻略をどうするかだけが大事なんです。
そのための第一歩として、これから毎日の昼休みはお弁当を一緒に食べます! 気分はルンルン、ホップ・ステップ・ジャンプ♪
「失礼しまーす。生徒会室の鍵を借りに来ましたー」
この作業ももう慣れたもの。と言っても、生徒会長になってからまだ一カ月程しか経っていないのですが。
「おぉ、一色か」
「平塚先生、こんにちはですー」
「あぁ、昼休みから使うのか?」
「はい。クリスマスイベントの後処理がまだ残っていてですねー」
「そうか。頑張っているようで何よりだ」
うんうんと、まるで我が子の成長を見守る親のような優しげな表情を浮かべる平塚先生。……きっと、そう思ってしまったことを素直に言ったら、この人は崩れ落ちてしまうのでしょう。だからここはスルーの方向で。
「では、わたしはこれで」
「あ、ちょっと待ってくれ。一色、一つだけいいだろうか?」
「なんですか?」
……うーん、このタイミングで面倒ごとはご遠慮願いたいのですが。でも、平塚先生の頼みなら致し方ないですかね。先生には、その、大恩があるといっても過言ではないので。生徒会長になる際のいざこざとか、特に先輩との出会いとかですね。
「あぁ、別に時間は取らせないさ。一つ聞きたいことがあるだけだ」
「……一体なんですか?」
なんだろう? 特にやらかした記憶もないし、心当たりがない。先生の様子からも、どうやら厄介ごとではないようですし。
なんて思っていたわたしだったが、平塚先生からの質問は想定外のさらに外側からの質問で。
「最近の学校は楽しいか?」
……この先生は本当に、すごい先生です。今この瞬間に心の底から尊敬しました。こんな生徒想いの先生、本当にいたんですね。
わたしは、普段から周りに振りまいている『偽物』の笑顔じゃなくて、きっと『本物』の笑顔を浮かべているんだろう。
「はい! とっても楽しいです!」
「……そうか。今の君は二ヶ月程前と違って、一段と輝いて見えるよ。時間を取らせて悪かった。行っていいぞ」
「はい。失礼します」
最後の学校は楽しい。嘘でもなんでもない。
めぐり先輩や平塚先生という、とても頼りになる方々。
ようやく打ち解けてきた生徒会のみんな。
奉仕部の三人は言わずもがな。
ちょっと怖いですけど、根はすごく優しい雪ノ下先輩。
いつでもどんな時でも明るく元気な結衣先輩。
そして、わたしに初めての『本物』の気持ちを教えてくれたあの先輩。
こんな人たちに囲まれて、楽しくないわけない。決して、嘘なんかじゃない。
……でも、わたしは。
わたしは奉仕部のあの三人の絆には敵わない。それに、あの陽だまりのような暖かな空間が、わたしのせいで壊れてしまうかもしれない。
「……でも。それでも」
……やめです! こんなネガティブな思考は! 一度考えてしまうと、せっかく踏み出した一歩が止まってしまう。決意が鈍ってしまう。
ここはあれです。先輩の言葉を借りましょう。こんなこと言ったかは詳しくは覚えてませんが、きっと先輩なら言ってるはずです。
わたしは悪くない、社会が悪い! ついでに言えば花吐き病が悪い! こっちは人生掛かってるんです!
大体、雪ノ下先輩と結衣先輩の二人も、のんびりしてるのがいけないんです。雪ノ下先輩はまだちょっと好意なのかよく分かりませんが、結衣先輩は奥手なのがいけないんです。
昔から言うじゃないですか、恋愛は早い者勝ちだって。……え? 言わない? 知ったこっちゃありません!
「とりあえず生徒会室に行って、どう約束を取り付けるかを考えなきゃですね」
先輩はわたしのことなんか、眼中にないのかもしれない。先輩が見てるのは、雪ノ下先輩と結衣先輩の二人だけなのかもしれない。先輩の物語の中には、わたしは入ってないのかもしれない。
……なら、その中に入ってみせます。
「絶対諦めないって、決めたんです」
……先輩は一つ、分かってないことがあります。
女の子は、ナメてかかると大怪我じゃ済まないんですよ?
