特に緊張するでもなく、俺は自然な体制を取る。まあ失敗しても痛手は無い。
それにビラ配りを続けるよりかはこっちの方が勝算はある。なら可能性が高い方を試すのは当然だ。
俺はとりあえず現状から話し始めることにした。つまりは部員を一人確保できたということを平塚先生に伝える。
「部員の勧誘ですが、一人はいることが決まりました。そこにいる材木座です」
「彼がか?なるほど、だからここにいるのか」
「ええ、こいつは本も読むし、なんなら執筆も行っています。この上なく条件を満たしていると思いますが」
「言われてみればそうだな。あとは活動をしっかり続けられるかだがそれは今後次第だ。今は判断できないな」
幽霊部員を認めないとのことだったが、それを判断するのは今ではないのか。まあすぐにそれを判断することは出来ないから仕方ないことだ。おそらくだが、活動を行っていなかったことが発覚した場合そこで注意か廃部となるとかそんなんだろ。そこばっかりは俺ではどうしようもない。岡本と材木座次第だな。
「あいや待たれい。我は聞きたいことがある。活動をしっかり行うとはどういうことだ八幡!そんなこと聞いておらぬ、後出しを行うとは卑怯なり。しっかりと話してもらおうか!?」
うわー、ここで喰いついちゃったよ。なんとかこいつが得することをアピールして言いくるめたと思ったら反応してきやがった。ただ材木座に言っていなかったが、忘れていたわけではない。確実に文句を言ってくることがわかっていたのだ。まあ入った後で言えば勢いで納得するだろうと考えていたが、聞かれたなら答えるしかない。そこまで厳しくないからな、材木座も納得するだろう。いや材木座だからなケチ付けるかもしれない。材木座さんの考えは俺には遠すぎて理解できないです。
「あとで話そうと思っていたが、活動日が決まってんだよ。火曜と木曜な。それには必ず参加してもらうこととなっている」
「はぁぁー!?何、それじゃあ我のゲーセン行く日が減っちゃうじゃん?しかもサボることも許されないとか納得できないなー我」
みんながとても冷たい目をしていた。だが俺は違う。むしろ尊敬の眼差しを向けていた。この期に及んで文句を言うどころか、最初からサボることを考えていたなんてやっぱ材木座さんパネェっす。いやサボりたくなるのよね部活。
おっと、感心している場合じゃなかった。まあこれに対してはある程度、反論できる。
「そうはいうがな材木座、お前は書いたものをみせるのだろう。なら火曜にみてもらい
木曜に感想を言ってもらうなりしてもらえばいいんじゃないか?それか一緒に物語を
考えたりするとかあるだろ?それなら二日ぐらいどうってことないと思うどころか貴重なものじゃないか、どうだ?」
とりあえず畳み掛けるように意見を述べる。最後に物語を考えるということを言ったが岡本の負担がどんどんでかくなるな。まあこれも部活を残すためだと思い我慢してもらおう。おそらく2週間もすれば材木座の扱いになれるはずだ。
どうやら材木座は納得したように頷いている。
「けぷこん、けぷこん。打ち合わせというやつか。それなら仕方ないな、作家には必要なものであるし我もゲーセンの日数を減らすことは我慢しようぞ」
なんか予想外の納得の仕方だった。おそらく俺が行った最後の所が作家みたいだと思い響いたようだな。2日くらいなら支障はないはずだと伝えるつもりだったが、やっぱり材木座は予想できない。
話を進めるかと思ったら、平塚先生から話しかけてきた。
「おい、本当に大丈夫か。これ以上話していないことはないだろうな?」
「いえ、さっきのはただの伝え忘れです。これ以上は無いと思うから大丈夫ですよ
後、俺達でもわからないことが一つあって伝えてないことがあります」
「何がわからないんだ?」
「いや、部活動は何時まで続ければいいんですか?さすがに放課後いっぱい残れっていうことはないと思いますが」
「ああ、それならだいたい1、2時間程度だな。それより早く帰るのはさすがにな」
