この話は原作の九年前、白騎士事件が起こってから一年後の話になっています。
「アイアムシンカ~トゥ~トゥトゥ~」
墓地に置かれた綺麗な墓石の前で、うろ覚えの歌を歌う。その墓石には『八神ザフィーラ』と『八神アルフ』と彫られていた。
そう、ここはザフィーラとアルフが眠る場所。元が狼だった二人だからか意気投合し、その勢いに押しきられるような形で二人と結婚したわけだ。
あの時の周りからの白眼視も、今となってはいい思い出だ。
「アイアムシンカ~トゥ~トゥトゥ~」
俺が歌っているのはザフィーラとアルフがド嵌まりしたゲームの曲。よく二人がテレビの前を陣取りながら協力プレイしていて、番組が見たいとごねる子供たちとじゃれあっていたのは懐かしい。
墓石に水をかけて、束子で研く。
二人はまるで前もって予定していたかのように、同じ日の同じ時間に息を引き取った。その時の満ち足りたような死に顔を俺は忘れることはないだろう。
世間から白眼視されていた俺だったが、それでも二人と二人との間に出来た子供を幸せに出来たことは喜ばしい。
「…………そろそろ時間か。じゃあなザフィーラ、アルフ。また明日来るよ」
日も暮れてきたので掃除用具一式をもち、届かないと分かっていながら一声をかけて墓地を後にする。
その後世話になっている娘夫婦と共に飯を食べ、寝て、起きたらそこは月の玉座だった。
「訳が分からないよ」
「やぁすまないね、急に呼び出したりして」
「貴様か、メルクリウス」
そこにいたのはメルクリウスだった。こいつなら仕方がないと思えるのは末期なのだろうか?
「それで、何用?」
「実はだな、君の歌劇をマルグリットが委託気にいったようでね。こことは別の世界でもう一度その歌劇を見せてほしいのだよ」
「出たなぁ!!得意の女神至高主義!!」
「異論は認めん。断じて認めん。私が法だ。黙して従え」
「拒否権なしか!?」
「あぁ、ちなみに素直に頷いてくれるのなら君の伴侶たちを同行させるのだが」
「喜んで行かせてもらいます」
「…………即決かね」
「ザフィーラとアルフをお前に取っての女神だと思えば理解できると思うぞ」
「なるほど、確かにそれならばいかなる困難があろうとも否定すまい」
「御理解していただけた何より」
「それでは行きたまえ、彼女を喜ばせる為の歌劇を演じるがよい」
「ヘイヘイ、愉快に楽しく演じさせてもらいますよ」
「…………はぁ」
とある公園にて、深々と溜め息を吐いている少女がいた。時刻は夕方、少女が着ている制服から考えればどこかの学校の下校途中と考えれば不自然ではない。しかし、夕方で人気が無いことと彼女の纏う暗い雰囲気が合わさってとても重たいものになっていた。
「どうしてこうなっちゃったんだろうな…………」
少女が憂いていることは、彼女が作り出したある作品についてである。
彼女が作り出したのはインフィニット・ストラトス、通称ISと呼ばれるパワースーツ。彼女は何時か宇宙に進出してみたいと夢見ており、その願いを叶えるための第一歩としてこのパワースーツを作ったのだ。
そのパワースーツを作ったのは一年前、そして世界がおかしくなり始めたのも、一年前である。
「ねぇ、そこの人」
「…………ん?」
少女がうつ伏せていた顔を上げると、そこにはパーカーを深く被って顔を隠している少年がいた。声の高さから少年と言ったが本当は少女なのかもしれない。顔はパーカーと夕方の暗がりで確認することは出来ないが、彼が声をかけてきたのは間違い無さそうだ。
「どうかしたの?そんなリストラされたサラリーマンみたいな雰囲気出して。何か嫌なことでもあったの?」
「何その具体的な例えは…………それより、人と話をしようとしているのに顔を隠してるのは失礼じゃ無いのかな?」
「これね…………隠したい事情があるからで納得してくれない?」
「だったら帰って」
「…………引かないでよね?」
少女の押しに負けたのか、少年は観念したようにパーカーをとった。そこにはーーーーーーーーーー
「ッ!?」
ーーーーーーーーーー顔を包帯で隠した顔があった。包帯の隙間があるのは目と鼻と口の部分だけ、後のところはすべて包帯で隠されている。よく見れば少年の手足にも包帯が巻かれている。