*
生徒会室に到着して数分後、ガラリとドアが開かれた。
「……来たぞ」
「おっそーいです、先輩。女の子を待たせるなんて非常識ですよ?」
「……見事に由比ヶ浜に捕まってな。これでも早く来た方だ」
「言い訳無用です! 今度わたしのお願いをなんでも一つ聞いてもらいます」
「理不尽過ぎるだろ……」
……このお願い、絶対大事に使おう。
わたしの中で、すでにお願いが成立してることは先輩の知る由ではなさそうですが、今はひとまず置いておいて。
持参した二つのお弁当箱をカバンから取り出す。可愛らしさが意識された、ザ・女の子のようなお弁当箱がわたし。それより少し大きめで青を基調とした、わざわざこのためだけに買ったのが先輩専用のお弁当箱。
「まぁ、いいじゃないですか。こんな可愛い後輩の手作りお弁当が食べられるんですから」
「……本当だったんだな、それ」
「まさか疑ってたんですか?」
「あぁ、……8割くらい」
「ほとんど信じてないじゃないですか……」
どうしてこう、先輩は疑心暗鬼な性格なんですかねー。それとも、わたしは先輩の2割程度しか信用を得ていないと? ……これは由々しき問題ですね。
「ではもしかして、もうお昼持ってたりしますか?」
「いいや、一応買ってこなかった」
「……良かったです」
これで先輩にお弁当を食べてもらえます。
……………ハッ⁉︎ 今のわたし、完璧に素になってました⁉︎ うぅ〜、なんか無性に恥ずかしいです。
咳払いして気を取り直しましょう。
「コホン。それでは、先輩のはこれです!」
「……いいのか? 本当に?」
「当たり前じゃないですか。先輩のためだけに作ったんですから」
「……そうか。ありがとな」
ちょっと赤面しながらぶっきらぼうにそう答える先輩。
……やばいですわたし。重症ですわたし。今の先輩を、可愛いと思ってしまいました。なるほど、これが乙女フィルターですか……末恐ろしいですね。恋は盲目なんて全く信じていなかったですが、これは考えを改めなければいけないようです。
空いている席に着いた先輩は、おっかなびっくりといった様子でお弁当を開ける。……一体何が入っていると思っているのでしょう。どんだけ信用ないんですか、わたし。泣きますよ?
「……おぉ!」
「先輩? その驚きはどういう意味ですか?」
「いや。まともだな、と」
「なんですかその感想はー。これでもわたし、料理上手なんですからね!」
「いや、なんだ、悪い。前に木炭みたいなクッキーと、ごりばりするスライムみたいな和風ハンバーグを作った奴がいてな。手作りにはちょっとしたトラウマがあったんだ」
「……もしかして、結衣先輩ですか?」
「……………………」
「どうやら、ビンゴのようですね……」
結衣先輩……。
出来ないだろうとはなんとなく思っていましたが、まさかそこまでとは……。残念過ぎます。
「まぁ、食べてみて下さい! 出汁巻き卵は先輩に合わせて、砂糖多めなんですよ?」
「マジか。では、頂きます」
あむっと口に運ぶ先輩。
それをガン見するわたし。
よく噛んで食べた先輩は、これまた驚いたように目を見張っていた。
「……美味い。普通に美味い。てか超俺好み」
「ホントですか⁉︎」
「あぁ、うん、マジ美味いわ」
「それは良かったですー♪」
その後もとても美味しそうに食べてくれる先輩。そんな先輩からわたしは目が離せません。こんな些細なことで幸せを感じるなんて、わたしはホントに重症のようです。
「……そんなに見られると食いにくいんだが」
「あっ! す、すいません。先輩があまりに美味しそうに食べてくれるのが、その、嬉しくて……」
「そ、そうか。……いや、でもホントに美味いぞ?」
「ぁ、ありがとう、ございますぅ……」
……って、何言ってるんですかわたしはぁああああああああ!!? いくら何でも今のはやばいです! どんだけ素直に気持ちを吐露しちゃってるんですかってレベルです! ああああああああ恥ずかしい!