「だそうだ、材木座。大丈夫か?」
「かしこまっ!」
よし、時間的にも問題はないみたいだな。これは材木座に確認すると同時に俺自身のことにも関わってくることだった。
「それで残り一人はどうするんだ?二人だけで勘弁してくれというのは無理があるぞ」
そう残り一人が問題だ。しかしこれについてはもう解決しているも当然だ。この方法なら文芸部の存続条件である三人を満たし奉仕部全体にメリットがある。
雪ノ下と由比ヶ浜のメリットとは材木座に関することだ。材木座が文芸部に入るということは、すなわちあの頭が悪くなりそうな小説を読まされることが無くなる、もしくは少なることに繋がる。おそらく材木座は文芸部に入らなければ奉仕部に小説の批評を頼むだろう。そしてそのたびに雪ノ下と由比ヶ浜が苦労する羽目になる。由比ヶ浜は読むかわからんが、材木座と話すたびに鬱陶しそうな顔をしている。というか材木座があれこれいわれてへこんでる姿を見るのは正直、軽くかわいそうだと思う。見ていてちょっと楽しいという気持ちがあるが、まあそれよりも文芸部に任せた方が大丈夫だろう。なんか後半、材木座のメリットになっていたがそれはいい。
では俺のメリットとは何か?俺は材木座が文芸部に行くことにあまりメリットを見いだせない。なぜならこいつは俺の携帯に小説を送ってくることもあり、俺が読む苦しみを回避できるとは限らないからだ。無視してもいいんだが、それだと迷惑メールのように送りつけてくるからなこいつ…
そこで俺のメリットとは材木座とは関係がない。俺自身によるメリット。それは、
「残り一人は俺です。本を読みますし。部活には毎日出ているから、幽霊部員にもなりませんし」
「ん、君が入るのか?それだと奉仕部はどうする?」
「奉仕部も続けるつもりです。兼部ってやつですね」
そう俺の考えた解決策とは、俺自身が文芸部員となることだ。周りがなん…だと…と言いたげな表情をしている中、俺の考えを述べる。
「文芸部にはなるといっても基本、奉仕部をメインで活動しますよ。平塚先生に言われてるからサボるのは無理そうですしね」
「それでは結局、幽霊部委員と変わりないだろ。さすがにそれは認められないぞ」
「でも考えてみてください。奉仕部は毎日ありますけど依頼は毎日あるわけではない。それなら俺が火曜木曜に文芸部に行っても問題は無いじゃないですか。もし文芸部の活動日に奉仕部に依頼が来たら、1時間だけ文芸部として活動し、それから奉仕部に向かいます。これなら文芸部、奉仕部、どちらの活動もおろそかにしてないので大丈夫だと思いますが」
そういうと平塚先生は難しい顔をしながら考え込んだ。ふっふっふっ、どうだこの考えは破れまい。俺はこれによって堂々と奉仕部をサボれる権利を得ることができた。
別に奉仕部が嫌いというわけではない。だからと言って好きでもないが。だがたまにはサボりたくもなるのだ。依頼と称して様々な活動をするのは苦痛とまでは言わないが、これから今回のようなチラシ配りなど面倒なものが来ることも考えられる。だからその時間に少しでもサボりたい。もし文芸部ではなく、毎日参加する必要がある体育会系の部活や何か作品を作る美術系だったら、俺はこの方法を実行しなかっただろう。しかし文芸部は最低でも本を読んでいれば活動してることになる。それにプラスして材木座の小説にあれこれ言うくらいだろう。その二つならいつもやっていることで俺の負担は増えることはない。
つまり俺のメリットとは少し厄介ごとから解放されるというものだ。別に仕事を放棄するわけではない。量を減らすだけだ。何か新しいことを始める必要がなく変わることと言えば放課後、部室に行く道が変わるくらいだろう。
おれがこの解決方法を『無月』と名付けようか悩んでいると平塚先生が次の問題点を出してきた。
「う~ん。それで部員の問題はいいかもしれないがまだちょっと問題が残っていてだな…
さすがにそれだと判断が出しにくいんだ」
