やはりこの部活は間違っていない。   作:コリキの森

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やはり俺が奉仕部を頼ったことは間違っていない。

 蛇口から出る冷たい水を両手で掬い顔を念入りに洗う。暑さが増してきている時期だがそれでも水はひんやりしており顔が冷えていく。そのまま熱くなった頭に水を被せたい衝動に駆られたが、そこをぐっとこらえ面を上げる。鏡にはいつもの顔が写っている。いやいつもとは少し違っていて目元が赤い。それに気付くと冷めた顔に熱が戻ってくる。そしてまた顔を洗いそれを何度か繰り返すとようやく冷静になれた。

 ハンカチで濡れた顔を拭きながら先ほど部室で起きたことを思い返す。

 

「なんであんな事を言ってしまったんだろ…」

 

 絶賛後悔中の俺は情けない声を出しながら顔を拭いている。もう惨めすぎて笑えない…。

 

 

 

 事が起きたのは放課後だった。いつも通り学校に向かい、友達と話し、授業を受け、放課後に部室に向かい、本を読み、時間になったら帰宅する。ここまでは普通だった。やっと違和感を感じ無くなっていた、4月から今までのルーチンワークを行っていた。たまに放課後遊びに行ったりするが、概ね、このような流れで学校生活を過ごしていた。

 だが本を読み始めて1、2時間が経った頃、部室に人が来た。また誰か先生かなと思い、この部室に来た人を迎え入れると、その人は申し訳なさそうな顔で文芸部の廃部を言い渡した。あまりにも急だったので何かの間違いかと思ったがどうやら本当らしい。そこから色々説明をされたが、相手の言い方が所々棘のある言い方で少しずつストレスが溜まっていた。

 たしかに相手の言い分は正しくこの部室を明け渡し文芸部を廃部にすることが合理的のように思える説明であった。相手の言い方に苛立っていたのかもしれないし、部が無くなるという動揺で冷静ではなかったかもしれない。それでもまだ笑顔を保っていられた。しかし相手が俺の一番触れてほしくない所を突いてきた。重く鋭い言葉で。

 そこから先はもう思い出したくないぐらいの醜態を晒してしまった。最後の方とか余計なことまで言ってしまったな。

 俺が言葉を発するのを終えると平塚先生が優しい声で話しかけてきた。

 

「とりあえず、廃部の件については一旦私が預かる。すまないが今週の金曜まで時間をくれないか?それと岡本はこの後奉仕部に来てくれ。この部屋の真上にある教室が奉仕部だ」

 

 そう告げると平塚先生はすぐに部室を出て行った。

 俺は居た堪れなくなり自分の荷物をひったくるように担ぎ、部室を出てそのままトイレへと駆け込んだ。

 

 

 

 思い出しても相手は一切悪くない。だからこそ俺のしょうもなさが際立つ。言われたくないこと言われて怒るとか小学生みたいだ…

 洗面台前でウジウジしていて中々そこから動けない。先生は奉仕部?に来いと言っていたが行きたくないなあ。けど行かないと廃部になるしなあ。廃部になるのはさすがに避けたい。色々な理由は思いつくが、一番は感情の問題だ。色んな感情が混ざり合いうまく説明できないが文芸部が無くなるということが嫌だし許せない。せめて俺が卒業するまでは残しておきたい。だから行くべきだ。行かなくちゃならない。

 そんな風に自分を鼓舞しながら、ゆっくりと奉仕部に向けて歩き始める。もう外は暗くなり始めており、後20分もしないうちに夕日が落ちて夜になるだろう。奉仕部で何をするかはわからないが、今はとにかく動こう。

 

 

 

 奉仕部の部室と思われる場所から話し声が聞こえる。おそらく片方は平塚先生だろう。もう一人の声に聞き覚えはなかったが気にせず扉をノックする。入るように言われ重く感じる扉を開き、教室に入る。中には平塚先生と3人の男女がいた。おそらくこの3人が奉仕部の部員なんだろう。

