……こんな日の夜だった。
飯を買うために、いつもは近くのコンビニを使うのだが、散歩したい気分だった俺は家から数10分ほど遠くのコンビニで飯を買っていた。
それにしても、12月の冬というのはどうしてここまで風が冷たいのだろうか。乾燥した空気に加え、肌を痛めつけるかのような冷たい風が吹いてくる……そんな日の夜だった。
その帰りのこと、俺は直接家に帰らずにてきとうな場所を歩いていた。時間が時間なのか、人の気配が全くしない。街灯の光は誰もいない真っ暗な道路を照らしている。暗闇の中、ポツンと俺1人が取り残された気分だ。
さらに寄り道をする。周りには田んぼがあり、田舎らしさを出したような風景が広がる中、俺は1つの神社を見つけた。上に辿りつくための階段のところに明かりは一つもなく、慎重に一段一段と踏んで行かないと足を滑らせてしまいそうなほどだ。
上へ辿りつくと、今度は50mほどの道を歩く。周りは木々で囲まれており、やはり明かりはなく、少し不気味な雰囲気を出している。
そんなこんなで、やっとゴールに辿りつく。明かりは賽銭箱と鐘を鳴らすところにしかないが、先ほどの道に比べれば全然明るく感じる。
そこで俺は、こう願う。
……今思えば、ここが始まりだったのかもしれない。
「どうか…事故で意識不明の妹を…助けてください……!」
それから数ヶ月経ち、4月となった。
願いのほうはどうかと言うと、短く、簡潔に言って叶わなかった。
むしろ、異変はあったのだが……
それはさておき、なぜ俺が、あの神社でそう願ったのかはまた後日に述べるとしよう。
「さぁて…今日も学校がっこ–」
瞬間、足が上へ上がり、上半身は寝た状態で浮いた形になり、更には視界が雲一つない青空に切り替わる。昔の特撮やら番組などででなかっただろうか、シーンを変えるために一度空を映すような……たった今俺は…そのような視界であった。
「……嘘だろ……あがっ!!」
外側からすれば数秒なのだろうが、俺からすればその瞬間は数分にも思えるくらいの長さであった。そのまま地面に後頭部を打ち付けて、仰向けの状態で倒れる。
俺は……転んだのだ。足元に捨ててある缶ゴミのせいで。
「ちきしょう…今日もかよ……なんでこんなところに缶ゴミがポイ捨てされているんだよ……」
ポイ捨てはいけない。ダメ、絶対。
俺はそんな缶ゴミをどこかのゴミ箱に捨てるために拾うが……なぜかべチャっとした。
「…中身入ってた……しかも踏んだせいで少し外に溢れてるとか……」
さらに言うと、缶の中身はサイダーであった。これ早く手を洗わないとベタベタするんだよな……
そう、これが異変である。というか最近毎日のものだ。
「…やっぱり、あの神社で願い事をしたからこうなったのか…?いや、でもあの時俺…妹を助けてくれと頼んだ…よな?なんで俺が不幸になって痛い目会っているんだよ……納得いかん!!」
と、思わず叫んでしまったところを[たまたま]そこを歩いていたおばさん2人に聞かれていた。
盛大に……大きな独り言(叫び声も含めて)
「やぁね…最近の子は……」
「そうねぇ……最近の子は独り言も大きいのかしら…」
「それに叫んでいたわよね…」
「えぇ…世間が辛いと若い子にも影響が出るものなのかしらねぇ……」
「…………………」
ヒソヒソ話のつもりなのだろうが、こちらにまでよく聞こえてしまうぶん、余計に辛くなる。
「………不幸だ…」
あれからさらに数分後に学校に到着するが、まさかの遅刻……早めに出たつもりが信号に何度も引っかかってしまったためだ。
学校内では、授業に必要な教科書忘れたり、昼食の弁当置いていってしまったり、購買に行くも美味そうなパンや丼物は全部売り切れ…結局バターロール3つというひもじい昼食を終えた後の授業で大きく腹が鳴り、周りには笑われ俺は赤っ恥。
という感じで学校は終わった。
高校二年……なんて最悪な厄日なのだろう……
「…でも帰りはあまり不幸なこと起きないんだよな…いいや、病院に行こう……」
数分後、特に何事もなく病院へ辿り着いた。
そして俺が向かうは1つの病室……そう、神社で願った交通事故で未だに意識不明の妹の病室だ。
「失礼します……って、こいつ以外誰もいないか…」
清潔に保たれた病室のベットに横たわって眠っている中学2年生ほどの少女は、この俺、柏木 幸一(かしわぎ こういち)の妹、柏木 鈴(かしわぎ すず)である。
「よう…元気か…?鈴……」
鈴の周りには生命維持装置がずらりと並べられており、そのすべての導線の先が鈴に繋がっている。
俺の両親は旅行先で交通事故に遭い、2人は死亡し、俺と鈴はそれぞれ別の親戚に引き取られて別々に暮らしていた。
