やはりこの部活は間違っていない。   作:コリキの森

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この話は原作3巻、アニメでは一期の6話が終わったころから始まります。


やはり俺が働くことは間違っている。

 労働とは自分の売り対価に賃金を得る行為のことを言う。おおよその社会人は自分を売り、賃金を得て、そのお金で生活をしているが、なにも労働とは社会人だけがするものではない。必要に駆られれば学生だってアルバイトという労働を行い賃金を得る。

 

 そして、いつも働くことを忌避している俺だってアルバイトを行う。そしてその度思うのだ。自分を売るということは生半可なことではなく、自分が大切な人間は易々と自分を売るということを行うべきではないと。

 

 うるさく鳴り響く目覚ましを止めて、ベッドから体を起こす。日差しはもう高い所から降り注いでおり、朝ということを視覚から実感できた。まだ残る眠気を無視してリビングへと向かうと小町が朝食を準備していた。

 

「お兄ちゃんおはよう」

「ああ、おはようさん」

 

 妹から朝の挨拶を貰い眠気が消えていく。しかし妹がいるだけで眠気が飛んでいくとか妹マジすごいな。全国の朝が苦手な人間は妹を用意するといい。目覚ましなんかよりもずっと効果的であること間違いない。それにかわいい、いやかわいいというのは小町だからだったな。今の八幡的にポイント高ーい。

 そんなことを寝ぼけた頭で考えていると小町が怒り気味で声をかけてきた。

 

「お兄ちゃん顔洗ってないでしょう。ただでさえ腐った顔に磨きがかかってるよ」

「そういや忘れてたな。あと洗ってないのに磨きがかかるとかどういうことだよ。矛盾してねぇかそれ。何?なぞなぞ?」

 

 それに腐ってるのって目だけじゃなかった?なんで顔全体までに広がってるの?顔が腐ってるとか普通に傷つくから止めてくんない?

 

「朝っぱらからこんなの見せられる小町の気持ちにもなってよね」

「悪かったな。昨日バイトしたせいか朝のリズムが崩れてんだよ」

 

 妹のお小言に突っかからず軽く流すと小町が心配そうに声をかけてきた。

 

「お兄ちゃんバイトした次の日は大抵そうだよね。やっぱなんかやらかしたの?」

「ちげーよ。単純に疲れただけだ」

「そうなの?なんか昨日帰ってくる時間も中途半端だったし、帰ってきてからも元気なかったし…」

「お前の思い過ごしだろ。それに親父とかもいつも帰ってきたら元気ないだろ?働いた後はみんなそうなんだよ」

 

 それならいいけど、と小町はそこで会話を終え、準備した朝食をテーブルに運び食べ始める。俺も目の前に置かれた朝食を自然に、何事も無かったように食べ始めた。

 しかし、なんでこいつはこんなに鋭いかね。お兄ちゃんのこと好きすぎなんじゃないの?

 本当は昨日のバイトではトラブルがあったのだ。

 

 

 

 バイトの内容は街中でティッシュを配るというありふれた内容で、何度かやったこともありミスを起こすことないだろうと思ったものだ。だが俺の予想に反しミスは起こった、というか起こされた。

 順調にティッシュの数を減らしていた俺は下から視線を感じた。そこを見ると5歳くらいの女の子が俺の手にあるティッシュを物欲しそうな顔で見ていた。無視してもよかったが、配る相手の年代を特に指定されていたわけでもなかったのでその女の子に渡そうとした時だ。横から手が伸び俺と女の子の間に30代くらいの女性が入ってきて鬼気迫る顔でこう言った。

 

 

「うちの娘に何するんですか!!」

 

 

 その後は周りの人がやってきて見世物にされ・・・ってこれ俺なんも悪くないじゃん。

 ようするにちょっとヒステリックな母親が勘違いしたせいで少し騒ぎになったということだ。周りにいた別のバイトがその母親を宥めたおかげで俺はひとまず助かった。だがその後、俺は帰るように言われた。幸い、雇い主は向こうの勘違いだと理解して怒りはせずむしろ俺に対して同情しており、その日の支払う日給を渡してくれた。

ただ騒ぎになった以上あのまま続けるのはまずいということで、俺のバイトはそこで終了となった。俺の他にもバイトはいたので1人帰しても大丈夫だと判断したのだろう。

 帰る最中は「早めに帰れてラッキーだな」と思っていたが、家に帰ると怒りと空しさが湧きあがってきた。

 せっかくの休日にやる気を出して働いてみたらこの仕打ち。これはもう神が俺に働くなと言っているに違いない等と考えながら悶々と不満を溜めながらその日を過ごした。

 