こうなったらやけ食いです。自分のお弁当ですが。
「てか一色。教室まで来るのは勘弁してくれ」
「だってわたし、先輩の連絡先知らないじゃないですかー。だから、直接会うしかなかったんです」
「……それだったらほれ。今度からはメールで頼む」
「ちょっ……!」
投げ渡される先輩のスマホ。えっ? わたしが登録するんですか? まぁ、連絡先が手に入るなら万々歳ですが。まさかこんなに簡単に手に入るとは。
ついでに色々チェックもしてしまいましょう。こんな機会滅多にありませんし。えーと、結衣先輩に戸塚先輩、材なんとかに平塚先生。あれ? 雪ノ下先輩のはないんですね。ちょっと意外です。それより、わたしの目当ては別にあります。
「……あった」
小町。
これがきっと、先輩の妹さんの名前でしょう。メールもそれなりに来ているから間違いないはず。……できれば、この妹さんと仲良くなりたい。先輩はシスコンっぽいから、是非とも味方に付けたい。
「先輩。この小町ちゃん? が先輩の妹さんの名前ですか?」
「そうだが……」
「今度会わせて下さいよー。先輩の妹さんに、わたしすごく興味があります!」
「絶対にイヤだ」
「えぇー、いいじゃないですかー」
「とにかくイヤだ」
思ったよりガードが堅いですね……。少し攻め方を変えましょうか。
「先輩言ってたじゃないですか。来年度、俺の妹が入学するんだって。生徒会長であるわたしと今のうちに知り合っておくのは、妹さんにも得だと思いますよ?」
「……それを言われるとな」
「それに、妹さんのためにも良い学校にするって約束もあります! なので、妹さんと会う資格が、わたしにはあると思うんです!」
「うっ……」
どうですか、この完璧な論破は。完膚なきまでに先輩を追い詰めましたよ。
「……それじゃあ、今度機会があったらな」
「ダメです。どうせ先輩のことだから、なんだかんだ言って逃げるじゃないですか。今すぐ連絡して下さい」
「……………はぁ。分かった、貸せ」
「ありがとうございます先輩!」
勝った勝った勝ちました!
渋々とメールを打っている先輩。あとは妹さんの許可が下りるかどうか、ここはもう神頼みです。
「言っとくが、小町が嫌だって言ったら会わせないからな」
「当然です。ささ、今は残りのお弁当を食べちゃいましょう」
再び箸を手に食べ進める。
妹さんとの約束を取り付けられるかもというのはある意味で収穫でしたが、本命はこれからです。今日の目的はまだ完遂してません。
「それで先輩! もう一つお願いがあるのですが……」
「これも言っとくが、生徒会の手伝いはこれで最後だぞ。クリスマスイベントの資料で必要だって言うから、今日は仕方なく来たんだ」
「……そうですか」
……これは、あまり頻繁には頼めなさそうですね。本当にいざという時だけならいけそうです。先輩は結構甘いところがあるので。といっても、仕事自体はもう特に問題なく出来るはずなので大丈夫。ただこれで、お願いの難易度が上がった。
こっちも作戦変更ですね。いけるかどうかかなり怪しいですが。
「まさかそのお願いってのは、俺に手伝いさせることだったのか?」
「いえ、違いますよ。まぁ、手伝ってくれるのなら手伝ってほしいですが」
「じゃあ何だ?」
「実はわたしー、もっと料理が上手くなりたいんですー」
「は……?」
「話しは最後まで聞いて下さい。それでですね、やっぱりそのためには日頃から作ることが一番だと思うんですよー」
「まぁ、そうだろうな」
「そこで先輩にお願いです! わたしの料理の味見役になってくれませんか?」
「……はぁ?」