 

「彼らがさっき話した奉仕部の部員だ」

 

 とりあえず気まずさを無視し平静を装って自己紹介をする。すこしでも気を抜いたらまたあの情けない顔になりそうだ。

 

「2-Bの岡本基樹。文芸部の部長をやっています。とりあえず先生にこいと言われてここに来たんだけど…」

「岡本。用事の方は大丈夫か?」

 

 用事?別に用事なんてありませんでしたが、と言おうとしたところで思う。もしかして先生は俺に気を使ってくれてるんじゃ……まあ、あんなとこ見たら誰だって心配するよね。でも数十分前の人の黒歴史穿り返すのは止めて下さい…

 とりあえずそれっぽく返事をしておこう。

 

「ええ、何ともありませんでした。今は大丈夫です」

 

 つい強がって今の状態と真逆のことを言ってしまった。それを聞いた平塚先生は困ったように笑って「そうか」と一言つぶやいた。

 とそこで横から冷たい声が投げかけられる。

 

「失礼ですが、平塚先生。時間もありませんし依頼のことついて話を進めたいのですが」

「おっと、そうだったな。岡本、文芸部の現状とこれからどうしたいかをこいつらに話してやってくれ」

 

 話を振られたので頭の中でどう言おうか考えながら、先ほど急に平塚先生に話しかけてきた女生徒を見る。この人ってあの雪ノ下さんか。先生と話しているときに視界の端に映っていたが、奉仕部の3人が誰かなんて確認する余裕はなかった。今から話す内容を頭でまとめながら改めて3人が座っている方向に視界を向ける。

 右手側には学年1、いや学校1の美少女と言われる雪ノ下雪乃さんが座っており、端正に整った顔をこちらに向けている。しかしその瞳には氷のような冷たさが宿っており、見られただけで萎縮してしまう。美人は眼力がスゴイというが、ここまでの美人だと眼力が強すぎて物理的に圧力をかけられてしまってるようだ。

 そしてのその横には雪ノ下さんとは別のベクトルの美少女である由比ヶ浜が座っている。彼女とは去年同じクラスでたまに話す程度の友達だった。ただ現状はわからない。むこうが友達と思ってないかもしれないからだ。由比ヶ浜は今年になって三浦優美子&葉山隼人グループにはいったみたいだ。何かと目立つグループなのでそのグループ入ったものも当然目立つ。前話した感じ由比ヶ浜はきついタイプではなかったので、目立つグループに入ったからって急に今までの友達を見下したりしないだろう。多分。去年、相模たちとつるんでたこともあって無いとは言いきれないのが怖い。

 とそこで由比ヶ浜と目が合い声をかけてきた。

 

「どしたの?もとっち。はやく話さないと夜になっちゃうよ~」

「あ、ごめん。なんか、複雑でどこから話せばいいか迷ってんだよね」

「んー…じゃーもう最初から話せばいいんじゃない?どこから話すか迷ってるならそっちの方がいいっしょ!!」

「あーたしかにそれもそうだね。よし、そうするよ」

 

 声をかけられてわかったが由比ヶ浜は変わってないみたい。というか想像してた方向とは別の方向に変わったみたいだ。どこが?と言われると難しいがなんかゆとりを持ったというか……まあ考えても仕方ないしとりあえずアドバイス通り最初から話すことにするか。

 担いでいたバッグを床に下ろしまずは今の状況についての説明を始めることにした。

 

「まず最初に文芸部の廃部が決定したことは聞いた?」

「それはもう聞いたわ」

「で、その廃部を覆すためには部員が必要なんだよねー、あと2人ほど」

「なるほど、奉仕部に求められていることは部員の確保を手伝うということでいいのかしら?」

 

 雪ノ下さんが淡々と話を進めるが、え?そうなの?と、ここで一つ知らないことがあることに気付いた。ここに来る前には頭の中にあったのに流れで聞くのを忘れてしまっていた。

 

