時は進み、今は昼休み。この時間になると人として生きていく上に必要不可欠な食事を取ることになる。弁当を持っている者は教室で食べたり、無い者は学園にある食堂で食べたりと思い思いの時間を過ごすことになる。
「あ、お~い!!秋羅さ~ん!!」
その食堂で、食券の券売機の前に立つ少女凰鈴音がいた。彼女の視線の先には織斑秋羅、それとその後に続く錦孝太と布仏本音の姿がある。
「よっ、二度目だけと久しぶりだな、鈴」
「そうね…………私が中二の時に中国に戻って以来だから二年ぶりね」
「積もる話はあるだろうけど飯を食わせてくれ。あと、この二人も一緒でいいか?」
「二人?」
「はじめまして、錦孝太です」
「私は布仏本音だよ~」
「あぁ、他の男性操縦者の…………大丈夫よ。私は凰鈴音、中国の国家代表候補生よ」
「さて…………カツ丼とラーメンにするか」
「相変わらずガッツリ行きますね…………じゃあ僕は洋食ランチで」
「私は~和食定食なのだ~」
「…………なんかさらりと流された感があるけど…………まぁいいか。私は当然のようにラーメンよ!!」
各々が食べたいものを食券で購入して、食堂の奥で忙しそうに動いているおばちゃんに渡して出来上がった物をもらい、近くの空いていた四人用のテーブルに座る。
「にしてもさっき中国の国家代表候補生って言ったか?」
「やっとその話題に触れてくれたわね。私が中国に戻ってから検査で適正があることが分かって、そこから色々とあって候補生になれたのよ」
「お前身体能力は高かったからな~…………頭は少し残念なところがあるけど」
「久々にキレちまったよ…………屋上に来やがれ…………!!」
「飯食いたいからノーと答える」
「ご飯に敗けた…………だと…………」
向かい合うように座りながらラーメンをおかずにカツ丼を食べている秋羅とネタを挟みながらもラーメンを啜っている鈴音は端から見ている孝太と本音の目からしても親しそうだった。
「秋羅さんと凰さんな友達だったんですか?」
「あぁ、俺が小六の時にこいつが小五で転校してきたんだ。で、色々とあってこうした中が続いてる」
「あれからもう五年くらい…………年が経つのは速いものね。あと私のことは鈴で良いし敬語も要らないわよ?私も孝太って呼ぶから」
「はは…………これでも年下なんで年上には敬語を使うようにしてるんですよ」
「年下?」
「僕は十四歳なんですよ。で、織斑一夏のあれのせいで適正検査に引っ掛かって、強制的にここに入れられたんです」
「あ~…………御愁傷様としか言えないわね。っていうかまた織斑一夏…………あいつは厄介事しか持ってこないのかしら」
「ほんっとうちの身内がすいません」
織斑一夏の名前が出た途端に鈴音は顔をしかめ、秋羅は反射的に頭を下げた。いったい奴はどれだけの迷惑を周りにかけているのだろうか?
「あ、そうだ。秋羅さんと孝太に提案なんだけど…………ISの操縦、私が見てあげようか?」
「気持ちはありがたいけどもう見てもらってる人がいるから」
「でも参加してくれるなら良いじゃないですか、また違った視点からのサポートがもらえるかもしれないですし」
「私も賛成だよ~」
「もう見てもらってるって…………いったい誰によ?」
「「痴女とラスボスと隠しボス」」
「え、なにそれ怖い」
鈴音がそう言ったのも無理はない。想像してほしい、痴女とラスボスと隠しボスが訓練に顔を出して色々と言ってくれる光景を…………カオス過ぎて普通に怖い。
「ごめん、誰が誰だか分からないから説明してもらえるかしら?」
「痴女は更識楯無、この学園の生徒会長でロシアの国家代表」
「ラスボスはミカド・リッターさん、現軍人で『甘粕工業』のテストパイロットを兼任してる人」
「「で、隠しボスは不知火時雨さん、『甘粕工業』のテストパイロット」」
「不知火が隠しボス…………他の二人は分からないけど不知火が隠しボスってのはしっくり来るわね…………魔王を倒した後に出てくる大魔王みたいな感じで…………」
「あれ?鈴音さんは時雨さんのこと知ってるんですか?」
