「くはぁ~…………」
朝日で目を覚まして体を起こす。首を回すと体が固まっていたのかバキバキと良い音が鳴った。時計を見れば午前の八時、クラス対抗戦は参加する生徒以外は見学自由な為に誰にも文句を言われない。楯無から集客状況を聞いたところ席は満席で立ち見の生徒もいるとか。わざわさ直接見るような試合も無いので部屋でモニター越しに観戦させてもらうとしよう。
俺の両隣で幸せそうな顔で眠っているザフィーラとアルフを起こさないように慎重にベットから降り、シャワー室に入り色々と頑張りすぎた結果汚れた体を洗い流す。
そして誰にも会う予定が無いので適当なズボンとワイシャツだけを着て籠った部屋の空気を入れ換えるために窓を開く。
「時雨さ~ん、いるっすか~?」
そんな時、ドアを叩く音と共に皇の声が聞こえてきた。クラス対抗戦でほとんどの生徒が出払っているので顔を隠すことなく扉を開ける。外には皇とハミルトンの姿があった。
「ハイハイ、何でございましょうか?」
「時雨さんは対抗戦を見に行かないっすか?」
「俺が行くと空気が悪くなる上に顔のことで色々と言われるだろうからな、大人しく部屋に引き込もってモニターで観ることに決めてる」
「だったら私たちと一緒に観戦しない?どうも人混みが苦手で私も行く気にならなかったのよ」
皇とハミルトンと観戦か…………別に構わないんだが今現在俺の部屋の中が中々にヤバイことになってるんだよな。
「良いけど…………俺の部屋は無理だぞ?テストパイロットの関係で機密書類とかがあってな、二人なら大丈夫だとは思うが万が一を考えると入れられないんだ」
嘘は言ってないよ?テストパイロットの関係で見せられない書類があることは事実だし。でも今はそれよりもベットで寝てるザフィーラとアルフの姿が見せられないけどな!!
「だったら私たちの部屋で観るっす!!」
「あら、それは良い考えね」
「…………ゑ?」
二人の言ってることが理解できない。年頃の女の子が異性を部屋に招くか?普通。
「えっと…………良いのか?」
「私は全然構わないっす!!」
「女子の部屋に入ることを躊躇ってるの?安心しなさい、部屋は片付けてるし見られて困るような物はちゃんとしまってあるから」
「そういうことを言ってるんじゃ無いけどな…………」
この二人はもう少し俺というか異性に対する警戒を強めた方がいいと思う。ハミルトンは色々と考えた上で大丈夫と判断してるみたいだが…………皇は考え無しでオーケーしてるみたいなんだよな。凄い心配だ。
「はぁ…………了解だ、ちょっと準備して行くから部屋の番号教えてくれ」
「1050号室っす」
「じゃ、ちゃんと来なさいね」
俺の返事を聞いて満足したのか皇はルンルン気分で、ハミルトンはにこやかに微笑みながら自分達の部屋に向かっていった。
それを見届けてから部屋の中に戻って携帯と財布を持ち、制服を羽織って寝ているザフィーラとアルフに1050号室に向かうことを書き記したメモを残す。
念のためにフードで顔を隠してから廊下に出て、二人の部屋である1050号室の前に辿り着いて扉をノックした。
「オーイ、来たぞぅい」
「どーぞー」
皇の声で返事を貰い、扉を開けて部屋に入る。部屋の中は女子の部屋にしては物が少なく寂しい風景だったが二人はそういう性格なのだろう。皇は寝転がりながら、ハミルトンはスナック菓子の袋を近くに置いた状態で自分のベットの上にいた。部屋に備え付けられたテレビには丁度対抗戦の開会式が映し出されていて、生徒会長である楯無が挨拶を行っていた。部屋に入ったことで隠す必要が無くなったのでフードを外す。
「いらっしゃい」
「ベットの上で食うなよ、汚れるぞ」
「大丈夫よ、寝る前にちゃんと掃除してるから」
「時雨さん、良かったら機体とか武器とかの解説をしてほしいっす」
「ん?それくらいなら構わんよ。っと、椅子借りるぞ」
「え?そんなところに座らなくても私のベットに座ればいいっすよ」
部屋にあった椅子を引いて座ろうとしたところでなんか皇がおかしなことを言ってきた。いやいや、俺たちの関係は友人だろ?それなのにベットの上まであげるか、普通。俺ならともかく普通の男だったら勘違いしてもおかしくないぞ?
