勝平から呼び出されて、俺は二人の部屋を訪れる事になった。最近は杏がしょっちゅう遊びに来てるとかで遠慮していたのだが、相談があるのなら仕方ない。
「おーい、勝平。来たぞ」
扉越しに声を掛ける。高校時代に病院を訪れた際に気まずいタイミングだった事があったので、出来る事なら椋と二人きりの時には訪れたくないんだよな……
「やぁ、いらっしゃい」
「今日は一人なのか?」
「杏さんも最近は来てないし、椋さんは今日遅番だから」
「そうか。だけど何で杏の名前が先なんだ?」
「別に深い意味は無いよ」
まぁそうだろうけども、若干の引っかかりを覚えたのはたしかなのだ。
「まぁいっか。ほれ、差し入れ」
「わざわざありがとう。さぁ、上がって」
勝平に招かれ部屋の中へと入る。一週間ぶりくらいだが、この部屋はちゃんと掃除してあるので不快感は無い。
「最近は如何だ? 歩けるようになったか?」
「一応は杖が無くても大丈夫かな。でもまだ遠出とかは難しいかも」
「仕方ないだろ。五年間入院してたんだから」
勝平と近況を話しあいながら、買ってきたものをツマむ。少々行儀は悪いかもしれないが、別に男同士なので手づかみでも気にはならない。
「それで?」
「ん? 何、いきなり」
「相談があるって言うから来たんだろ」
「あぁ。そうだったね」
こいつは……恐ろしく自分勝手で、恐ろしく記憶力が悪いやつだな……
「杏さんの事なんだけどね」
「杏?」
勝平から杏の事で相談されるとは思ってなかったので、俺は面食らった。
「何でそんなに驚くのさ?」
「いや、てっきり椋の事かと思ってたから……まさか勝平から杏の事を相談されるなんて思ってもみなかったからだ」
「そう? お義姉さんの事なんだし、別に不思議ではないと思うんだけど」
「で、杏のヤツに何かあったのか?」
「うん……いや、詳しい事は僕は知らないんだけどね」
そんな前置きをしてから、勝平は視線を逸らした。
「おい、そこまで言って何も言わないなんて無しだからな」
「朋也君……目が怖いよ?」
別に睨んでいるつもりは無いのだが、如何やら俺は目を細めるだけで怖いらしいのだ。
「まぁいいけど……最近、杏さんがこの部屋に来ないんだけども……」
「別にいいだろ。この部屋はアイツの家って訳じゃないんだしよ」
「でもさ! 退院してからほぼ毎日来てたのに、もう三日も来てないんだよ? 心配……」
「……三日?」
勝平の言った日数に引っかかり、俺は勝平の言葉を遮る。それくらいなら別に仕事が忙しい、とか何とかで片付きそうな疑問なのだが……
「なぁ勝平、念の為に訊くが」
「……何?」
「お前、杏のアドレスや番号を知ってるよな?」
「うん……」
「心配なら連絡すれば良いだろ。それでお前の疑問は解決する」
「でも、何でも無いのに連絡するのって失礼じゃないかな?」
「妹夫婦の家にほぼ毎日入り浸ってた義姉に遠慮する事なんて無い。むしろ放っておけ」
どうせ勝平と椋のラブラブっぷりに中てられて寄り付かなくなったとか、そんなところだろうし……
「う~ん……そうだ! 朋也君が連絡すればいいんだ!」
「はぁ!? 何で俺が杏に連絡なぞせにゃならんのだ」
「だって僕が連絡するよりも、朋也君がしてくれた方が杏さんも嬉しいだろうし」
「何を根拠に……そもそも、たった三日寄りつかなかっただけで心配するなんて、お前は随分と心配性なんだな」
俺だったら一月連絡が無くても気にならないだろうな。
「だってあの杏さんだよ!? 何時まで経っても椋さんと仲良しで、なかなか妹離れ出来ないあの杏さんが三日も来てないんだよ?」
「そもそも、お前が退院するまで杏と椋はさほど会ってなかったんじゃないか?」
「そうなの?」
「俺が知るか! だいたい、俺だってお前が退院するってまで杏とも椋とも会ってなかったんだ」
だから三日会わないくらい如何って事無いと思うのだ。
「そうなのかな……やっぱり気になるし、朋也君、連絡してみてよ」
「断る」
「断るまでコンマ五秒無かったよ、朋也君……って、何で断るのさ!」
「俺は気にならないからだ」
事実のみを端的に告げて、俺は下ろしていた腰を上げさっさと帰宅する事にした。これ以上勝平の心配性に付き合っていたら明日の仕事に支障が出るかもしれんからな。
「じゃあ、もし明日も来なかったら朋也君に電話するから。そうしたら朋也君が杏さんに電話してよね」
「一々俺を巻き込むな。気になってるのはお前で、俺は全く気になって無いんだよ!」
「だって……僕じゃ杏さんから何かを聞き出す事なんて出来ないし……」
「まぁ、確かに……」
勝平じゃ言いくるめられて終わりの様な気がする。それは否定しないし、出来ない。
「せめて一週間くらいにしろよ」
泣きそうな勝平に根負けして、俺はそう告げてから部屋を出た。別に杏が一週間顔を見せなくても勝平的に何の問題も無いと思うんだけどな……
相談相手はやっぱり朋也……