「昨日ここに来たときに道に迷ってね、その時に案内してもらったのよ。それに今日は二組に顔を出していたわね…………その後に織斑一夏が続いて来たけど」
時雨と織斑一夏の名前が出た途端に秋羅と孝太の顔が何か悟ったような顔になる。煽り耐性の低さであわやイギリスとの戦争に発展しそうなことを口にする織斑一夏と気に入らない相手を容赦なく煽る時雨が出会したら何が起こるか想像するのも難しくない。
「どうせ織斑一夏が要らないこと言って時雨さんに煽られて、逆上して逆にやられたんですよね?」
「よくわかったわね…………確かあいつがセシリアだかに謝れ~とかやり過ぎだ~とか言ってから不知火が滅茶苦茶煽ってたわ…………そうしたら篠ノ之とかいう奴が竹刀で殴ってきて…………」
「逆にやられたんだろ?」
「何で分かるのよ」
「孝太が篠ノ之にやられた時も時雨さんはそんな感じで助けてくれたからな」
「木刀で頭かち割られそうになって死ぬかと思いました」
「普通に殺人未遂じゃないの…………どうして退学処分になってないのよ」
「あいつが篠ノ之だから」
「…………篠ノ之聖の親族だから?ふざけた理由ね」
篠ノ之聖を怒らせたくないからという裏事情を予想した鈴音は嫌悪感を隠すことなく顔に出して具と麺が無くなったラーメンのスープをどんぶりに口をつけて一気に飲み干した。鈴音のラーメンのスープが無くなる頃には他の三人の食事もちょうど終わっていた。
「それにしても…………不知火のあの顔ってどうしたのよ?あんな酷い火傷の痕なんて初めて見たわ」
「確か子供の頃に馬鹿にやられたって言ってましたよ?って、どうして鈴音さんが火傷のことを知ってるんですか?いつもフードで隠してるはずなのに」
「…………あ(察し」
「もしかして~…………」
「予想通りよ、篠ノ之の奴に竹刀で殴られたのを避けたら外れたのよ」
「「またか…………」」
その時のことを思い出したのか鈴音は不快そうに顔をしかめ、その時の光景を想像した秋羅と孝太は頭を抱えた。初めて時雨の顔が露出した時は篠ノ之箒が織斑千冬だったが似たような光景だったのだ。
「また時雨さんのヘイトが溜まるじゃねぇか…………」
「一組からは嫌われてますからね…………」
「どうしようか~…………」
「あぁ、その心配なら要らないわよ」
「「「…………へ?」」」
「不知火はなんか知らないけど二組では人気になってるから」
「何ですとぉ!?」
「どういうことだってばよ…………」
「何があったの~?」
鈴音の言葉は三人からすれば信じられないものだった。時雨の火傷の痕は顔半分を覆うほどの物で、ほとんどの人間ならそれを見て気持ち悪いなどの嫌悪感を抱くだろう。それなのに一クラスがその顔を見て人気が出てるなんてことは異常と言っても間違いではなかった。
「元々不知火の人気は二組では高かったらしいんだけど、素顔を見せてたらボスキャラとかイービルヒーローみたいで格好いいとかみんな言い出して…………教室出るときにいつ撮ったか知らないけど写真が販売されてたわ」
「なにそれ怖い」
「たまげたなぁ…………」
「でも良かったね~。ちゃんと時雨さんのことを見てくれる人たちがいてくれて~」
驚いている秋羅と孝太だったが本音のその言葉を聞いてそうだなと言って頷いた。
今、時雨は生徒のほとんどから嫌われている。その理由は織斑千冬に対する態度。世界最強の名を持つ織斑千冬を神格化して見ている生徒たちからすれば織斑千冬に罵詈雑言を吐いている時雨は敵同然だろう。
だけどそれは織斑千冬が正しくないから反論しているだけだ。だから織斑千冬という存在に関係無く見てくれる人たちがいることは時雨に恩義を感じている二人からすれは嬉しいことだった。
「っと、そろそろ良い時間だな…………鈴、訓練に参加したかったら放課後に第四アリーナに来てくれ。そこで参加できるかどうか聞いてみよう」
「そうね、じゃ、またね!!」
時計を見て昼休みの大半の時間が経過していることに気付いた秋羅はそう言って話を切り上げた。それに鈴音も反対する理由はないので空になった食器を返却して、秋羅に手を振りながら食堂を後にした。
「なんかカラッとした性格の人でしたね」