意味が分からないという顔をしている先輩。わたしからすると、そこまで警戒心を露わにする先輩の方が意味不明なんですが……。
「そんなの葉山に頼めよ」
……あぁ、そういうことですか。これはまた面倒くさいですね。この誤解を解くのに時間が掛かりそうで厄介です。
はぁ……。つい一月ほど前の自分をビンタしたい。なんであんなことを先輩に言ってしまったんでしょう。妙なプライドが仇になりました。
「こんなの葉山先輩に頼んだら、わたし益々女子に嫌われますよー。今は生徒会長になったことで音沙汰ありませんが、これ以上敵を増やすのはナンセンスです」
「だからってなんで俺なんだよ?」
「先輩にはこんなことしてもわたしは困らないですし。それにこれは先輩にもメリットがあるはずですよ?」
「……例えば?」
……どうやら食い付いてくれたんですかね? ここでの選択は大事です。慎重に慎重に。
「まず、食費が浮きます。お弁当を持ってなかったということは、先輩は購買派の人ですよね?」
「そうだな」
「ということはつまりですよ? わたしがお弁当を作って来れば、先輩は毎日の食費が浮いてお小遣い稼ぎになります!」
「……まぁ、そうだな」
「更にです! どうせぼっちぼっちよく言う先輩は、お昼休みも一人で食べているんじゃないですか?」
「……否定できねぇな」
「しかも先輩はリア充? というか騒がしいのが嫌いそうなので、教室から抜け出して一人寂しく食べられるところを確保しているはずです」
「……何故知っているのかしら? あなたもしかしてストーカー?」
「キモいです。こんなの今までの先輩見てれば分かります。話しを続けますよ。考えられるのは三つです。まぁ、さすがに先輩でもトイレはないと思うので実質二つです。空き教室か校舎の外。……合ってますか?」
「あぁ、びっくりするほど合ってる」
「そして、空き教室を使うのなら奉仕部に行けばいい。ですが先輩は、さっきの反応から一人で食べていることが判明しました! よって、先輩は外で食べているはずです!」
「……何なのお前? 完璧に俺の思考回路なんですけど? 実はお前もぼっちだったの?」
「……あんな成り行きで生徒会長に立候補されたんです。察してほしいです」
「……すまん」
「謝らないで下さいよ!」
………同学年で同姓の仲良い友達は書記ちゃんとあと数人くらい。片手の指で足りる。ぶっちゃけ友好関係だけなら先輩と同レベルですよーだ。
「わたしの推理はまだ終わりじゃないです! 今は一月、つまりは冬です。こんな時期に外で食べるなんて、寒くて死んでしまいます。そこで、わたしの提案が生きてくるわけです」
「……つまり、俺は小遣い稼ぎに加えて、ここで昼飯を食べられる。ということか?」
「その通りです! わたしとしても味見役がいてくれるのなら大歓迎です! どうですか? 悪くないお話しだと思いますが……」
先輩はリスクリターンで物事を考える人のはずです。ならこの提案は魅力あるものに映っているでしょう。
先輩唯一の懸念としてはきっと、わたしがいることくらい。……もしここで断られたらわたし、死ねる気がします。
どうかわたしを殺さないで下さい、先輩!
「……本当にいいのか? お前の話しだと、毎日弁当作ることになっているが」
「はい。先ほども言った通り、大歓迎です」
先輩と毎日お昼休み過ごせるのなら、わたしにとってはご褒美ですよ。
「……でも、さすがに悪いしなぁ」
「そんなことありません! むしろ断られる方がショックです!」
「……………分かった。その提案に乗る」
「あ、ありがとうございます!」
やったやったやったぁーッ!
作戦成功です! これから毎日学校で会える! 毎日先輩のお昼ご飯が作れる!
