会社に戻ると社長から呼び出された。
「なんです?」
「悪いが、ここに向かってくれ。急ぎで修理を頼みたいそうだ」
「分かりました。ですが、何故俺なんです? 他にもいたでしょうに」
外回りを担当していたのが俺なのだから、会社には数人の社員が残っていたはずだ。急ぎというなら俺ではなくそっちを向かわせた方が早かったのじゃないだろうか?
「お前をご指名だったんだよ。早く行ってこい」
「はぁ……分かりました」
ご指名とか言われてもな……この苗字に見覚えは無いし、営業で訪ねた家でも無いんだけどな……
軽トラを運転しながら、俺は何故自分が指名されたのかずっと考えていた。ここ最近営業のおかげで顔と名前を覚えてもらってはいるけども、それでも訪ねた事の無い家から依頼があった事は無い。もしかして誰かから噂を聞いて頼んだのだろうか? それでも俺を指名する理由が分からない……まぁ考えても仕方ないので止めるか。昔から考えるのは面倒だからしてこなかったのだから。
「ごめんください、○○産業です」
「はーい」
到着して家の中にいる人に声をかける。チャイムがあればよかったのだけども、如何やらこの家にはチャイムが無いようだったので声をかけたのだ。
「ごめんなさいね、わざわざご指名しちゃって」
「いえ……それは問題ないですが、何故自分を? 何処かでお会いしましたっけ?」
家から出てきたのは七十歳くらいの老婆だ。俺の記憶の限りでは会った覚えは無い。
「岡崎さんの事はご近所さんから聞いたんですよ。若いのにしっかりしていて仕事も出来る人だって」
「そうですか」
確かにこの辺りで前修理作業をした事がある。なるほど、そこから聞いて俺を指名したのか。
「それで、修理が必要なものはどちらに?」
「これなんですけどね」
家の中に案内され、俺は指差されたテレビを修理する為にまずは調べる。随分と年季の入ったテレビで、これなら買い換えた方が良いかもしれないと思ったのだが、わざわざ修理を頼むと言う事は何か思い入れがあるのだろう。
「これなら直せそうですね。ちょっと道具を取って来ますので待っていてください」
軽トラに積んである工具を取りに戻り、俺は修理を始める。慣れたものだが、修理中にじっくりと見られるのは如何しても居心地が悪いのだが……
修理を終え料金を受け取って俺は会社に戻ってきた。さっきはまだちらほらと残ってるやつらもいたが、今は社長だけだった。
「戻りました」
「おう、ご苦労さん」
「これ、今日のお金です」
外回りで得た利益を社長に渡して、俺は私服に着替える為に更衣室へと移動する。更衣室と言ってもロッカーが置いてあるだけの普通の部屋なのだが。
「おい、岡崎」
「はい? なんですか」
「お前、最近成績が良いじゃねぇか。この調子で頼むぞ」
「はい!」
俺がここに入った時には社長と二人だけだったけども、今では少ないが後輩もいる。とはいっても外回りにはまだ出てないペーペーなのだが。
「お先に失礼します」
「おう」
社長に一声かけてから、俺は会社を後にして部屋へと帰る事にした。途中で見知ったような女の背中を見つけ、俺はとっさに隠れた。
「……って、何で俺が隠れなきゃならんのだ」
よくよく考えてアホらしくなり、俺はその背中に声をかける事にした。
「よう、お前も今帰りか?」
「あっ、岡崎君。はい、私もついさっき終わりましたので」
「大変そうだな」
「それは岡崎君も同じです。そういえば、勝平さんを乗せてくれた軽トラって岡崎君のですよね? ありがとうございます」
「いや、それは別に良いんだが……何でお前が知ってるんだ?」
勝平を乗せたのはさっきだ。家に帰って無い椋がその事を知ってるのはおかしいような……
「たまたま見ていた患者さんがいまして、特徴から岡崎君かなって」
「特徴?」
「勝平さんと親しげに話す少し年上風で目つきが鋭そうな男の人って」
「……俺は年下だし、それほど目つきも鋭く無いぞ」
高校時代には多少そんな事を言われた事もあるが、今はそんな事は無いはずだ。
「遠目で見たら岡崎君は大人っぽいのでしょう。それに、勝平さんと比べれば十分鋭い目つきをしてるんだと思いますよ、岡崎君は」
「アイツと比べるなよな……」
全体的にぽやっとしてる勝平と比べられたら、大抵の人間の目つきは鋭いと言われるだろうな……
「良かったら寄っていきません? 腕によりをかけて料理を作りますので」
「い、いや……勝平に悪いし、どうせ杏が入り浸ってるんだろ? 杏に食べさせてやったら如何だ?」
「お姉ちゃん、私の料理食べてくれないんですよ」
……さすが姉、自分の妹の料理の腕がどんなものか知ってる様だな。俺は何とか理由をつけて椋たちの家に寄る事を断り自分の家に帰る事に成功した。スマン、勝平……椋の料理はお前が処分してくれ。
営業担当じゃないので、どれだけ大変なのかはピンと来てません……