 

 

 そんな嫌なこともあり今日の俺は朝の調子がいつもと違うのだろうと思っていると、小町が時計をみて声をあげた。

 

「やばい急がないと時間がない!」

「もうそんな時間か。んじゃさっさと準備して行きますかね」

「顔洗うの忘れないでよ!」

 

 そういうと小町は食器を片づけにはいった。よし、今日からまた1週間頑張るぞい。

 

 

 

 本日の最後の授業を終えるチャイムが鳴り、その後先生が教室に入ってきていくつかの連絡事項を告げ出て行った。

 頑張るぞいといったが今日は何事も無く普通に終わった。授業も先週会ったテストの返却と解説で終わったくらいだ。これから部活か。正直行きたくないけど、鉄拳制裁を喰らう方がもっと嫌だな。

 俺みたいな人間は理路整然と考えを述べられるよりも暴力に弱い。完全無欠のロジックなんてそうそうなく、だいたいは綻びがある。そういったものなら理屈、屁理屈を並べ立てて論破することができるかもしれないが、暴力はそう立ち向かえない。てか平塚先生に反撃するとか無理だ。もし、したとしても更に殴られそうだ。そして俺は謝りながら反省文を書かされている。なんつー嫌なヴィジョンだ。せめて妄想の中ではもうちょいポジティブでもいいだろ。

 まあ最近は何も依頼はきていないしな。そうそう立て続けに問題が起こることもないだろ。

 

 

 

 そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

 事が起きたのは部室に入る夕日の光が少なくなり部活も終わりかと考えていた時だった。

 

「邪魔するぞ」

「平塚先生いつも言っていますが部屋に入る時は―」

「そうだったな。すまん。あと依頼があるんだが今大丈夫か?」

 

 一気にまくしたてる平塚先生に対し雪ノ下はそれ以上なにかを言うのを諦め、ため息をついた。わかるよ、その気持ち。あの人ほんと人の話に聞かないよね。ファービーの方が話聞いてくれるんじゃないかってくらい聞かないよね。

 ちなみに俺は昔、友達がいない時にファービーを買ってもらい一人、部屋で話しかけていたら小町にドン引きされた。というかドン引きを通り越して同情されていた。人が会話の楽しみを知って喜んでいた時に、あの泣きそうな表情。全く失礼な妹だ。これ以降ファービーと話すことを止め、いつの間にかファービーは消えていた。モルスァ。

 

 そんなことを考えながら平塚先生に視線を向けると、いつもの表情と違うことに気付いた。いつもはこうもっと余裕や自信がある態度をしているが、今日は少し疲れたというか困った表情をしている。もしかして、これめんどくさい依頼とかじゃねぇだろうな。

 そのことに気付いてるかは知らないが、雪ノ下が先生に待ったをかけた。

 

「今からですか?もう本日の部活を終えようと思っていたところなのですが…」

「いやちょっと急ぐ必要がある案件でな」

「まぁまぁ、ゆきのん。なんか先生困ってるみたいだし話だけでも聞いてみようよ」

「そう、ね。話を聞くだけなら大丈夫かしら」

 

 とそこで由比ヶ浜の援護もあり、奉仕部は話聞く方向となった。

 くそっ、もう帰れると思ったのになんで延長するんだ。無能な同僚のせいで、終業時間に残業を言い渡される社畜の気分だ。あれほんと止めてくれませんかね。普通に残業するより心労が大きいんだけど。

 無能な同僚である由比ヶ浜に恨めし気な視線を向けていると、平塚先生から声がかかった。

 

「おい、比企谷。君はちゃんと聞いておくんだ」

 

 余計なことをしていると平塚先生の注意がかかった。

 くそ視線で恨みを送ることを止めひたすら邪念を由比ヶ浜に送ることにした。そして、一呼吸おいて平塚先生は依頼の内容を話し始める。

 

「今回の依頼というのは、文芸部の廃部を阻止してほしいというものだ」

「文芸部?」

 

 俺が素っ頓狂な声を出すと、平塚先生は話を続けた。

 

「そう、今年度から私が顧問を担当することになった文芸部だ。

 あまり知られていないが、この学校には文芸部が存在している。しかし今年度は新入部員が入らず今は1名しか部員がいない」

「文芸部なんてあったのか…」

「まぁ、毎年、新入生の勧誘をしていなかったらしいからな、それに大々的に活動もしていないから自分から知ろうとしない限り、知らなくても仕方は無い」

 