やばい嬉しい。楽しみ。気持ち悪い。ホントに嬉しい。吐きそう。辛い。気持ち悪い。嬉しいはずなのにホントやばい。吐きそう吐きそう吐きそう。ホントに気持ち悪い。花を吐きそう。
……………なんですかこれ。最終的に吐きそうって気持ちが上回るってじゃないですか、……ホント最悪です。しかも食事時にこれは拷問。
キーンコーン、カーンコーン。
「「……あっ」」
予鈴が鳴り響く。
どうやら長話ししすぎたようです。結局書類もやってませんし。お弁当は一応先輩は完食してました。
「では先輩、書類は放課後にお願いします♪」
放課後にも会う約束ができて、わたしとしては大満足です。
オマケは、ニコニコで手描きMAD見て書いてみたくなったやつです。本編とは全く関係のない話しですが、類似点ならあるかも。特にキスのあたり。
どういう過程でそうなったとか、細かな設定は考えていないので悪しからずー。キャラぶれっぶれです。
では、興味のある方だけでもどうぞー。
※大きな矛盾が見つかったので修正しました。
オマケ:ぼっちな8幡と魔女
「ヒッキー助けて!」
「……んだよ、急に」
放課後。もう習慣と化してしまった奉仕部へ向かう合間に、焦った様子の由比ヶ浜に声を掛けられた。
正直なところ、こういうときのコイツとは全くもって関わり合いになりたくないのだが。……だってぇ、絶対に碌でもないことが飛び出してくるんだも〜ん。
「とにかく今すぐあたしとキスして!」
……ほら見たことか。
「……とりあえずその話しは部室でしよう。あと、あんま大声で言うな」
「いやー、なんかもー日常的になってる感じだから」
「……お前のその発言、正真正銘のビッチだな」
「ビッチ言うなし‼︎」
キスすることが日常的? はっ、何言ってんだが。このビッチが! と、少し前の俺なら断言出来たのだが、残念ながら今の俺はそれを否定出来ない。
いや、俺の場合日常的すらも超えてるかもしれない。平均すると最低でも1日1回はキスしてるレベル。しかも複数の女子と。……やべぇ、これ口に出したら殺されても文句言えねぇな。
『ヒキタニくんの浮気者!』
『……海老名さん。ナチュラルに俺の思考を読まないで下さい』
『えぇー、面白いのにー』
『俺は面白くないんだよ……』
突如頭に響いてきた声に、同じくテレパシーで返す。俺はいつから厨二病のような能力に目覚めたのだろうか。
『私とキス、した時からだよ?』
『……だから止めてくれ』
『それなのにヒキタニくん、私以外とも毎日毎日毎日毎日チュッチュチュッチュして……。あはぁ、こんなところにカッターが』
『お願いですから勘弁して下さい!』
やばい、命の危機を感じた。
『ふふ、冗談だよ。暇潰しも終わったし、私は帰るねー』
『あぁ、じゃあな』
最近は最早恒例となっているこのやり取り。海老名さんが段々、ヤンデレ属性を手に入れつつあるのは気の所為なのだろうか。……今、とんでもないフラグを建てた気がする。
なんて自分の首を絞めるようなことを考えていたら、俺たちの後方からトラウマがやって来た。
「せ〜んぱいっ♪」
「……うっ、今度は一色かよ」
「せんぱい。わたしのことはいろはって呼んで下さい!」
「で、何の用だ一色」
「むぅ〜」
頬を一杯に膨らませる一色。相変わらずあざとい。
由比ヶ浜以上に関わり合いになりたくない一色だが、コイツには俺のお兄ちゃんスキルがパッシブで発動してしまうのが難点。
「いろはちゃんやっはろー!」
「やっはろーです結衣先輩!」
「……それで、何の用なんだよ?」
「何言ってるですか先輩。わたしはただ、先輩に会いたかっただけですよ!」
「はいはい、あざといあざとい」