「いやいや、無用心すぎるぞ。もう少し警戒しろよ」
「何でっすか?時雨さんなら大丈夫っすよ」
…………お願いだからそんな無垢な笑顔でこっちを見ないでください、浄化されてしまいます。
なんとか説得しようとしたが最終的にはハミルトンまで加わって説き伏せられて俺は皇のベットに腰を下ろすことになった。
「皇の将来が心配になる」
「そこで夜空の心配が出来るところが凄いわね。まるで父親か兄みたいよ」
「時雨さんがっすか…………時雨さん、兄と呼んでも良いっすか?」
「おいおい待て待てwaitwait、どうしてそうなる」
ハミルトンの父or兄発言に皇が便乗してきおった。わけがわからないよ。
「私の家庭って死別したせいで母子家庭で一人っ子だったから父親とか兄とかわからないっすよ。時雨さんが兄だったら嬉しいな~って思って」
「…………父でも兄でも好きな方で呼んでくれ」
さらりと重たい話を笑顔で話されたので思わず許可してしまった。これを断れる奴がいるなら連れてこい、俺が直々に滅相してやるから。
「えへへ~お兄さ~ん」
「はいはい、お兄さんですよ~」
皇が俺のことを兄と呼んできて膝の上に頭を乗せてきた。兄呼びを許した手前で拒むことはおかしいのでそれを受け入れて皇の頭を撫でてやる。癖の無いサラサラの髪の感触が心地良い。皇もそれを拒まずに嬉しそうに笑っている。
「…………本当の兄妹に見えてきたわね、甘えん坊の妹と面倒見の良い兄ってところかしら。顔の火傷が無かったら良かったのに」
「言いにくいことをさらりと言ってくるな…………俺だってこんなの着けたくて着けたわけじゃねぇよ」
「じゃあなんでそうなったっすか?」
「噂だとレイプしようとして近くにあったストーブに顔から突っ込んだってことになってるわね」
何度聞いてもその噂だけはおかしいと思う。なんだよストーブに顔から突っ込んだとか、火傷した経緯が分からないからといって適当すぎるだろ。
「その噂適当すぎるんだよな…………えっと確かISが出てきてから一年後だったから九年前の頃だな。ISの浸透してきたと同時に女尊男卑の考えが広がってきただろ?その馬鹿が徒党を組んで俺に命令してきて従う義理はないとボロ糞に言い返したんだ。そうしたら次の日の夕方にバットで頭殴られて動けなくなったところにガソリンかけられて火を着けられた。近くに消火器があったから良かったものの下手してたら死んでたな」
いや~あの時は焦ったな、八歳にして燃やされるところだった。なんとか消火器の中身ぶちまけて鎮火出来たけど最近のガキは怖いね、少し言い返しただけで殺人しようと思うだなんて。
「うわ…………」
「酷いわね…………その実行犯たちはどうなったの?」
「たまたま近くにいた奴に押さえられて警察に連れていかれたね。そいつらがどうなったのかはしりたくないし興味もないけど」
これは嘘だ、一月後に気になってそいつらのことを調べてみたら…………そいつらの両親兄弟を含めた戸籍が丸々消えていた。だからどうなっているのかは分からない。すでに死んでるのかもしれないしまだ生きてるのかもしれないし…………どちらにしてもろくな人生送れてないだろうな。
「ナノマシンの治療はしないの?」
「ナノマシンによる治療が確立した頃には痕になってたからな、使ったところで治らないって診断されたよ」
「痛くなかったっすか?」
「痛かったさ、鎮痛剤切れた時は死ぬかと思ったね」
ある程度の痛みなら無視できなくもないが日常的にそれをすると刺激に対して鈍感になるか出来なかった。その結果塞がるまでは火傷の痛みと戦うことになってたな。
「…………痛かったすね」
皇が手を伸ばして俺の火傷の痕に触れる。皇の指は俺の火傷の痕を恐る恐る触れて優しくなぞってくれた。
「そう言ってくれる奴がいるだけ救われるさ」
その皇の動作が嬉しいと同時におかしく、俺はその両方が混じったような笑いを浮かべてしまった。
「っ!!」
「どうした、ハミルトン?」
「な、何でもないわ!!(何今の笑顔!!いつもの時雨の笑顔と違いすぎてギャップが凄い!!時雨ってあんな風に笑えたのね…………)」
なんかハミルトンが鼻を押さえながらそっぽを向いたが…………本人が何でもないと言ってるから大丈夫なのだろう。
「っと、第一回戦が始まるな。さてさて、最初のカードはっと…………狙ってやってるのか?」
テレビに映る第一回戦の組み合わせは
一組代表 織斑一夏 VS 四組代表 更識簪
多くの観客が見守るアリーナに二機のISがカタパルトから打ち出される。
一機は一組代表の織斑一夏、そして織斑一夏の専用機である白式。
もう一機は四組代表の更識簪、そして訓練機の打鉄。打鉄の両腕には大きめのサイズの盾が装備されている。
「よろしくな!」
織斑一夏は右手の装甲を解除して簪に差し出した。試合の前に握手をしようという意思表示なのだろう。