「手伝ってくれるなら嬉しいんだけど、そういえば奉仕部って何するところなの?ボランティア部?」

 

 平塚先生は何も説明しなかったが普通に考えればおかしい。なんで廃部することを阻止するのに他の部活の力を借りるのか?というか何故、先生は奉仕部に頼れば廃部を阻止出来ると思ったのかが不思議だ。

 

「ああ、平塚先生は説明していなかったのね。奉仕部というのは厳密にいうとボランティア部とは違うわ。奉仕部は問題解決の手助けをするだけよ。主体はあなたでそれをサポートするのが奉仕部、というところかしら。ちなみに部長は私がやっているわ」

 

 そういうことか。だから先生はここに来いと言ったんだ。俺だけでやると先生たちが提示した条件を満たすのは難しいからね。

 俺が納得していると雪ノ下さんが話を進めようとするが待ったがかかる。

 

「すまないが今回の依頼である廃部を阻止するためには2つの条件と期限がある。まず最初に岡本が言ったようにあと2名部員を確保しなくてはならない。そしてその2名が文芸部員として正しい活動すること。これが条件だ。そして期限が今週の金曜までとなっている」

「文芸部員として正しい活動するとは具体的にはどういったことでしょうか?」

「名前だけ貸した幽霊部員は認められないということだ。あとは部室にはくるが、

 そこで雑談するだけの行為を部活動とは認められない。ざっとこんなものだな」

「これでも条件下げてもらったんだけどね…これ以上は駄目だってさ」

 

 先生たちが文芸部に来た時に話をして、いくつかの条件を満たしたら廃部は取り消し存続を認めると言うことを告げた。だが内容が酷かった。もう潰す気満々の内容で初っ端からストレスがヤバかった。最初は部員5名確保、幽霊部員は認めない、文芸部としての活動を行う、毎月部誌の発行、大会の参加といった具合だ。しかもそれを今週の金曜日までに。実質の廃部宣言だ。なんとか条件を緩めてもらったが、それでも厳しいことには変わりがない。特に2つ目の条件がネックだ。これさえなければ友達に名前だけ貸りて人数を確保できたのにそれを封じられた。

 

「うへぇー、それ難しいんじゃない?先生も厳しいすぎると思うんですけど…」

 

 由比ヶ浜の抗議の視線を受け、平塚先生はこちらを向き苦笑いしながら答える

 

「いまさら愚痴をいっても仕方ないさ。この条件で決定してしまったんだ。それにこれは、今まで文芸部が溜めたツケのようなものだ」

「確かに部員確保を怠ってきたのは俺ら文芸部が悪いんですけどねー」

「条件についてはこれ以上どうしようもないみたいね。それではこの条件を満たす

 部員の確保だけれどとりあえず、これからは…無理ね。明日から校門前で勧誘と言ったところかしら」

「そうだね。ビラを作って、校門前で勧誘する。そこで帰宅部か文化部の人たちを狙う。

 体育会系の部活の人は誘っても練習が忙しくて幽霊部員にしかならなそうだしね」

「期限が金曜というとことを考えるとそれだけでは弱いかしらね。校門前勧誘とは別に各教室にビラを配布しましょう」

「ゆきのん、そんなのことできるの?」

「平塚先生、各クラスの担任に許可を取りビラの配布を認めてもらうことは出来るでしょうか?」

 

 そう雪ノ下さんが問うと平塚先生は難しい顔をした。

 

「校門前勧誘は私が許可を出せば大丈夫だと思うが、さすがに各クラスのこととなると私の管轄外だ」

「じゃあさ、あたしたちが先生たちにお願いしたらいいんじゃない!?ビラ配ってもいいですかって!?」

「それならいい……と思ったけど先生たちに一人一人聞いて回るの大変だね。休みの時間に済めばいいけど放課後まで時間がかかって、下手したらそれだけで一日終わるかもしれないし。それに勧誘して2人はいるかもしれないから、クラスのビラ配りは勧誘が上手くいかなかったときの次の方法とかでいいんじゃない?」