「もしかして部室の問題ですか?部屋が足りないとか何とか」
「ああ、聞いていたのか。三人がちゃんと活動日に活動するという条件を満たしていると言えば満たしているんだが、これだと反感を買うかもしれん。一人は兼部で一時間だけで帰るというのは何とも言えないグレーな所だな」
まあそう思われても仕方ないな。条件を満たしているとはこれでは正式な部員とは言い張ることはできない。奉仕部の活動の一環で文芸部をやっている状態だ。そんなやつのせいで部室が手に入らないなんて、部活を新設した新入生は面白くないだろうな。
だからこれについても考えはある。
「んじゃ、部室を渡しちゃってもいいんじゃないですか?」
「それでは文芸部の活動する場所をどうする?」
「別の場所に移せばいいだけですよ。本を読むのに適した図書室とかに」
これなら新入生に文句を言われることはないし、文芸部が潰れることも避けられる。それに文芸部は本を読んでいれば一応活動していることと見なされるらしい。なら場所にこだわる必要はない。図書室は声を荒げることはできないので、岡本と材木座には小声で話したり筆談で我慢してもらう。俺は最初は部室のことはどうでもいいと思っていたがそうでは無いみたいだ。もし文芸部を潰す気なら4月にでも潰している。潰すきっかけとなったのはあくまで新設の部活だ。なら無理に争わずに譲歩してやればいい。そうすれば文芸部を潰す理由はなくなるだろう。
あとは周りが納得できれば今回の依頼は終わりだ。俺が岡本と材木座に確認しようとする前に平塚先生が意見を求めてきた。雪ノ下と由比ヶ浜に。
「雪ノ下と由比ヶ浜はどう思う?二人の意見を聞きたい」
「私は反対です。その男が何を企んでるか知りませんが、
自分から積極的に部活に入るなど怪しいです。賛成するにしても真意を聞いてから判断します」
「いっ、いや別に何も企んでねーよ。ただこの中で適任だったのが俺だっただけだ」
なんでこいつは鋭いんだよ。俺がサボろうとしたのが顔にでもでてたか?だが、いくら不満があろうがこの中で適任なのは俺だ。これは真実だ。
それを聞いて雪ノ下が淡々と反論を仕掛ける。
「適任というなら私も含まれるのではないのかしら」
「残念だがそれはないな。お前が入ると材木座が抜けるぞ」
「そうだーそうだー!!我は気まずさのあまり一週間で辞める自信があるぞ!!」
材木座が援護をする。なんだよ意外と頼りになるじゃねーかと思っていたが、顔はこちらを向いており雪ノ下のほうを向いてなかった。
その雪ノ下と言えば、材木座を背筋が凍りついて低温火傷しそうな勢いで睨んでいる。
「そういうことだ。俺がやるのが最善なんだよ」
「でも、なんか、嫌だな…」
そこでか細い声が聞こえた。見ると由比ヶ浜なぜか困った顔をしてこっちを見ていた。長いまつげが伏せられていてその瞳を見ることは叶わない。だからかわり問うた。
「嫌って言われてもだな、これしか思いつかないんだよ。もしこの他にいい方法があるなら聞くが…」
「…やー、なんていうかさヒッキーがそこまでしなくてよくなくない!?まだ明日もあるんだし、ビラ配りの成果が出るかもしれないし!?」
由比ヶ浜はさっきの声が嘘だと思えるほど、明るい声を出してきた。なぜかその声が、チクリと胸のどこかに刺さった。俺はどう由比ヶ浜を納得させようか言葉を探しあぐねていると、平塚先生がまだ考えを言ってないものに声をかけた。
「岡本はどう思う?比企谷の案に乗るか?それとも別の何かがあるのか?」
当の岡本は俺を見ていた。いや違う。俺の向こう側にいる由比ヶ浜を見ており何かを考えているみたいだ。いつもの笑みはそこにはなく真剣な表情をしている。すると岡本は考えをまとめたのか笑顔を作り長い間をとると話し始めた。
「んじゃあ、ここを文芸部が使わせてもらうというのはどうですか?」
いきなり意味の分からないことを言い出した。いやそれおかしいだろ。なんでここを使うことになってんだ、図書室でいいじゃん?
