やはりこの部活は間違っていない。   作:コリキの森

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やはり俺がビラを配ることは間違っている。

「文芸部にはいりませんかー」

 

 気怠げな声を出しながら下校中の生徒にビラを渡そうと近づいていく。その生徒はこっちの存在に気付いたが俺の顔を見ると、フイっと顔をそらしそのまま離れていった。せめて「ごめんなさい」や「いりません」の一言があればまだいいのだが無視されると堪えるものがある。それにこの前のティッシュ配りのことを思い出してさらにげんなりするんだけど。

 

「ヒッキーちゃんとやってるー?全然減ってないじゃん!」

 

 俺の持っているビラがあまり減ってないことに気付いたのか由比ヶ浜が声をかけてくる。そんなのこと言ったってしょうがないじゃないか、と俺が心の中でかなりえづきの物まねをしながらツッコミを入れる。

 実際仕方のないことなのだ。俺たちは今、文芸部を助けるために勧誘活動をしている。だがビラを順調に減らしていっているのは雪ノ下と由比ヶ浜の二人である。こいつらは顔が良い。二人ともタイプの違う容姿だがどちらともレベルでいえばかなり高い所に位置するのだ。そんな奴らが校門前で何かしていたら自然と人目を集める。そして俺らが配ろうとする人は当然少なくなり、こっちに来る人は勧誘なんかに興味がない人や人が集まってるのを避けるやつになる。そういったやつらにビラを配っても仕方がない。

 

「ちゃんとやってるんだがな。なかなか貰ってくれない」

「えぇー!?おかしくない?あたしもう配り終わったよ?」

「それはあれだ、お前だからだよ。お前と俺は違う」

「どういうこと?」

「まあ、とにかく違うんだよ。ほら、あっちいってろ」

 

 ここ最近の活動で気づいたことが2つある。1つは、奉仕部の活動であれば由比ヶ浜との距離を適切な状態に保つことできる、ということだ。仕事の一環と割り切ればいらん考えが邪魔することもなくごく自然に話せることが分かった。

 そして2つ目は、こいつはやっぱ男子に持てるということだ。こいつがビラを配っていた相手は半分以上が男子だった。しかも由比ヶ浜が配りに行くのではなく男子の方からやって来る。まあ、これは男子の悲しい性というものだ。かわいい女子がなんかやっている自然と目がそっちを向いてしまうものだし、あまつさえその女子が何か配っていると俺も貰えるかもと期待してしまうものだ。ソースは中学1年の俺。

 バレンタインにクラスの女子が男子にチョコを配って周っていた。俺も貰えるのではないかと近づいて行ったがその女子は「え、何?チョコ?ごめんこれ義理チョコだから」といって渡してくれなかった。義理チョコですら駄目なのかよ…いや別に俺に義理があるわけでもないんですけどね。

 俺が過去を思い返し来年のバレンタインは中止になるように願っていると、由比ヶ浜は雪ノ下の方を見ていた。

 

「ゆきのんも終わりそうだね」

 

 そう言われ俺も雪ノ下のほうに目を向ける。あいつも顔が整っている女子であるから、必然、男子が寄ってくる。しかし由比ヶ浜と比べて近寄りがたい雰囲気があるのかそこまで多くの男子が寄ってくるわけではない。あの調子じゃ配り終えるまでもう少しかかりそうだな。

 

「それにしても、誰も入ってくんないね」

「そりゃな。文芸文なんて興味がなければ入りたいなんて思わんだろ」

「最初の方はみんな色々聞いてくれたんだけど、なんでだろう…」

 

 今日は木曜日でありビラ配りはこれが2日目だ。岡本が相談した次の日、ビラ製作を開始したわけだがそれが難航した。本来のビラ製作であれば簡単だったのが今回は条件が色々ある。その条件を満たす中身を考えるために試行錯誤して、気づいたらだいぶ時間が経っていた。そのため本格的に勧誘を始めるのは水曜日となった。

 雪ノ下の提案で昼休みに図書室の前で勧誘を試みたが結果は出なかった。おそらく彼らは図書室で本を読むことに満足しており、わざわざ今の場所から動くことに意義を見いだせないのだろう。

