椋さんがお休みの日、僕は椋さんに付き添ってもらって外を歩くのが日課になっている。リハビリは病院でもちゃんとしてるんだけども、少しでも早く一人でで歩けるようになりたいのだ。
「勝平さん、疲れましたか?」
「え?」
考え事をしていたので脚を止めていたら、椋さんが心配そうに僕の顔を覗きこんできた。あぁ、やっぱり椋さんは優しくて美しい人だな……
「本当に大丈夫ですか?」
「うん、平気。ちょっと椋さんの美しさを再確認してただけだから」
「勝平さんたら……」
照れてしまい僕から視線を逸らす椋さん。結婚したといっても長い間、僕は入院生活で椋さんと二人で過ごした時間はそれほど多くは無い。だからではないが、結婚して数年経つのにも関わらず、僕たちは付き合いたての恋人同士のような反応を見せるのだ。
「勝平さん、あれって岡崎君じゃないですか?」
「えっ、朋也君?」
この時間なら朋也君は仕事のはずだ。こんな場所にいるはずが……
「ホントだ」
椋さんの視線の先では、朋也君が女性にお礼を言われているようだった。遠目では分かりにくいが、朋也君が女性を脅してるなんて発想は僕たちの中には起こり得ないのだ。
「行ってみますか?」
「そうだね。まだ朋也君もあそこにいるし」
今は外回りなのだろうか? 回収に使ってると聞いた軽トラも見当たらないのを見ると、多分そうなんだろうな。
「こんにちは、岡崎君」
「ん? よう、勝平に椋か。何かあったのか?」
「ううん。ちょっとリハビリ代わりにお散歩してたら朋也君を見かけたから」
「あの、本当にありがとうございました」
「いえ、それではお気をつけて」
僕たちが話しかけたからだろうか、女性が改めてお礼を言って朋也君から離れていく。朋也君も穏やかな表情で女性を見送り、僕たちに視線を戻した。
「あの女性は?」
「ん? あぁ、道を聞かれただけだ」
「それにしては随分と感謝してましたが……」
「なんでも二十分は困ってたらしいんだが、誰ひとり声を掛けてくれなかったらしい」
最近はそういう事も多いらしいね。携帯やらで色々と調べられるし、他人と無理に関わろうとするなんて面倒だという考えが主流になっているとか……最近の若い者はって考えはおかしいかな? 僕だって一応は「最近の若い者」なんだから。
「じゃあ俺も行くわ。ご近所回りをして営業中なんでな」
「そう、じゃあまたね」
朋也君は僕と椋さんに会釈をして僕たちが歩いてきた道を進んでいってしまった。何時か朋也君とも一緒に歩ける日が来るのかな?
「それじゃあ勝平さん。そろそろ私たちも行きましょうか」
「うん、そうだね」
「お昼のお買いものをしていかないと。もう材料もありませんし、美味しいものを勝平さんに食べてもらいたいですし」
「そ、そうだね……」
椋さんの料理の腕は、高校時代からさほど進歩していない。それでも、窓を開ければ空から鳥が降ってこなくなっただけマシなのかもしれないが……
午後は二人で部屋でのんびりしていたのだが、夕方近くなって杏さんが部屋を訪ねてきた。最近毎日来てるような気がするのは僕の気のせいなのだろうか?
「ちょっと聞いてよ椋」
「なに? 如何かしたの」
「あたしの専門学校の同期が結婚するらしいんだよね」
「そうなんだ」
「『そうなんだ』って、アンタ反応薄いわね! 同い年が結婚するのよ!?」
「そんな事言われても……私はもう結婚してるし」
「あ~……そうでしたね~……アンタに愚痴ったあたしがバカだったわ」
口で文句を言いながら、杏さんは僕を見てきた。何となく居心地が悪かったので、僕はあくまで自然にその場から移動する事にした。
「ちょっと勝平さん、何処行く気?」
「と、トイレだよ」
もう何回もこの視線を浴びているけども、杏さんが疑っている時の視線は本当に鋭くて怖い。朋也君は慣れているようだったけども、僕はあの境地に至るまで何年かかるんだろうな……
「お姉ちゃん、勝平さんに八つ当たりは止めてよね」
「分かってるって。ただちょっとアンタたちがうらやましいって思っただけよ」
「羨ましい?」
「ほら、出会ってすぐに意気投合したみたいだったし、その後も順調に……いや、色々あったけど二人の関係的には問題なく進んで結婚したでしょ? あたしもアンタたちみたいに運命の出会いってものをしてみたいわね~って思ってただけよ」
逃げ出した手前すぐに戻れないので、僕は廊下で二人の話を聞いていた。確かに色々あったけども、僕と椋さんの関係には特に大きな障害は無かったな。
「なら岡崎君は? お姉ちゃんとあそこまで付き合える人は他にいないし」
「な、何でそこで朋也なのよ! あたしとアイツはそんな関係じゃないし!」
「でもお姉ちゃん、岡崎君の事好きだよね?」
「ッ!?」
そっか……杏さんは朋也君の事が好きなんだ。今度朋也君に会ったらそれとなく聞いてみようっと。
自分も靱帯やった時はよく散歩しました、リハビリ代わりに……