「図書室で充分だろ。ここを使う必要はない」
俺はすぐに反対意見でもない、事実の再確認を行った。
「そうなんだけど、図書室である理由もないですよね?」
とそこで岡本は俺ではなく先生に話しかけてた。お前会話のキャッチボールできないの?なんで急にボール回し始めちゃうわけ?
その飛んできたボールを先生は受け止め岡本に返す。
「文芸部の活動に適しているのはここでも変わらないと言えるのか…?んー、とりあえず理由を聞きたい。岡本は何故ここを選んだんだ?」
先生はそのボールをうまく岡本に返し、俺の所には回ってこない。何これいじめ?むかし俺を中心において、周りを囲み、その周囲の人間だけでボールをパスする遊びを思い出した。何でこんなこと思いだしてんだよ……
俺は意地でも会話の流れを断つべく会話に入ろうとしたが俺より早く発言する者がいた。
「待てぃ!!それでは我の問題が解消されない!!たまに来るならいざ知れず、毎日冷たい言葉を浴びせられると我は一週間で病めるぞ!!」
さすがだ材木座!!なんか毎日とか病むと気になるところはあるが気にしない。流れを断つことと空気を壊す事に関しちゃ俺もかなわねぇぜ!!更に材木座は俺を見て話している。これに乗ればまだ巻き返せる。
と思ったが向かい側から冷たい空気がやってきた。
「なら私が文芸部員になればいいわね。それで人数は解決するわ」
あまりにも自然な感じだったので入る隙を失った。ちょっと何言ってんの雪ノ下さん!!俺もこいつを文芸部員にすることは考えたが諦めた。それだと俺がサボれなくなるし、何よりこいつの考えに反するからである。
こいつが文芸部員になるということは、依頼者の成長を促すことに繋がることにならない。言ってしまえば『飢えた人に魚を与える』ことをしている。
「おい、雪ノ下。そのやり方はまずいんじゃないのか?それだと岡本の成長に繋がらない」
「いえ、間違っていないわ。このまま彼には勧誘を続けてもらおうと思っているから」
つまり、こう言いたいのか。雪ノ下はひとまず部員となり人が集まるまで、文芸部に存続し続けると?いやそれ大丈夫なのか?平塚先生を見ると顎に手を当て考えていた。
「うーん。雪ノ下が文芸部か~……いいんじゃないか。別にずっと続けるつもりはないみたいだからな」
くっ!何故か平塚先生は納得しているが俺は全然納得していない。せっかくサボれる権利を掴みかけたのに、それを見す見す逃すようなまねはしたくない。
だが、思いつかない。兼部している人が二人、つまり俺と雪ノ下が文芸部の正規の部員ではないことを理由に挙げようとしたが、別にそれは条件に含まれていない。正しい活動をすればいいのだから俺たちでも問題は無い。
まだ何かないかと考えていたら岡本が俺に話しかけた。
「もし、俺の案を認めてくれたら、部費の半分を使っていいよ。それで残りは雪ノ下さんが使う」
「は?それ俺の案の時と何か変わりあんのか?」
いきなり話しかけたと思ったら何言ってんだこいつ?もしかしたら、自分の案が通らなかったら俺には1円もあげないとか小学生みたいな真似するんじゃないだろうな。
俺が訝しんでいると、暑苦しい声が入ってきた。
「八幡!!部費は我が自由に使っていいという誓約だったではないか!!いくらお主でも我の金を使うのは許さんぞ!!」
こいつ今の状況分かってんの?このままだとお前の所には一円も入ってこないんだぞ。だから……あれ?もしかして、これ、俺の案が通ると俺の所には金が入ってこない?