「むぅ〜。信じてないですね。……それじゃあ今、その証拠をお見せします!」
一色は俺の顔をがっしりと押さえ込み、一気に顔を近づける。
漂ってくる女子特有の甘い香りにほんの少しドキマギする。最初はもっと思うことがあったのだが、今ではこの程度になっている。慣れとはげに恐ろしいものなのである。
残り数cmで互いの唇同士が触れ合う。
「わぁー⁉︎ ストップストップ‼︎」
そのタイミングで、由比ヶ浜が一色を羽交い締めにした。……よくやった、由比ヶ浜。褒めてつかわす。
「なんですか結衣先輩! せっかくのキスシーンだったのに!」
「今いろはちゃんにヒッキーとキスされると、あたしが困るの!」
「……なんか訳ありですか?」
「うん。だからお願い。また今度にして」
「……しょうがないですね」
渋々納得した様子の一色。……あのぉ〜、俺の許可は取らないんですか〜? キスされるのはこっちなんですよー。
「しょうがないじゃねぇよ。というより、お前とのキスはゴメンだ」
「なんでですか! こんな可愛い後輩とキス出来るんですよ? 普通は泣いて喜んでもいいくらいなんですよ!」
「それには確かに一理なくもないが、それ以上にデメリットが大きい。お前のトラウマを見るのはもう無理、俺が死ぬ」
どうしてコイツは自分のトラウマを俺に見せようとするんですかねー。ただでさえ自分の黒歴史で一杯なのに、他人のまで背負いたくない。
しかも、一色のは俺個人の見解だが、かなりキツイ。朝起きたとき大抵全身汗びっしょりとかは、もう勘弁してほしいのだ。
「先輩」
そんな俺の気持ちを察したのか知らないが、一色は俺と目を合わせる。
そこには、先ほどまでの快活な後輩の姿はなく、優しい微笑みを浮かべた一人の女の子の姿があった。
「先輩には、わたしの全部を知って欲しいんです」
……思わず見惚れてしまうくらいに、魅力的な表情だった。俺も由比ヶ浜も、その場で固まってしまった。それ程までに一色の表情は大人びて見えて息を呑んだ。
その硬直が解かれたのはすぐの事。
「……あなたたちは部室の前で、一体何をやっているのかしら?」
絶対零度の鋭利な視線で此方を射抜く、氷の女王様の介入によってだった。
*
氷の女王様こと雪ノ下のお怒りをどうにか鎮め、俺は由比ヶ浜に向き直る。
「それで、さっきの話しはなんだ?」
「そう! お願いヒッキー! 今すぐあたしとキスして!」
……あれれー、おかしいぞぉー。
さっき鎮めた筈の雪ノ下から、吹雪が飛んでくるよー。寒い寒い超寒い。ついでに一色からの視線も痛い。
「……一体何があったのかしら、由比ヶ浜さん?」
「その、実は今日、現国の小テストがあって……」
「お前、あれだけ平塚先生が脅してたのに、まさか落ちたのか?」
「うっ! それを言われると……」
凡そ一ヶ月ほど前から告知されていたというのに。「不合格だった者には問答無用で追試」とまで言っていたほどに重要なはずだが流石ガハマさん。よもや失敗するとは。
「それで、その、出来れば、ヒッキーの、というかゆきのんの力を借りたいというか……」
「由比ヶ浜さん。それはあなたのためにならないわ」
「それは、そうなんだけど……。ホント、忘れてて……」
「……はぁ、どうしようもないな」
「本当に酷いですね、結衣先輩」
「ぐはっ⁉︎」
崩れ落ちた由比ヶ浜。完璧に自業自得なのでフォローのしようもないが、可哀想と思ってしまう俺もいるわけで。
「まぁ、俺は構わないぞ。てか俺今は、川崎の未来予知の能力をコピーしてるはずだから。こっちの方が良いだろ」
ピシッと、空気に亀裂が走った。
……あれ? 俺なんかダメなこと言った?