「そうね…ではひとまず校門前の勧誘から始めましょうか。その前にビラを作るところからかしら。それも時間を見るに明日から始めた方がよさそうね」

「よし。話はまとまったな。今日はもう遅いから勧誘は明日から始めなさい」

 

 外を見るともう夕日は沈みかけていて遠くに赤い色が見えるがすぐ近くの夜空を見ると紺色の空が広がっていた。たしかに今からビラを作っていると学校が閉まる時間となってしまう。今日はもうやれることはないかな。

 しかし奉仕部に頼んでよかった。この様子だと手を抜くことはなさそうだ。奉仕部に来る前は友達に勧誘を手伝ってもらおうかと思ったが、帰宅部の友達はそんなにおらず、体育会系の友達ばかりだ。それにもし友達に頼んで適当にやられたら……その点でも奉仕部に手伝ってもらうことはありがたい。

 明日のこと考えていると雪ノ下さんから声がかかった

 

「そういえば確認するのを忘れていたわ。あなたは文芸部の廃部を阻止したいのよね?」

「う、うん、そうだけど何で?」

 

 そんなものはいまさら確認せずともこれまでの会話でわかるものではないだろうか。しかしその雰囲気は冗談を許すものではなく、瞳には真剣な色が宿っていた。

 何でそんなことを聞くか気になっていると雪ノ下さんは凍るような声音で言った

 

「その言葉に嘘偽りがないなら構わないわ。それと去年の文芸部のことについてだけど―」

「去年がどうかした?」

「いえ、これは依頼が達成できてからにしましょう」

「ゆきのん、どうかしたの?」

「気にしないでいいわ。ただの杞憂よ」

「キ、キュー?なにそれ?果物?」

 

 それっきり雪ノ下さんは俺に何も言うことはなく由比ヶ浜と話しながら帰りの支度を始めた。去年の文芸部について知っている?だとしたら雪ノ下さんは手伝いそうに思えないが彼女は何も語らない。胸の中に不安が生まれたが下手に聞き出すとややこしいことになりそうだな。

 

「んじゃ、帰るわ」

 

 とここで聞いたことない男の声が響く。扉の方を見ると奉仕部唯一の男子が帰ろうとしていた。

 そういえば彼一言も喋ってなかったね。寝ているわけではなさそうだったが興味があるようにしていたわけでもなかった。暇じゃなかったのかな。彼は俺と目が合うとそそくさと帰っていった。あれ…どっかで…てか昨日見たような…

 記憶を辿っていると先生から声をかけられた

 

「岡本。部室のカギは持っているか?どうせなら私が職員室まで持っていこう。」

 

 まあ明日、会ったその時彼に聞いてみるか。これから平塚先生は職員室に戻るみたいだ。それじゃお願いしようかと思った時に気付いた。カギ閉めてなかった……あの時は急いで部室を出たこともありカギの存在をすっかり忘れていた。

 

「すみません。扉のカギ閉め忘れてました。カギは後で職員室に持っていきます」

「いや、それなら私もついていこう。どうせ部室はこの下だからな。大した距離じゃない」

 

 えー、廃部の件について話しているときはあまり気にならなかったが、二人きりになるとほんと気まずいから勘弁してくれません?そんなことを言えるはずもなく、雪ノ下さんと由比ヶ浜に明日についてのことを話し別れの挨拶を済ませ、先生と外に出た。

 

 

 

 そして先生と二人っきりの時間である。平塚先生は特に気にした様子もなく歩いている。俺の上履きの音と先生のヒールの音だけが暗い廊下に響く。

 無言特有の気まずさを感じ、さっき気になって男子生徒について聞いてみることにした。

 

「奉仕部の男子のことなんですけど、いつもあんな感じですか?」

「ああ、比企谷のことか?そういえばあいつ今日はやけに静かだったな…

 いつもは余計な事や下らないことを言っているのに調子が悪かったのか?」

 