確認をするべく岡本に問いただす。
「おい、岡本。もし俺の案が通った場合、俺は部費を使えるのか?」
「材木座君との相談しだいだね。俺が決めてもいいけど、それだと材木座君が認めないだろうしね」
「そういうことだ、八幡。わかったら貴様は有り金全ておいて出ていくんだな」
材木座が山賊みたいなこと言っていると、そこで雪ノ下が呆れた声で会話を遮ってきた。
「あなたたち、仮にも先生の前なのだからお金のことばかり話さないでちょうだい」
「雪ノ下。別に私は気にしてないぞ。部費は大事な問題だからな」
「ならいいんですけれど……あと私は部費を使うつもりは無いは。二人で決めてちょうだい」
ということは岡本の案でいくと、部費は俺と岡本で半分づつ使えるのか。
俺の案が通ったと仮定する。俺はサボりの権利を得るが使える部費は0円だろう。材木座のさっきの態度を見るに俺に部費を使わせるつもりはないみたいだ。
岡本の案が通ったと仮定する。サボれることはできないが、部費を使うことができる。実質、今まで通りの生活でお小遣いが増える感覚だ。
こう考えると岡本の案の方がいい気がしてきた……だがまだ確定していないことが二つある。それを確かめるべく岡本に質問をする。
「岡本、文芸部の部費はいくらだ?」
「他と比べると少ないけど五千円だよ。あと俺も部費は使うつもりは無いから比企谷君が使っていいよ」
つまり岡本の案のでいけば俺は五千円手に入る。…ぐっ、もうここまできたら意地だ。材木座にすべてをかける!
「材木座!部費を半分使わせてくれとは言わない。せめて二千円、いや、千円でいい」
「くどいっ!!見損なったぞ八幡!!そんな金の亡者に成り果」
「よし、岡本の案でいこう!」
「はやっ!?即決過ぎてヒッキー、キモいよ!?」
「あ?なんだ由比ヶ浜、聞いてたのか?全然しゃべらないから飽きたかと思ったぞ」
「いや、なんか急にお金の取り合いになったから引いてたんだけど…なんか悩んでたのが馬鹿みたい…」
「由比ヶ浜、材木座がいる時に悩むのなんて無駄なことだぞ。学習しろ」
「あぁ、うん、もうそれでいいや…」
そういうと由比ヶ浜は机に突っ伏した。いや俺もお金の取り合いになるとは思わなかった。しかもそれで考えが変わってしまうだなんて。というか材木座いる意味なかったな。呼んでおいてあれだが。材木座の存在価値を疑問に思っていると平塚先生がまとめに入った。
「よし、それなら話をまとめると、雪ノ下と比企谷が文芸部に入ることでいいんだな。
それと文芸部の部室はここを使うと」
すると岡本が今さらな質問をしてきた。
「あのー先生、俺が言っといてなんですけど、ここ文芸部が使っていいんですか?」
「どうだ、雪ノ下?」
「別にかまいません。彼がしっかりと文芸部員として活動しているか確認するつもりでしたので」
「大丈夫みたいだな。残りの二人はどうだ?」
俺と由比ヶ浜はそれぞれ頷く。今さら、いちゃもんつけてもまた、振出しに戻る、だ。ならこれでいい。俺は毎月五千円ただで手に入れることができる。当初の目論見とだいぶずれたが損はしてないのでいいだろう。
「なら、文芸部の件はこれでお終いだな。岡本はこれから部室に行って持ち物を引き払ってくれ。できれば明日中までに」
「わかりました……あっ、でも色々と私物あったんで今日と明日では持ち帰れないかもしれません」
「そうか、ならここに置かせてもらうことは出来るか、雪ノ下?」
「ええ、大丈夫です。後ろ方ならスペースも空いていますし」
「もとっち、運ぶの手伝おうか?」
