ISin時雨&ザフィーラ&アルフ   作:鎌鼬

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甘粕工業・弐

 

「え~それでは、若様こと甘粕時雨様のご帰還を祝して、乾杯!!!」

「「「「「「「「「「「かんっぱぁぁぁぁぁぁぁぁあい!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」

 

 

ガラス同士のぶつかり合う甲高い音が響く。余程の力でぶつけ合ったのかその音は思いの他大きく、事実強すぎて割れてしまったグラスもあるようだ。しかし、そんなことは気にせずに割れてしまったグラスのままで注がれていた液体を一気に飲み干している辺りを見ると些末なことらしい。

 

 

「…………なんっすかこれ」

「私に聞かないでよ…………」

 

 

この空気に取り残されてポツンと孤立していたのは皇夜空とティナ・ハミルトンの二人だった。

 

 

時雨がただいまと言って、社員たちがお帰りと時雨の帰還を喜んでから僅か十分で、エントランスにて宴会が開かれていたのだ。シートを敷いただけの床の上に並べられた料理や酒を見ると予め時雨の帰還を知っていたのではないかと思ってしまうが始めの反応を見る限りその線は薄い。つまり彼らは僅か十分でこれだけの用意をしたことになる。無駄に洗練された無駄のない行動の無駄使いである。

 

 

「おっといたいた、悪いな、君たちの飲み物はこっちだな」

 

 

事態に着いていけなかった夜空とティナを見つけてノンアルコールの飲み物を渡してきたのは赤髪を逆立てて赤いシャツを着た体格のいい男性だった。

 

 

「あ、ありがとうございますっす」

「ありがとうございます」

「俺は風鳴弦十郎、ここの警備の責任者をしている。正彦の奴が会社を立ち上げた時からいる、言ってしまえば古参の一人だな」

 

 

風鳴弦十郎と名乗った男性は自身の役職を端的に説明してくれた。夜空とティナも弦十郎に少し慌てながら自己紹介をすると弦十郎は二人の顔を見ながら感慨深そうに頷いていた。

 

 

「いやはや、ゼロから聞いてはいたが本当に時雨君が友達を連れてくるとはな…………」

「え?時雨さんって友達いないんすか?」

「いや、いるのことにはいるのだがな…………同年代のと付くと全然いないんだよ。顔の火傷と彼自身の性格からか周囲とは噛み合わないらしくてな」

「「あ~」」

 

 

弦十郎の言葉に心当たりが有りすぎたので二人は思わずそう言ってしまった。付き合いは短いが二人とも表面的には時雨がどんな人間なのかを知っている。気に入った人間や身内には優しいが気に入らなかったり関係のない他人には厳しい。自分達はそんなことは無かったが他の人からすれば受け入れがたい性格なのだ。

 

 

「いつも時雨君の周りにいたのは大人たちばかりだったからな…………しかし、君らのような年の近い友人を連れてきてくれたのは喜ばしいことだ!!」

「そう言えば、時雨のことを甘粕って言ってましたよね?不知火では無いのですか?」

 

 

弦十郎の人当たりの良さから緊張が解けたのか、ティナがふと気になったことを厳十郎に尋ねた。ここにいる誰もが時雨のことを『甘粕時雨』と呼んでいて時雨自身もそれを否定することなく受け入れているが二人が知っているのは『不知火時雨』なのだ。

 

 

「あぁそのことか、それはだな」

「待て弦十郎。それについては俺が話そう」

 

 

時雨が甘粕と呼ばれている訳を話そうとした弦十郎の言葉は横からかけられた声に遮られた。顔をそちらに向ければそこにいたのは何故か軍服を纏った男性とカッターシャツにジーンズと動きやすい格好をした女性。二人とも顔は整っており黙って立っているだけでも絵になるのだが手に握られていた酒瓶がすべてを台無しにしていた。

 

 

「御初にお目にかかるな。俺の名は甘粕正彦、若輩者ながらこの会社の代表取締役兼社長を勤めている」

「はじめまして、不知火ゼロだ。副社長で、このバカに代わっていろんなことをやっている」

「「」」

 

 