 

 そういえば俺が初めてこの部室に来た時も、ここを文芸部と勘違いしたこともあったな。あの時は本当に文芸部が存在しているか分からず答えたが存在はしていたのか。てか平塚先生、文芸部の顧問もやってんのかよ。もしかしてここと文芸部だけではなく他の所もやっているんじゃねぇのかこれ。

 

「あたし知ってるよ。文芸部があること」

「え?お前が?」

 

 まさかの由比ヶ浜が知っているだとっ…!こいつ全然本に興味ないような気がするんだけど意外だ。

 

「文芸部と言っても、宇宙人や未来人、超能力者を探し出したり、パンクバンドでライブやる部活のことじゃないぞ」

「あなたは何を言っているのかしら…」

「ちゃんと知ってるって!えっと…確か、本読んだり、書いたりする部活だよね」

 

 よかった。世界を大いに盛り上げる団体やロックン・ロールな第2文芸部と勘違いしてるかと思ったぜ。

 と由比ヶ浜に話しかけてミスったと気付く。俺は今こいつとの正しい距離を測り損ねている。一応、由比ヶ浜の誕生日パーティをしたあの日にリセットできたと思っていた。だが実際は元の距離がどのようなもだったかわからず近すぎたり遠すぎたりを繰り返している。

 そこで、平塚先生が意外そうに声をかける。

 

 

「知ってたのか由比ヶ浜。まさか何か噂で知ったとかか?」

「……」

「噂?いえ違います。私の友達が文芸部に入ってるて聞いたことがあったんで」

「そうか。ならきっとそいつが今回の依頼者だろう」

 

 由比ヶ浜の友達か。なら文芸部の存在を知っていても不思議ではないが、まだ疑問は残る。

 こいつはカースト上位に位置するやつだ。そんなリア充ともいえるやつに文芸部の知り合いがいることが気になる。文芸部と言ったら地味で根暗というイメージがあり、由比ヶ浜のような人種とは対極に位置するはずだ。

 一応どんなやつか聞いておくか。これは依頼の内容でもあるし聞いても問題無いだろ。

 

「なあ由比ヶ浜そいつはなんていうやつでどんなやつなんだ?」

「名前は岡本基樹っていってー、いい人だよ。みんなと仲良くしてたし!」

「それで?」

「え?それでって?」

「え?それだけ?」

 

 もっと情報が欲しいんだけど。それだけだとそいつのことは女の子と仲良くできるが付き合う対象として見られらない、悲しい童貞野郎といういらない情報しかわかんないだけど。しかしぼっちではないのか…文化部は大半がぼっちかコミュ症の巣窟かと思っていたがそいつは違うようだ。

 

「うーん、特にないかなー」

 

 以上岡本の情報でした。哀れ岡本。まあ今回の依頼を達成するのにあたって個人の性格や特性はそこまで関係ないかもな。逆にこれでとんでもなく癖があるやつだったら難儀するところだったがな。何木座とか何木座とか。

 

 

「それで先生、その依頼者はどこにいるのですか?部室の前で待っている気配もありませんし…」

「あっ、あぁ、ちょっと用事があって遅れて来るんだがな。さすがにもうそろそろ来るころだと思うが―」

 

 と先生が話している最中に教室にノックの音が響いた。依頼者が来たらしい。

 

「来たみたいだな。後の詳しいことは彼に聞いてくれ」

 

 簡単に解決できるといいんだけどな、どうやら先ほどからの平塚先生の態度を見るにそうはいかなそうだ。平塚先生が入るように促し、失礼しますと声がして扉がゆっくりと開かれる。

 第一印象は普通だった。身長は平均的より高め、顔立ちは目元が少し垂れており温厚さを感じられるがそのことが逆に弱々しい印象を与える、髪は染めてはおらず前髪は眉にかからないように横に流している。よくみると顔立ちは整っているが、目を引くような容姿をしているわけではない。いたってノーマル。THEモブという印象だ。だがその一般ピーポーはどこかで見た覚えがある顔だった。確か…

 

「彼らがさっき話した奉仕部の部員だ」

 

 平塚先生がその一般生徒Aに話しかける。

 夕日は西へと進み部室にはもう光が少なくなっていた。代わりに暗い影が部室を包み始める頃だ。さて部室が完全に暗くなる前に帰れるか、それはこの生徒にかかっていた。

 

 

 

 

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