 そして今は校門前で勧誘を行っている。だがこちらも似たようなものだ。

最初は由比ヶ浜が言うように興味をもったやつが話を聞いていたが、結局部活に入ることはなかった。最初に話を聞いていたやつらは由比ヶ浜と雪ノ下目当てだったのだろう。しかし彼女らが文芸部ではないと知るとそのまま興味を失い去っていく。今日もビラも貰うやつらの半分は彼女たちと会話の切っ掛けが欲しい連中で、あと半分は昨日ビラを貰っておらず純粋に何も知らない奴らだろう。

 ビラを配り終えたらしい雪ノ下がこっちにやってくる。表情を見るになかなか苦労したらしい。

 

「少し疲れたわ…。全く無駄に話しかけてくる輩が多くて嫌になるわね」

「おつかれっ!ゆきのん!んでどうだった?」

「駄目ね。入ってくれそうな人はいなかったわ」

「あたしも駄目だったなー。ビラ貰ってくれる人も『考えとくねー』ていうだけだったし…」

 

 どうやら結果は芳しくないようだ。少し離れた所でビラを配っている岡本を見るとそいつは半分ほどビラ配り終えていた。しかしやつの表情から察するに成果は良くないみたいだ。苦い笑顔をしてビラを貰っていた生徒が離れていく。

 このままでは部員の確保は絶望的だ。この条件でも二人くらいなら頑張れば何とかなるんじゃないかと思っていたが甘かったようだ。

 でも何もしないままでは意味がないので、ビラ配りを再開しようとすると雪ノ下から声がかかる

 

「あら、あなた全然配ってないのね。もしかして手を抜いていたのかしら」

「ちげーよ。なかなか人がこっちに来ない上に、貰ってくれないんだよ」

「周りの人が無意識的に避けているのかしら」

「なんで人払いの結界みたいな扱いされなくちゃいけないわけ」

「もしかしたら意識的に避けている可能性もあるわね」

「そっちの方が傷つくんですけど。何?もしかして意識しすぎて避けてしまうとかいう女子特有のあれか?」

 

 聞いた話だと女の子は好きになった相手を避けてしまうというものがあるらしい。そうすると相手に意識されるとか何とか。ということは逆説的に考え、人から避けらている俺はかなりモテていることになるのではないか?

 ぼっちモテ説が俺の中で生まれようしていると雪ノ下がその考えを否定してきた。

 

「いえ、あなたはまず認識されることがなかったわね」

「なんで、俺の存在をそう無いことにしたがるかねお前は…」

「それはそうとあなたの方は勧誘はどうなっているの?」

 

 俺の存在が曖昧にされたまま雪ノ下は話も元に戻してきた。しかし勧誘の成否も曖昧であり目途は立っていない。

 

「いやこっちも全然だ。正直このままでは依頼達成は無理だな。

 ビラを貰った生徒が考え直して入ってくれることもあるかもしれないが…」

「こうなったら、この前言ったもう一つの手段を使うしかなさそうね。それも実を結ぶかどうか怪しいのだけれど…」

「まぁそれをやると全校生徒が文芸部のことを知るが、現状を見るにそうなったところで効果はないかもな」

 

 前に話した全クラスにビラを配る方法だ。やらないよりましだがやった所でどうなるかは微妙だ。多くの生徒は部活に入ってるか、部活に興味がない生徒に分けられる。そして興味のない生徒は今さら入ろうとしないだろう。

 せめて4月中だったら新1年生が入ってくれることが期待できたがもう7月だ。大体の新入生はゴールデンウィークが始まる前か終わったあたりまでには体験入部を終え本入部を済ませている。

 ここで気になっていたが聞けなかったことを思い出した。

 

「そういえば、お前らは何で文芸部が潰れるか知っているか?」

「何言ってんのヒッキー?部員が足りないからでしょ。だから今こうやって勧誘しているわけだし」

「それは廃部阻止の条件だ。それに平塚先生や岡本は部員が足りないから潰れるなんて一言も言ってないぞ」

 

 そう。彼らは部員が足りないから潰れることになったとは一言も言っていないのだ。普通は人数不足で潰れることもあるだろうが、それなら4月あたりにでも潰れてないとおかしい。それがずっと引っかかっていた。

 

「そうだっけ?でもなんでそんなこと聞くの?」

「まあ気になった、ということ以外に理由はないな。雪ノ下は何か聞いているか?」

「いえ、詳しいことはわからないわ。ただ、だいたいの当たりは付くけれど…」

「てかさ、もとっちに聞いた方がはやくない!?あたし聞いて来るよ!!」

 