甘粕とゼロの紹介を聞いて二人は絶句するしかなかった。それはそうだろう、世界有数の企業である『甘粕工業』のトップ2が目の前にいるのだから。

 

 

「は、はじめまして!!皇夜空と申しますっす!!」

「は、はじめまして!!ティナ・ハミルトンです!!」

「はっはっは、そう固くなるなよ。折角の祝いの席だ、無礼講といこうではないか」

「無茶振りするなよ正彦、二人からしたら私たちは雲の上の存在なんだぞ。固くなってもおかしくはないさ」

 

 

甘粕が言ったことをゼロがやんわりと否定する。どうやら時雨からバカと呼ばれている甘粕と違ってゼロは常識という物を持ち合わせているようだった。

 

 

「さて、時雨が甘粕と呼ばれている理由についてだったな?結論から言ってしまえば『甘粕時雨』も『不知火時雨』も両方正しい」

「えっと…………つまり?」

「公式の場では不知火を名乗っているが私の今の名字は甘粕…………甘粕時雨は甘粕正彦と甘粕ゼロとの間にできた息子で私の旧姓である不知火を名乗っているから不知火時雨なんだ」

「…………待ってください、もしかして時雨は…………社長令嬢?」

「正しくは社長令息になるがな」

「「」」

 

 

ゼロから話を聞いた二人は絶句するしかなかった。それはそうだろう、今まで気軽に話していた人物が世界有数の企業の息子であると知ったら絶句するしかない。

 

 

「俺は別に甘粕を名乗っても良いと思うのだが時雨の奴がどうしてもと言うのでな」

「時雨はあんたみたいな人類最上級のバカじゃ無いからね、自分が甘粕の姓を名乗って起こる問題を考えた上で不知火を名乗るって決めたんだ。あんたみたいなバカと違ってね」

「相変わらず酷い言い種だな、ゼロ」

「事実だろうが」

 

 

甘粕とゼロの話を聞きながら正気に戻った二人は思わず叫びだしそうになってしまったがギリギリのところで堪えることに成功した。甘粕も口にしていたがここは祝いの席なのだ、無粋な真似をしてこの空気を壊したくないと二人は思っていた。

 

 

「っふぅ…………まさか時雨が甘粕工業の社長令息だったなんて…………」

「考えてみたら然り気無いところが礼儀正しいっすよね~…………普段の言動で隠れちゃってるっすけど」

「自慢の息子だよ…………でも、だからこそ親としては寂しいところがあるんだけどな」

 

 

自慢の息子だと言っているのにゼロの顔には哀しみの色が見えた。豪快に持っていた酒瓶の飲み口に口を付けて一気に煽るとゼロは口を開く。

 

 

「…………私は親として出来る限りのことはやってやったつもりだ。でも、時雨は私たちのことを頼るようなことはほとんどしないんだ。あの子は賢い、だから私たちを頼ると迷惑になると分かってるんだ。だけど、親としてはどうも寂しくてね…………迷惑かけられてもいいから、頼ってほしいと思うんだよ。我が儘だな、私も」

 

 

アルコールの入ったことでか饒舌になったゼロが心中を夜空とティナに吐露した。確かに時雨は客観的に見れば良くできた人間だと言える。しかしゼロの主観から見れば親を頼ってくれない子供になってしまう。時雨がどういう人間なのか分かっているつもりでいたのだが…………どこか一線引かれているようで母親であるゼロからすれば少し寂しいものがあった。

 

 

そしてゼロが寂しそうな顔をしている最中甘粕と弦十郎は社員たちに連れられて何故かドラム缶に詰められた酒を飲んでいた。急性アルコール中毒待ったなしである。

 

 

「親の気持ち、子は知らずってやつっすね」

「そしてこの気持ち、親は知らずとも言えるわね」

「それはどういう?」

「前に私たちが時雨さんに聞いたんっすよ。尊敬している人は誰かって」

「そうしたら時雨は迷うことなく両親だって答えたわ。『俺を生んで、育ててくれた二人のことを誰よりも尊敬している。俺が不器用なせいか二人に頼ることが少なくて寂しい思いさせてるかもしれない。だけど、いつかちゃんと頼れる日が来てほしい』って、そう言ってたわ」