「あー、ごめんけど遠慮しとくよ。なんかいろいろあったし今日は整理だけで終わると思うから」
会話が進み、それぞれが行動を開始する。しかしいろいろあったもんだな。俺と雪ノ下が文芸部に入ることなったが、状況をみるに、岡本が奉仕部に入った形になっている。これから、火曜と木曜はあいつが来るようになるんだろうな。それについて、表情を見るに由比ヶ浜は反対はしていないようだ。
視線を由比ヶ浜からずらすとその先に材木座がいた。こいつを呼んだ意味は無いと言ったが、実は感謝していることが一つある。それはあの雰囲気を壊してくれたことだ。こいつがいなければ、由比ヶ浜のあの声に、態度に、俺は勘違いをしていたかもしれない。だがそれもなかった。俺は呼んだ手前もあって材木座に声をかける。
「材木座、今日は呼んでおいてあまり意味がなくてすまなかったな」
「ホントだぞ!ぷんぷん!!我、激おこぷんぷん丸になるぞ!」
「悪かったよ、俺もこうなると思わなかった」
まあ実際は岡本も関係してくるんだがな。あいつが急に意見を出さなければまた違った結果になってただろう。だが事前に説明していないこともあってあまり強く出れない。そう考えていたら岡本がやってきた。
「材木座君、部費使えるとか言ってぬか喜びさせてごめん。でももしよかったら今からでも文芸部に」
「シャーラップッ!!我を謀った罪は重いぞ…この恨みはらさでおくべきか…」
「おい、岡本。そいつは下手に出てくるやつに対して高圧的な態度とる典型的小物タイプだそんな態度取っているといらんストレス溜めるぞ」
「ふっ、我が小物?面白いことを言うのだなぁ八幡!!わ」
「あー、はいはい。そのへんにしとかないと雪ノ下が睨みつけるぞ」
雪ノ下を見るとすでに睨みつけていた。てかなんか俺を睨みつけてない?
岡本は、雪ノ下の視線に気付かずそのまま材木座に話しかける。
「あと、ラノベ書いてるって言ってたよね?もしよかったら今度見せてよ。もうそれくらいしかできることないしね」
「ふむ、殊勝な心がけだな!!そこまで言うなら見せてやることも吝かではないな」
「それじゃ、また今度よろしく」
こいつ途中でめんどくさくなって投げたな。しかし携帯のアドレスはちゃっかり交換していた。あーあ、しらねーぞ。岡本にするかはわからんが、あいつ引くくらいプロットや設定送って来るからな。
だが、それを教えることはしない。こいつはなんだかんだ言って、今日の俺の邪魔をしたのだ。本人にどんな意思があってそうしたのかは知らないが、人の計画を壊したんだ、それくらいは我慢してもらおう。
岡本と話し終え、材木座が帰っても、部室にはまだ声が響いている。雪ノ下と由比ヶ浜はまだ話すつもりみたいだな。俺は帰りの支度をして家路に就こうと思ったが岡本が声をかけてくる。
「今日はありがとう。おかげで文芸部を潰さなくてすんだよ」
「別に、これが奉仕部の活動だからな。それより部室にある私物の整理はいいのか?」
「ここに置いてもいいなら大丈夫かな……………多分」
平塚先生に言われた荷物運びは結構な量があるらしい。俺が遠回しにあっち行けと言っていると、岡本は意外なことを言ってきた。
「それにしても比企谷君は、お金に困ってるの?」
何かいきなり貧乏人扱いされた。何?キングボンビーでもついてる?俺の桃鉄スキルなめんなよ。まぁ桃鉄、小町としかやったことないんだけどね…
俺が小町にやってしまった非道プレイを思い返していると
「この前の日曜もバイトしてたし、今回も部費欲しがってたからそう思ったんだけど」