 そういうと由比ヶ浜はビラを配っている岡本の方へと言ってしまった。

 とそこで岡本の方を見たまま雪ノ下が話しかけてきた。

 

「私も気になっていたことがあるわ。あなたは何故、彼を避けているの?」

「…あいつを?別に避けているつもりはないが」

「だってあなた彼と話そうとしてないじゃない。彼との間で何かあったの?」

「それは話す機会が無かったからだよ。ビラ製作とかもお前たちがどんどん進めていって

 俺に意見なんて求めなかったしな。話しかけられたら普通に話すさ」

「そう。それはつまり人と話すのが苦手で自分から話しかけることができなかったということね。今まで誰かと話す機会が無かったのだから仕方ないわ。ごめんなさいあなたのコミュニケーション能力の低さを見誤って勘違いをしていたわ」

「相変わらず謝る理由が斜め方向にぶっとんでんな。お前は皮肉を言わないと謝れないのかよ…」

 

 そういって雪ノ下と不毛な会話を続ける。しかし気付かれていたとはな。こいつの言うとおり俺は岡本と話すのを避けていた。しかしそれはあいつが嫌いだとかそういった感情からではない。あいつのことは好きでも嫌いでもない。ただすこし触れられたくない事情があり、あまり関わりたくないのだ。もしかしたらこれは俺が気にしているだけで向こうは何も思っちゃいないし、むしろ覚えて無いかもしれない。ただ藪蛇をつついて痛い目にあいたくないだけだ。

 そう俺が心に誓っていると由比ヶ浜が戻ってきた。何故か岡本を引き連れて。

 

「どうせならみんなで聞いた方がいいと思って連れてきたよ~」

「文芸部がなんで廃部になるかが気になったんだよね?」

「うんうん。ヒッキーが気になるんだって!!」

「ヒッキーって、比企谷君のことだよね。確かに言ってなかったけど何で気になったの?」

 

 由比ヶ浜ァア!!俺が話しかけないと決意を決めている時にとんでもない気遣いを回してんじゃねぇ!!

その由比ヶ浜はこっちの気持ちを微塵も理解していないどころか、むしろいいことしたとでも言いたげな表情をしていた。まあこのことは気付くのが無理だからあまり怒るに怒れないのだが。さて、さっき雪ノ下にああいった手前さすがに話すしかないだろ。

 俺は出来るだけいつもの調子で話しかける。

 

「ああ、いや、廃部になる時期が中途半端だから気になっただけだ。普通こういうことは3月の終わりとか4月の頭に決まることだろ」

「たしかにそれは気になるよね。えっと、簡単に言うと部屋が欲しいと言う人が現れたからこの時期になったんだよねぇ」

「部屋っていうと文芸部部室のことか?」

「うん。新入生が新しく部を作ることになったんだけど、部室の空がもうなくてさ。それで部室を持て余している文芸部を潰してそこを使うということになったんだよ」

「ずいぶん変な時期に部活作るんだな」

 

 普通こういうのは4月とかに作るもんじゃないのか。と俺が考えているとどうやら岡本はその辺の事情も知っていたようだ。

 

「なんかその新入生たちは、いろんな部活を回ってみたけどいい部活が無くて自分たちが作ることにしたんだって。 どっかの部活に本入部したけどそれも肌に合わずに最近辞めたらしいよ。平塚先生がそう言ってた」

「なるほど、そんな事情があったのか。それなら納得だ」

 

 おそらく体験入部の時期である4月には色々回ったのだろう。それなら時期が不自然なのも頷けるか。しかし部作るなんて随分アグレッシブなやつらだ。そのアグレッシブさがなければ俺たちが今苦労することはなかったんだけれどな。

 やっぱ積極的に動いたりするのは誰かに迷惑がかかるということだな。よし俺は慎ましく動くことはせず家にこもっていよう。つまり働くことはないということだ。

 

「でもそれなら文芸部潰さないでよくない?部室をあげちゃえばいいじゃん」

 

 由比ヶ浜が意外な解決方法を編み出してきた。言われてみればそうだな。部室が足りないことが今回の問題の原因ならそれさえどうにかすればいい。由比ヶ浜の言っていることは理にかなっていた。

 

