椋さんとリハビリ代わりの散歩をしていたおかげで、僕の脚の回復は普通より早い感じなのだそうだ。それでもまだ一人で歩くには不安が残ってるので、こうして杖を使っているのだけども。
僕の見た目は朋也君よりも幼い感じなので、こうやって杖をついていると周りの人が子供なのに大変そう、という視線を向けてくる事があるのだ。僕は声を大にして言いたい。僕は立派な大人だと。
まぁ僕が歳より幼くみられるのは今に始まった事じゃないし、朋也君も最初は僕が年上だとは気づいてなかったしね。
「よう」
「?」
病院帰りに背後から声をかけられて、僕は振り返る。こんな風に声をかけてくる知り合いなんて、僕には一人しか思い当たらないから特に誰だと考える事も無かった。
「朋也君、如何したの? こんな場所で」
「近所に家電の修理に来てたんだよ。そうしたらお前の姿が見えてな」
「そっか」
「乗ってくか?」
朋也君は自分が運転してきた軽トラを指差す。僕は免許を持ってないから運転は出来ないけども、何時かは自分で運転してみたいという希望は前からあるのだ。
「邪魔じゃない?」
「大丈夫だ。俺も後は戻るだけだし、お前の……いや、お前らの家に寄るくらい問題無いぞ」
朋也君は僕の部屋ではなく椋さんの部屋だという事を思い出したのか、わざわざ言い直す。意外と律儀なんだよね、朋也君って。
「じゃあお願いしようかな。この間歩いて帰ってたらお婆さんに心配されちゃったし」
「仕方ないだろ。お前みたいな若いヤツが杖ついて歩いてるんだから」
「そんなに心配されるような事じゃないんだけどな……今だって念のために杖を使ってるだけなんだから」
そんな事を話しながら、僕は朋也君の運転する軽トラに乗り込んだ。荷台には様々な工具が乗っけられてたり、回収した家電製品も無造作に積まれている。
「あれって如何するの?」
「ん? あぁ、修理出来そうなら会社で直す。無理そうなら修理の練習に使ったり、使えそうな部品だけ取り出して後は処分だな」
「なんだか大変そうだね……」
「まぁな。でも、直して使えそうなら持って帰っても良いって言われてるから、意外と便利だぜ」
「そうなんだ」
自分で修理したものを使えるってなんだか羨ましいな。自分の手で壊れたものを直す、なんだか男らしい感じがする仕事だ。
「そういえば勝平は携帯持ってないんだっけ?」
「えっ? うん、この間まで入院してたし、親しい友人も殆どいないしね」
「まぁ俺も就職するまで携帯なんて持ってなかったけど、意外と便利だぞ」
「朋也君は春原君とやり取りとかしてるの?」
「いや? あのバカとはしてない。その妹からは偶にメールが来るがな」
朋也君は前に一度だけ春原君の妹さんと会った事があるらしいのだ。その時に春原君の近況を知らせてほしいと頼まれて文通を始め、今はメールでやり取りしているらしいのだ。
「そういえば椋からメールも偶に来るぞ」
「えっ!? 朋也君、何時の間に椋さんとメールアドレス交換してたの?」
「再会して暫くしてから。お前の近況とか色々な」
「そうだったんだ……」
自分の奥さんと友人がメールのやり取りをしてるなんて、なんだか複雑な気分だな……まぁ椋さんに限って浮気は無いだろうし、朋也君もそんな事をするような人じゃないって分かってるから安心なんだけど。これが春原君なら疑うんだろうけどね。
「……勝平、実は椋から相談を受けてるんだが」
「ん? どんな内容?」
「最近お前がこそこそと何かを調べてるって。あれって結婚式の事か?」
……椋さんにバレてたんだ。僕的にはバレ無いように細心の注意を払っていたつもりなんだけどな……
「黙ってるって事は図星か。いい加減話しちまえよ。言いにくいなら俺が言ってやろうか?」
「うん……ううん。僕が言うよ。椋さんだって心配してくれてるんだ。夫である僕がその心配を取り除かないといけないよ」
「そうか……ほら、着いたぞ」
話しながらだったのか、病院からここまで短く感じた。きっと朋也君が一緒だったからなんだろうけども、恥ずかしいからそんな事は声には出さなかった。
「早めに言っちまえよ。うだうだしてると椋が更に心配するだろうし」
「うん、ありがとう」
朋也君に手を振り、僕は部屋の中に入って考える。確かに最近色々と調べてみたけども、やっぱりお金がかなり掛ってしまうのだ。そうなると貸衣装などで済ませるのまありかなって考えたんだけど、ここら辺は椋さんと相談しなければならない部分なのだ。朋也君の言うように早めに相談しないとずるずると先延ばしになってしまうだろう。
僕は誰もいない部屋で一人ぶつぶつとその事について呟きながら考え込んでいた。この光景を誰かに見られたら、今度は頭がイカレたのではないかと脳外科に連れて行かれそうなくらい、僕は一人でブツブツと呟いていたのだった。
杖を使うのって結構大変なんですよね……