お姉ちゃんのツンデレ発言が原因なのかは分からないけど、ここ最近岡崎君がこの部屋を訪ねる事が無くなってしまっている。もともと、岡崎君はそれほど頻繁にこの部屋に顔を出す気は無かったのだが、あの日を境に連絡も全く無くなってしまったのだ。
「朋也君、やっぱり怒ってるのかな?」
勝平さんも、あの発言が原因だと思っているらしく、岡崎君がまだ怒ってるのかと気にしている。
「お姉ちゃんは昔から岡崎君と春原君に対しては口が悪かったからね。まぁあれが素なんだけど、上手く猫被ってたから……岡崎君も本気にはしてないとは思うんですけどね……」
語尾が小さくなっていくのが自分でもわかる。それほどまでに自分の姉に対して確信が持てないのだ。
「僕があんな事言われたら、きっと立ち直れないと思うんだよね……」
「勝平さん以外でもそうだとは思いますよ……さすがに芋虫以下って言われたら立ち直れませんって……」
昔はミジンコとか言ってた気もしますけど、お姉ちゃんは岡崎君に対しては特に口が悪くなってるような気がすんですよね……本当にお姉ちゃんは岡崎君の事が好きなんでしょうか?
「そう言えば、あの日以来杏さんも来てないよね?」
「あの後自己嫌悪に陥ったらしいですからね。今も反省してるんじゃないですか?」
いくらお姉ちゃんでも、あれは言い過ぎたと思ったらしいのだけども、反省するくらいなら言わなければ良かったのに……
「連絡してみようか」
「岡崎君にですか? 私も何度かしてますけど、返事は普通に来ますよ」
「そうなんだ。じゃあ僕もしてみよう」
勝平さんが岡崎君にメールを送ると、十分後に返事が来ました。
「朋也君、仕事が忙しいんだって。それに、あの事は気にしてないらしい」
「まぁ、岡崎君もお姉ちゃんとの付き合いが長いですからね。お姉ちゃんの言葉を一々真に受けてたら身が持たないって分かってるんでしょう」
まぁ問題は、岡崎君の方ではなくお姉ちゃんなんですけど……
「今日の夜、朋也君来てくれるってさ」
「本当ですか?」
「うん。明日休みだし、久しぶりに会いに行くってメールに書いてある」
勝平さんに見せてもらった岡崎君の返事には、確かにそう書いてありました。
「じゃあ、お姉ちゃんも呼んでみましょうか?」
「う~ん……杏さんが大丈夫ならいいけど、まだ引き摺ってるなら止めておいた方がいいと思うんだよね……」
「ですけど、何時までも引き摺ってたら立ち直れませんし、きっかけを作ってあげる必要があると思うんですよね」
勝平さんが心配してる事は分かりますが、お姉ちゃんに幸せになってもらいたいと思っている私としては、何時までも岡崎君と距離を置いているお姉ちゃんを見ているともやもやするのです。
私はお姉ちゃんに今晩ウチに来るようにメールを出し、晩御飯を気合いを入れて作ろうと決心した。
お姉ちゃんと岡崎君が来る時間が近づいてきたので、ご飯の準備をしようと思ったのですが、勝平さんに止められ、二人が来てからの方がいいと説得された。
「ほら、杏さんも朋也君も何か持ってくるかもしれないでしょ? そうなると余っちゃうし……」
「そうですね……お姉ちゃんは兎も角、岡崎君が手ぶらで来る可能性は低いですし」
岡崎君はこの部屋を訪ねる時、必ずと言っていいほどの確率で何かを差し入れてくれる。高校時代不良と呼ばれていた彼だが、根は優しいのだ。
「それにしても、杏さんって本当に朋也君の事が好きなの? あの発言だけ聞くと、むしろ嫌ってるとすら思えるんだけど……」
「お姉ちゃんの恋愛レベルは、小学生男子と同レベルですから……好きな人に意地悪をしたくなるっていうアレです」
「あぁ……でも、杏さんは女性だよね?」
「だから意地悪じゃなく、暴言なんですよ……しかも微妙に演技力が高いので、それがまるで本音かのように思えるのが問題なんですよね……」
本音ではないんだろうけども、暴言を吐く時は完全にそれが本音かのような表情、感情で言葉を紡ぐので、お姉ちゃんの事を良く知らない人には、口の悪い女だと思われてしまうのだ。
「でも、杏さんって年下の同性に人気だったんですよね?」
「下手な男子よりも男らしかったですからね……」
カラッとした性格、面倒見が良い先輩、そんなお姉ちゃんに後輩たちは結構本気で惚れていたんだろうな。
「今日は朋也君と杏さんに仲直りしてもらって、そこから何とか発展してくれればいいんだけどな……」
「そこは私たちが考える事ではなく、お姉ちゃん次第でしょうね」
同じ血が流れているはずなのに、如何してお姉ちゃんは恋愛に奥手なんだろう? 私はこんなにもあっさり勝平さんと付き合い、結婚までしてるというのに……
そんな事を考えられるのは、自分たちが平和で幸せな証拠……