「ど、どうしたの!?」
「これ?ガソリンかけられて火を着けられた。馬鹿女たちが『言うことを聞かない男には存在価値なんてない』とか言ってね。近くに消火器がなかったら危なかったよ」
「あ……あぁ…………!!!」
馬鹿女たちという単語を聞いた瞬間少女は顔を青くして震えだした。それは少年の顔を見たからではなく、少女の話した内容が原因なのは明らかだった。
「ご……ごめ…………」
「はい、落ち着こうか」
ガチガチと歯を鳴らして本格的に不安定になりだした少女を、パーカーを被り直した少年が落ち着かせる。わざとらしくパァンと拍手をして少女の注意を自分にへと向けさせる。
「吸って~」
「すぅ…………」
「吐いて~」
「はぁ…………」
「吸って~」
「すぅ…………」
「吐いて~」
「はぁ…………」
「どう、落ち着いた?」
「…………うん、ありがとう」
「良かった。それで、何があったの?」
少女を落ち着かせた少年が少女の隣に座り、話の催促をした。少し躊躇ったが何かを決心したように、少女は少年に向き合う。
「ねぇ君、ISって分かるよね?」
「インフィニット・ストラトスのこと?あの欠陥品でしょ?」
「欠陥品…………確かにそうだよね」
ISのことを欠陥品呼ばわりされながらも少女は苦笑いしただけでそれを否定しない。少女も、ISが欠陥品だと思っていたからだ。
「そして私の名前は…………
「IS…………篠ノ之…………もしかして、IS発案者の
「うん、あいつは双子の妹なんだ」
篠ノ之聖、その名を知らない者はきっとこの世界に誰もいないだろう。ISの発案者、そしてこの世界のパワーバランスを壊した張本人。
「元々、ISは私が考えていた物なんだ。それなのにあいつは横からかっさらってあたかも自分が考えていた物のように発表したんだ」
「…………色々突っ込みたいところがあった気がするけどスルーしよう。確か、発表会に乱入して滅茶苦茶バッシングされたって聞いたけど?」
「そりゃあそうだよ。まだ設計図作ったばかりで製造に着手した段階なのにあいつは発表したんだ。受け入れられなくて当然だよ。だって考えた私からすれば実現可能なことでも他の人からすれば机上論と同じだからね。そうなると思って私はISを完成させてから発表しようと思ったのに…………」
「なんか話の流れが読めてきた…………」
「バッシングされたあいつは癇癪起こして暴れてたよ。先走った馬鹿のせいで予定は狂ったけど、その後私はISの第一号機を完成させたんだ」
「そして『白騎士事件』が起こった」
「…………うん」
『白騎士事件』、それは簡単に言ってしまえば日本に発射されたミサイルをISがすべて迎撃したという事件。“公式では”死傷者零となっていてISの性能を見せつけた。そして各国がそのISを鹵獲しようと軍隊を派遣するもののこれらをすべて迎撃、これまた“公式では”死傷者零という圧倒的な力を見せつけて悠々とその場から立ち去った。
「それのお陰というかそのせいでというか良くも悪くもISは注目され、それまであった兵器を押し退けて最強の兵器になったんだ…………欠陥品のままなのに」
「女しか乗ることができない、だよね?」
既存の兵器をすべて上回る性能を持つIS、それを二人が欠陥品と呼んだ理由はこれだった。どれだけ優れた性能を持っていようとも女しか乗ることができないのであればそれは欠陥品と言うしかない。しかしそれでもISが強力であることは事実、その結果ISに乗ることの出来る女性は強く偉く、乗ることの出来ない男性は弱く卑しいという『女尊男卑』という思考が持て囃されるようになった。
「私が一号機を完成させてからその欠点は見付かってたんだ。その欠点を無くしてから改めて発表するつもりだったのに…………また、あいつがそれを横からかっさらっていったんだ。そのせいでISは女にしか使うことができない物として認知された…………私の夢を置き去りにしてね」
「…………で、結局何が言いたいの?本当のISの発案者は自分なんだーっていう自慢?」
「…………ううん、違うよ」
少女がスカートを握りしめ、シワだらけにしながら泣き始めた。