「…………」
だが簪は無言のまま睨み付け、織斑一夏の行動を無視して定位置に着く。それを見た観客の一部からブーイングが上がるが試合開始の前に握手をしなければならないという決まりはない。織斑一夏は残念そうにしながらも定位置に着いた。
そして互いの視界の端に試合開始の10カウントが始まりーーーーーーーーーーカウントがゼロになった。
「行くぞ!!」
己を鼓舞するように織斑一夏は吠えて展開されていた雪片弐型を構えて簪に突貫する。織斑一夏の白式の装備はこの雪片弐型だけ、ブレード状の雪片弐型しかない織斑一夏は近づかなければ何もできない。
その事を事前に知っていた簪は織斑一夏を睨んだままその場から後退した。逃げたかと思い軌道を修正しながら簪を追いかける。が、ハイパーセンサーが警報を鳴らした。
『前方に爆発物あり』
「なっ!?」
とっさに曲がろうとするよりも早く、簪がいた場所に展開された手榴弾五個が爆ぜた。
白式の武装や性能から間違いなく織斑一夏は突進してくるだろうと簪は読んでいたので開始直後にその場に手榴弾を残して後退したのだ。
爆風をもろに受けて硬直した隙を逃すまいと簪はガトリング『轟雷』を二丁展開、銃口を織斑一夏に向けて引き金を引いた。
分に七百発を放つ弾幕を織斑一夏は直撃しながらもメチャクチャに飛んで逃げる。最初の手榴弾と轟雷の制圧射撃によりこの時点で白式のエネルギーは五割も削られていた。
「(このままじゃ不味い!!)」
完全に試合の流れを持っていかれたこととエネルギーの予想外の消耗に焦る織斑一夏だが今攻めているのは簪、悔しそうに歯を食い縛りながら織斑一夏は轟雷の制圧射撃から逃げる。
そして簪がひたすら撃ち続けた結果、チャンスが訪れた。轟雷から放たれる弾幕が無くなった、弾切れをおこしたのだ。
「(っ!!チャンスだ!!)うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
その事に気づくや否や織斑一夏は反転して簪に迫る。スラスターを過剰なまでに噴かしながら迫る織斑一夏を前に簪は新たな武装を展開するでもなく、弾切れになった轟雷を手にしているだけだった。
おかしいと思うことなく織斑一夏は簪に斬りかかりーーーーーーーーーー
「温い」
「なっ!?」
轟雷で雪片弐型を受け流された。渾身の力で振るった為に織斑一夏の体は泳いだ状態で簪の前にある。そこでようやく簪は轟雷を投げ捨てーーーーーーーーーー打鉄の両腕に着けられた盾を織斑一夏の腹に押し当てた。
そして爆音が轟く。織斑一夏は腹に凄まじい衝撃を受けたことに気づくのと同時にアリーナに張られた障壁にぶつかる。そして白式のエネルギーがゼロになり、試合終了のブザーが鳴り響く。
簪が織斑一夏に押し当てた盾の先端から鋭いスパイクが飛び出していた。
この武装はパイルバンカーと呼ばれる第二世代のISの武装の中でも最高の威力を持っているが射程距離が極端に短いという欠点を持つ。物によっては連発できるパイルバンカーもあるのだが簪の使ったパイルバンカーは単発限りの物。しかもその一発を放てばスパイクを打ち出すための火薬で盾にヒビが入り使い物にならなくなるという欠点もある。しかしその威力は絶大、実験では一発で防御特化の機体のエネルギーを四割削ったという化け物武装である。
甘粕工業製パイルバンカー『
専用機が訓練機に倒されるという事実を目の当たりにして沈黙しているアリーナの空気を無視して簪は織斑一夏を圧倒できたことを喜びながらビットに戻っていった。
クラス対抗戦
この作品ではアリーナで観戦する以外にも部屋に備え付けられたテレビで観戦することが出来ます。
時雨の方便
見られてはいけないような書類があることは事実、嘘は言ってない。だが真実を言っているわけではない。
1050号室
夜空とティナの部屋。女子の部屋にしては物が置かれていない。
皇夜空
母子家庭で育っているので父親を知らないでいる。時雨に警戒しないのはこの為かもしれない。
お兄さん
気がついたら時雨がお兄さん扱いに…………二組の面子が知ったら荒れそうです。
時雨の笑顔
人を馬鹿にしたような物やゲスい物しかティナは見たことが無かったのでギャップによりクリーンヒット。夜空はそんなに気にしていない。
簪対ワンサマ
簪の完封勝利。これは簪が完全にワンサマの行動を読み切ったから、詰め将棋のようなものである。
パイルバンカー『
甘粕工業製の武装。コンセプトは一撃必殺。これは試作品に近く、単発式で一発使うだけで破損する。しかしその分威力は絶大である。開発部の最終目標は『威力を変えずに五連発!!』だそうだ。破損する前ならもちろん盾としても使うことができる。
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