「比企谷くん。なぜ今あなたは川崎さんの能力を持っているのかしら? 確か私の記憶だと、二日ほど前に、その……私と、キスをしたはずよ?」
若干顔を赤らめながらそう言う雪ノ下。おい、やめろ。こっちまで恥ずかしくなるだろうが。
「そうですよ先輩! その後私とすぐキスしたじゃないですか!」
更に話しをややこしくする一色。
今の一色の発言を聞いて、雪ノ下から放たれる冷気が益々厳しくなる。……何この凍てつく波動。誰かヒーター入れて!
「お前とはキスしたんじゃなく、無理やりしてきたんだろうが」
「でもキスしたことに変わりないじゃないですか! いつの間に別の人とキスしたんですか⁉︎」
問い詰めるように此方に詰め寄る一色。他の二人にも睨みつけられていた。
こっわ! 三人とも怖すぎるだろ……。
蛇に睨まれた蛙の気持ちがよく分かる。俺にヒキガエルとか渾名を付けた奴は、あながち間違ってなかったのかもしれない。絶対に許さないリストには登録済みだが。
「……その後に川崎と会ってな。もう一色のトラウマを見たくないって事情を説明したら、……まぁ、そんな感じだ」
しどろもどろに説明する。嘘は付いてない、全て本当のことだ。
雪ノ下と由比ヶ浜は仕方なく納得した様子だった。一色の能力を知っている身としては、納得せざる終えないのだろう。一色はまだ文句たらたらだったが。
「あの、それじゃヒッキー。お願いしていい?」
「……あぁ、分かった」
距離を詰めてくる由比ヶ浜。寄り添うほどに近づいた後、由比ヶ浜は俺の隣で瞳を閉じた。
ギャラリーがいるのを気にしないコイツすげぇな。俺なんて雪ノ下と一色から撃ち込まれる鉛が辛過ぎるんだけど。さっきからSAN値削られまくってんだけど。
一色と同様に甘い香りがする。瞳を閉じたことによって目立つ長いまつげは微かに震え、頬は朱に染まっていた。
やがて、息もかかるほど互いの顔が接近し。
「……んっ」
触れ合うくらいのキスをした。
終えた後の気不味い感じをなんとかして振り切る。
頭の中に、ある映像が浮かんできた。恐らくというよりこれが由比ヶ浜視点だろう。だって机に向かってテスト受けてるのに、下の方が双丘に遮られて見えないんだもん。……ガハマさんマジでビックだぜ。入れ替わったとき異常に重かったもん、誰かさんと違っ…さ、殺気が!
雑念を振りほどいて前に向き直ると、上機嫌な由比ヶ浜がいる。照れくさそうにはにかむ由比ヶ浜は、さも嬉しそうにクスッと笑った。
「……ヒッキーって、キスするとき未だに唇が震えてるね。もう慣れてると思ったのに」
……くッッッそ恥ずかしいぜチクショウッ!!!
誰だよ慣れとはげに恐ろしいものなのであるとかカッコ付けた奴! 全然慣れてねぇし! 緊張しまくってるし! しかもそれを相手に指摘されるとか何この拷問! いっそ殺して!
「……うるせぇな。そういうことは言うな。ちょっと待ってろ、今追試の問題を書き写すから速攻で答え覚えろ」
「ありがとうヒッキー!」
この作業は中々に難しいので、雑念を振りほどくのには都合が良かった。もし家にいたら即座に悶えるほどの恥ずかしさだ。今はコイツらのまえだから必死に持ち堪えなければ。
「わたしとキスするときもキンチョーしてますよね先輩。すごく可愛いです!」
コイツ殴りてぇ……。悪気があるのかないのかが分からないから、本当に
「あ、あら。私とするときなんかは顔を真っ赤にしてるわよ。だから私としてる時の方がもっと緊張しているはずだわ」
訳わかんないところで雪ノ下の負けじ魂に火が付いたようだ。てか、あなたも今顔真っ赤ですからね? 一色がなんとも言えない顔してますからね?