 

 

何気無い会話の中で出された時雨の心の内。それは話し相手だった夜空とティナに伝えられ、そしてゼロに届いた。本人たちからしたら深刻な問題なのかもしれないが外から見ていると気がつくのだ。両者とも気持ちは同じ、どちらかが一歩歩み寄るだけで簡単に解決する問題なのだと。

 

 

不意打ちに近い形で時雨の心の内を聞かされたゼロは呆気にとられたような顔になり、そしてそうかと呟いて柔らかく微笑んだ。その笑い顔はクラス対抗戦の日にティナが見た時雨の笑みに良く似ていた。

 

 

「皇夜空、ティナ・ハミルトン、ありがとう」

 

 

ゼロは感謝の思いを伝えるために二人に向かって頭を下げた。それを見て二人は当然のごとく慌てる。世界有数の企業の副社長が頭を下げているのだ。例えその理由が個人的なものだったとしても、頭を下げられて平常心を保っていられるほど二人の胆は座っていない。

 

 

「あ、頭あげてくださいっす!!」

「そうよ!!私たちはただ時雨の言葉を伝えただけであって!!」

「それでも、だ。君たちがいなかったら私は時雨の思いを知ることが出来なかった。だからこうして頭を下げているんだ」

 

 

ゼロにそう言われて二人は何も言い返せなくなった。ゼロが抱いているのは感謝の念、それを率直に伝えるために頭を下げているのだ。それなのに頭をあげさせようとするのは感謝を拒んでいるのと同じになってしまう。

 

 

どうしていいか分からずに困っている夜空とティナの前に時雨が現れた…………両手の指の間に酒瓶を挟んだ状態で。

 

 

「よぅ、二人とも飲んでるか?」

「あんたは何サラリと酒瓶持ってるんすか!?」

「確か日本の成人は二十歳からよね!?」

「固いこと言うなよ。折角の祝いの席なんだぜ?飲まないと損だろ?」

「…………ちなみにそれは何本目かしら?」

「えっと……………………2ダースはいったか?」

「飲み過ぎっすよ!!」

 

 

アッハッハとあっけらかんと笑っている時雨と酒を飲んでいることに注意している夜空とティナの姿を見てゼロは呆気にとられ、そして可笑しそうに笑った。

 

 

ゼロが知る限りでは時雨が同年代で友人だと認めている人間の数は両手の指で足りるほどしかいなかったはずだ。だというのに夜空とティナのことを時雨は友人だと認め、二人もまた時雨のことを拒絶しないで受け入れてくれている。女尊男卑(思い上がった馬鹿共)のせいで顔に消えない痕を残された時雨のことをだ。時雨の親であり、時雨のことを大切に思っているゼロからすればこれほど嬉しいことはないだろう。

 

 

三人の邪魔をするのは良くないと思い、ゼロは気付かれないようにその場から離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその数秒後、両手にアルコール入りの一斗缶を持って踊っていた甘粕の首を360°回転させているゼロの姿があった。

 

 

 





~突然の宴会
時雨の帰還を喜んだ社員たちが自主的に始めた。なお、緊急の案件以外はすべて投げ捨てられた模様。

~風鳴弦十郎
言わずと知れたOTONA。シンフォギアの三期を見ていたら沸き上がってしまった衝動をそのまま書いちゃいました。甘粕とゼロとは腐れ縁、その繋がりで時雨のこともよく知っている。姪と後見人を務めている少女が歌手らしい。

~ゼロの思い
ちょつとしたスレ違いとも言える。時雨は迷惑をかけたくないから頼らなかったがゼロからしてみれば迷惑になってもいいから頼ってほしかった。だけど夜空とティナによって時雨の考えを教えられたために解決した。

~未成年の飲酒
これは小説だから、現実でしてはいけません。いいね?

~首を360°回転させられた甘粕
回転させられた後崩れ落ちながら首を元の位置に戻し、ゼロに首根っこ捕まれてドナドナされました。その姿を見ていた社員たちは迷うことなくドナドナされていく甘粕に敬礼を送った。


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