椋があたしを部屋に招くなんて、絶対に何か裏があるに違いない。実の妹に対してあんまりだとは思うが――いや、実の妹だからこそこんな事を思うのかもしれないわね。
「勝平さんも何か噛んでるのかしら……そうなるとあたしと朋也の事かもしれないわね」
あの二人が企んでいる事なんて、想像するだけで何となく分かってしまう。それだけあの二人が分かりやすいのか、それともあたしの勘が鋭いのか……おそらく前者であろう。
「別に気にしてもらうほど落ちぶれてはいないのよね……」
単純に、今更朋也に告白するなんて出来ないだけで、きっかけさえあればおそらく、あたしはあっさりと朋也にこの想いを伝える事が出来るだろう。そう、きっかけさえあれば……
「高校時代にも、何度かそんなきっかけはあったんだけど、どのタイミングも陽平が邪魔したのよね……」
思い出しただけで、あのバカ面に辞書を投げ込みたくなってきた……今度呼びつけてぶつけてやろうかしら……
物騒な思考はとりあえず抑え、あたしは二人の部屋に向かうべく家を出る。本当なら今日一日はゆっくり過ごそうと思っていたのだけど、可愛い妹とその夫の誘いを断るわけにもいかないのよね。
「何か持っていかないと駄目よね」
万が一、億が一の可能性で手ぶらであの部屋を訪ね、椋の手料理をごちそうにならなければならない、などと言う地雷は踏みたくないのだ。
「ん? 杏?」
「朋也……やっぱりあの二人ね」
「そうらしい」
椋たちの部屋に向かう途中、あたしは朋也に会った。これだけであの二人の仕業だと決めつける事が出来るわね。
「何で呼び出されたんだ、俺たち?」
「さぁ? でもまぁ、部屋に着いたらたっぷりと尋問してあげるわよ」
「……ほどほどにしてやれよ」
あまり興味が無さそうな感じで、朋也がそう呟いた。相変わらずの日和見主義なのかしらね。
「ところで朋也、その袋の中身はなに?」
「あ? テキトーに摘まめるものをな。間違っても手ぶらであの部屋を訪れようとは思わねぇから安心しろ」
「そうよね……我が妹ながら、あの料理の腕は如何したものかと悩んでるのよね……」
勝平さんがガツンと言わないから、ここまでずるずると来ちゃってるような気も、しないでもないのだけども、やっぱり一番の原因はあたしがキッチリと教え込まなかったかしらね……
「椋は働いてるし、勝平が長い間入院してたからな。腕を磨くにも食べさせる相手がいなかったのも原因かもしれんがな」
「こうなったら勝平さんに毎日椋の料理を食べてもらって、腕を磨いてもらうしかないわね!」
「お前は勝平に『また入院しろ』と言うのか?」
朋也の発言を「酷い!」と言えなかったのは、心のどこかであたしも似たような事を思ってたからなのだろうかしら……それとも、椋の料理を毎日食べていればあるいは、などと考えてしまったのかしら……
「とりあえず、椋の料理の腕を何とかするのは相当な覚悟と時間が必要だと俺は思うんだが」
「そうよね……勝平さんだって退院したばかりなのに、また病院に逆戻りになる可能性のある事なんてしたくないでしょうし……」
「……他人の俺が言うならともかく、実姉であるお前が言うと椋が可哀想に思えるのは気の所為か?」
「気の所為でしょうね。だってあたしはそんな事思わないし」
朋也と軽口を叩きながら道のりの半分を過ぎた。最近朋也と話して無かったから、会ったら気まずいかななんて思ってた数分前の自分がバカみたいに思えるくらい、あたしと朋也は自然に会話している。
「そう言えば、勝平のヤツが『杏さんが来ないんだけど』ってメールを送ってくるんだが、何とか出来ないか?」
「そんな事あたしに言わないで勝平さんに直接言えばいいじゃない」
「お前、泣きそうになってる勝平にそんな事言えるか? 捨てられた子犬の様な目で見られるんだぞ?」
「……無理ね」
中性的で若干童顔な勝平さんの泣きそうな顔を想像して、あたしはあっさりと掌を返した。あんな顔をされたら言いだせないわよ……
「とにかく、あたしに文句言われても困るんだから、アンタが直接勝平さんに言いなさいよね!」
「なに怒ってるんだよ……逆切れにも程があるだろ」
「切れてないわよ! あたしを切れさせるなんてあんたには無理だから!」
「……はいはい」
高校時代なら、朋也も大声で反論してきたんでしょうけども、最近の朋也はここで一歩引くのだ。だからあたしも調子が掴めずにいるのかもしれない……何で朋也相手に調子が掴めない事を気にしているのか。その事はあまり深く考えないようにしているのだけどね……
ボタンは出した方がいいのだろうか……ふと思ってしまった