俺も顔に熱が集まってくるのを感じる。死ぬ。恥ずか死ぬ。
「……ほら、出来たぞ由比ヶ浜。お前はさっさと勉強してろ」
「ありがとう、ヒッキー!」
「一色は生徒会あるんだろ? もう帰れ」
「えぇー、いいじゃないですか!」
「よくねぇだろぉが」
「先輩のケチー!」
拗ねた一色はぷいっと顔を逸らす。その仕草に最愛の妹である小町を思い出した。あいつもよくこんな感じになる。
そういうときは決まって頭を撫でてやるとすぐご機嫌になるので、反射的に一色の頭に手が伸びてしまった。
触れられた一色は最初は驚いた様子だったが、髪を梳くように撫でてやると気持ち良さそうに身体をよじる。
「んっ……。気持ち良いです、先輩」
「……そうか。また今度一緒に買い物行ってやるから」
「……今はそれで許してあげましょう」
ちょっと甘やかしすぎてる自覚もあるのだが、……一色には少しでも楽しい思い出を作ってやりたい。俺といるだけでいいのなら、お安い御用である。
「では、わたしはこれで。先輩! また明日!」
「あたしも行かないと! うぅー、時間足りないよー」
「由比ヶ浜は自業自得だ。一色はまたな」
見事に俺だけにしか別れの挨拶をしなかったな。どうなっても知らないぞ。
一色去って行った後はいつも通りの奉仕部で、依頼人も訪れることなくただただ静かに時が過ぎていく。
夕暮れ時。今では解散の合図となった、雪ノ下の本を畳む音が聞こえた。
俺もそれに倣い帰り支度を済ませ、特にやることがないので、そのまま帰ることにする。
「それじゃあ、俺も帰るわ」
「少し待ちなさい、比企谷くん」
と思ったのだが、雪ノ下からの制止がかかった。
何事かと思いそちらを伺うと、頬を赤らめそっぽを向きつつも此方をチラチラと見る雪ノ下。……え? なんですかそのキャラは? そこはかとなく怖いですよ。
「比企谷くん。あなたは奉仕部の、ひいては部長である私の所有物です。そんなあなたが私以外の能力を所持し続けるなんて、おかしいでしょう?」
「……はいはい、分かりました」
雪ノ下のこの言い分は、まぁ、聞き飽きていた。前に一度、「雪ノ下って独占欲強いな、俺のこと好きなの?」とからかったら、10分にも及ぶ早口言葉で罵倒された。もう二度とこのネタではからかわないことを決めた瞬間だった。
「んじゃ、さっさとやっちまおうぜ」
「……………はぁ。……比企谷くんのバカ」
小声で罵倒しながらも、此方に一歩一歩歩み寄ってくる。元が白くきめ細やかなその肌は、紅く火照っているのがよく目立つ。こういう雪ノ下を見ると、自然に熱が顔に集まるのは仕方のないことだろう。
「比企谷くんのその目を見ながらはいくら私でも無理よ。なので目を瞑ってちょうだい」
「……お前ホント酷いな」
「あら? 私は事実を言ったまでよ」
クスクスと愉しそうに笑う。今までの付き合いから、雪ノ下は人を罵倒しているときの表情が一番輝いていると思う。うん、間違いない。
両頬に、雪ノ下の柔らかい手の平が触れる。ヒヤリと冷たいその手は、発熱した顔の熱を奪ってくれる。
オレンジ色に煌めく夕焼けの光が窓から差し込み、二人の影が重なるのを沈みゆく太陽だけが見届けていた。
…………………………………。
………………………………………………………………。
…………………………………………………………………………………………。
…………………あれ?
魔女の能力の使い方が間違っているような……? てかほぼ使ってない。
原作の方の登場人物はなぜあぁも簡単にキスしまくるのでしょう……。小説化してもドタバタコメディでしか表現できない。ラブ要素混ぜるだけでこんなにも面倒くさいとは……。
コピー ヒッキー
能力強奪
入れ替え ゆきのん
虜
思念 海老名さん
未来 サキサキ
悪夢 いろはす
透明
7人目
こんな感じー。
ガハマさんは伊藤ポジションです。