「平塚先生たちはそれでも駄目だってさ。まあここ何年も部員の数が二人以上になることなかったし、いっそのことここで潰してしまおうという考えじゃないかな。一人だけだと部にする意味もあんまないし、あるだけでお金とかかるからね」

 

 だがそれは認められないようだ。行けると思ったんだがな。まあ一人だけなら個人の趣味でやるのと変わらず、部と存続しているなら学校は部費を支給しなくてはならない。それは学校が個人にお金を渡している構図と変わらない。なら別の所に渡した方が学校としてもいいだろう。

 

「聞けば聞くほど部員が必要だと感じるな。せめてこの条件さえなければいいんだが…」

 

 手に持っているビラに目を落とし、条件が書かれている所を再確認する。活動日にちゃんと参加し文芸部員として正しく活動するか…。

 俺がビラを見ながら考え込んでいると岡本が話しかてきた。

 

「なんか落丁とかあった?それとも内容が良くない所があったとか?」

「いや、そういうわけじゃない。ただ考え込んでいただけだ」

「そっか、ビラ作る時何も言わなかったからちょっと気になってたんだよね」

 

 それは単に気まずかったからだ。しかし話していて思う。こいつもしかして俺のことに気づいていないんじゃないか。いやここまで話していてあのことに何も触れないということは、気付いていないのではなく知らないのではないか。あのときも互いに話したわけではない。俺はこいつのことを見たことがあるがあっちがどうかなんてわからない。それに普通、気付いたら最初に話しかけてくるものだろう。ならきっとこの気まずさ俺が一方的に感じているものであり、向こうが知らないなら俺は避ける必要もないな。

 

「んじゃ、まだビラあるから配ってくるね。そっちもよろしく!」

 

 そういって岡本はビラ配りに戻っていった。そして俺は今一度ビラに目を通す。よろしくと言われたがおそらくこのままでは無理だろう。だから条件を見て考える。この条件を満たせる人材を集める方法を。

 

 

 ビラ配りをやりつつ思考を続けていると、ある可能性にたどり着いた。これならいけるのではないか。それにこのやり方が成功すれば文芸部が救われるだけじゃなく、俺にも旨みがある。雪ノ下や由比ヶ浜の苦労も少しはなくなる。全員が少し得をするという今の状況じゃ限りなくいい方法が。さっそくこの方法を実行するために俺は行動に出ることにした。とりあえずはあいつにメールだな。そしてその次は平塚先生に確認だ。俺は近くにいた由比ヶ浜に声をかけた。

 

「由比ヶ浜。すまんがちょっと平塚先生の所に行ってくる」

「ビラ配りはどうすんの?」

「すまんが代わりにやっといてくれ」

「えっ!?まさかサボる気じゃないよね!?」

「違う。ちょっとある方法を思いついたんだ。そのためには平塚先生に確認を取らなくちゃいけない」

「方法てなに?って、ちょっとヒッキー!まってよー!!」

 

 由比ヶ浜のビラを渡し平塚先生を探しに校舎へと向かう。まだ日が落ちるまで時間がある。出来れば今日中に片を付けたいものだ。

 先生を探すついでにメールを送ると、一分で返事が返ってくる。よし、あいつはまだ校舎にいるみたいだな。ならこのままメールで連絡するより奉仕部で話をした方がいいだろう。職員室に歩きながらメールを打っていると声をかけられた。

 

「おい、比企谷。携帯を操作しながら廊下を歩くな。危ないだろうが」

 

 運のいいことに探していた相手が向こうからやってきてくれた。俺は文章を打ち終わった携帯の送信ボタンを押し平塚先生の方を向いた。

 

「すみませんちょっと急いでいて。

 あと平塚先生、話があるのですが今は大丈夫ですか?」

「今か?ちょっとやることがあるので20分後だったら少し空いてるが…」

「それじゃ、20分後に奉仕部に来てもらってもいいですか?文芸部のことで聞きたいことがあるので」

「ん。わかった。それでは終わり次第そっちに向かうから待っておいてくれ」

 

 そこで平塚先生と別れる。よし、あとは校門前で勧誘してるやつを奉仕部に戻しそこで話をすれば終わりだ。実際上手くいくかはやってみなければわからないが、このままビラ配りを続けるよりかマシだろ。それにもうこれ以上ビラを配るのは飽きたしな。

 そう思いながら赤い夕陽を受けてオレンジ色に染まった外へと向かい歩き出した。

 

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