「あ……ISのせいで……今の、世界は………お、おかしくなった…………ひぐっ…………女尊男卑だなんて…………訳のわからないものまで…………ひぐっ…………わ、私が…………ISなんて…………作ったから…………」
「…………あぁ、そう言うことね」
少年は少女が何が言いたいのかを理解した。世界がおかしくなった原因はIS、そのISを作ったのは自分、だから自分が悪い。女尊男卑なんてものが持て囃されるようになったのも自分が悪い。そして…………少年がガソリンをかけられ、火を着けられた原因である女尊男卑を作ってしまったのは自分の責任だ。つまり、少女のせいで少年は大火傷を負ったといいたいのだろう。
確かに少女が言わんとしていることは納得できなくもない。しかし、少年はそんなことかと詰まらなそうな顔をしていた。
「ねぇ、ノーベルって知ってる?」
「…………へ?ノーベルってノーベル賞のノーベル?」
「うん、ダイナマイトを作ったノーベル。ノーベルがダイナマイトを作った理由は鉱山工事の為だっけ?山にダイナマイト突っ込んで穴開けようとしたから。でもそのダイナマイトはノーベルの考えとは別に戦争で使われる事になった。そりゃあそうだよ、一つで上手くいけば何十と人を殺せる道具に目を着けないのがおかしい!!そしてノーベルは自分が作った道具が人殺しの道具になったことを悔いた。でも後悔して後悔して後悔して後悔して、考えて考えて考えて考えて、自分が仕出かしたことの責任を取ろうとしてノーベル賞を作ったんだ」
「…………つまりどういうことなの?」
「無駄話が多くてごめんね。俺が言いたいのは制作者の意図にそぐわない使われ方をしても制作者は悪くないって事さ。ノーベルはトンネルを掘るためにダイナマイト作った、そして君は宇宙に進出するためにISを作った。その願いは間違った物ではないよ。世界の誰もが否定しても俺が肯定してあげる。まぁ、一個人の考えだけどね」
「…………うぇ」
「ちょ!?泣かないでよ!!」
「ごめん…………嬉しくて…………!!」
少女は泣いた。世界をおかしくしたのは自分の作り出した物で、少年はその煽りを受けて焼かれたというのに間違っていないと肯定してくれたのだ。人付き合いが下手で、理解者のいなかった少女にとって、少年は初めての理解者になった。
「あぁもう!!これ使って!!」
「うん…………うん…………」
気不味そうにしている少年からハンカチを手渡されて、少女は流れ出る涙を拭う。しかし、溜めに溜めた涙はいくら抜くっても止まることはなく、ようやく止まった時にはハンカチは涙でびしょびしょになっていた。
「うわ…………びしょ濡れ」
「ごめんね、ハンカチそんなにしちゃって。洗って返すよ」
「そうしてくれるとありがたいね」
「そうだ!!名前教えてよ!!私まだ君の名前教えてもらってないし!!」
「あぁ…………そうだったね、ごめんごめん」
そう言うと座っていた少年は立ち上がり、少女の前で恭しく一礼をして自分の名前を告げた。
「改めまして篠ノ之束さん、甘粕時雨と申します」
今ここに、演出家によってこの世界に転生した者と、無垢なる願いを叶えようとしている天才が出会った。
この出会いが物語にどう影響するのか、それは観客である者たちは知ることは出来ないし、演出家でさえ予想を越える影響になるやもしれない。
しかし言えることが一つだけある。
今日この場所から演出家が望んだ歌劇が始まり、
九年の時を越えて、本来の物語が動き出す。
「それでは諸君、この未知を見よ」
fateとは違い、一応拒否権のある水銀転生でした。
ISを作ったのは原作と同じ束さんですが、オリキャラの篠ノ之聖か横からかっさらったので世界公式の開発者は篠ノ之聖となっています。
篠ノ之聖のスペックは束さんと同じくらい、違いは性格ですね。この作品の束さんは人付き合いが下手ですが良い子になっています。
「こんなの束さんじゃないわ!!」という方はプラウザバックを、「こんな束さんでも私はいっこうに構わんッッッッ!!!!!!」という方はメルクリウスの流出詠唱をしながらお待ちください。
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