「だろう?俺の数少ない癒しだよ…………」
「アッキーファイト~」
「アルフ!!その唐揚げは私のものだ!!」
「取りすぎだよザフィーラ!!最後の唐揚げは譲らない!!」
学園の一角にあるIS整備室、ザフィーラとアルフが弁当に入れられていた最後の唐揚げを取り合っているのを微笑ましく眺めながら俺は隣でモソモソとおにぎりを頬張っている眼鏡の少女に尋ねた。
「どうよ
「変な名前を付けないで、この子は『打鉄二式』。武器の方は問題ないけどやっぱりプログラムが厄介。対抗戦には間に合いそうに無い」
「やっぱりね~」
この少女の名前は
簪は日本の代表候補生で、近い内に専用機が渡されるはずだった…………が、そこで現れたのが織斑一夏。あいつに専用機を渡そうと急いでいるあまりに簪に渡されるはずの専用機は開発中止、織斑一夏に専用機が渡された後も簪の専用機に人員が割けないと事実上の凍結扱いになっていた。
それにぶちギレた簪はそれを告げに来た担当者に罵詈雑言を吐き、開発途中だった専用機を受け取って自分で組み立てる腹積もりだったらしい。
で、どこから嗅ぎ付けたのかは知らないが甘粕がそれを知って仕事を放り投げて簪に会いに行き、『その意思は素晴らしい!!どうか俺たちに君が乗る専用機を作る手助けをさせてほしい!!』とか言って簪のことを説得した。
いや、別に説得したまでは良いんだが…………俺にそれを押し付けてるんだよ!!確かにそっちの方面に明るいとは言っても俺に丸々投げるのはどうなのよ甘粕ぅ!!
「となると…………対抗戦は不参加か?」
「ううん、訓練機で出る…………そして織斑一夏をボコる、絶対に」
「おぉう…………黒い黒い」
まぁ簪がダークサイドに落ちてもこれは仕方がない。こうなったのには本人の意思が関わっていないとは言っても織斑一夏に原因があるわけだし。『知らないのは罪ではない、知ろうとしないことが罪なのだ』って誰かが言ってたしな…………無知な織斑一夏が悪いってことにしておこう、うん。
「時雨さん、作業を再開する」
「はいよ、じゃあこっちのプログラムは俺が見るからそっちのプログラムは頼んだぞ」
「任せて」
弁当を食べ終えた俺と簪は未だに唐揚げで騒いでいるザフィーラとアルフの喧騒をBGMで聞きながら作業を再開するのだった。
凰鈴音
ワンサマが五年生の時、秋羅が六年生の時に二人のいる学校に転校してきた。そこで色々とあって秋羅のことを慕っている。なのでさん付けではあるがタメ口という少し不自然な感じになっている。原作のように夫婦の離婚が原因ではなく、仕事の都合で中国に戻ったことになっている。夫婦仲は良好。中国に戻ってからの検査で適正があることが分かり、努力と才能で中国の代表候補生になった。
痴女とラスボスと隠しボス
痴女=楯無、ラスボス=ミカド、隠しボス=時雨。強ち間違いではない。時雨はへぇの一言で終わり、ミカドは苦笑いで終わり、楯無はガチで止めてほしいと懇願していたが出会いがあれなので無視された。その後、時雨と虚に弄られて枕を涙で濡らすことになる。
二組での時雨
何故か時雨の素顔の写真が販売されてたとか…………そしてそれは飛ぶように売れて完売したらしい。
鈴音は秋羅の癒し
家族のことで心労の溜まっている秋羅の数少ない癒し。鈴音たち数名がいなければヤバイことになっていたらしい。
更識簪
日本の代表候補生で生徒会長の更識楯無の妹。ワンサマのせいで開発を凍結させられた打鉄二式を受け取って自力で完成しようとした努力の人。今作では原作にあった姉へのコンプレックスは時雨と虚の手によって無くなっているので躍起なって一人で完成しようとはしていない。自力で完成させようとしていることをどこからか聞き付けた甘粕が更識家に出向いて手伝わせてほしいと言ったことで甘粕工業からの資材や資金の提供を受けている。なお、開発に関することは時雨に丸投げされている模様。仕事自体には不満は無いが押し付けてきた甘粕には不満しか無いらしい。目標はワンサマの抹殺。
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