そして、あの夜の前日に鈴がこちらの家に遊びに来ることになった。そしてその道中に……交通事故に遭う……父さんと母さんのように。幸い一命を取り止めたものの、未だに意識は回復の余地がないとされている。その上、万が一意識が回復したとしても何かしらの障害は残るだろうとされている…それが記憶喪失なのか、歩けなくなったりするのか、またまた喋れなくなるのか……分からなかった。
「…理不尽……だよな…鈴…」
正直、俺も限界であった。鈴と特別仲が良いとか、そういうもののないごく普通の兄妹だが、もう俺にとっては掛け替えのないたった一人の家族なのだ。妹が死んでしまえば…俺の家族は皆死んでしまったことになる…それも皮肉なことに全員交通事故で…だ。
「親父も…お袋も……皆交通事故で亡くなったってのに……お前まで交通事故で連れて行かれちまうのかよ……ひでぇ…運命だよな……」
なぜ鈴だけがこんなに酷な現実に晒されてしまうのか……両親は亡くなり、鈴も交通事故で数ヶ月の意識不明。加えて回復したとしても、医者からは何かしらの障害が残ると言われている。それに引き換え俺は…缶ゴミを踏みつけて頭打つわ、その缶ゴミに中身が入っているわ、学校を遅刻するわ、授業に必要な教科書を忘れるわ、弁当忘れるわ、購買で安いパンしか買えないわ……その差はよく分かる。
「神様に頼んでみたよ…お前が無事に回復して、またいつものように暮らせるように……ってさ。でもな……数ヶ月…数ヶ月だぞ……何も……変わらないなんてさ…!」
声が震えてくる。次第に目に熱いものが込み上げる。
辛い。また家族を失うことが。
怖い。当たり前と思っていた日常がまた潰えることが。
痛い。目の前で死んだように眠り続ける妹を見るたびに、心臓が痛む。
「神頼みでも……何も変わらないのかよ……!ちく……しょう…!」
もしかしたら誰かに聞かれているかのような声量による独り言なのだが、もう抑えることすらもできない。
いつまで続くのだろうか、この状況が。終わったとしても、それはhappy endで終わるのだろうか……否、意識が回復しても障害が残り、回復せずに亡くなっても辛いのは俺であり、bad endしか見える気がしない……それが現状であった。
「……お前の不幸…理不尽さ……俺が少しでも…肩代わりできたら……な。」
瞬間
『お主……その願い…心から願うか?』
「…は?」
どこからか声がする。あたりを見渡すも人影のようなものは見えない。
『再度問う、お主はその願いを心から願うか?』
また声が聞こえ、今度こそどこから声がしたかを理解できた。
頭の中だ。頭の中の中心部から声が発せられているように聞こえる。普通なら考えられない状況なのだが……俺はその状況に対し、取り乱すこともなく、すんなりと受け入れられた。心が参っている証拠だ。
「…どういうことだ?」
『お主のその願い、そこで床に伏しておる者の不運、理不尽、肩代わりしたいと……願うか?』
「できる…のか?」
信じられないことだ。ふと頭の中に思い浮かんだ願望が、本当に叶うことになるなんて……普通なら信じられないことだ。
『できるぞ、お主が心の底からそう望むのならな。』
「あんたは…一体……」
『問いを問いで返すでない。さぁ、答えよ。願うか…願わぬか。』
一切の現実味も感じないのだが、俺の中で答えはすでに決まっていた。それは……
「願う…!」
『……その意気や良し…お主の願い……叶えてしんぜよう!!』
瞬間、鈴の体がまばゆい光に覆われる。反射的に目を閉じなければ、目が焼かれているほどのまばゆい光だ。思わず目を閉じてしまう。
やがて、光が収まり、目を開けると…
「ふぅ…久々の肉体じゃぁ…とても落ち着くのぅ…」
「……………は?」
妹が寝ていたベットの上にいたのは、点滴やらそういった類の物を取り付けられた1人の少女。
だが、そこにいるのは妹であって妹ではない。今そこにいるのは目にまでかかるほど長い神秘的に水色に輝く長髪少女。肌は血色を感じさせないほどの白い肌に、元は穏やかな鈴の目が、つり目で、赤い瞳の少女が……そこにはいた。
「それにしても、肉体を持って目覚めたのはいつぶりかのぅ…しばらく霊体でおったせいか、体が重く感じるわい……」
先ほど外見を説明した神秘的で、現実の物とは思わせない少女は、気だるげに背伸びをしている……ってそうじゃない!!何もうそこにいるのが当たり前みたいになってんだ俺!!自分の順応差を呪いたくなるほどだ……
「む?お主、先ほどから何をジロジロと見ておるのじゃ?そんなに儂の姿が魅力的かえ?」
「…いや……そうだな。色々と聞きたいことはあるんだが……とりあえず1つ……お前は誰だぁ!!??」
疑問に疑問が募り、ついに耐え切れずに大きな声でそう叫んでしまった。…ここ病院なのにな……
「儂か?儂はのぅ………神じゃ」
妹を助けたい俺 と その妹に憑く神様
第1章、妹を助けたい俺
第1話へ続く。