…うんーーー?バイトぉ?なんのことかなーーーー?はちまんおぼえてないなーー
しらばっくれようとしたが、どうやらこいつは気付いているみたいだ。なら誤魔化しても余計疑われるかもしれないな。
「いつ、俺のことに気付いた。最初に会った時は気付いてなかったみたいだが?」
「ビラ配りの時の姿が、ティッシュ配りの姿と被ってね、そん時に気付いたよ」
なるほどそいうことか。意外と早い段階で知られたたんだな。俺とこいつとは日曜のバイトの時たまたま一緒だった。その時に俺はこいつに借りをつくってしまった。
しかし向こうが気付いていないならそんなものは存在しない。そう思い、知らない振りを続け、借りなんて無かったことにしようとしたがそうもいかないようだ。
「あん時は悪かった。あの母親は俺だけじゃ対処が難しかったからな」
「いいよいいよ。あれは事故みたいなものだったし」
「そう言ってくると助かる。なら俺はもう帰るからな」
そう。日曜のバイトでこいつが俺を助けてくれた。だが、ただそれだけだ。特にそれで何か生まれるわけでもない。俺は感謝しているがそれ以上の感情は湧いてこない。借りを返せと言われたら渋々やるかもしれないが、こいつの性格からして言ってこないだろう。
俺は恥ずかしい思い出を語るのを避けたかったので、さっさと帰ろうとしたがまだこいつは話しかけてくる。
「気になったんだけど、なんであんな時期にバイトしてたの?普通夏休みとかにするもんだと思うんだけど?」
「夏休みとかわざわざ外に出たくないし、第一、学生バイトが多いじゃねえか。友達と一緒にバイトに来てる連中とあたるといつもより孤独感に苛まれるから疲れるんだよ」
「……」
俺が悲しい理由で夏休みを避けたことを言うと岡本は口を空けて固まった。引いてんじゃねえよ、微妙な感じになっちゃったじゃん。
会話を引き上げようとしたしたのにこいつが続けるから、とおれがこの空気の全責任を岡本に背負わせてると、
「いや、俺の先輩と同じこと言ってるから驚いただけだよ」
「ほー、…まぁ俺みたいなやつもいるだろう」
そういうと岡本は笑った。しっかし似たようなこという先輩ね。こいつにボッチの思考をする先輩と関わりなんてなさそうなんだけど、もしかしたら似非ボッチか?最近ではビジネスボッチもいるらしいからな。俺みたいな真のボッチの価値が鰻上りだ。
そしてもう二、三言、喋ると岡本は文芸部部室へと向かった。さて俺も帰るとしましょうかしらね。部室に残っている二人に挨拶をして家路につきながらふと思う。
俺は夏休みを避けてあの時期にバイトしていたがあいつはどうなのだろうかと。しかしそれを知った所であいつの評価が変わることは無いのだろう。岡本と話していて如実に感じる。俺とあいつは違う人間だと。種類が違うのだ。あいつはどちらかと言えば由比ヶ浜や葉山たちのような人間であり、そのような人種とぼっちは交わることがない。つまり、お互いのことを知ったとしても俺とあいつ交わらない。いやあいつだけではなくきっと俺は多くものと交わることができない人間なのだろう。
だがそれを悲観することは無い。俺は俺を知っている。その事実さえ知っていれば大丈夫だ。たとえ何があろうと立って歩いて行ける。しかし、もし俺の中の何かが変わり今までの考えが変わったとき俺は歩いて行けるのだろうか。そう考えていると、何故か今日の由比ヶ浜の顔がチラついた。いやあれはただの勘違いだ。これ以上考えても仕方がない。
今まで考えたことを振り払い、黙々と一人で帰りの道を歩いて行った。