 比企谷か、聞いたことないしもしかしたら他人の空似かな。

 俺がその比企谷について考えを巡らせていると、ふと平塚先生が歩みを止めた。

 

「君も、今日は調子が悪かったな。いや調子が悪いというかあれは…」

「文芸部部室でのことですか?……あれは自分でもひどかったと思います。失礼なことを言ってしまいすみませんでした。」

 

 平塚先生が部室までついて来るといった時にはうっすら気づいていた。きっと今日の取り乱したことを言われるのだろうと。そして謝罪をしてないことに気づきそのまま頭を下げる。しかし先生の考えと俺の考えは違った。

 

「いやそのことではなく奉仕部でのことだ」

「いつも通りじゃなかったですか?」

「いや違うように感じたよ」

 

 奉仕部のことで何か失敗をした覚えはない。せいぜい最初の方に表情を取り繕うことができたどうかくらいだ。しかしそのことでもないみたいだ。

 俺は心の中で白旗をあげ素直に聞くことにした。

 

「いったいどのあたりがいつもと違ったんですか?思い当るところがないんですけど?」

「文芸部に対する熱意というものかな。以前と比べると今日の君は文芸部それほど固執していないように思えるよ」

「はっ…?え、そんな冷めて見えました?」

「そうだな、私はそんな風に見えたよ。まぁ去年、君と話したことはあまり無かったがね」

 

 言われてみればそうだ。俺と平塚先生はそんなに接点がない。接点と言える接点は去年一回だけ文芸部関連で注意を受けただけだ。その注意でさえ30分もしないで終わった。一応、今年度から文芸部の顧問が変わり平塚先生となったが、一ヶ月に一度の頻度で顔を見に来るくらいであまり部活で会うことはなかった。

 俺が納得がいってない顔をしていると先生は

 

「ま、自分のことは自分では気づきにくいものだ。人から言われて初めて気づくこともあるし人を見て気づくこともある」

 

 と告げまた歩き始めた。言いたいことは終えたようだ。

 そんなこと言われたところで俺は全く実感がない。今も文芸部を潰したくないという気持ちは強くある。それが嘘だとも思えない。昔と今何が違うと言われれば一つだけ思いつくことがあるが、それは仕方がないことだ。俺どう頑張ろうが元に戻ることでもない。先生の言いたいことがよくわからないまま歩き続け文芸部に到着する。中の戸締りを確認し、カギをかけ先生に渡す。

 

「はい。戸締りは大丈夫です」

「そうか。では私は職員室に戻ることにする」

 

 別れの挨拶をして帰ろうとしたところで先生に声をかけられた。

 

「そういえば明日からの勧誘は私は手伝えないからな。そのつもりでいろよ」

「いえ、今日だけでもだいぶ助かりました。先生が奉仕部を紹介してくれたおかげで何とかなりそうな気がします。まぁ、まだ安心できるわけではないんですけどね」

「この時期の勧誘という厳しいものがあるが奉仕部の連中は頼りになる。

 もしかしたら私も君も思いもよらない形でこの問題を解決することになるかもしれないぞ」

 

 先生は笑いながらそう言って去っていった。俺は返事の代わりに微笑み頷きながら下駄箱に向けて歩き出す。

 先ほどの先生の言葉が妙に引っかかる。自分のことは自分では気づきにくい。文芸部は去年とは変わってしまった。なら俺はどうなのだろうか?自分では相変わらず変わってないと思うがそれは本当か。変わったというか強くなった思いはあるが、それは去年も時折感じていたことだ。しかしそのことを聞ける相手はもういない。先生の言うことが本当だとすれば、一人でいる人間は自分がどう変わったかなんか知る由もないのだろう。

それは悲しいことなのだろうか。それとも変わった自分を知らないでいられるので幸福なことと言えるのだろうか。

 暗くなってしまった学校を出て、そのようなことを考えながら一人、家路についた。

 

 

 

 

 

 

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